横浜市提供
受付センターのオペレーターからも有人対応での品目の判断がしやすいという声が届いています。
全国 20 の政令指定都市で一番多くの人々が生活する横浜市。人口の多い都市ほど粗大ごみの量は多いため、市民からの問い合わせや収集依頼を受け付けるオペレーターの負担は大変大きくなっています。そこで横浜市資源循環局は、Amazon SageMaker を活用した粗大ごみ画像認識 AI とチャットボットを連動したシステムを導入。市民がスマートフォンで撮影して送った粗大ごみの写真から、ごみの種類と粗大ごみ処理手数料を自動応答するサービスを 2019 年 9 月に開始しました。これにより、オペレーターの対応負荷の軽減と、市民サービスの向上を実現しています。
人口約 375 万人と政令指定都市の中では最大規模を誇る横浜市。世界有数の国際都市として知られ、横浜中華街、横浜ランドマークタワー、横浜赤レンガ倉庫など数多くの人気観光スポットがあります。
人口の多い都市は、その分家庭から排出される粗大ごみの量も多いため、同市の粗大ごみの受付センターは、慢性的に混み合っています。市民はホームページなどで公開している手数料表を参考に粗大ごみ受付センターに電話やインターネット経由で申し込みますが、手数料がわからない場合は受付センターに電話をかけ、オペレーターに問い合わせてから申し込みます。
ところが、月曜日・火曜日や祝日の翌日など電話が混み合う曜日になると、オペレーターにつなぐまでにかなりの時間を要することが日常的でした。「電話での粗大ごみの申し込みや問い合わせの件数は月に 約 10 万件から 12 万件、インターネットでは月に約 4 万件から 5 万件あります。オペレーターがすぐに電話に出られないと、市民の方から“つながらない”とお叱りをいただくこともありました。」と語るのは、横浜市資源循環局 家庭系対策部 業務課長の立花千恵氏です。
こうした課題解決に向けて、同市は先駆的に AI を活用。2017 年にはごみ分別用のチャットボット『イーオのごみ分別案内』を導入。Web 版とアプリ版を用意して資源循環局のホームページ上で提供しています。そして、さらなるサービス向上のために、市民がスマートフォンやパソコンから粗大ごみの写真を送ると、画像認識 AI がごみの種類を自動判別して手数料を教えてくれるチャットボットの導入に向け、検討に着手しました。
「以前から粗大ごみの写真を受付センターにメールで送ってもらって答えることもありましたので、今回は現在受付センターの運営を委託している NTTネクシアから公募型プロポーザル入札時に、画像認識 AI を含めたトータルでの DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入に向けた提案を頂き画像を使ったチャットボットを導入しました。」(立花氏)
横浜市が採用したものが、Amazon SageMaker を活用した粗大ごみ画像認識 AI を API として組み込んだチャットシステムです。画像認識 AI 用の API は、情報流通支援サービスを手がける株式会社オークネットのグループ会社である株式会社オークネット・アイビーエスが開発した『SODAI Vision API』(以下、ソダイ)を採用しました。ソダイはオークネットの膨大な中古車データを活用した車両画像識別システムの技術を応用し、粗大ごみ用として開発したものです。ソダイに Amazon SageMaker を採用した理由について、オークネット・アイビーエス GM の黒柳為之氏は次のように語ります。
「従来は Amazon EC2 の GPU インスタンスを立てて TensorFlow を実行していました。その場合、API などのサービスに必要な機能は自前で用意する必要がありました。また、インスタンスの管理も自前で対応しなければならず、不要なインスタンスの削除や停止の手間もかかります。そこで、フルマネージドの Amazon SageMaker を採用し、管理負荷の軽減を図ることにしました。」
結果として画像認識 AI が API 経由で利用できるようになり、アプリケーション化が容易になりました。管理負荷を軽減したことで試行回数が増え、認識精度の向上につながったといいます。
横浜市のチャットシステムの開発は、2019 年 2 月から着手。市民の利用シーンを想定したうえで画像を保管するサーバーの運用ルールなどを決定し、さまざまな観点から認識精度を確認しました。そして 7 ヶ月後に画像認識 AI が本格稼働し、チャットボットと連動した 24 時間の自動応答を開始しています。
「教師用の粗大ごみの画像データは、オークネットの営業網を駆使して全国から 6,000 件近く集め、Amazon SageMaker で機械学習モデルを構築しました。多くの都市でもごみ問題が解決できるように、汎用的な粗大ごみ分類 DB の構築を心がけ、チャットボット側では横浜市に特化した手数料や品目を分割して案内するようにしています。」(黒柳氏)
粗大ごみ画像認識 AI の利用は簡単で、市民は横浜市の粗大ごみのホームページから『インターネット受付サイト』または『よくある質問(FAQ)サイト』に移動し、そこからチャットボットを立ち上げます。あとは、スマートフォンで撮影した写真またはパソコンやスマートフォンに保存してある写真を送信するだけです。10 秒程度で判別が終了し、チャットボットのキャラクター“ミーオ”が、「いすの手数用は 200 円だよ」などと回答し、「電話、インターネットまたはチャットで申し込んでね」と案内します。
画像認識 AI で認識できるごみの種類は、現在 297 品目。判別できなかった場合に備えて別途開発した有人チャットとも連携し、窓口対応時間内ならオペレーターに直接質問することもできます。
2019 年 12 月の時点では稼働してから間もないですが、利用した市民や受付センターのオペレーターからの反応は良好です。横浜市資源循環局 家庭系対策部 業務課担当係長の川﨑邦生氏は「市民からは、言葉で伝えても判別が難しかった粗大ごみが、写真を送ることですぐに解決ができた、といった声が聞こえています。」と語ります。受付センターの管理を担当する横浜市資源循環局 家庭系対策部 業務課運営係の村上花穂氏も「オペレーターが有人チャットで対応する際も、送られた写真を見ながら対応ができるので品目の判断がしやすい、という反響がありました。」と話します。
横浜市資源循環局では画像認識 AI、チャットボット、有人チャットを活用し、さらなる市民サービスの向上を図るため、検討を進めています。立花氏は「現時点ではチャットボットで手数料をお答えするだけですが、将来的にチャットボットと受付システムが連動し、チャットボットで問い合わせから受付まで完結することを考えています。そうすれば、オペレーターの負担軽減だけでなく、さらなる市民サービスの向上につながることから、受付センターの運営を委託しているパートナー会社とともに対応を進めていきます。」と語ります。
APN テクノロジーパートナー
株式会社オークネット・アイビーエス
オークネット・アイビーエスは画像認識 AI のプロフェッショナル集団です。SODAI Vision API は、オークネット・アイビーエスが提供するディープラーニングを利用した粗大ゴミの画像認識 AI 用 API です。粗大ゴミをスマホから写真を送るだけで、捨てられるごみなのか、手数料はいくらなのかを AI が回答します。全国自治体の粗大ごみ品目を分析、各地域固有の品目を追加学習可能です。
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