顧客サービスの DX に向けて会員数 1,000 万人の ID 基盤を AWS に移行
開発者体験を向上し、事業成長につながる開発へ

2022

『日経電子版』をはじめ、日経グループのネットサービスを利用する際に必要な『日経ID』。個人情報を扱う日経ID のシステムは、10 年以上にわたりオンプレミス環境で運用されてきました。技術的負債の増加、運用工数の増大、困難な人材確保などの課題を抱える中、株式会社日本経済新聞社はハードウェアの更新を機に日経ID の管理基盤をアマゾン ウェブ サービス(AWS)へ移行。経営層の支持獲得、協力会社とのノウハウ共有、データベースの無停止移行など多くの課題を克服し、プロジェクトを成功させました。現在、日経ID を活用した新たなビジネス展開へと踏み出しています。

AWS 導入事例  | 株式会社日本経済新聞社
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オンプレミスから AWS への移行により開発者体験が大きく向上し、人材確保における障壁がなくなりました。開発者が機動的に動ける環境ができたことで、日経ID のアップデート対応が容易になり、結果として自社およびパートナー含めて日経ID と連携する 80 以上のサービスのアップデートが加速していくことが期待できます

渡辺 雄一郎 氏
株式会社日本経済新聞社 執行役員
プラットフォーム推進室長

機動的な対応が可能なシステムへ移行し DX 戦略を推進

1876 年創刊の日本経済新聞を中核に、出版、放送、電子メディア、データベースサービス、経済・文化事業など幅広い事業を展開する日本経済新聞社。2010 年にサービスを開始した『日経電子版』は、有料会員数 83 万、日本経済新聞と電子版の購読数合計が 256 万(2022 年 7 月時点)を突破し、ニュース配信の分野で業界をリードしています。日経電子版とともにサービスを開始した会員基盤の『日経ID』は、日本経済新聞社と日経BP のオンラインサービス登録者などで構成され、現在の会員数は 1,000 万人以上と日本最大級の規模を誇ります。

日本経済新聞社は、2015 年にデジタル化をリードするフィナンシャル・タイムズ(FT)を買収して以降、システムの内製化に舵を切りました。当時の日経ID のプラットフォームは、オンプレミス環境で運用していました。その結果、技術的負債への対応に負荷がかかり、ハードウェア障害への対応工数も増えていました。
「さらに大きな課題は、優秀な IT 人材の確保が困難になっていたことです。新聞離れにより業界を取り巻く環境が変わり、デジタルシフトが加速していく中、レガシーシステムの運用・保守の人材募集にエンジニアは集まりません。そのため、開発者体験を改善し、魅力ある環境をアピールする必要がありました」と語るのは、プラットフォーム推進室 プラットフォームグループ 部長の倉持陽子氏です。

個人情報を含むシステムのクラウド移行

事例取材を経て社内の合意形成を獲得

オンプレミスのハードウェアの更新を期に、機動的な対応力と高度なセキュリティを備えた ID 管理システムの実現を目指した同社は、2011 年から社内のクラウド基盤として採用し、日経電子版や BtoB 向けサービスなど多くシステムが稼働している AWS への移行を決断しました。しかし、個人情報を含むシステムのクラウド化は社内規定として許されておらず、社内での合意形成獲得が必要になりました。そこで、国内外の企業・政府機関の事例調査、全社を横断するクラウド利用ガイドラインの策定、セキュリティ管理体制の拡充の 3 つを揃えて社内合意を獲得しました。
「新聞社として“取材”の文化が根幹にあり、説得力を高めるために個人情報を扱うシステムでクラウドが利用されている事例を取材しました。特に、FT からニューヨークタイムズなどの欧米メディアを紹介してもらい、ボードメンバーからヒアリングできたことは効果的でした」(倉持氏)

日経ID 基盤の移行プロジェクトは 2020 年 12 月から着手し、要件定義を経て 2021 年 2 月から 2021 年 12 月にかけて移行を実施しました。基本方針は既存のサーバー、データベースをそのまま Amazon EC2 と Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) に移行する“シフト”とし、一部でコンテナサービスの Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS) を導入してモダナイズ化を図りました。

運用管理領域では IaC (Infrastructure as Code) 化によってインフラ構築の自動化を図り、監視面ではマネージドサービスの Amazon CloudWatch を導入しました。プラットフォーム推進室 プラットフォームグループの浦野裕也氏は「セキュリティレベルを維持するためには、メンバーのレビューを経てからインフラの構成変更を実施する必要があることから、IaC 化は不可欠でした」と語ります。

移行のプロジェクトチームは、日経社員とオンプレミスのシステムの運用保守を担当してきた協力会社で編成。モダナイズは日経社員、リフトは協力会社と役割を分担しました。

システムの主要機能である商用データベースの移行は、AWS からの紹介を受けて経験実績が豊富な APN パートナーに依頼。データ種別に応じて、2 つの手法を用いて移行しました。
「日経ID はさまざまなシステムで利用されているため、完全停止が困難です。そこで、更新停止ができないテーブルは、ダウンタイムなしで移行が可能な移行ツールの AWS Database Migration Service(AWS DMS) を活用し、更新が発生しないテーブル群は、安全かつ確実に移行ができる Export/Import(DataPump)の手法を採用しました。移行前には時間、システム負荷、データエラーを検証し、万全の体制を整えました」(浦野氏)

開発者体験が向上し IT 人材確保における障壁を解消

日経ID システムのクラウド移行により、技術的負債対応負荷、運用工数の増大、IT 人材の確保といった課題は解消され、日経グループが進める DX 戦略に足並みを揃えることが可能になりました。執行役員 プラットフォーム推進室長の渡辺雄一郎氏は「開発者体験が大きく向上し、人材確保における障壁がなくなったことが最大の効果です。開発者が機動的に動ける環境ができたことで、日経ID のアップデート対応が容易になり、結果として自社およびパートナー含めて日経ID と連携する 80 以上のサービスのアップデートが加速していくことが期待できます」と語ります。

開発者体験向上の具体的な事例は、サービスのデプロイに要する時間が従来の半分に短縮されたことです。デプロイ前のテストでも自由にサーバーを立ち上げて、テスト終了後はサーバーの停止ができます。ログはマネージドサービスにより自動集約され、管理の手間もなくなりました。管理画面には遠隔からアクセスができるため、エンジニアはサーバー運用のために出社することもなくなり、リモートワークにも対応しています。

日経ID で顧客を深く理解しサービスの付加価値向上へ

今後は、日経ID で顧客を深く・広く・長く理解し、就職から結婚、転職、相続、退職まで利用者のライフサイクルに合わせて適切なタイミングで、適切なサービスを提供していく予定です。その中の重点領域として、メディア、教育キャリア、資産形成の 3 つを挙げています。プラットフォーム推進室 事業開発グループ 部長の星薫氏は次のように語ります。
「メディア領域は、日経電子版や各種媒体を通して、ビジネスパーソンの情報収集を支援すること。教育キャリア領域は、グループが提供する日経転職版や、日経ビジネススクールにより転職、副業、キャリア支援の情報を提供すること。資産形成領域は、ミンカブ、QUICK などのグループ会社との連携によって各種情報を提供することです。その他、ヘルスケアやイベント参加などさまざまな領域において、パートナー企業と協業しながらビジネスパーソンの成長を支援する場を提供していきます」

渡辺 雄一郎 氏

星 薫 氏

倉持 陽子 氏

浦野 裕也 氏


カスタマープロフィール:株式会社日本経済新聞社

  • 創刊: 1876 年 12 月 2 日
  • 資本金: 25 億円
  • 売上高: 1,807 億円(2021 年 12 月期)
  • 社員数: 3,045 名(2021 年 12 月末)
  • 事業内容:新聞を中核とする事業持ち株会社。雑誌、書籍、電子メディア、データベースサービス、速報、電波、映像、経済・文化事業などを展開

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 開発者体験の大幅な改善
  • サービスのデプロイ時間が半分に短縮
  • マネージドサービスによる運用負荷の軽減
  • DX 施策への人的リソースの集中
  • 日経ID を用いたメディア、教育キャリア、資産形成のビジネス拡大を検討

ご利用中の主なサービス

Amazon EC2

Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。

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Amazon RDS

Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) を使用すると、クラウド上のリレーショナルデータベースのセットアップ、オペレーション、スケールが簡単になります。

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Amazon ECS

Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) は、完全マネージド型のコンテナオーケストレーションサービスです。Duolingo、Samsung、GE、Cook Pad などのお客様が ECS を使用して、セキュリティ、信頼性、スケーラビリティを獲得するために最も機密性が高くミッションクリティカルなアプリケーションを実行しています。

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AWS DMS

AWS Database Migration Service を使用すると、データベースを短期間で安全に AWS に移行できます。移行中でもソースデータベースは完全に利用可能な状態に保たれ、データベースを利用するアプリケーションのダウンタイムを最小限に抑えられます。

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