今年で第 5 回目を迎える AWS のグローバルカンファレンス「AWS re:invent 2016」。Day1 のナイトキーノートでは、James Hamilton(Vice President, Distinguished Engineer)が登壇し、Amazon.com の事例と共にここ数年でいかに高度なサーバーの処理能力が求められるようになっているのか、そしてそれに対しクラウドの柔軟性や弾力性がいかに有用であるかに触れました。さらに AWS のグローバルインフラストラクチャが 2017 年には 18 リージョンにまで拡大する点や、それぞれのアベイラビリティゾーンが保有することになるキャパシティについて紹介し、その規模や信頼性、さらには障害に対する耐久性の高さ、可用性についても強調しました。

ゲストスピーカーには、Infosys 社の Navia Budhiraja氏(Senior Vice President)がメインフレームを AWS に移行する際の課題とプロセス、その有効性をご紹介いただいた他、NASA の Tom Soderstrom 氏(JPL IT Chief Technology and Innovation Officer)からは宇宙開発の現場におけるクラウド活用の事例と今後の展望についてご紹介いただきました。後半では Dr. Matt Wood(GM Product Strategy, AWS)がクラウド活用により、アルゴリズム、多様かつ膨大なデータの活用、ユーティリティコンピューティングが実現され、今後の深層学習に大きな革新を起していると話、また AI による新たな世界を実現していくという視点を強調しました。最後には James は、AWS が 100% 再生可能な電力にすることをコミット、今後もその取り組みに注力すると伝えました。

こちらでは、Day1 のナイトキーノートの模様をレポートします。

「ようこそいらっしゃいました。今年は 32,300 人ものお客様が re:Invent にいらっしゃっています。」
初日の夜に実施された「Tuesday Night Live」と銘打たれたナイトキーノートが Amazon Web Services の Vice President / Distinguished Engineer である James Hamilton の登壇で幕を開けました。

冒頭では、AWS では現在、2005 年に Amazon のビジネスで使われていたサーバーキャパシティーと同じ数のインフラが、現在では毎日追加されており、その規模は Fortune 500 の企業で使われているキャパシティと同量が毎日追加されているに等しいと説明しました。

サーバーの処理能力についても、毎年開催される Amazon の Prime Day で  2015 年 Q4 のピーク時と 2016 年度を比較すると、はるかに規模が拡大し仮想サーバーが多く使用されていると紹介すると共に、これが実現できるのはクラウドを活用しているからこそであると強調しました。オンプレミスの場合であれば、3 年間の利用のコミットメントの必要を迫られ、かつ、ハードウェアの調達に数ヶ月かかってしまい柔軟に対応することができません。つまり、クラウドの提供する柔軟性と弾力性こそがビジネスイノベーションを支援することができると James は言います。

AWS の各リージョンは複数のデータセンター群によって構成されており、地理的に独立しているため障害に対する高い耐久性を持っています。James は現在の 14 リージョンを 18 リージョンにまで拡大する予定であると述べました。

では、こうしたデータセンターを繋ぐグローバルネットワークはどのように設計・管理されているのでしょうか。AWS のプライベートネットワークは、すべて Amazon 独自に敷設することで、速度遅延、パケットロスを回避し、ネットワークの全体品質を上げることができるように設置されています。そして、外部事業者を使用した際の様々な折り合いをつけなければいけない事象から解放され、すべて自社で運用管理を行えるメリットを実現していると James は伝えました。

これらのネットワークは、冗長構成で 100GbE の帯域を持ち、中国を除く全リージョンでリンクカットが起こらないような運用が可能になっています。James は最長で 14,000 キロメートルにも及ぶ海底ケーブルの敷設を例に挙げると、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイ、オレゴンを結ぶ海底ケーブルに障害が発生した時には、ケーブルだけでなく海水も電源供給の為に利用できることを伝え、こうした信頼性の高いネットワークを構築することが重要であると強調しました。

また、リージョン間のネットワークの接続にも触れられました。AWS の新たなリージョンでは、最大で 5 つのアベイラビリティゾーンを準備しています。これらのリージョンを結ぶトランジットセンターを設置し、網の目のようなネットワーク構成にすることで高い接続性を担保しています。そのネットワークは 126 のスパン、242,472 のファイバーにより構成されていると話すと、AWS が 3,456 のケーブルを敷設したはじめての企業であるという事を James は付け加えました。また 1 つのアベイラビリティゾーンは 30 万台以上ものサーバーで構成されているというなかなか表には出てこない秘話も披露されました。

1 データセンターの規模は 25-32 メガワット で、50,000~80,000 のサーバーが収納可能となっており、設置しているルーターについても、独自仕様のチップセット、NIC, CPU で作られたもので展開広帯域をカバーできるようになっています。普通にルーターを調達した場合だと、複雑で、高額、かつ問題解決に 6 カ月を要するのに対し、独自設計のルーターは、AWS のスペック、プロトコルに合わせて設計、開発され、シンプルに自社の仕様にあったものを調達できるようになっているのです。

パフォーマンスについても、通常であれば 10GbE のネットワークもしくは、40GbE (10GbE×4) がスタンダードであるところですが、AWS では、25GbE を採用し、パフォーマンスの最大化とコストの効率化を図っています。さらに停電発生時の電源確保においても、自家発電、冗長化構成と独自のノウハウにより、システムが止まらないようにしている点も紹介されました。

Amazon EC2 の提供開始時から実装されているネットワーク仮想化については、2012 年以降、これらの機能をハードウェアにオフロードし始めているとし、これにより、レイテンシーの向上、消費電力の効率化、またコスト削減に貢献していることが伝えられました。また、サーバーを収納するラックも独自の仕様でカスタマイズされ、1,110disk/rack, 11PB, 2,778lbs で収納が可能となっており、新たに先進的なデザインも開発中であると言います。サーバーの電源効率も 90% 以上となるよう、基盤や電源配置などデザインしている点も紹介されました。

 

続いて、障害対策に関わる教訓が伝えられました。James はデータセンターの停電により運航便に大きな影響を及ぼしたある米国航空会社における事故について語り、初日のフライトキャンセル分だけで、1 億ドルの損失を出したエピソードと共に、この原因が自家発電機に電力供給を切り替えるスイッチ故障であったことを紹介しました。こうした他社の障害から学び、AWS では、起こりうるこうした障害対策としてスイッチギアにカスタム型のファームウェアを搭載することで、外部的な障害にも対応する等といった改善をしていることが伝えられました。

 

その後、James は30年前の中型トラックのサイズに匹敵する大きさで水冷で稼働しているメインフレームの写真を見せながら、「メインフレームがなくなることに乾杯!」と壇上で声をあげた後、Infosys 社の Senior VP である Navia Budhiraja 氏をゲストスピーカーとして迎えました。Navia 氏はメインフレームを AWS に移行するプロジェクトについて事例を紹介し、課題として、コスト、アジリティ、スキルの 3 つを挙げました。特にアジリティについては、多くのワークロードはバッチ処理されるためビジネスの俊敏性に欠ける事と述べ、AWS への移行により、すべての COBOL を AWS API Gateway に置き換え、35% のコスト削減を実現したことに加え、新しい方法でクラウドネイティブを実現することができたという事例を披露しました。また、Infosys 社では今後すべてのシステムを re-Engineering して AWS への載せ替えを行うと発表しました。その後、他の企業がクラウド化を進めていない理由は、ワークロードの巨大さと、数百万コードもの資産がある為だとし、コードを実行・評価するツールを使用して確認しながら移行を進める方法を実現したお客様のロゴと共に紹介してプレゼンテーションを締めくくりました。

続いて、NASA JPL の IT Chief Technology and Innovation Officer である Tom Soderstrom 氏が登壇しました。Tom 氏は月面着陸などの宇宙開発の様子は、今やアプリや Web サイトから見ることができるようになっており、このような感動が求められるようになっていると述べ、宇宙での生命体の存在の有無にも触れると、地球外生命体を発見する為にレーダーで取得されるデータの蓄積やシミュレーションをクラウド上で行っており、クラウドがなければこうしたことが実現できないという点を強調しました。

NASA JPL では現在、より小型のロボット「ROV-E」を開発中で、小さなおもちゃのような試みから、徐々に宇宙での実用につながるように進行しており、そこで AWS IoT や Alexa を使った連携も行っていることを紹介して、プレゼンテーションを終了しました。

その後、AWS の GM であり、Product Strategy を担当する Dr. Matt Wood が登壇すると、機械学習について紹介しました。Matt はクラウドによりアルゴリズム、多様な大きなデータを活用するユーティリティコンピューティングが可能になっており、この三つが次の深層学習に大きな革新を起こすと述べました。例えば、画像が犬なのか猫なのか判断する為の階層化された情報があり、これらの情報を整理し、メモリーを有効に活用するには、パフォーマンスが必要となります。こうした要件に応える新しい Amazon EC2 インスタンスとして P2 インスタンスのリリースを発表しました。

Matt は、今後は言語の柔軟性も備え、GPU なども有効活用でき、自動的に並列処理ができる MXNET がスタンダードになっていくと述べ、このようなオープンソースの柔軟性を AWS も提供し、AI による新たな世界を実現していくと話し、プレゼンテーションを終えました。

最後に、James Hamilton は再生可能なエネルギーについて紹介しました。AWS は、100% 再生可能な電力にすることをコミットしており、2015 年の 4 月時点では 25% を実現、2016 年は現時点で 40% であるが年末までには 45% を達成する予定となっています。James は「どのように実現していくべきか、道筋は示されている。」と述べると共に、今後さらに再生可能な電力利用を増やしていくと強調しました。

そして 2017 年には 50% を達成するとの新たな目標を掲げ、風力、太陽光発電を組み合わせ、これらの取り組みから年間 2.6 百万メガワット/時を生み出すというプランを披露し、ナイトキーノートを締めくくりました。