AWS Startup ブログ

生成 AI により、コーチング機能を実現。メンタルヘルス領域における Amazon Bedrock 活用

「心の健康と成長を支えるデジタル・メンタル・プラットフォームを実現する」をミッションに、AI メンタルパートナー「アウェアファイ」の企画・開発・運営を行う株式会社Awarefy (アウェアファイ)。同社は 2024 年 4 月より、心の成長をサポートする AI コーチング機能をリリースしました。自己理解と自己成長を促すコーチングは、ビジネスや自己啓発の領域で重視されています。この機能を用いると、24 時間いつでもどこでも AI を通じてコーチングを受けることが可能になるのです。

Awarefy 社では AI コーチング機能を実現するために、高パフォーマンスな基盤モデルを利用できるフルマネージド型サービス Amazon Bedrock を採用しています。今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの浦田 力樹とソリューションアーキテクトの尾原 颯が、Awarefy 社 取締役 CTO 池内 孝啓 氏にお話を伺いました。

「AI メンタルパートナー」としてアプリをリブランディング

浦田:まずは Awarefy 社の事業概要についてお聞きします。

池内:Awarefy はメンタルヘルス領域を事業ドメインとするスタートアップです。人々が抱える心の問題の特徴として、何かしらメンタルの不調を感じていても 7 割近くの方々は病院に行かないと言われています。そのため、病気と診断された人や症状が強く顕在化した人だけにアプローチをしても、心の問題は解決しません。より前の段階からアプローチをすることが必要であると私たちは考えています。

また、いまお話ししたのはマイナスの状態を軽減するための方法ですが、これとは別の観点としてメンタルをプラスの状態にする方法も必要だと考えています。たとえば、「より集中して勉強に取り組めるようにしたい」とか、「より前向きな気持ちで毎日を過ごせるようにしたい」といったことも、メンタルヘルスにおける重要なテーマです。それら全方位をカバーできるような、メンタルヘルスのプラットフォームを作りたいと考えています。

私たちの提供するAI メンタルパートナー「アウェアファイ」はスマートフォンアプリです。もともとのコンセプトとしては、エビデンスに基づいた心理療法をアプリのなかでユーザーに体験していただき、心の問題を改善してもらうこと、より良い生活を送ってもらうことなどを目指していました。今年に入ってからアプリのリブランディングを行い、「AI メンタルパートナー」というコンセプトを打ち出しました。認知行動療法やマインドフルネスなど心理学の知見に基づく機能と AI による対話を提供し、ユーザーの心の健康と成長を支援するサービスとなっています。

Awarefy 社 取締役 CTO 池内 孝啓 氏

浦田:池内さんはどのような経緯を経て、Awarefy 社で働くようになったのですか。

池内:私は IT ベンチャー数社を経た後に、データ分析をしている企業に入社しました。その企業で働いている頃に AWS の東京リージョンができ、それから現在まで AWS を利用し続けています。その会社が 2015 年に上場し、自分のなかでは「やりきった」という思いになりました。

そこで、起業をして 4 年ほど経営をしました。BtoB SaaS を開発していましたが、なかなか事業がうまくいかず、最後の 1 年は精神的にもかなりきつい思いをしました。今になって思えば、当時の私に心理療法の知識があれば、もっと心理的な負担を軽減して働けたはずです。この経験からも Awarefy の事業に大きな可能性を感じており、この知見を世の中に広めることが、私のモチベーションの源泉になっています。

技術面から資金面まで手広い AWS のサポート

尾原:Awarefy 社は AWS のアカウントチームによるサポートを受けていますが、この内容についてもお話しいただけますか。

池内:サポートを積極的に受けるようになったのは、アプリのバックエンドのアーキテクチャを全面的に刷新したあたりですね。かつて私たちはサービスのバックエンドとして、スマートフォンアプリ用の汎用的な機能をクラウドで提供する mBaaS(mobile Backend as a Service)を活用していました。

しかしそのクラウドでは、システムを開発することなくアプリをリリースできたものの、データの集計や正規化がしづらいなどの欠点がありました。そこでサービスが一定以上の規模になったタイミングで、インフラを全面的に AWS へと置き換えたのです。Amazon EKS を導入したのですが、その際にかなり助けてもらったのが、AWS のアカウントチームの方々と密にコミュニケーションを取るようになったきっかけだと思います。

尾原:サポートに関して気に入ってくださっている点はありますか。

池内:アプリケーションの実装やインフラの詳細な設定まで踏み込んでサポートしてもらえることです。他社のサポートでは、なかなかここまで深く伴走してくれることは少ないと思います。先ほど述べたシステム移行でも、Kubernetes 関連のトラブルに見舞われた際にソリューションアーキテクトに相談したところ、メトリクス取得の方法などを含めて詳細に教えてもらいました。現在も、浦田さんや尾原さんとは常に Slack でコミュニケーションを取れる状態にありますし、距離感がとても近くてありがたいです。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー 浦田 力樹

浦田:池内さんは定期的な技術相談会に加えて、 特定のサービスに特化したハンズオンや Prototyping Camp にも積極的に参加されていますよね。 1 日でサービスの詳細な理解から検証までを一通り行い、我々のリソースを有効に活用いただいていることは、アカウントチームとしても大変嬉しく思っています。

尾原:それから、CTO Night & Day のように各種のイベントにもご参加いただくなど、AWS 関連のコミュニティを有効活用されていますよね。AWS のスタートアップ支援に関して言えば、AWS Activate* も利用されましたが、こちらの感想はいかがでしたか。

*…AWS 上でシステムを構築、拡張するのに必要なリソース(最大 100,000 USD の AWS Activate クレジット、24 時間年中無休の技術サポート、トレーニング特典など)をスタートアップ企業に提供するプログラム。

池内:事業の初期フェーズで利用して、このクレジットを使って各サービスの検証を行いました。現在と比較すると会社の売り上げもまだまだ立っていない時期だったので、非常にありがたかったですね。シードフェーズやアーリーフェーズのスタートアップは、常にバーンレートを気にしながら経営を続けています。AWS の無料クレジットをもらえることは、事業継続の面からも大きなプラスです。

Amazon Bedrock + Claude 3 により AI コーチング機能を実現。

尾原:2024 年 4 月よりリリースされた、AI コーチング機能についてもお聞きしたいです。

池内:先ほど述べたように、AIメンタルパートナー「アウェアファイ」ではユーザーのメンタルをプラスの状態にするための機能も搭載していきたいと考えています。そこで、ユーザーがチャット形式で答えていくことで、自身の抱える課題について AI が具体的な考え方や解決方法、目標達成におけるプロセスを提案してくれる、AI コーチング機能を実装することを決めました。この機能を実現するために大規模言語モデル(以下、LLM)を活用しています。

既存の AI チャット機能にも LLM の技術を活用してはいたのですが、コーチングのようにユーザーの状況に応じてトピックが移り変わる対話を行うためには、質問形式だけのチューニングでは限界がありました。

そこでアプリではコーチングの対話をする LLM だけでなくコーチングのプロセスを管理する LLM を別で設けることで、円滑なコーチングを行えるようにしています。私たちはこれをメタプロンプトと呼んでいます。

対話 AI の部分は Amazon Bedrock + Claude 3 の組み合わせを用いており、プロセスの管理は AWS Step Functions によって実現しています。プロセス管理に AWS Step Functions を用いることで、耐障害性やリトライ平易性を確保しながら、AI 機能の非同期実行を実現しています。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 ソリューションアーキテクト 尾原 颯

尾原:メタプロンプトは一般的な用語だとエージェントと呼ばれる技術に近いアプローチをとっていると理解しているのですが、この技術をプロダクトで活用できている事例は珍しくて、私の知る限り日本国内では Awarefy 社のみですね。技術力の高さが伺えます。どのような経緯で、対話 AI に Amazon Bedrock + Claude 3 の組み合わせを用いると決めたのですか。

池内:私たちは常に複数の LLM を比較・検討しており、AI 機能の可用性向上のためにマルチクラウドならぬマルチ LLM サービスの構成をとっています。そして、そのなかでも Amazon Bedrock + Claude 3 は、出力の精度の高さや処理速度、API の安定性などが特に優れていました。

尾原:LLM で出力した対話内容の良し悪しを評価するのは、非常に難しいものだと思います。チャットやコーチングのように、わかりやすい正解が存在しない領域では特にそうだと思うのですが、どのように出力の評価をしていますか。

池内:おっしゃる通りで、その方法については試行錯誤を続けている最中です。「Awarefy」の AI 機能では、たとえば当社に在籍する公認心理師・臨床心理士が出力の品質を評価するような体制で行うケースなどがあります。AI コーチング機能の場合は、コーチングの資格を持つメンバーを中心として、社内外からフィードバックを得ながら品質の改善に取り組みました。

AIメンタルパートナー「アウェアファイ」にしかできない付加価値を

浦田:今後の事業の目標についてもお話しいただけますか。

池内:「アウェアファイ」では AI を用いてユーザー体験を向上させることはできていますが、「何を『アウェアファイ』固有の付加価値にしていくか」という要素がまだまだ不足しているように思います。要するに、各種の LLM は他の会社も使用できる技術のため、そこだけではサービスとしての差別化につながらない可能性が高いのです。

そこで、「アウェアファイ」が持つ固有のデータを活用して、「アウェアファイ」にしかできない体験を実現するための機能の開発に取り組んでいるところです。たとえば、レコメンデーションやそれに関係する検索、ロングタームメモリを活用した AI の振る舞いの最適化などを検証しています。そうした技術の掛け合わせによって、ヘルスケア領域で良いプロダクトを作っていきたいです。

尾原:その目標を実現するにあたって、AWS のアカウントチームへのリクエストはありますか。

池内:検索に関する話をすると、現在「アウェアファイ」では pgvector を用いたベクトル検索のみを行っています。ですが、今後は Amazon OpenSearch Service を用いて、日本語の全文検索とベクトル検索とを組み合わせたハイブリッドサーチを実現したいと考えています。Amazon OpenSearch Service の検証作業を進めていくにあたり、サポートしてもらえると非常にありがたいですね。

浦田:ぜひ御社と弊社とで協力し合って、より良いプロダクトを実現していきましょう。今回は貴重なお話をありがとうございました。