ウェルスナビは、最先端のフィンテック企業として、会社設立からわずか 9 か月で金融庁認可・サービスインに漕ぎつけました。AWS のクラウドサービスと AWS プロフェッショナルサービスなしには、これほど早期のサービスインは不可能だったでしょう。
AWS をはじめとするクラウドが日本の金融サービスの標準になることで、金融サービスの可能性が一気に拡がります。私たちはAWS を通じて、未来の金融サービスへのチケットを手にしたと実感しています。
 
柴山 和久 氏 ウェルスナビ株式会社 代表取締役 CEO

ウェルスナビ株式会社は、金融と IT を融合させた FinTech のパイオニア企業です。同社では FinTech の活用でこれまで機関投資家や富裕層しか利用できなかった世界水準の資産運用を、すべての人々に提供することを目指しています。「ウェルスマネジメントを 富裕層でなくても日本の誰もが使えるようにしたい。そう考え起業したのがウェルスナビです」と言うのは、ウェルスナビ 代表取締役 CEO の柴山和久氏です。

ウェルスナビは、ユーザー一人ひとりに合わせた最適なポートフォリオ(金融資産の組み合わせ)による自動的な資産運用を実現しています。「ウェルスナビでは、資産運用の目標設定から最適なポートフォリオの計算、最適な銘柄の選別、NY 証券取引所での売買注文までをすべて自動化しています。さらに、ポートフォリオの定期的なリバランスや納税はもちろん、節税まで自動的に提供しています。ユーザーの 8 割が 30-40 代で、働く世代から強く支持されています。」(柴山氏)

投資できる資産が 10 兆円でも 10 億円でも 10 万円でも、資産運用に利用すべきアルゴリズムは基本的には同じであると柴山氏は言います。しかし、それを用い資産運用管理のサービスを成立させるには、コスト面と規制面の課題があります。「運用金額の大きい富裕層であれば採算がとれても、投資額が小さければコストが見合わなくなります。私たちがモデルとする欧米のプライベート・バンクは、きわめて良質なサービスをお客様に提供していますが、最低でも 3-5 億円の資産がないと利用できません。」(柴山氏)

ウェルスナビはこのコスト面の課題を IT の力を活用すれば解決できると考えました。具体的には、ユーザーの PC やスマートフォンからニューヨークの証券取引所までのシステムを連結した上で、海外の機関投資家や富裕層が利用しているのと同等のアルゴリズムを使ってアドバイスや自動売買を行うことによって、コストを大幅に下げることが可能です。「アパレル業界でも、20 年ほど前にデザインから縫製、販売までをつなげることによって良質な衣料の価格を大幅に下げるブランドが現れ、誰でもファッションを楽しむことができるようになりました。同じような変革を、金融サービスで起こしたいと考えています。」(柴山氏)

もう1つの課題は、金融サービスとして適切に法律規制などに適合することでした。現在では金融庁にフィンテック相談窓口が設置されていますが、証券取引法に代わって金融商品取引法が導入された頃は、フィンテックを使った新しいコンセプトのサービスが登場することは想定されていませんでした。「まったく新しいサービスを実現するにはどうすればいいのか、それを金融庁に相談するところから始まりました。」(柴山氏)

ウェルスナビは、この新しいウェルス・マネジメントサービスを、日本でいち早く提供したいと考えていました。「2015 年 4 月にウェルスナビを起業し、2016 年 1 月にはサービス提供を始めたいと考えていました。」(柴山氏) つまりウェルスナビでは、低コストで安全性の高いシステム基盤を、極めて短期間で構築する必要があったのです。

ウェルスナビでは、短期間で安全、堅牢なシステム基盤を構築するにはクラウドを活用すべきだと考えました。「最初からクラウドだと思っていました。中でも、コスト面、安全性を考慮すれば、 きっと AWS にお願いすることになるだろうと思っていました。」(柴山氏)

世の中の IT 活用の流れがクラウドに向かっている中で、ウェルスナビのような新しいサービスの実現にクラウドを使わなければ、むしろ世界の流れから取り残されてしまいます。その方向性自体については、金融庁とも認識が一致しているというのがウェルスナビの感触でした。しかし、当然のことながら、クラウドの活用を実現するためには、システム基盤が安全で堅牢性があることが大前提となります。また、公益財団法人金融情報システムセンター(FISC)の安全性基準を万が一満たせなかった場合や、金融庁がクラウドの活用を理由に認可しなかった場合に備えて、オンプレミスの可能性も検討されました。

ウェルスナビが AWS を採用した大きな理由の 1 つが、FISC が作成している "金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書"(FISC ガイドライン)に AWS が積極的に対応していることがありました。

エンジニアの榎本貴之氏は「当初は、すべてのメジャーなクラウドサービスを比較検討しました。しかし AWS 以外は、FISC ガイドラインへの対応が不十分か、対応していたとしても実績がありませんでした。それに加え、AWS が日本にデータセンターを持っていることも採用の重要なポイントとなりました。」と言います。

AWS は他に先駆けさまざまなことに積極的に対応していることが評価されました。ウェルスナビにとって AWS は実績に加え、米国連邦政府など規制が厳しい機密情報を扱うような機関での利用により積み上げられたノウハウや仕組みがサービス化されており、そういった 点も AWS への信頼感につながったのです。
もう  1つ、ウェルスナビが AWS を採用した理由には AWS を扱うことができるエンジニアの数の多さがありました。金融サービスを運用していく上で、エンジニア層の厚さは極めて重要だと考えたのです。AWS はユーザーコミュニティの規模も大きく、その内容も充実しており、大勢のエンジニアが幅広い情報交換をしている点も評価されました。

ウェルスナビでは現在、Amazon EC2 の上にアプリケーション、データベース、ウェブサーバー、バッチ処理機能、ジョブ管理機能などを実装しています。その他には、コンテンツ配信ネットワーク として Amazon CloudFront、ロードバランサーには Elastic Load Balancing、DNS には Amazon Route 53 を利用しています。またログの蓄積と管理には Amazon S3 も利用しています。

ウェルスナビが短期間でサービスインできた 1 つの理由は、AWS が必要な要件を満たすクラウドのサービスだからでした。「現在のシステム構成を実現するのに自分たちでハードウェアなどを調達してそれらを適切に構成し、 その上でアプリケーション開発をするとなれば、2 年くらいはかかったのではないでしょうか。おそらく必要な機器の調達だけでも、半年くらいは必要だったでしょう。」(榎本氏)

また AWS を採用したからこそ、AWS の経験値の高い優秀なエンジニアを確保でき、技術リソース確保の面からも大きなメリットだったと指摘します。

ウェルスナビでは、2015 年 8 月頃から具体的にシステム構成の検討を開始しました。その際に FISC ガイドラインに対応するために AWS から提案があったのが、AWS プロフェッショナルサービスの利用でした。FISC ガイドラインは、基本的にはオンプレミスのシステム構成を前提としています。エンジニアの杉野太紀氏は「それをクラウドで実現する際にはどんなところで不整合が発生し、それをどうすればガイドラインに適合できるかを具体的にアドバイスしてもらいました。」と言います。

ウェルスナビでは AWS プロフェッショナルサービスを利用し、必要なセキュリティプランの洗い出しを行い、それぞれについての具体的なアドバイスに基づきシステムが構成されました。「AWS プロフェッショナルサービスでは、結果的に FISC ガイドラインに対応するのに必要なことを 1 から 10 までサポートしてもらい、最終的には、社内チームで自走できる状態までもっていきました。」(榎本氏)

AWS プロフェッショナルサービスが提供するコンサルティングの中身はありもののひな形に当てはめるようなものではなく、「ウェルスナビがどういう方向に進もうとしているかを理解してくれ、そのためにどうすればいいかをアドバイスしてくれるものでした。」(柴山氏) つまり "Can-Do Spirit" でどうすれば目的を実現できるか、それを共有することができたのです。これは、結果的に AWS プロフェッショナルサービスの費用対効果を高いものにしたと言います。

今後、ウェルスナビが事業を継続・拡大していくなかで、金融庁との関係では、システム構成が FISC ガイドラインに沿っているだけが評価されるわけではありません。必要なセキュリティ対応の体制やルールがあるか、モニタリングやリカバリ手順が確立されて いるか、安全な運用のための各分野の専門家はいるか、ビジネスプランの変更にシステムが適切に対応できる体制があるかなどを総合的に判断し、継続的に監督されていくことになります。

「堅牢な IT 基盤があることはもちろん、それをきっちりと保守運用できる体制があるかどうかが重要になります。杉野のように金融機関でのシステム運用の経験のあるエンジニアがいて、榎本のように AWSに習熟したエンジニアがいる。さらには、AWS プロフェッショナルサービスで AWS に精通したコンサルタントに協力してもらったことで、チーム一人ひとりが肌感覚で納得し、継続的に運用できるドキュメントに落とし込むことができました。」(柴山氏)

柴山氏はこれまでの政府で法令関係の文書を書いてきた経験もあり、その経験に照らし合わせても今回は納得できるドキュメントに仕上がったと言います。このように体制が整ったこともあり、ウェルスナビのサービスは、 2015 年12 月には金融庁からの認可(第一種金融商品取引業、投資運用業、投資助言・代理業の登録)を経て、会社設立からわずか 9 ヶ月後の2016 年 1 月にサービスインすることができたのです。

ウェルスナビには、すでに第二世代のシステム基盤を作る計画があります。「現在のシステムは短期間で構築したこともあり、さらにシステムの改良を進めています。」(榎本氏) この計画は既存システムを一から作り直す勢いで進んでおり、より運用を楽にして運用サイクルを速く回せる仕組みが検討されています。

ウェルスナビは、第二世代のシステムで Amazon Aurora の利用も検討しています。それが実現すれば、AWS Database Migration Service を利用する予定です。さらにサービス拡大のために各種金融機関のシステムとの連携も視野に入っており、その実現には Amazon API Gateway も採用される予定です。

ウェルスナビでは、専門家でなくても富裕層でなくてもウェルスマネジメントを当たり前に使えるようにすることが目標とされています。しかしながら、これをウェルスナビだけで実現するのは難しいと言います。「他の金融機関とも一緒にやっていきたい。近い将来、ウェルスナビとパートナの金融機関が直接システムをつなぐのではなく、AWS で容易に連携できる日がやってくると思っています。そうなれば、日本の金融サービスの可能性は格段に拡がり、ユーザーにとって良質で便利なサービスが次々に生まれていくことでしょう。私たちは、今回、AWS 上にシステムを構築することによって、言わば、未来へのチケットを手にしたと考えているのです。AWS のサービスの今後のさらなる充実を期待します。」(柴山氏)

AWS クラウドが金融サービスにおけるデータ管理にどのように役立つかに関する詳細は、クラウドでの金融サービスの詳細ページをご参照ください。