AWS はマネージドサービスが充実しているため、それらを適宜判断しながら積極的に取り入れ、活用したいと考えています。
今では AWS Lambda を使ったサーバーレスの仕組みも活用していますし、シャープ全体のサービス基盤の方向性がクラウドネイティブ化していると言えます。
音川 英之 氏 シャープ株式会社 IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 第二サービス開発部長

大手総合家電メーカーのシャープでは、近年、家族とともに暮らす家電だからこそ「人に寄り添う」存在でありたいと考え、人のようにココロを持つ家電の開発、提供に力を入れています。その取り組み「COCORO+」では、クラウドに接続し AI と IoT の技術を組み合わせて人工知能(AIoT)化することで、人に寄り添う家電の提供を実現、すでに 3 つの代表的な製品を提供しています。

1 つめが、スマートフォンがタイミング良くユーザーに語りかけてくれる「エモパー」です。シャープの AIoT 化では音声対話が重視されており、ロボホンにも自然な音声会話でコミュニケーションできる音声対話技術が搭載されています。

2 つめは、シャープの IoT ソリューションの主力であるテレビです。シャープでは、これまでもユーザーの視聴データを元にした視聴ランキング情報の提供などでユーザーにフィードバックを行ってきましたが、さらにテレビに接続して使う「AQUOS ココロビジョンプレーヤー」に人感センサーなどを搭載しユーザーを認識できる機能を加えることで、テレビに人が近づくだけで誰かを把握でき、その人の嗜好に合ったコンテンツの推奨が可能となっています。

3 つめは、白物家電と呼ばれるエアコンや冷蔵庫、洗濯機、空気清浄機、さらにはウォーターオーブンの「ヘルシオ」などの AIoT 化です。これらの家電製品のラインナップには、インターネットに接続するモデルが用意されており、シャープでは、クラウドを活用してより人に寄り添う家電の提供を実現しています。

通常、エアコンや冷蔵庫などの家電製品には、多様で複雑な処理が行えるコンピュータは搭載されていません。機能制御を行うマイコンだけでは、TCP/IP で通信を行うだけでも容易ではありませんでした。そこでシャープでは、通信用の共通ボードを開発し、さらにクラウドサービスをセットにすることで、家電を IoT で容易に接続できるようにしました。「この仕組みを構築したことで、クラウドにつなぐ部分に関して製品開発側が特に意識する必要がなくなりました。」と言うのは、シャープ株式会社 IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 第二サービス開発部長の音川 英之氏です。

このクラウドに接続する仕組みを最大限に活用しているのが、AI 搭載のヘルシオです。AI 搭載とは言え、実はヘルシオの人工知能機能部分は製品側ではなくクラウドにあります。「ウォーターオーブンのヘルシオを使えば、さまざまな食材を美味しく食べられますが、さまざまな機能を活用してもっとヘルシオの魅力を引き出す使い方をしてもらいたい。そこで日々の献立に苦労している主婦の方などのサポートを AI とクラウドで実現できないかと考えました。」(音川氏)

ヘルシオで作った料理を記録・蓄積することで家族の好みを把握し、今ある食材から作ることができる最良な献立を AI 機能がアドバイスします。その際、過去に作った料理の種類や家族の好みなどの情報蓄積は製品本体ではなくクラウド上で行われています。蓄積されたデータはさらに AIoT 技術を用いてクラウド上で分析し、得られた結果のメニュー案をヘルシオから自然な会話形式でユーザーにアドバイスしています。

ヘルシオをはじめとした AIoT 家電を利用するユーザーが、ストレスなく安心してCOCORO+のサービスを利用できるようにするためには、信頼性や安定性が高く、レスポンスも十分なクラウドインフラの確保が不可欠でした。

シャープの製品開発では、AWS のクラウドサービスを以前から利用してきました。たとえばロボホンのメール送信機能では Amazon SES を、ロボホンを通じ収集される各種データの分析には、Amazon Redshift も利用されています。他にもテレビの視聴データの収集では Amazon Kinesis が活用されています。「AWS のサービス拡充に合わせ、適宜サービスを選択しています。今では AWS Lambda を使ったサーバーレスの仕組みも活用していますし、シャープ全体の サービス基盤の方向性がクラウドネイティブに向かっていると言えます。」(音川氏)

シャープでは東京リージョン開設以降、AWS を本格的に活用するようになりましたが、それ以前は社内で独自にインターネットのサービス基盤を構築していました。しかし、インターネットのサービス基盤を自前で構築していたのでは、初期コストも運用コストも高くなってしまうという課題もありました。

そこで、シャープでは、家電の IoT 化を進める段階からクラウドの活用によるコスト低減と開発スピードの迅速化を図ることにしました。「家電製品は、何百万台が一気に市場へと普及するものではありません。クラウドを利用することでサービスを小さく始められ、かつ運用費を変動費化できるのは、大きなメリットだと考えました。また、AWS は Amazon.com を支えるインフラということもあり、企業ユースに耐えられる高い信頼性と安定性があると判断し、採用を決定しました。」(音川氏)

オンプレミスを利用していた際には、開発用に新たなサーバーを調達しようとすれば数ヶ月の時間が必要でした。しかし、AWS であれば数分でサーバーを調達できるため、製品開発においては、このスピードにメリットが生まれます。また、シャープでは初期段階でポリシーに沿って設定をすることにより、極めて短時間で安全なインスタンスを立ち上げることができる点も評価されています。

「堅牢性、信頼性の面でも AWS は安心感が高いです。たとえば Amazon RDS を使っていればマルチ AZ 配置があり、別途バックアップでデータを保護する必要もありません。安定的に運用するための各種仕組みを AWS が用意してくれているのは、自前でオンプレミスに環境を用意するのとは大きく異なります。」(音川氏) さらに AWS の柔軟性、冗長性の高さについても、シャープでは評価しています。「弊社のサービスでは Amazon EBS を利用していますが、冗長性があるので、開発側で何らかトラブルが発生しても分単位で復旧できます。サービス提供者としては、この俊敏性は大きなメリットです。」(音川氏)

AWS の場合、冗長性が確保できると同時に容易に構成を変えることもできます。ビジネス環境の変化に合わせ、動的にコンピューティング環境を変更できる柔軟性はスピードが求められる現代のビジネスにおいて強みとなります。

シャープでは AWS の利用が増えるにつれ、製品開発の仕方にも変化が出てきています。当初は Amazon EC2 を利用する際にも本番を想定してかなり余裕のあるインスタンスを用意していました。しかし現在では小規模な開発環境を個々の開発者がそれぞれに立ち上げて利用しています。そうすることでコストも最適化でき、さらに開発スピードも向上しています。他の開発者の環境に負荷をかける心配もないため個々の開発者がそれぞれ開発に集中することができ、結果的にチームでの開発をスムースに行うことにつながっています。

また、ロボホンでは、特定ユーザーを識別するために Amazon Cognito を活用しています。「当初は自前で仕組みを構築する予定でしたが、Amazon Cognito を利用したことで必要な機能は 1 週間足らずで構築することができ、こういった点でも AWS のスピードを実感しました。」(音川氏)

シャープでは、AWS re:Invent 2016 にて新たに発表された AI 系のサービスにも興味を持っています。「シャープにも音声認識の技術はありますが、AWS の音声認識技術でより性能のいいものがあれば、それは是非使ってみたいと思っています。」(音川氏)

また、シャープではよりサービスの品質や内容を良くするために、ビッグデータ分析にもこれからは力を入れていく予定となっています。今後はデータを効率的に蓄積するだけでなく、迅速に解析できる機能が重要になってくるため、COCORO+で製品の AIoT 化が進めば、得られたデータをさらに活用したいという考え方がシャープ社内でも増えてくることが予想されます。「そのため、サーバーがどういう設定で、データベースにはどうアクセスしたら良いのかなどを、IT スキルが高くないユーザーでも、気にせずにデータへアクセスできる環境を提供したいと考えています。その際には Amazon S3 上のデータに対話的に SQL クエリを発行できる Amazon Athena のようなサービスが威力を発揮することになると思っています。」(音川氏)

シャープではCOCORO+の成果を、将来的にはコンシューマー向けだけでなく BtoB へも展開することを視野に入れています。その際にはグローバル企業として、AWS とのさらなる協力体制が期待されています。「AWS はマネージドサービスが充実しているため、それらを適宜判断しながら積極的に取り入れ、活用したいと考えています。」(音川氏)

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- シャープ株式会社 IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 音川 英之 氏

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