今年で第 5 回目を迎える AWS のグローバルカンファレンス「AWS re:invent 2016」。Day2 のキーノートでは、Andy Jassy(CEO)が登壇し、2014年 の "New Normal"、2015 年の "Control Over Your Own Destiny" に対し、今年は "SUPER POWERS" をテーマにした発表となりました。

また今年は、今まで以上に数多くのサービスが発表されました。リクエストが多かった Anazon EC2 におけるラインナップの追加、VPS を簡単に起動できる Amazon Lightsail、Amazon S3 を素早く分析するニーズを満たす Amazon Athena や、画像認識や音声変換などの Amazon AI の発表が行われました。また、Amazon Aurora に対する一番大きなリクエストだった PostgreSQL 対応の発表では、会場で大きな歓声が沸き起こりました。さらに、VMware との提携における新サービス、AWS Lambda をデバイスに組み込むことができる AWS Greengrass、AWS Snowball の機能が向上した AWS Snowball Edge 、最後の AWS Snowmobile の発表の際には 45 フィートの長さのトラックが登場し、来場者へ大きな驚きをもたらす発表となりました。

ゲストスピーカーには、電力業界にて 100 年以上の歴史をもつ Enel から事例をご紹介頂いた他、お客様満足度が 97% と非常に高い Workday、POS で 30 万のデバイスを持つグローバル企業である Mcdonald's の組織変革に向けた動き、証券業界にて型破りな要件を満たすプラットフォームに AWS を選定した Finla、お客様ニーズに合わせて提携に至った VMware との取り組みなど、様々な事例が紹介されました。

こちらでは、Day2 のキーノートの模様をレポートします。

「ようこそ AWS re:Invent 2016 へ。」Day2 のキーノートは、Amazon Web Services CEO である Andy Jassy の登壇で幕を開け、今年は 32,000 以上の参加者に加え、50,000 人以上のライブストリーミング視聴者、400 以上のテクニカルセッションと、さらに規模を拡大しての開催であると伝えられました。冒頭では、AWS re:invent の位置づけが従来の営業やマーケティング目的のカンファレンスとは異なる「学習カンファレンス」であることが強調されました。

AWS の最新アップデートでは、2016 年 Q3 までの直近 12 ヶ月で 130 億ドル近くの売上、YoY で 55% の成長となっていること、1 ヶ月あたりのアクティブユーザーは数百万に達していることが発表され、Capital One やヘルスケアの Johnson & Johnson、GE、シュナイダーエレクトロニック、SAMSUNG、AUTODESK など、多くのエンタープライズのお客様に、公共部門では 2,300 以上の政府機関、7,000 の教育機関に利用されていることも紹介されました。

また、パートナーのエコシステムは非常に重要であり、プレミアパートナーは数千のインテグレータの中のトップの企業であること、AWS のテクノロジーを提供するプレミアコンサルティングパートナーエコシステムの拡大や、数千の ISV パートナーが AWS 上で自社のプロダクトを動作させることでエコシテムが拡大していることも 伝えられました。

さらに、Andy はガートナー社のマジッククアドラントで、AWS が強いリーダーの位置を維持しており、AWS は最も早く数十億ドルの売上を達成したエンタープライズ IT 企業であると共に、Fortune 誌の表現を借りると「AWS は信じられないほどのスピードで成長を行っている」という点を強調しました。

Andy は 自身の基調講演のテーマについて触れると、2014年 は "New Normal"、2015 年が "Control Over Your Own Destiny" に対し、今年はこれらを通じてデベロッパーのお客様が AWS によってこれまでには見たこともなかった能力を手に入れているとし、"SUPER POWERS" がテーマになる、と語りました。

まず、1 つめの SUPER POWER "SUPERSONIC SPEED" について話が始まりました。

コスト削減において重要なことは、需要変動に対応したコストの柔軟性だけでなく、アジリティ(俊敏性)=スピードであるという点です。これを実現することにより、従来 10~18 週間かかっていたものをあっという間に手に入れることができると Andy は述べます。

AWS では、堅牢で、あらゆる機能を含んだプラットフォームを提供しており、主要なものでは、リージョン、データセンター群、複数のデータセンターで機能する AZ、60 以上の CDN、ストレージ、データベースサービス、ネットワーキングサービス、App Service、それ以外にもアナリティクス、IoT、ハイブリッド環境、マイグレーションサービス、コンプライアンス、サポートなどのテクニカルサービスや、トレーニング、プロフェッショナルサービスのような人的なサービスも提供していると紹介しました。さらに AWS Marketplace も急成長してしており、30 万以上のアプリケーションを提供していることが紹介されました。

Pace of Innovation については、新機能の追加において、2015 年には 280、2016 年には 722、2017 年は 1,000 以上のサービスをお客様の声を取り入れて提供していく予定であると発表されました。これは毎朝起きると 3 つの以上の新機能が追加される計算です。AWS ではお客様の声を取り入れ、次々と新しい機能を発表しています。そして、イタリアの大手電力会社である Enel 社の Fabio Veronese 氏(Head of Infrastructure & TechnoLogical Services)をゲストスピーカーとして迎えました。

Enel 社は 100 年以上の歴史を持ち、6,100 万の顧客、190 万kmの配電網をもつ電力業界のリーダーであり、Fortune 誌 の "世界を変える" 企業 50 社中 5 位の企業です。スマートメーター利用率においては 25% を超える スマートカンパニーであり、更に発電量 3 位、再生可能エネルギー、送配電網距離、販売額、時価総額なども 1 位となっています。

しかしながら、リーマンブラザーズの事件以降、電力需要と GDP のデカップリング、石油価格と石油消費量のデカップリング、石油価格の減少とクリーンエネルギーへの投資の増大など、電力の世界も変化してきていると Fabio 氏は説明し、そうした背景から Enel 社では、フルアウトソースとオンプレミスという状態からすべてのアプリケーションをクラウド化していく方向になったことが伝えられました。

すでに 2016 年 6 月までに 10,000 のサーバー、30 の国、30,000 の CPU、6PB のストレージの移行が完了しており、AWS 活用することでプロビジョニングが 3~4 週間から 2 日に削減された他、コンピューティングリソースの消費は 21% 削減、ストレージは 60% まで削減した事例をご紹介いただきました。これには Enel 社のリーダーシップの強いコミットメントと、IT Team のクラウドのパイオニアとしてのプライドが大きな要因となっていると Fabio 氏は強調しました。Enel 社の次の目標は 100% のクラウド化、その次は IoT の活用を目指していると話しました。

再び Andy が登壇すると、Enel 社では、トップからボトムまで組織変革を行い、複数のサービスを AWS に移行していただいたエピソードを紹介し、移行の理由は、複数のサービス、それぞれのサービスが深さというものを持っているという点であると説明しました。例えば、多くの企業がデータベースを使っていますが AWS では多くの DB エンジンを持っており、Amazon Aurora などのサービスを提供しています。それらのサービスは機能の深さが大事なポイントであると述べました。

Amazon EC2 には 9 つのインスタンスファミリーがあります。汎用的な M シリーズ、メモリ最適化の R シリーズ、SAP ワークロードに利用できる X1、コンピューティングに最適化している C4、汎用的な GPU の P2 はディープラーニングに最適化しています。ワークロードには多様性があり、多くの制約があるため、これだけの種類が揃っているということが、お客様にとって大事なポイントだと Andy は説明しました。最近では P2 インスタンスで機械学習を利用しているお客様が増えています。深層学習などで使いたいときにも P2 インスタンスを利用すると非常に便利だと紹介されました。

ローコストでバースト可能な T2 インスタンスは、開発環境など、様々な用途で利用することができますが、今回、従来よりさらに大きな T2.xLarge (16GiB/2vCPU) T2.2xLarge (32GiB/2vCPU) の 2 つのインスタンスが新たに発表されました。

次に、大容量メモリを搭載したR3 インスタンスの後継として新たに発表された R4 インスタンス(488GiB/64vCPU) です。R3 インスタンスと比較してメモリ容量がさらに 2 倍に、CPU は 2 倍の高速化を実現しています。

次に発表されたのは、I3 インスタンス(3.3M IOPS/488GiB/64vCPU)。I2 インスタンスの 9 倍の IO 性能、2倍のメモリ容量、CPU は 2 倍に高速化されています。DWH、クラスターなどに向いていると紹介されました。

そして C4 インスタンスの後継として、C5 インスタンス(3.3M IOPS/144GiB/72vCPU) が発表されました。Intel の新しいXeon "Skylake" プロセッサを採用しており、学術的な利用、レンダリング、機械学習などに最適です。

GPU は他のインスタンスより少し高価になりますが、一部だけ GPU を使いたいというリクエストに応える形で、既存の Amazon EC2 インスタンスから接続利用可能な新しい Amazon EC2 Elastic GPUs もリリース予定であることが発表されました。これにより、すべてのインスタンスにアタッチが可能になりました。

また、Auto Scaling や Amazon S3 向けの単純な構成のサーバが必要な際、数回のクリックで、いわゆる仮想専用サーバー(VPS) を使い始めることができる Amazon Lightsail が発表されました。Lightsail には DNS や IP アドレス、権限設定なども含まれています。

さらに、プログラマブルなハードウェアである FPGA が利用可能なインスタンスファミリーである F1 インスタンス が発表されました。F1 インスタンス は、Xilinx 社の FPGA ボードを搭載しているだけでなく、開発ツールや FPGA Developer AMI が無料で提供されます。  

Andy は製品開発時における適切なサービスがツールを使うことでもっと早く簡単に開発することができると述べ、 AWS にはサービスがたくさんあること、これこそがお客様に選ばれる理由であり、素早く導入が可能な理由だと説明しました。

2 つ目の SUPER POWERS "X-RAY VISION" に話が移ると、Andy はビジョンを見通す力を持つことにはメリットがあると強調しました。

このビジョンの 1 つ目は、ベンチマークの可視化であり、ベンチマークを可視化するためには何が本当の情報かを自分で判断することが必要だと説明しました。

2 つ目は、ユーザーを理解する能力と分析を通して、ビジネスをよりよくする力が必要であると続けました。多くのお客様がデータを分析するために AWS の分析サービスを利用しており、多くの効果を得ていることだと述べました。Amazon RedShift や Amazon EMR は様々な規模のお客様に提供することができ、非常にパワフルなツールですが、シンプルなアナリティクスを使いたいというお客様も中にはいらっしゃいます。

そして、Amazon Athena が発表されました。Amazon S3 に貯めたデータを素早く分析したい、というリクエストを叶えたサービスです。Amazon Athena は Amazon S3 の中のデータをペタバイトクラスで簡単に実行できるクエリサービスで、データをロードすることなく、Amazon S3 で分析でき、レスポンスは数秒、あるいはマイクロ秒だと発表されました。また、Amazon Redshift、Amazon EMR、Amazon Athena はそれぞれ別の機能を持っており、大量のデータ、会計・在庫・Retail などの構造化された DWH には Amazon Redshift、アドホックなしで進めるには Amazon Athena が適しています。

3 つ目は、データの意味を理解する能力だと Andy は述べました。AWS ではこれまでにも P2 インスタンス やディープラーニングの AMI テンプレート、MXNet などに投資をしてきました。Amazon では倉庫のロジスティックスや Amaonz Echo、Amazon Alexa など、様々な AI やディープラーニングを使用しています。こうした技術を自分たちも使いたいというお客様のリクエストに応えて Amazon AI が発表されました。Amazon AI としては今回 3 つのサービスが発表されました。

AI サービスの1 つ目に発表されたのが Amazon Rekognition です。ディープラーニング形式の画像と顔認識サービスで、画像を検出し、何人写っているかを確認することや、顔認識、感情、メガネをかけているかなどを判別し、また二つの顔を比較して一致しているかどうかの確認も出来ます。

2 つ目に発表されたのが Amazon Polly です。これはテキストを音声に変換するスピーチサービスで、一連のテキストデータ、抑揚なども含めて音声で再生することができ、24 の言語にまたがる 47 のリアルな声が含まれます。

そして、3 つ目に発表されたのが Amazon LEX です。Amazon LEX は、自然言語の認識サービスで、Amazon Alexa をドライブしているエンジンです。サービス名の "LEX" は、"ALEXA" から "A" を省いて作られました。また、音声をテキストに変える自動音声認識技術と、テキストの意図を認識するための自然言語理解音声データも提供され、洗練された自然会話型ボットを素早く簡単に作成することができます。

ここで、AWS の GM であり、Product Strategy を担当する Dr. Matt Wood が登壇し、Amazon AI は Alexa のエンジンを使用しており、全ての開発者に深層学習、機械学習を可能にすると説明し、実際にデモを行いました。

まず、Amazon LEX のデモが表示され、「ロンドンのフライトを予約したい」と話し、日時、金額を自動で確認して、自然な会話だけで飛行機の予約を完了することができると Matt は説明しました。会話をテキストにし、会話の理解を理解し、必要な情報をマッピングし、不足している情報を自動応答するというステップとなります。さらに Lambda Function を経由した飛行機の予約という一連の流れも紹介されました。

続いて、Amazon Rekognition は画像からカテゴリ-を認識し、風景の写真から山・森・湖などのインデックスを自動でつけることができできるサービスだと紹介されました。Matt は、Amazon AI を使用すると、このような新しいカテゴリのアプリケーションを作ることができるようになると述べました。

再び Andy Jassy が登壇すると、3 つ目の SUPER POWERS である "IMMORTALITY(不死)"に話しが移りました。

Andy は数週間前 13 歳になる息子と、息子たちの世代が初めて不死もしくはとても長寿になるのでは、といった会話をしていたというエピソードを紹介しました。

「長寿」というのは多くの超えねばならないハードルがありますが、それはビジネスでも同様で、企業が長い間存続していくのは非常に困難です。Andy はますます加速する世界の中で“変化を取り入れていく、というのが大きなポイントであると説明しました。テクノロジーの変化は加速度的に進化していくため、企業もこういった進化を取り入れていく必要があります。例えば Airbnb、Pinterest、Slack のようなスタートアップや、Gillette のような企業も AWS 上で変化を取り入れているお客様として紹介されました。

また、ソリューションを提供している企業も同様で、Acquia、Infor、Splunk、Twillio などに加え、SalesForce のような SaaS を提供している企業が増加しています。Andy は、こういった企業はすべて AWS を使っており、Workday なども AWS を使っていると紹介し、Workday の CEO, Co-Found である Aneel Bhusri 氏をゲストスピーカーに迎えました。

Workday は Finance と HR の Enterprise Cloud Solution を提供しており、$1.5B (2017) の売り上げと 1,350 以上のお客様 (Fortune500 の 120社)、97% 以上の顧客満足を誇っています。Workday では、最初のステップとしてコンシューマアプリケーションをベースとしたサービスを作ることを考えました。

Aneel 氏は、AWS を利用することで、Power of 1 というコンセプトのもと、すべてのお客様へ同じのコード、同じユーザインターフェース、同じセキュリティモデル、同じ SLA でサービスを提供でき、非常に迅速な Innovation のスピードを維持することができていると語りました。

続いて、Workday の Senior Vice President である David Clarke 氏が登壇しすると、AWS を Preferred Provider として認定していることを語り、これは非常に細かいテクニカルサーベイを行った結果であり、使いはじめた当初の請求は、2008 年当時で $34 程度、個人の支払いだったと振り返りました。David 氏は AWS はセキュリティ、可用性などエンタープライズの Workload に最適だと述べると共に、今後は AWS をベースに グローバルに展開していくことを伝え、プレゼンテーションを終えました。

再び Andy Jassy が登壇すると、SaaS プロバイダも最初から、もしくは途中から AWS を利用し、自らのサービスを進化させていると述べました。クラウドの重力は加速しており、抵抗することで多くの進化の機会を失ってしまうことになりかねません。AWS を使って進化を進めている モトローラ、Capital One など、既に多くのお客様を紹介すると、その中の 1 社である Mcdonald’s Corporation の CTO, Tom Gergets 氏を迎えました。

Tom 氏は、現代を非常にエキサイティングな時代だと語ると、お客様から Mcdonald’s への期待も変化しており、モダンかつ先進的なバーガー会社になりたいと考えていると述べました。さらに、お客様はよりパーソナライズされたサービスを求めており、その期待に応えるためにテクノロジーを利用していると説明しました。

POS システムのクラウド化から始まった Mcdonald’s の 企業全体でのデジタルフォーメーションは非常に大きなチャレンジだったと Tom 氏は振り返りました。AWS を採用した理由として、POS システムの中には、30 万のデバイス、20 万のレジがあり、また、23 ヶ国で展開される 10 億ドルのビジネス、6,900 万のお客様、6,000 のメニューを支える E コマースプラットフォームを従来のアーキテクチャで支えるには厳しくなっていたことであると説明しました。

Tom 氏は組織を変革するために、人・プロセス・テクノロジーをすべて変革した述べました。その過程でマクドナルドではクラウドチームを作り、Cloud Adoption Framework の活用、AWS プロフェッショナルサービスからの支援を受けながらコストやアーキテクチャに関するナレッジの蓄積とシェアをなどで進めていき、新しい E コマースのプラットフォーム、eCP では IaaS から初めて 35 のサービスを使う形となり、素晴らしい結果を得ることができたとその導入の過程を紹介しました。

さらに Tom 氏は、今後イギリスなどへの海外展開、パフォーマンスの向上、1 秒当たり 8,600 万のトランザクション処理、さらには経験値の向上まで、より多くの AWS プラットフォームサービスを使いシステムの Agility を向上させていくと共に、マイクロサービス化の加速、オートメーション化を進めていきたい話し、講演を終えました。

Andy がステージに戻ると、子供のころ、一番楽しみにしていたのが父と行くマクドナルドであり、そのマクドナルドが私たちのクラウドを活用して成功を収めているということは、とても感慨深いと語りました。

「次は 4 つ目の SUPER POWERS "FLIGHT"です。”FLIGHT”というのは自由のことです。より速く作りたい、よりデータを把握したい、データベースベンダーの束縛から解放されたい、ということです。」昔からあるデータベースは高価で、独占的で、ロックイン、そして極めて厳しいライセンスモデルであると Andy は説明し、多くのお客様はオープンソースエンジンに移行を望んでいると述べました。しかしながらパフォーマンス等を考えると可能ではあるものの、未だハードルがあるため、AWS はそのハードルを越える方法として、Amazon Aurora を発表しました。MySQL との互換性、ハイエンド MySQL の 5 倍のパフォーマンス、商用データベースと同等の高い可用性と堅牢性、商用データベースの 1/10 のコストを提供し、AWS のサービスで最も早い成長率となっていると述べました。Expedia、Gumi、Netflix など多くのお客様がAurora 上でシステムを動かしており、すでに14,000以上のデータベースの移行を完了させたと Andy は紹介すると共に、実際に DBを Amazon Aurora に移行した FINRA 社の Senior Vice President and Information Officer である Steve Randich 氏を迎えました。

続いて Steve 氏が登壇し、FINRA は、証券取引の監視などを行う団体で、2 年前に最も重要な市場監視のプラットフォームのシステムを AWS に移行したと述べました。これは、20PB 以上のデータから疑いのあるレコードを監視するシステムで、現在 DB のボリュームの 90% を AWS に移行しており、毎日 750 億のデータを収集、日・週・月にまとめて 6 ヶ月間保存しています。

数年前に株価の暴落と規制当局からの新しい要求があり、より多くのデータを収集する必要が出てきました。しかし既存の DWH ではデータの増大に対し、パフォーマンスの限界に来ていました。そこで、自前での構築か、クラウドやオープンソースを採用するか様々な検討をした結果、型破りな方法をとらないといけないことが判明し、2013 年から本格的にクラウドの模索を始めたと Steve 氏は述べました。その結果、パーフォーマンスも含め AWS が最適だと 2013 年末に決断し、基幹システムを最初に移行しました。移行では当初リフトアンドシフトが検討されましたが、クラウドに適したシステムに再構築をしてクラウドを活用し、DevOps による自動化でサイバーセキュリティの保護も活用したと Steve 氏は導入の過程を紹介しました。

また、Steve 氏は、AWS は他の競合ベンダーより先に進んでいて、その差は広がっているとし、商用 DB から解放され、期待していなかったパフォーマンスの改善が驚くほど得られたと述べると共に、クエリが 400 倍改善し、ピークにも対応できるようになり、サイバーセキュリティに関してもクラウドの方が優れていると語りました。

Andy がステージに戻ると、FINRA の事例は素晴らしい事例で、多くの企業が FINRA をベストプラクティスとして使いたいと考えているという声を紹介しました。Fそして、FINRA をはじめ、非常に多くのお客様が Amazon Aurora を利用しており、既に Amazon Aurora だけで 20 以上の機能を提供していると述べました。

そして Aurora に対する一番大きなリクエストは、 PostgreSQL への対応であることを紹介すると、PostgreSQL 互換の Amazon Aurora が発表されました。PostgreSQL は Oracle のような商用データベースとの互換性が高いのがその理由ですが、商用データベースからの移行が簡単になってきているだけでなく、コストも商用データベースの 1/10 の値段で利用することができます。 

次の SUPER POWER ”SHAPE SHIFTING”に話が移りました。これは「形を変える、どんな状況にもこたえられる」という意味で、クラウドで言えば、ハイブリッドということになります。

AWS への誤解として多くあるのは、AWS へ All-in をしてください、と話ししているように思われますが、実際の多くの企業はシームレスにオンプレミスと利用したい、というニーズを持っているということだと Andy は言います。

Johnson & Johnson、Comcast など、多くのお客様がオンプレミスと AWS のハイブリッド環境を利用しており、必ずしも二者択一ではないのです。しかしながら多くのお客様は VMware を利用しており、AWS と連携できていなかったので、結局のところ VMware か AWS かを選ばざるを得ない状況でした。VMware Cloud on AWS はそういったニーズに応える形で発表されました。Andy は、VMware のライセンスとして提供できる唯一のクラウドは AWS であると説明しました。

ここで VMware の CEO、Pat Gelsinger が登壇し、Andy とパネルセッションが開始されました。

パネルセッションでは、VMware と AWS の提供によるお客様の動きや反応についてが語られました。Pat 氏はお客様の CIO に対して包括的にクラウド戦略を考えられる大きな選択肢を提供でき、ポジティブなフィードバックを得られたと語りました。また、Lighthouse アカウントプログラムを展開し、Western Digital やAmadeus などのお客様がいる他、マクドナルドやルイジアナ州でもすでに利用されていると紹介しました。2 つの世界を融合できること自体がメリットだとし、VMware の CIO である James 氏が進めているクラウドファーストプロジェクトを今後はクラウドオンリーにしていきたいと語りました。

Andy がシステムインテグレーターについて尋ねると Pat 氏は Accenture, CSC, Capgemini, Deloitte の 4 社が AWS、VMware 両方のノウハウを持っていると紹介しました。

最後に AWS を選択した理由について Andy が尋ねると、Pat 氏は VMware がイノベーションカンパニーであり、長い間共通のお客様がこのパートナーシップを待ち焦がれていたのもあり、末永く連携していきたいと語り、パネルセッションを締めくくりました。

続いて Andy はオンプレミスの構成要素について話を続けます。ここ 20 年はデータセンターの物理的なサーバーであったのに対し、今はより多くの企業のすべての資産に IoT が使われているとしました。自動車、船、油田、飛行機、農地、病院などどこでも多くのスマートデバイスがあり、それぞれでデータを収集して分析する必要がでてきます。ただ IoT の多くのデバイスは CPU が小さく、ディスクスペースが限定的です。だからこそクラウドを使う意味があり、多くの IoT システムで AWS が使われていると Andy は述べました。

オンプレミスの未来については IoT デバイスがオンプレミスのフットプリントの大半を占めるようになると Andy は予測します。物理サーバーは縮小していく一方で、 IoT のデバイスの数は非常に早く増加します。そうなると比較的容易にクラウドのメリットを享受できるようになると語りました。

ただし、レイテンシーの問題がある場合にはクラウドとデバイスを行ったり来たりできないと Andy は実際には往復のやりとりをクラウドと行いたくないケースを紹介しました。また、ダムなどのようにインターネットの接続ができない場合もあります。お客様から聞いているのは、このデバイス上で同じ柔軟性、コンピューティングと分析が行えるようにしたいという要望をいただいています。

そこで AWS Greengrass が発表されました。AWS Greengrass は AWS Lambda をデバイスに組み込むサービスになります。デバイスで実行できるので、デバイスメーカー、チップメーカーが AWS Greengrass を出荷時に組み込むことができます。従って、同じプログラミングを AWS 上でも、デバイス上でもできるようになります。またクラスタしていれば他のデバイスとも通信することが可能です。たとえば照明や室温などで利用するスマートホームなどでは、デバイスがゲートウェイと通信し、ゲートウェイが AWS を通信します。この場合に接続が確立されていなければデバイスを操作できません。農場での利用のケースではトラクターの管理を天候に応じて行う必要があります。Andy は AWS Greengrass を実装することで、リアルタイムに変更を行うことができると紹介しました。

続いて Andy は、昨年発表された AWS Snowball が、発表後 1週間で想定の 10 倍の発注が必要となったと述べました。Snowball により、多くのデータが移行され、お客様からは多くのフィードバックを頂くいています。その代表的なものとして、

「より多くの容量を扱えるようにして欲しい。」
「オンプレミスから移行する場合にデータを消さないので 2 つのコピーが存在してしまう。」
「Amazon S3 にロードしたい。」
「Snowball でコンピュートしたい」

といったフィードバックがありました。これに応えるべく、ここで AWS Snowball Edge が発表されました。

AWS Snowball Edge は新しいデバイスでコンピューティングを搭載し、パフォーマンスも改善されています。これまでの機能を継承しながらデータサイズは 2 倍の 100TB となっただけでなく、クラスタリングすることでより大容量が可能となり、データの共有も可能なのでオンプレミスでデータを保持する必要がありません。さらに m4.4xlarge のコンピューティングが入っており、Amazon S3 にもデータを目的に応じて投入することが可能です。たとえばオレゴンで海洋研究をしているケースでは、AWS Snowball Edge でデータ収集を海上で行い、事前処理したデータを陸上に戻ってから AWS に送ることができます。飛行機でも飛行中にデータ収集が可能となります。AWS Greengrass で異常値などをリアルタイムで分析し、より深い分析は AWS に送り返してから行うことが可能となるのです。

また、ペタバイトクラスのデータ移行はできるものの、以前はエクサバイトクラスのデータの環境のニーズはありませんでした。しかし現在はエクサバイトのニーズも出てきています。しかし、エクサバイトの移行を行うにはもっと大きなボックスが必要となります。企業が保存しているデータがエクサバイトクラスだったらどうなるのでしょうか。Andy はエクサバイトクラスのデータを AWS Snowball Edge で扱った場合、10,000 もの台数が必要になってしまう計算となる点を指摘しました。

そこで、コンテナを積んだ大型トラックが登場し、Andy はエクサバイトクラスのデータを運ぶには、もっと大きなものが必要であると説明すると、AWS Snowmobile を発表しました。AWS Snowmobile は 100PB のコンテナ、45 フィートの長さのトラックでお客様のデータセンターにてデータを取り込み、AWS へ輸送します。AWS Snowmobile の登場により、従来 26 年かかっていたエクサバイトクラスのデータ移行をわずか 6 か月でできるようになると Andy は紹介しました。

最後に、Andy は、今後の 10 年について話を始めました。

AWS はこれまで爆発的に成長し、多くのイノベーションを起こしてきました。それに対して今後の 10 年はイノベーションが減るのでは?と言われることがありますが、そのようなことはないと強調しました。

今までは「クラウドを使う」というフェーズで多くの力を使ってきましたが、デベロッパーの方々は、今後そのような領域に力をかけることもなくなり、イノベーションがさらに加速するであろう、と語り、キーノートを締めくくりました。