約 10TB
移行データベース容量
約 150 億レコード
移行データ件数
日次約 18,000 本
月次約 34,000本
基幹システムのバッチ処理件数
1,000 万人
PayPay カードの会員数
概要
キャッシュレス決済『PayPay』と連携した各種サービスを提供する PayPayカード株式会社。同社はメインフレームで運用していたクレジットカード業務の基幹システムを、アマゾン ウェブ サービス(AWS)に移行しました。データベース約 10TB、レコード件数 150 億、バッチ処理数月次最大 34,000 本の大規模システムの AWS 移行により、ビジネス要件に合わせた柔軟性を実現し、決済サービスに求められる可用性を確保しています。
背景 | PayPay との連携により決済件数が急増
PayPay のグループ会社として、『PayPayカード』やあと払い方式の『PayPay(クレジット)』などのクレジットカード事業を展開する PayPay カード。カード会員数は 2023 年 3 月に 1,000 万を突破し、6,000 万の決済ユーザーを有する PayPay との連携を強化しながら事業の拡大を図り、数年後には会員数の倍増を目指しています。
同社が基幹システムの改善に本格的に取り組んだきっかけは、2015 年にソフトバンクグループの傘下となり、ヤフー(現 LINEヤフー)と共同開発した『Yahoo! JAPANカード』の提供を開始したことでした。
Yahoo! JAPAN カードの開始で会員数が急増した結果、メインフレームで運用してきた基幹システムの性能限界が近付いてきました。そこで同社は基幹システムのモダナイズを検討し、2016 年頃からアプリケーションを COBOL から Java でリライトするプロジェクトを開始します。「メインフレームのままではいずれ性能に限界が来ることがわかっていましたし、COBOL エンジニアの不足・枯渇も目に見えていましたので、将来を見据えてオープン化を決断しました」と語るのは、取締役 専務執行役員で CTO の信太宏之氏です。
その後、2018 年にキャッシュレス決済の PayPay がサービスを開始し、Yahoo! JAPAN カードとの連携によって、決済の急増が予測されたことから、モダナイズと並行して基幹システムのクラウド化に舵を切ることを決断します。
「巨大なオンプレミスのサーバーを用意しても、オープン化の過程で保守切れ対応は避けられず、運用負荷は増大します。少額決済事業を拡大していくためにも、柔軟性の高いクラウドへの移行が必須と考えました」(信太氏)
「基幹システムの AWS 移行により、ビジネス要件に合わせた柔軟性を確保することができました。AWS には、常に 2 年、3 年先を見据えながらビジネスとシステムのあるべき姿を二人三脚で考えていけるパートナーであることを期待しています」
信太 宏之 氏
PayPay カード株式会社 取締役 専務執行役員 CTO(最高技術責任者)
ソリューション | 一時的なインスタンスの調達で移行やテストの期間を短縮
クラウドサービスは、自社の一部やヤフー、PayPay で利用実績があることや、クレジットカード業界のセキュリティ基準に対応していること、金融ドメインで幅広い実績があることなどを評価して AWS を採用しました。
「PayPay が 2019 年に実施した『100 億円あげちゃうキャンペーン』で、PayPayカードのスループット起因でお客様にご迷惑をおかけしたことがあります。そこで、PayPay の基幹システムで実績があり、柔軟性と拡張性に優れた AWS の採用を決めました」(信太氏)
移行プロジェクトは 2020 年 9 月よりスタートし、2023 年 4 月に完了しました。移行元の基幹システムは、データベースが約 10TB、データ件数が約 150 億レコード、バッチ処理が日次で約 18,000 本、月次で約 34,000 本に達する大規模システムです。日本のクレジットカード事業会社において AWS 移行は初めてでした。
アーキテクチャは、サーバーを Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)、データベースを Amazon Relational Database Service (Amazon RDS)で構成し、可用性を考慮して複数のアベイラビリティゾーン(AZ)を活用しています。SRE部 部長の岡元秀憲氏は「当初は、バッチサーバーも複数の AZ からプライマリデータベースへアクセスする構成をとりました。しかし、複数の AZ をまたいだバッチサーバーでは AZ 間の距離によるレイテンシーが積み重なり、プライマリデータベースと同一の AZ で処理を行うバッチサーバーと比べて 10 倍近く時間を要する場合がありました。そこで、バッチ処理では、プライマリデータベースと同一の AZ にアクティブなバッチサーバーを集約しました。同時にデータベースがフェイルオーバーした際にフェイルオーバー先の AZ にバッチサーバーも切り替えられるように構成し、AZ を跨いだアクティブ・スタンバイ構成をとることで可用性を確保しました。オンライン処理についてはセオリー通り 3 つの AZ を活用したマルチ AZ 構成をとっています」と語ります。
ファイル共有サービスはレスポンス性を考慮して、Amazon FSx for NetApp ONTAP を採用。PCIDSS への準拠のために、セキュアネットワークと一般ネットワークは分離し、AWS Security Hub、AWS Config といったサービスを活用しています。オンプレミスのデータセンターとは AWS Direct Connect で接続しています。災害復旧(DR)対策としては、AWS の大阪リージョンにバックアップ環境を構築しました。
移行作業は、3 日間(72 時間)で実施しました。移行時やテスト時は、一時的に専用のインスタンスを調達し、終了時は速やかに解放することでコスト最適化を図っています。
「メインフレームからのデータ切り替えには大量のデータを短時間で移行する必要があるため、移行専用のインスタンスを構成し、性能不足の問題をクリアしました。結果として、1 日半で約 10TB のデータ移行を終えることができました」(岡元氏)
アーキテクチャ
クリックすると拡大します
導入効果 | ビジネスの変化に対する柔軟性を確保
大規模基幹システムの AWS 移行により、同社が得られた最大の効果は、ビジネスの変化に対する柔軟性が確保できたことにあります。現在、PayPay カードの事業は順調に拡大を続けており、AWS 移行後の基幹システムにおける処理量は増えているものの、クラウドならではの柔軟なリソース割り当てや拡張性により、システムは順調に稼働しています。
「今回、基幹システム以外にも、複数のシステムを AWS に移行しました。直後はさまざまな課題が発生しましたが、AWS のスケールアップ/スケールアウトにより即座に対処することができました。こうしたことで、経営層もクラウドの柔軟性やコスト構造に理解を示すようになり、会社としての意思決定がスムーズになりました」(信太氏)
柔軟性の高さを示す具体例として、クレジットの月末の締め処理を実行するバッチ処理において、通常は 12 台のサーバーを一時的に 24 台に増強して処理するといったことも可能になりました。今後は、マーケティング施策のキャンペーン実施時における一時的なリソースの増強などへの対応も期待されています。
AWS に移行をしたことで、PayPay との連携も強化されました。PayPay から PayPayカードの明細が確認できるミニアプリはAWS 上で連携し、レスポンスの向上に貢献しています。
PayPay カードでは、今後も新たな目標にチャレンジしていく方針です。その 1 つが内製化です。
「新しいシステムは AWS で開発する方針ですので、自社エンジニアのクラウドに対する知識や経験値を高めてビジネスへの貢献を目指していきます」(信太氏)
一方、現状の基幹システムは、クラウド上に“リフト & シフト”した状態のため、今後はクラウドネイティブなアーキテクチャへの“モダナイズ”を進めていく計画です。
AWS とは、今後も継続的にコミュニケーションを図りながら、オペレーションの効率化やコスト改善などに取り組んでいく考えです。
「クレジットカードサービスを提供してく以上、コスト改善は避けて通れない課題です。AWS には当社の事業構造を理解していただき、常に 2 年、3 年後を見据えながら二人三脚で考えていけるパートナーであることを期待しています」(信太氏)
カスタマープロフィール:PayPay カード株式会社
2014 年 7 月、会社設立。2015 年 1 月、KC カード株式会社より会社分割方式でクレジット事業等を承継してワイジェイカード株式会社へ社名変更。2021 年 10 月に PayPay カード株式会社へ変更し、2022 年 10 月より PayPay 株式会社の子会社として事業運営開始した。
信太 宏之 氏
岡元 秀憲 氏
ご利用中の主なサービス
Amazon RDS
Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) を使用すると、クラウド上のリレーショナルデータベースのセットアップ、オペレーション、スケールが簡単になります。
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。
Amazon FSx for NetApp ONTAP
Amazon FSx for NetApp ONTAP は、AWS クラウド内のフルマネージド共有ストレージで ONTAP の一般的なデータアクセスおよび管理機能を使えるようにします。
詳細はこちら »
AWS Direct Connect
AWS Direct Connect はオンプレミスから AWS への専用ネットワーク接続の構築をシンプルにするクラウドサービスソリューションです。AWS Direct Connect を使用すると、AWS とデータセンター、オフィス、またはコロケーション環境との間にプライベート接続を確立することができます。
今すぐ始める
あらゆる業界のさまざまな規模の組織が AWS を活用してビジネスを変革し、日々ミッションを遂行しています。当社のエキスパートにお問い合わせいただき、今すぐ AWS ジャーニーを開始しましょう。