日本発のニュースアプリ『SmartNews』の世界展開を AWS のマルチリージョン構成とグローバルサービスにより推進
米国におけるレスポンスタイムを 50% 短縮し、ユーザー体験を改善

2021

日本発のニュースアプリとして、日米を中心に世界 150 カ国以上で提供されている『SmartNews』の開発・運営を手がけるスマートニュース株式会社。従来、ニュース配信向けバックエンドシステムはアマゾン ウェブ サービス(AWS)の東京リージョンに構築していました。しかし、北米ユーザーの閲覧体験を高めるために、AWS Global Accelerator をはじめとするサービスを活用して、北米の 2 拠点を加えたマルチリージョン構成を実現。レスポンスタイムを約 50% 短縮しました。

AWS 導入事例  | スマートニュース株式会社
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マルチリージョンアーキテクチャへの移行に際し、AWS の強力なサポートで、News API の平均応答時間を 50% 以上短縮し、第一段階を計画通り完了することができました。今後も AWS と協力し、移行完了に向けた取り組みを進めていきます

ヨーリン・リー 氏
スマートニュース株式会社
Vice President of Engineering

世界のユーザーに快適な体験を提供し中長期的なエンゲージメントの強化へ

「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」をミッションに、ニュースアプリ『Smart-News』を運営するスマートニュース。2019 年 8 月末時点で月間アクティブユーザー数は日米合算で 2,000 万人、ダウンロード数も日米合算で 5,000 万を突破しています。

2012 年の創業時から世界進出を志向していた同社は、2014 年に『SmartNews』の米国版をリリース。2018 年には米国のトラフィック解析サービスで、英語圏のメディアへの送客元として第 10 位となり、同年に米国ユーザー数が前年比 5 倍以上の伸びを記録するなど米国でも主要なニュースアプリに成長しています。開発拠点は日米を中心に 6 カ所に置き、サービス、組織ともにグローバルレベルで拡大を続けています。

『SmartNews』を支えるバックエンドシステムは、これまで AWS の東京リージョンのみで稼働していたため、米国ユーザーは、ニュースの閲覧において数百ミリ秒程度の時間差が生じていました。「世界のユーザーすべてに快適な体験を提供し、ユーザーエンゲージメントを高めるためにも、レスポンスタイムを短縮する必要がありました」と語るのは、バックエンドチームのマネジメントを担当する井口貝氏です。

日米のマルチリージョン化と AWS のグローバル系サービスでアクセス改善に向けた課題を解決

米国からのアクセス改善に向けて、2018 年末から検討を開始。CDN によるエッジロケーションからの配信や、DNS の Amazon Route 53 を用いた Geolocation Routing 構成など複数の解決策を模索し、最終的にシステムへのアクセスを分散するマルチリージョン化を検討し、AWS のグローバルサービスである AWS Global Acceleratorの採用を決定しました。
「『SmartNews』ではニュースをパーソナライズして配信しているため、キャッシュヒットしにくく キャッシュ目的の CDN 利用は効果が見込めず、DNS もキャッシュの切り替え時間やネットワーク速度に難がありました。その点、AWS Global Accelerator はエッジロケーションまで最短経路で到達でき、ネットワークトポロジーに応じて最適なリージョンにルーティングできます。エッジからエンドポイントへの経路に高速な AWS global network が利用できることや、障害時にも柔軟なルーティングで切り替えられることを評価しました」(井口氏)

一方で複数リージョンに配置したシステムにアクセスし、DB やキャッシュを参照する際には東京と海外で整合性を維持しながら、データを各リージョンに配布することが必要です。そこで DB は、日本で利用している Amazon Aurora を複数リージョンにレプリケーションできる Amazon Aurora Global Database を採用。東京リージョンにデータの書き込みを集約し、海外リージョンに読み取り専用のクラスターを配置しました。分散キャッシュについても Amazon ElastiCache for Redis Global Datastore を採用し、東京リージョンにプライマリー、海外リージョンにレプリケーションを配置しています。
「『SmartNews』におけるオンラインのワークロードは 大部分が Read であり、Write は一部にすぎません。そこで Read はスピード、Write は整合性と運用の容易性を重視して Read Local,Write Global としました」(井口氏)

日米拠点のグローバル開発チームが AWS とワンチーム体制で開発

アーキテクチャ策定後、米国東部(バージニア北部)に 2nd リージョンを構築し 2020 年 6 月より Proof of Concept(PoC) を実施。システムは、両リージョンの Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS) 上に構築。AWS Global Accelerator のバックエンドに Application Load Balancer を配置してクライアントからのリクエストを最適なリージョンへ振り分ける構成と、PoC では DB やキャッシュの構成を変えながら複数パターンでレスポンスタイムを計測。最大で 95% 削減できることを確認しました。

2020 年 9 月より本番環境の構築に着手、10 月より本稼働を開始しました。移行時はリスクを最小化するため、AWS Global Accelerator と Amazon Route 53 Geolocation Routing を用い米国ユーザーの 1% を 2nd リージョンに振り分ける形でスモールスタート。測定値を見ながら徐々に全米国ユーザーに拡大し、11 月には 3rd リージョンを米国西部(オレゴン)で稼働し、現在は東京と米国の東海岸と西海岸の 3 リージョン構成で運用しています。

プロジェクトは、同社の日米拠点の開発チームが、AWS と緊密なコミュニケーションを取りながら進めました。
「AWS の SA とはチームの一員のように深く議論ができ、マルチリージョンアーキテクチャやグローバルサービスについて、示唆に富む情報をいただきました。TAM からも、迅速な情報提供や機能に関するフォローアップをいただきとても助かっています」(井口氏)

移行プロジェクトのメンバーであるソフトウエアエンジニアのサイモン・ウ氏も、AWS との役割分担について次のように語ります。「マルチリージョンへの移行は、大きなチャレンジでした。Amazon Aurora Global Database から AWS Global Accelerator まで適切なテクノロジーを活用することで、マルチリージョンへの展開をスピーディーに進めることができました。移行中は、AWS がナレッジの共有、問題調査、将来計画の策定など、重要な役割を担ってくれました。『SmartNews』のビジネスの拡大を支えるインフラとして、今後も AWS からの支援を期待しています」

レスポンスタイムは従来比で約 50% 短縮

今後は米国から世界のリージョン展開へ

3 リージョン構成に移行した結果、米国における API レスポンスタイムは、従来比で約 50% 短縮できました。2020 年 11 月の米大統領選挙や新型コロナウイルス感染症などの関心の高いニュース、1 日 4 回のプッシュ配信などでもパフォーマンスに関する問題は発生していません。

今後は、2021 年内を目処にすべての API エンドポイントのマルチリージョン化を実現する計画です。さらに、共通系のユーザーアカウントの管理機能も、AWS Global Accelerator を介して認証するマルチリージョンアーキテクチャに変更し、日米間の開発効率を高めるとしています。

今回の移行は、グローバル化を目指す企業にとって非常に重要な作業であり、サービスのダウンタイムが発生する可能性を最小限に抑える必要がありました。エンジニアリングを統括しているヨーリン・リー氏は、次のように語ります。
「AWS の各チームの協力により、マルチリージョンへの移行に必要な技術について詳細な情報を得ることができました。また、検証並びに本番移行計画の策定にも多大な支援を受けています。Amazon Aurora Global Database と AWS Global Accelerator も当初の設計通りに順調に稼働しており、News API の平均応答時間を 50% 以上短縮し、マルチリージョン化に向けた第一段階を成功裏に完了することができました。今後も AWS と協力し、移行完了に向けた取り組みを進めていきます」

この先に見据えるのは、海外市場の拡大です。井口氏は「米国以外のエリアに進出する際も、多くのリージョンが使える AWS のメリットは計り知れないものがあります。AWS には地球規模でリージョンを拡大し、『SmartNews』の世界展開を支援いただきたいと思います」と語ります。

井口 貝 氏

ヨーリン・リー 氏

サイモン・ウ 氏


カスタマープロフィール:スマートニュース株式会社

  • 設立: 2012 年 6 月 15 日
  • 資本金: 96 億円
  • 事業内容:『SmartNews』を中心としたスマートフォンアプリケーションの開発・運営、インターネットサービスの開発・運営

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • バックエンドシステムの API レスポンスタイムを 50% 短縮
  • マルチリージョンによる UX の向上
  • 米国のビジネス拡大に向けた基盤の獲得
  • グローバルレベルでのリージョンと拡大と『SmartNews』の世界展開

ご利用中の主なサービス

AWS Global Accelerator

AWS Global Accelerator は、アマゾン ウェブ サービスのグローバルネットワークインフラを利用して、ユーザーのトラフィックのパフォーマンスを最大 60% 向上させるネットワーキングサービスです。

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Amazon Aurora Global Database

Amazon Aurora Global Database はグローバル分散アプリケーション向けに設計されており、単一の Amazon Aurora データベースを複数の AWS リージョンにまたがって運用できます。

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Amazon ElastiCache for Redis - Global Datastore

Amazon ElastiCache for Redis の Global Datastore は、高速で、信頼性が高く、安全なフルマネージド型クロスリージョンレプリケーションを提供します。

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Amazon Elastic Kubernetes Service

Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS) は、フルマネージド型の Kubernetes サービスです。

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