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【開催報告】ファッション・アパレル業界向け 第一回ナレッジ共有会 〜 SMART から始まる業界共通課題への挑戦と学びの場

2026 年 7 月 29 日、ファッション・アパレル業界のお客様が集まり、第一回ナレッジ共有会を開催しました。本会は、店舗業務支援 AI エージェント SMART(Store Manager Agent for Retail Tech)を起点に、各社が取り組んできた AI エージェント開発の実践ナレッジを、企業の垣根を越えて共有し合う場です。当日は 6 社 20 名のお客様にご参加いただき、各社から取り組みを発表いただきました。経営層・DX/IT 部門・現場出身のメンバーまで多様な参加者が一堂に会し、熱気にあふれる発表と質疑の時間となりました。本記事では、その模様をレポートします。

取り組みの背景 — SMART から広がる業界の共創

AWS はこれまでも、小売業界、ファッション・アパレル業界のお客様に向けて、業界ユースケースにフォーカスした合同生成 AI ワークショップや、店舗業務にフォーカスした小売業界向け AI エージェント活用ワークショップなど、業界の共通課題に向き合う場を継続的に提供してきました。こうした場では、「自社に役立つものを内製でも作ってみたい」という意見もあれば、「アイデアやものづくりに終わらせないための工夫が知りたい」「近しい業界での他社の実践的な取り組みからぜひ学びたい」という声も多くいただいていました。本ナレッジ共有会は、そうしたお客様の声に応える場として企画したものであり、受け身の勉強会イベントではなく、業界共通課題をテーマに各社がそれぞれ挑戦し、そしてそこで得た知見を共有し合う、業界共創の歩みの中間地点にあたります。

きっかけは、AWS Prototyping Program を通じて誕生した、店舗業務支援 AI エージェント SMART です。SMART は、店舗スタッフの日常の言語化・データ化を支援しフィードバックする AI エージェントのサンプルアセットで、2026 年 4 月に GitHub(aws-samples)で公開しました。6 月に開催した AWS Summit Japan での事例紹介では、ファッション・アパレル以外の店舗事業者様からも多くの関心の声をいただきました。

私たちは、SMART のアセット公開とともに、4 月には SMART の合同ブートキャンプを開催しました。ここでは、AI コーディングエージェント Kiro も活用しながら、SMART のデプロイとカスタマイズを体験いただき、そこから参加企業各社の取り組みが始まりました。SMART をベースに自社利用のために拡張開発を決めたお客様、店舗以外の業務領域での新規 AI エージェントの開発に挑戦を決めたお客様など、各社がそれぞれの現場課題に向き合い、業界としての取り組みへと広がっています。そして 7 月、本記事で紹介する第一回ナレッジ共有会として、各社の実践ナレッジを持ち寄る場が実現しました。4 月のブートキャンプに参加し、そこから活動を開始した 3 社が、どんな課題に直面しどう乗り越えたか、作って終わりにならないための、その実践的な取り組みと学びについてご紹介します。

各社発表

サザビーリーグ IRIS 様:SMART を発展開発 — 麺屋 猪一 の日報改善から全店舗利用へ

株式会社サザビーリーグ IRIS 様からは、グループの飲食ブランドであり、ミシュランガイド ビブグルマンに 9 年連続選出されたラーメン店 麺屋 猪一 を対象に、SMART をベースとして現場に必要な機能をカスタマイズ・発展開発した事例を発表いただきました。

株式会社サザビーリーグ IRIS 管理システムグループ 吉川 真由 氏、大谷 美月 氏のご登壇の様子

猪一における、これまでの店舗の売上日報はチャットツールで本部スタッフにテキストで送る運用でした。そこから IT 主導で要件定義を行い、売上入力の画面や店舗間の状況を可視化するダッシュボード機能などの開発を進められていました。その後、店舗運営マネージャーにデモを通じてヒアリングを重ねて、日報そのものより週報・月報の作成負担が大きいという真の課題を発見し、週報・月報を自動生成する機能を Amazon BedrockAmazon EventBridgeAWS LambdaAmazon S3 TablesAmazon AthenaAmazon SNS などを組み合わせて約 1 ヶ月半で開発されました。

店舗 PoC の結果、約 15 分かかっていた週報の作成時間は 0 分に短縮。「言語化が苦手でも AI が言葉にしてくれる」という現場の声も紹介されました。開発では、Kiro と向き合いながらも、実際に使う事業部門や店舗スタッフとのコミュニケーションを繰り返したことで、真に求められるもの、課題解決につながるものへと進化を遂げた過程が印象的な発表でした。そして 7 月の PoC を経て、現在は 8 月にオープンした新店舗を含む全 4 店舗での利用が始まっています。

サザビーリーグ様のアーキテクチャ図。Amazon EventBridge による週報・月報の自動生成と Amazon Bedrock AgentCore を組み合わせた構成 サザビーリーグ様のまとめスライド。現場の声をもとに AI エージェントを使用し、業務改善につながるシステムを 1 ヶ月半で開発
週報・月報の自動生成を実現したアーキテクチャ 取り組みと成果のまとめ

ジンズ様:店舗のリアルを、生成 AI で本部へ繋ぐ — IT 未経験・店舗出身者が Kiro と 2 週間で挑んだ Web アプリ開発

株式会社ジンズ様からは、店舗スタッフ出身で IT 組織への異動後まもないメンバーが、わずか 2 週間で店舗フィードバック収集 Web アプリを開発した事例を発表いただきました。

株式会社ジンズ IT デジタル部 陳 蘇 氏のご登壇の様子

役員から「音声で店舗のフィードバックを収集したい」というミッションを受けて、Amazon Transcribe による音声テキスト化、Amazon Bedrock による感情分析・ペイン分類、改善案の自動生成と Excel 出力までを、Amazon API Gateway、AWS Lambda、Amazon DynamoDB などで構成されたサーバーレスアーキテクチャとして実装されました。多言語表示・多言語音声入力への対応やいいね機能など、店舗経験者ならではの現場目線の工夫も凝らされています。

AWS の知識ゼロの状態からのスタートでしたが、AWS と一緒に要件整理と想定アーキテクチャをホワイトボーディングするところから始め、議論した内容を Kiro に繰り返しインプットして設計を進めていきました。わずか 2 週間という短期間の中、ただサーバーレス構成で作るだけでなく、多言語対応や非同期処理に作りかえる工夫も行い、ユーザー体験を第一にこだわって作られているのがとても印象的でした。「技術のために現場があるのではなく、現場を助けるために技術がある」という力強いメッセージと、活動を通じて IT 用語の壁を検索や同僚への相談で乗り越えたエピソードは、参加者アンケートでも最も多く言及された発表のひとつとなりました。

ジンズ様のアーキテクチャ構成図。Transcribe・Bedrock・Lambda・DynamoDB などによるサーバーレス構成 ジンズ様の店舗フィードバック収集アプリ コエポスト の操作画面。ログイン、音声入力、店舗の声一覧
音声テキスト化から感情分析・Excel 出力までを担うサーバーレスアーキテクチャ 店舗の声を集めるアプリ コエポスト の画面

アンドエスティ HD 様:Kiro と 2.5 ヶ月で挑む在庫消化 Agent

株式会社アンドエスティ HD 様からは、SMART とは異なる業務領域への挑戦として、商品の売価変更や店舗間移動といった、在庫消化業務を支援する AI エージェントの開発事例を発表いただきました。

株式会社アンドエスティ HD DX本部 鈴木 向陽 氏のご登壇の様子

在庫消化は利益を左右する重要業務でありながら、その判断がベテラン社員の経験に依存しているという課題を感じておられました。そこで、今のやり方をそのまま自動化しても解けないと判断し、担当の業務部門と AI とともに業務そのものを構造化するところから着手されました。判断観点をスコア化して共通の物差しを作り、「AI は判断しない。作戦を複数提示し、人が決める」という設計思想を事業部門と合意した上で、Amazon Bedrock AgentCore を活用した開発を進めています。

鈴木様は、AWS での開発経験がほぼゼロの状態から、 AWS のサポートも得ながら、Kiro を駆使し、事業部門と何度もプロトタイプをもって壁打ちし、2.5 ヶ月開発を進める中での壁と学びも率直に語られました。発表時点では、AI が売価変更・店舗間移動の候補として挙げるアイテムがベテラン実務者の判断と概ね重なる精度まで到達しており、本番導入を見据えて開発が続いています。「AI エージェントを作る過程で、形のなかった業務フローが構造として見えるようになってきた」という気づきのお話も印象的でした。

アンドエスティ HD 様の設計思想スライド。「AI は判断しない。作戦を複数提示し、人が決める」 アンドエスティ HD 様の在庫消化 Agent のダッシュボード画面。対象アイテム数やアクション候補を俯瞰できる
形のない業務を業務側 & AI と一緒に構造化する設計思想 俯瞰・検証・深掘りを支えるダッシュボード画面

参加者の声

会の最後に実施したアンケートでは、CSAT 4.65 / 5(回答 20 名)と高い評価をいただきました。第二回への参加意向として 7 割が「ぜひ参加したい」と回答し、参加を希望しないという回答はゼロでした。いただいたコメントの一部をご紹介します。

IT 未経験の店舗出身メンバーが Kiro を使いこなしているのはまさにイノベーティブな取り組みだと思い、とても刺激的でした

AWS サービスの初心者、開発の初心者でも短期間で現場が必要な機能・システム(日報、在庫、ご意見箱など)を開発できるのがすごいと思いました

経験がないメンバーが開発できることで事業スピードだけでなく、事業会社でも IT を経験して IT のキャリアアップできる可能性が大きく広げられると感じました

業界近しい他社事例を伺うことで、新たな気づきや取り入れたいアイデアを得ることができ、大変有意義な時間となりました。早速明日から自社の取り組みに組み込めるか検討します

継続的な取り組みを行うことが業界全体の活性化に繋がると思います

次回に向けて — 第二回ナレッジ共有会へ

クロージングでは、次のチャレンジの方向性として 3 つの選択肢を示しました。

  1. SMART をさらに発展:機能拡張・本稼働からのフィードバックループで価値を深める
  2. 店舗業務の別領域へ:店舗に関わる別業務のエージェントを追加開発
  3. AI エージェントを他業務へ:店舗以外の業務領域への適用

11 月に予定している第二回ナレッジ共有会での成果共有に向けて、各社の挑戦と業界の活動をさらに飛躍させていきます。

おわりに

今回共有されたナレッジは、各社が業界の課題に向き合い、目標を定めて実際に手を動かし、そして現場とのコミュニケーションを繰り返したからこそ生まれたものです。AWS Prototyping Program から生まれた SMART が、オープンソース化とブートキャンプを経て、業界全体の取り組みへと広がりつつあります。各社で共通していたことは、IT に閉じた活動ではないことです。AI とだけ会話を継続するのではなく、素早く構築したプロトタイプをもとに事業部門、ユーザー部門と何度もやり取りをしながら、さらなる開発と検証を進められたことが最も大きな成功要因であったと考えております。そして今回、多くの CIO や IT,DX 本部長の方々にも参加いただきましたが、そういった方々のスポンサーシップが、本活動を大きく前進させる力になったと感じております。

AWS は今後もブートキャンプ、そして本ナレッジ共有会のような場を通じて、ファッション・アパレル業界のお客様の AI エージェント活用や内製化の挑戦を支援してまいります。お客様の声に耳を傾けて、今後も期待に応える企画を考えてご提供していきます。本取り組みにご興味をお持ちの方は、ぜひ担当営業・ソリューションアーキテクトまでお声がけください。

著者について

濱上 和也(Kazuya Hamagami)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ソリューションアーキテクト
流通・小売業のお客様の技術支援を行っています。SMART の開発にも関わっています。好きな AWS サービスは Amazon Connect Customer で、業界問わずコンタクトセンター関連の技術支援も行っています。