オンプレミスのデータベースを Amazon RDS for Oracle に移行したことで、初期費用で数千万円、年間でも千数百万円ほどのライセンス費用の削減が実現しています。
従来のオンプレミス環境では仮に 1 台落ちると、残った 1 台に負荷が集中して性能が劣化します。Amazon RDS for Oracle では、Multi-AZ 配置でアクティブ、スタンバイ構成となり、1 台が落ちても同じ構成でフェイルオーバーできます。そのため、性能の劣化も心配なく安心感があります。
田島 悟史 氏 株式会社VOYAGE GROUP システム本部

株式会社 VOYAGE GROUPは、広告主と媒体社を繋ぐ最適なソリューションをワンストップで提供するアドプラットフォーム事業、「ECナビ」「PeX」「リサーチパネル」と言う 3 つのポイントメディアを運営するポイントメディア事業、先行投資を積極的に行い第 3 の柱となる事業を育てるインキュベーション事業をはじめ、さまざまなインターネット上のサービスを提供しています。

VOYAGE GROUP は創業時の「世界を変えるようなスゴイことをやる」との想いを経営理念に盛り込んでおり、ベンチャーマインドを忘れずに挑戦をし続けています。

そんな VOYAGE GROUP の中でも、ポイントメディア事業の ECナビの歴史は長くビジネスの中核の 1 つとなっています。ECナビはネットショッピングやアンケート、無料会員登録などで現金や電子マネー等に交換できるポイントが貰えるポイントサイトで、多くのユーザーから指示され会員数は 500 万人を超えており、インターネット上の消費者向け大規模サービスに成長しています。

VOYAGE GROUP では、従来サービスの基盤となる IT の仕組みはオンプレミスで構築し運用してきました。そのため、各種サービスを安定して運用するための信頼性の高い IT インフラをオンプレミスで構築、運用するノウハウが同社には十分蓄積されていました。また、オンプレミスの IT インフラ環境を運用・管理するのは、従来システム本部の役割でした。「システム本部で 社内の IT インフラを集中管理し、各事業部門はその上で動くアプリケーションだけを管理していました。」と、システム本部の田島 悟史氏は振り返ります。

しかし、展開しているサービスの大きな成長があり、さらには新たなサービスも次々と生まれてくる、といったビジネス環境では、増加傾向にある IT インフラのコストを削減し、物理的な機器のメンテナンスの手間も減らす必要がありました。さらに、新しいサービスを構築するためにはリードタイム短縮も求められていました。

このような状況において、システム本部で集中してインフラの運用をする負担が大きくなっていきました。「各事業部でインフラまで管理できたほうが、効率的でやりやすい面もあると考えました。しかし、オンプレミスの環境を事業部のエンジニアが扱うのは難しい面もありました。」(田島氏)。 たとえば、運用管理のための権限を事業部の大勢のエンジニアに与えると、作業の統制がとりにくくなってしまいます。さらには、万一人為的なミスが発生してしまうと、自分たちのサービスだけでなく他の事業部のサービスにまで影響を与える可能性も懸念されていました。

IT インフラのコスト削減や迅速な調達を目指し、VOYAGE GROUP では 2009 年頃から新規の小さなサービスを対象にクラウドの利用を開始しました。いくつかのクラウドサービスを検討し、実際に使用してみた結果、使いやすさやサービスの豊富さで、AWS が選択されました。「AWS が業界のスタンダードになっているのも選択の理由でした。さらには、金額が安価であることよりも手間の削減面でのメリットが大きいと判断しました。AWS のサービスを利用すれば、ほとんど手間なく IT インフラを構築することができます。」(田島氏)

当時他のクラウドサービスの場合は必要なミドルウェアを IaaS の上に導入しセットアップしなければならず、バックアップや監視をどうやって実現するかも考えなければならなりませんでした。しかし、AWS であればサービスを組み合わせるだけで必要な機能が揃いすぐに利用できるだけでなく、マネージドサービスで構成できるため、VOYAGE GROUP では AWS のメリットが、かなり大きいと評価されました。

もう 1 つ AWS を高く評価しているのが、IT インフラに対する権限委譲を簡単にできるところでした。AWS であれば、アカウント単位で運用できるので、サービスを構築する事業部のエンジニアごとに独立した環境を用意することができます。そのため、事業部門のエンジニアが他のサービスへの影響を考慮せずに容易にインフラを管理できるのです。

現在では VOYAGE GROUP のさまざまなサービスで、Amazon EC2 を中心とした AWS のサービスが活用されています。AWS を利用するようになり、インフラリソースの用意にかかる時間は圧倒的に短縮されました。「オンプレミスの場合、新規にサーバーリソースを立ち上げようとすれば、事業部門が依頼してから早くても 2、3 日、複雑な構成であれば、要件の摺合せだけに 1 週間程度かかることも珍しくありませんでした。さらに既存のリソースでは足りず新規にサーバーを調達することになれば、1 ヶ月以上の時間がかかります。これが今では、数 10 分でサーバーインスタンスを利用できるようになっています。」と語るのは、ECナビ事業本部 エンジニアの小林 徹也氏です。

AWS のインフラ構成を新たに取得したりネットワーク構成を変更したりする際には、事業部門のエンジニアが安全に環境を構築できるよう、AWS CloudFormation を活用しています。「事業部門にインフラ構築の権限を渡すにあたり、AWS に慣れていないエンジニアが間違って開けてはいけないポートを開けたり、落としてはいけないインスタンスを落としたりといったことがないよう、AWS のサービス構成をコードに落とせる AWS CloudFormation を活用することにしました。」(田島氏)

事業部門のエンジニアはテンプレートを使って、欲しい構成をコードとして記述します。そのコードを GitHub のレビュー機能を使い、AWS の知識がある人に確認してもらい、レビューが通ったコードだけが AWS CloudFormation で実行されるので、安全な AWS 環境を簡単に構築することが可能になりました。現在では 20 分もあれば事業部門のエンジニアが自分で欲しい構成のコードを書き、レビューを経てサーバーインスタンスが利用できるようになっています。

かつてはネットワーク構成の変更などは、ファイヤーウォールの知識がないとなかなか手が出せませんでした。それが 「AWS CloudFormation を使うことにより、簡単なネットワークポリシーの編集などは事業部門のエンジニアが数行のコードを書くだけで 5 分程度で更新することが可能となりました。このスピード感は、ビジネスを作る上でも大きなメリットとなります。」(小林氏)

さらに AWS IAM を使ったアカウント設定を行うことにより、誰がいつどんな変更をしたかの構成変更履歴も詳細に残すことができるようになりました。蓄積されたログは、AWS CloudTrail を使い簡単に監査することが可能です。「AWS の大元で詳細なログが残ることが担保されています。オンプレミスでここまで細かくロギングの仕組みを作るのは、かなり大変です。」(田島氏)

さらに、小林氏は「ネットワークポリシーが可視化されているメリットも大きい」と述べます。AWS では誰がそのシステムにアクセスできるかが見える化されており、セキュリティが担保されていることがすぐに確認できます。その上で AWS が各種セキュリティ認証を取得していることなどもあり VOYAGE GROUP では、AWS 採用にあたってのセキュリティ面は懸念は特にありませんでした。

AWS のメリットが高いことが確認されていく中、VOYAGE GROUP では 2016 年 4 月、システム本部と ECナビ 事業本部の間でエンジニアの連携を深める取り組みが組織的に行われました。これにより、双方の部門のエンジニアが協力する体制が整ったことで、ECナビの大規模なサービスインフラの AWS への移行も可能であると判断されました。

そこで、大まかに AWS で ECナビを稼働させるための設計、コスト試算を行い、具体的な移行が検討されました。その際に大きな課題となったのが、Oracle Database の AWS への移行でした。「アプライアンスで動いていた Oracle のライセンスを、AWS のクラウドに持ち込むことを検討した際、AWS で Oracle Database を動かすためのライセンス込みプランがあることを知りました。これは Amazon RDS for Oracle を利用し、コストも安価に済みます。まずはこれで、必要な性能が出るかを検証することにしました。」(田島氏)

検証の結果、RDS for Oracle でもチューニングを行えば必要な性能が十分に得られることが分かりました。可用性に関しても、Multi-AZ 配置で十分に確保でき、RDS for Oracle で会員個人情報のような ECナビのコアとなる情報を扱うだけの十分な性能と信頼性があることが確認できました。Oracle Database の移行が可能であることが確認できたことにより、ECナビの AWS への移行が進められました。移行にあたっては、Amazon EC2、Amazon S3、Amazon RDS for Oracle を中核に、さらに Elastic Load Balancing、Amazon ElastiCache、Amazon CloudFront などを組み合わせて構築しており、これらのサービスも、AWS CloudFormation を用いて管理しています。

そして、2017 年 2 月より ECナビが AWS の上で動き始めました。田島氏はこの移行で「初期費用で数千万円、年間でも千数百万円ほどのライセンス費用の削減が実現しています。」とそのコストメリットを評価しています。また小林氏も「これだけ大きなコスト削減が可能だと分かると、経営層などには移行をするメリットを説明しやすくなります。」と評価しています。

オンプレミスのアプライアンスで運用していた際には、アクセスが増え処理能力が逼迫しても用意されているアプライアンスのリソース内でまかなうしかなかありませんでした。それが AWS に移行したことで、必要な時にインスタンスを大きくしたり、IOPS を増やすといった柔軟なリソース追加が可能となりました。

また可用性の面についても Amazon RDS for Oracle のほうが ECナビの運用にはメリットがありました。「従来のオンプレミス環境では仮に 1 台落ちると、残った 1 台に負荷が集中して性能が劣化します。Amazon RDS for Oracle では、Multi-AZ 配置でアクティブ、スタンバイ構成となり、1 台が落ちても同じ構成でフェイルオーバーできます。そのため、性能の劣化も心配なく安心感があります。」(田島氏)

また AWS に移行したことで、エンジニアの採用がしやすくなった効果もあると小林氏は指摘します。「開発などで AWS を触れる環境があるほうが、エンジニアは断然興味を持ってくれます。」(小林氏)

VOYAGE GROUP では AWS を活用することで、データセンターへ出向く必要もなくなり、物理的な負荷も大きく軽減されました。田島氏は「今後は Web サーバーをいつでも簡単に入れ替えられたり、負荷が高くなったらオートスケーリング機能を使い自動でリソースを増やしたりといったことを実現していくつもりです。」と今後の計画を語っています。

また、Amazon Kinesis Streams などを使ってログ管理の改善をしたり、新しいバッチ処理の仕組みを AWS の上で作ることも考えられています。「こういう仕組みを 1 から作る際には、オンプレミスでは選択肢が限られていました。AWS なら Amazon SQS などを組み合わせて、容易に構築できそうです。気軽に使える便利なサービスが多いので、エンジニアが余計なことに手間をかけずにアプリケーションに集中できます。」(小林氏)

VOYAGE GROUP では、現状はオンプレの仕組みをあまり手を加えずに AWS 化していますが、今後はクラウドへの最適化が計画されています。また ECナビの管理画面の一部やデータウェアハウスの仕組みなどについても、オンプレミスから順次 AWS へ移行する予定です。

- 株式会社VOYAGE GROUP ECナビ事業本部 エンジニア 小林 徹也 氏
- 株式会社VOYAGE GROUP システム本部 田島 悟史 氏

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