NTT ドコモが AWS を利用して構築した基地局鉄塔サビ点検ツールでコスト削減と安全性を向上

2020

日本最大の移動体通信事業者の 1 つである 株式会社 NTT ドコモ(以下、NTT ドコモ)は、保守点検を行って利用者のネットワークアクセスを確保するために、約 50,000 か所の基地局鉄塔のサビや劣化の状況を数年ごとに点検する必要があります。しかし、点検作業員が出向いて数十メートルの高さがある鉄塔に登るのは危険を伴い、非効率であるため、NTT ドコモはドローンを利用して鉄塔を撮影し、点検する独自のシステムを開発することにしました。

このシステムを機能させるには、人工知能 (AI) と機械学習 (ML) のテクノロジーにコンピューティングパワーを組み合わせ、ドローンで撮影した何千という写真を分析してサビを検出する画像認識システムを開発する必要がありました。そのため、アマゾン ウェブ サービス (AWS) を利用してコスト効率の高いソリューションを迅速にデプロイすることで、安全で効率的な鉄塔点検を行い、安定したネットワークアクセスを利用者に提供できるようにしました。

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AWS Batch は、当社のシステムで最も重要なマネジメントサービスです。コストが大幅に削減されます

中村 一成 氏
株式会社 NTT ドコモ
サービスイノベーション部 ビッグデータ担当
AI スペシャリスト

ドローンを使用して基地局鉄塔点検の精度と安全性を高める

LTE ネットワークや世界で最も先進的な LTE-Advanced ネットワークの 1 つを通じて約 7,300 万人の利用者にサービスを提供している NTT ドコモにとって、イノベーションは得意とするところです。NTT ドコモは、5G ネットワーク、近距離無線通信インフラストラクチャ、新しい IoT ソリューションの世界トップレベルのデベロッパーです。AWS を基盤とした構築歴が長く、自社のウェブサービスシステム、データ分析プラットフォーム、データウェアハウスの一部は AWS に移行済みです。NTT ドコモは、AWS を利用した docomo sky という独自のドローン管理システムも開発しています。したがって、ドローンを使用して撮影した画像を用いて自動で基地局鉄塔のサビを点検するプロジェクトに AWS を採用するのは自然の成り行きでした。「ソフトウェア開発とデータ管理には AWS が非常に便利であることを今までの経験から理解していたため、オンプレミスサーバーや別の管理システムを検討しようとは思いませんでした」と NTT ドコモの AI スペシャリスト・中村一成氏は述べます。

鉄塔のサビや劣化は深刻な問題です。「サビを長く放置すると、ネットワークの可用性が低下します」しかし、作業員による現場での目視点検には危険が伴います。「鉄塔の昇り降りは大変な作業であるため、ドローンを使用して鉄塔を点検することで、施設と作業員の安全を確保することにしたのです。同時に、点検結果の標準化や点検精度も向上も行いたいと考えました」と中村氏は言います。

NTT ドコモは、2017 年にドローンを使用した鉄塔の撮影を開始しました。何千もの画像を担当者が精査するのは時間がかかるため、AI および機械学習テクノロジーを使用して画像認識システムを開発することにしました。「データは非常に貴重なアセットであると考えているため、独自に画像認識システムを開発しました」  

AWS を使用して高速で信頼性の高いツールをすばやくデプロイ

NTT ドコモのチームは、サビ認識システムの 2 つのプロトタイプを約 1 か月という短期間で開発しました。プロトタイプは低コストで作成できることに加え、AWS のサービスに関する豊富な情報をチームが利用できたことが要因です。システムは 2020 年 1 月に社内でリリースされました。NTT ドコモは、約 100 の画像を使用してサビや損傷部位を検出するモデルのトレーニングから始めましたが、すぐに画像の不足に気付き、データを継続的に収集してモデルをトレーニングするようになりました。現在は、自社のネットワーク内の基地局鉄塔の点検にこのシステムが活用されています。点検には 2 段階のプロセスを使用します。最初に AI 点検でサビを認識します。次に、必要に応じてオペレーターによる厳密な点検を行います。

認識システムは、鉄塔ごとに約 400 の画像を処理します。各画像のサイズは約 7 MB、5,472 x 3,648 ピクセルです。NTT ドコモは、最初に Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) P2 インスタンスを推論に使用していましたが、2019 年 8 月に Amazon EC2 G4 インスタンスに切り替えました。G4 インスタンスは、NVIDIA T4 Tensor Core GPU を搭載し、P2 インスタンスと比べて、2 倍高速であり、コストは 4 分の 1 以下です。1 画像あたりの予測時間は 10 秒に対して 5 秒、1 時間あたりのコストは 1.542 USD に対して 0.71 USD です。「Amazon EC2 G4 インスタンスは期待を上回る性能でした」と中村氏は述べます。

NTT ドコモは、AWS Batch を使用して、さらにコストを削減しています。このサービスは、送信されたバッチジョブのボリュームやリソースの要件に基づいて最適な数の Amazon EC2 G4 インスタンスを動的にプロビジョニングします。「AWS Batch は、当社のシステムで最も重要なマネジメントサービスです」と中村氏は続けます。「AWS Batchを用いることで運用コストを大幅に削減することができました。基地局鉄塔の点検は毎日行われる業務ではないため、Amazon EC2 G4 インスタンスを常時稼動しておきたくないのです」 Amazon API GatewayAWS Lambda を使用して HTTP リクエストを受け取ります。次にコードを実行して、これらの HTTP リクエストを Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) に保存し、ジョブを AWS Batch に送信します。「Amazon S3 を使用すると、とても簡単に画像を収集できます」と中村氏は言います。以前は社内のデータウェアハウスを使用して画像を共有していました。「おかげで、モデルを効率的にトレーニングできます」

画像認識システムでは、現在、15 件のタスクを同時に実行できます。NTT ドコモは、この数を AWS Batch を使用して容易に増やすことができます。また、さまざまな鉄塔からの画像を比較したり、収集時期の異なる画像を比較することで、点検結果の標準化が可能です。NTT ドコモは、このシステムを使用して、損傷した鉄塔をすばやく見つけて修理することで、長期的にエンドユーザーのネットワーク品質の安定化が可能になり、顧客満足度が高まるものと期待しています。目視点検からドローン点検に切り替えたことで、従業員の安全性は確実に向上しています。ドローンによるモニタリングに切り替えてから、基地局鉄塔点検関連の事故は一件も発生していません。新しいシステムにより、鉄塔点検の効率も向上し、コストも大幅に削減されています。目視点検と比べて、鉄塔あたりの点検時間が約 100 分短縮されました。「2020 年には、ドローンを使用して約 1,500 か所の鉄塔を点検する予定です。これで 2,000 時間以上が短縮されることになります」と中村氏は言います。「これは 100,000 USD 以上の経費削減になります」

新しいビジネスを創出し、ネットワークユーザーの満足度を高める

ドローン点検プログラムの成功は、NTT ドコモの新しいビジネスチャンスにつながる可能性があります。「このような点検データは貴重なアセットになると考えています」と中村氏は説明します。「基地局鉄塔点検の経験に基づいて、橋や建物など、他のインフラストラクチャの点検サービスを開発することを計画中です」

AWS を利用して、鉄塔の目視点検プロトコルから AI を使用したドローン点検システムに移行することで、NTT ドコモは、従業員の安全性を高めてコストを削減するだけでなく、新しい収入源のチャンスも生み出しました。また、鉄塔のサビや損傷を減らすことで、日本最大の移動体通信事業者は、より多くの時間とリソースをかけて最上のモバイルサービスを利用者に提供することに専念できます。 


カスタマープロフィール:株式会社NTTドコモ

NTT ドコモは、日本最大の移動体通信事業者であり、LTE や 5G などの先進的なワイヤレスネットワークを通じて 7,300 万人以上の利用者にモバイルサービスを提供しています。携帯電話会社と提携することで、スマートモバイルテクノロジーを開発しています。

  • 従業員数:単体 8,100 名、ドコモグループ 27,558 名(2020 年 3 月 31 日現在)
  • 事業内容:通信事業、スマートライフ事業、その他の事業

AWS 導入後の効果

• 1 か月で 2 つのプロトタイプを開発
• 鉄塔あたりの点検時間を約 100 分短縮 (2020 年に 2,000 時間以上を短縮)
• 15 件のタスクを同時に実行
• 2020 年に 100,000 USD 以上を削減
• 基地局鉄塔のサビ点検に関連する人身事故の報告件数が 0 に減少 


ご利用中の主なサービス

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Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。

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Amazon EC2 G4 インスタンスは、画像分類、オブジェクト検出、音声認識などの機械学習モデルをデプロイしたり、リモートグラフィックワークステーション、ゲームストリーミング、グラフィックレンダリングなど、グラフィックを多用するアプリケーション向けの、業界で最も費用対効果が高く用途の広い GPU インスタンスです。

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