障害対策などから解放され、精神的な負担が少なくなりました。
また、AWS 上に DR サイトも構築したことで、
大規模障害や災害時にビジネスが停止するリスクも解消されました。
色彩の総合メーカーとして、顔料、プラスチック用着色剤、インキ・コーティング剤、ウレタン樹脂などを製造する大日精化工業株式会社。同社はオフコンベースの基幹システムを各事業所が独自に改修や更新を重ねてきました。個々の事業所の業務に最適化したシステムは操作性に優れているものの、運用の属人化や原価・損益の把握に時間を要するために、SAP S/4HANA のビッグバン導入を決断。併せてインフラを AWS に統合しました。システムやインフラの一元化により IT ガバナンスが強化され、DR 環境の構築によって BCP 対策を実現しました。
顔料の国産化を目指して、1931 年に設立した大日精化工業。以来、世の中の技術革新にいち早く対応し、新たな技術・製品を生み出すことで、100 年近くの歴史を築いてきました。現在は顔料のほかに、プラスチック用着色剤、繊維用着色剤、印刷インキ・コーティング材、ウレタン樹脂まで幅広い事業を展開。製品は、自動車内外装部材や飲料・食品のパッケージ、液晶画面の保護フィルムなど幅広い分野に採用され、社会に「彩り」と「便利」を提供しています。1970 年から 1990 年にかけてニーズに応えるために展開エリアを海外に拡大。現在は世界 14の国・地域に生産・営業拠点を構え、経営方針として「海外売上高比率 50 %」の達成を目標にしています。
基幹システムは、オフコンベースのスクラッチシステムを導入し、東京本社、関西、東海地域などの各事業所が独自に改修や更新を重ねながら利用してきました。各事業所の業務に最適化したシステムは操作性に優れ、取引の効率化に貢献してきました。その一方、事業所ごとに個別最適化が進み、運用の属人化が進んでいました。また、原価や損益の把握に時間を要し、意思決定にも影響が及んでいたといいます。
そこで既存システムのハードウェアの更新を機に、グローバルスタンダードの ERP パッケージである SAP S/4HANA を導入してグループのシステム基盤を統一し、経営資源の最適配置と有効活用を目指すことを決断しました。「グローバル経営の推進に向けて、グループ全体の経営情報をリアルタイムに把握し、意思決定の迅速化を図ることが狙いです。さらに、システムを統合することで、国内外を含めたグループ全体でガバナンスの強化を図ることとしました。」と語るのは、情報システム本部 本部長の高橋睦人氏です。
SAP S/4HANA のインフラ基盤について、当初他社のクラウドサービスを前提に開発を進めていましたが、途中で想定以上にコストが膨らむことが懸念されたことから、急遽 アマゾン ウェブ サービス(AWS)に切り替えることにしたといいます。
「AWS は、化学情報系の品質管理システムの基盤で採用した実績がありました。また、SAP S/4HANA が安定稼働している実績や一時的な利用ができる気軽さ、および従量課金でコストを抑えられることなどが選定の決め手です。」(高橋氏)
SAP S/4HANA の導入プロジェクトは 2016 年 7 月にスタート。会計、販売、物流、在庫購買、生産、品質の管理モジュールをビッグバンで導入し、さらに WMS(倉庫管理システム)も新規で構築しました。はじめにグローバルを含めたグループ統一の標準モデルを構築。その後、中国の生産拠点をファーストターゲットに展開し、2018 年 1 月から本稼働を開始しました。並行して国内本社と国内のグループ会社 5 社に展開して 2018 年 10 月から本稼働を開始。続けてタイの生産拠点に展開して 2019 年 1 月より本稼働しています。
「最初の導入先を中国としましたが、これは、事業領域が広く、人材面でも充実しており、システム環境も日本と類似していることから、トラブル対応能力を加味して選定しました。結果としてその経験を日本国内への展開に生かすことができました。さらに規模の大きいタイの工場にも横展開しました。」(高橋氏)
クラウド環境はグローバル 1 インスタンスで構成し、Amazon EC2 上で SAP S/4HANA の本番機、開発機、検証機のほか、SAP IQ ベースの DWH、分析ツールとして SAP BusinessObjects、WMS、運用管理ツールなどが稼働しています。その他、生産委託先が生産実績を入力する SAP ではない管理系システムを Amazon EC2 とAmazon RDS の 3 層レイヤーで構成しています。移行当初は従量課金のオンデマンドインスタンスを適用していましたが、2018 年末にはそれまでの運用実績から、一定期間分の料金を定額で支払うことで割引になり、途中でインスタンスタイプの変更が可能なコンパーチブルリザーブドインスタンスに切り替え、コストの低減を図りました。
「現時点ではまだ直接的な効果を測定するまでに至っていませんが、今後データが蓄積されていくことで、損益などもリアルタイムに見えるようになり、各種の分析によって意思決定の迅速化が実現することを期待しています。」(高橋氏)
各拠点に分散し、個別に運用されていたシステムが統合・一元化されたことで IT ガバナンスとグループの内部統制の強化が実現しました。同社の情報システム部門はこれまで、東京本社、関西、東海の 3 地域に部門を設けて IT 人材を配置し、それぞれでインフラ環境の構築や整備、アプリケーションの開発、改修を行ってきました。システムを統合したことで 2019 年 4 月から組織を「IT 開発部」「IT 管理部」「IT 推進部」と機能別に改組し、SAP S/4HANA の開発は IT 開発部、インフラの構築・運用は IT 管理部が一括して対応するようになりました。「システム統合と組織改組の結果、システム開発・運用の属人化が解消され、SAP S/4HANA の機能改善やバージョンアップもスムーズに対応ができるようになりました。」と高橋氏は語ります。
稼働後は、安定運用を続けています。さらに今回、新たに AWS のシンガポールリージョンに DR サイトも構築したことで、大規模障害や災害時にビジネスが停止するリスクも解消されました。ハードウェアを持たないクラウドにより、バックアップデータを確実に取得できるようになり、国内はもとより、中国、タイの拠点で障害が発生しても事業の継続が可能になっています。
今後は、国内システムの改善や SAP S/4HANA の最新リリースへのバージョンアップと並行しながら、他の海外関係会社への横展開に向けてシステム環境の調査を進めていく予定です。また、残っている物理サーバーは、更新を機に順次クラウド化していく考えです。
「すでにグループウェアなどが AWS に移行済みです。基幹系、情報系に関係なく、システムの特性を見ながら必要に応じて移行していきます。」(高橋氏)
さらに、SAP S/4HANA をベースにデジタルトランスフォーメーションを促進していくことが今後の課題です。高橋氏は「定期的に情報収集をしながら、興味がある AWS のサービスを検討してみたいと思います。引き続きの支援を期待しています。」と語ります。