Amazon EKS を活用したマイクロサービス化でチームビルディングによる開発を高速化
九州からグローバルに羽ばたくコラボレーションツールへ

2021

国内最大級のプロジェクト管理ツール『Backlog』を筆頭に、さまざまなコラボレーションツールを SaaS として提供する株式会社ヌーラボ。2010 年にオンプレミスからアマゾン ウェブ サービス(AWS)に移行しましたが、変化するユーザーのニーズにいち早く対応するため、コンテナや Kubernetes を活用したマイクロサービス化を進めています。その効果は絶大で、機能ごとにサービスを分離することで機動性が高まり、複数チームでの効率的な開発が可能になりました。

AWS 導入事例  | 株式会社ヌーラボ
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海外拠点も AWS の運用体制を強化しながらビジネスを拡大していきます。AWS には技術面だけでなく人材ネットワークも含めて、世界に羽ばたくヌーラボへの支援を期待しています

橋本 正徳 氏
株式会社ヌーラボ
代表取締役

サービスの成長に合わせてスケールが可能な AWS を採用

「チームで働くすべての人に」をコンセプトに、コラボレーションを軸としたサービスを提供するヌーラボ。2006 年リリースのプロジェクト管理ツール『Backlog』は、多くの企業が採用するデファクトスタンダードに成長し、2020 年時点で 170 万ユーザー、10,000 契約を突破しています。

2010 年にリリースした作図共有ツール『Cacoo』は、海外を中心に世界で 300 万ユーザーが利用するサービスに成長。その後もビジネスチャットツール『Typetalk』、セキュリティツール『Nulab Pass』を開発してきました。「仕事で使うツールだからこそ、楽しくコミュニケーションを取りながら効率良く働けるよう、明るくポップなデザインにこだわって開発・提供しています」と語るのは、代表取締役の橋本正徳氏です。
開発拠点は本社を置く福岡のほか、東京、京都、ニューヨーク、アムステルダム、シンガポールにあり、グローバルに事業を展開しています。

Backlog と Cacoo のプラットフォームは当初、自社管理の物理サーバーやホスティングサービスを利用してきましたが、想定を超えるユーザーの増加を受けて 2010 年に AWS に移行しました。「サービスの急成長に、スケーラブルな AWS がマッチしたのが一番の採用理由です。2010 年は日本における AWS の黎明期で、スタートアップ界隈の AWS コミュニティに活気があったことと、ヌーラボと AWS のビジネスが足並みを揃えて成長していけることに親近感を抱きました」(橋本氏)

以降、順調にサービスを拡大してきた同社ですが、Amazon EC2 をベースとしたモノリシックなアーキテクチャを採用してきたためにアプリが巨大化してきたことから、開発・運用効率の向上を目指してマイクロサービス化に舵を切ることにしました。

モノリシックなアーキテクチャからコンテナによるマイクロサービス化へ

最初にマイクロサービス化に着手したサービスは Cacoo でした。開発拠点が福岡、ニューヨーク、アムステルダムに分散しているため、時差のタイムラグが発生しコミュニケーションの障壁が高くなっていたからです。そこで開発チーム間の依存度低減に向けてマイクロサービス化に踏み切り、コンテナ管理に Kubernetes を導入しました。最初に既存アプリから個々の機能を切り出し、コンテナ化して Amazon ECS に移行。新サービスは Kubernetes 上で開発しながら、Amazon ECS 上の既存サービスを 2 年かけて Kubernetes に移行しています。SRE 課 Site Reliability Engineer の二橋宣友氏は次のように語ります。

「マイクロサービス化によりチーム間の依存関係が弱くなり、時差の問題も解消されて開発のオーナーシップと責任が明確化されました。アプリの部分的な変更もしやすくなり、ビルドとデプロイの高速化が実現した結果、AWS 構成図の自動生成機能を追加した際には 1.5 カ月でリリースすることができました」
同社が次に取り組んだのが Backlog のマイクロサービス化です。リリースから 10 数年が経つ Backlog は、複数のリージョンで 200 台以上の Amazon EC2 上で稼働しています。Infrastructure as Code によってデプロイの自動化は実現していたものの、仮想マシンのメンテナンスは作業コストがかかり、リリース期間の長期化を招いていました。開発面でも巨大なコードベースゆえに不具合が発生しやすく、新たなチャレンジの阻害要因となっていました。

そこで Cacoo で実績のあった Kubernetes ベースのコンテナ化を検討し、Amazon EKS の導入を決定しました。SRE 課課長の松浦祐亮氏は「当初は Amazon EC2 上に自前で Kubernetes 環境を構築することを検討しましたが、バージョンアップやセキュリティパッチの適用などの管理負荷が見えていたこともあり、東京リージョンで利用可能になったタイミングで Kubernetes のマネージドサービスである Amazon EKS を採用しました」と語ります。現在、Backlog の新規機能は Amazon EKS 上で分割を意識しながら開発しています。モノシリックな既存アプリも機能を切り出して Amazon EKS 上に移行する方針のもと、順次疎結合化を進めています。
「マイクロサービス化でリリース期間の短縮が実現し、Amazon EKS 上のデプロイは 10 秒から 1 分で終了するようになりました。Kubernetes の運用からも解放され、開発チームはアプリに集中することが可能になっています」(松浦氏) 

アーキテクチャの改善によりコストを抑制しながらビジネスを拡大

Cacoo、Backlog に続きその他のサービスもすべて AWS を採用し、一部のサービスやコンポーネントはコンテナベースで開発を継続中です。同社が長年にわたり AWS を使い続ける理由は、開発の楽しさとコストメリットにあるといいます。

「AWS はサービスのアップデートが早く、コミュニティも充実しているため楽しく開発ができ、エンジニアの採用にも有効です。また、ユーザー数が増えているにもかかわらず、継続的な値下げやアーキテクチャの改善による運用負荷の軽減などで、コストを抑制しながらビジネスの拡大を続けることができています」(橋本氏)
従業員数が 100 人規模に達したヌーラボでは、全員がデータを活用してさまざまな意思決定を行うための意識改革にも取り組んでおり、データ分析でも AWS を活用中です。インハウスシステム課課長の鶴田克英氏は次のように説明します。

「各サービスの DB から AWS Glue 経由でデータを Amazon S3 に蓄積し、Amazon Athena でクエリーを実行して Amazon QuickSight で可視化し、分析しています。会社の売上や契約数など、顧客情報をふくまない集計・分析結果は、社員なら誰でも必要に応じて自由に閲覧することができ、経営目線でサービス戦略を考えることが可能になりました。フルマネージドサービスを使うことで運用負荷はかからず、私たちはデータマネジメントや権限管理などに集中することができます」 

AWS とのパートナーシップ強化でよりよいサービスをより早く提供へ

ヌーラボでは今後もサービスをより使いやすく、そして素早く価値を提供するため、Amazon EKS による実行基盤のマイクロサービス化と、AWS のサービスを活用したクラウドネイティブ化を進めていく方針です。加えて自社サービス間のクラウド連携や他社 SaaS との連携を強化しながら新たな価値提供を目指すとしています。そのために AWS とのパートナーシップの強化を進めており、2020 年 6 月には APN のテクノロジーパートナーの認定を取得しました。

「AWS の TAM による技術支援や定期的な相談時間(オフィスアワー)は、技術課題の効率的な解決やエンジニアの技術力向上に役立っています。今後も密に連携しながら、よりよいサービスをより早く提供していきます」(二橋氏)

グローバル事業の成長拡大に向けて、AWS の運用体制も強化していく方針で、SRE チームのグローバル化に向けた新たなアクションを構想しています。

「世界中の人の働き方を楽しくするコラボレーションツールを目指し、海外拠点でもAWS エンジニアを育成しながらビジネスを拡大していきます。AWS には技術面だけでなく人材ネットワークも含めて、世界に羽ばたくヌーラボへの支援を期待しています」(橋本氏) 

橋本 正徳 氏

松浦 祐亮 氏

二橋 宣友 氏

鶴田 克英 氏


カスタマープロフィール:株式会社ヌーラボ

  • 代表取締役:橋本 正徳
  • 設立年月日:2004 年 3 月 29 日
  • 事業内容:プロジェクト管理ツール『Backlog』、ビジュアルコラボレーションツール『Cacoo』、ビジネスチャットツール『Typetalk』、ヌーラボ製品のセキュリティ&ガバナンス管理ツール『Nulab Pass』の開発・運用

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • サービスの成長に合わせたインフラのスケールの実現
  • グローバルでのサービス展開が加速
  • マイクロサービス化によるチーム間の依存関係の解消
  • チームの独立によるアプリオーナーの責任の明確化
  • アプリの依存関係の解消による開発スピードの高速化
  • コストを抑制しながらビジネスの拡大が可能
  • データドリブン経営への移行
  • AWS とのパートナーシップ強化によるクラウドネイティブ化を推進
  • グローバルビジネスの拡大に向けたSRE チームのグローバル化を検討

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