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クラウドが公共交通をレジリエントにする: 逆境に強いシステムの構築

今回のブログでは、 AWSジャパン・パブリックセクターより、「次世代の公共交通/モビリティ/MaaS/移動体験のあり方を、クラウドを用いて変革する」取り組みを紹介します。AWSでは、類似の取り組みを日本でも推進していくべく、各関係機関との対話を歓迎します。ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。(以下、米国現地のAWS Public Sector Blog Teamが執筆したブログの翻訳となります。)

”逆境”で試される
公共交通のレジリエンシー

カーネギー メロン・ソフトウェア工学研究所の Donald Firesmith 氏によると、「逆境に直面しながらも、ミッションの遂行を継続できる場合に (つまり、混乱をもたらす過度のストレスにもかかわらず、必要とされる能力を提供できる場合)、そのシステムはレジリエントである(回復力がある)と言えます。どんなに優れた設計のシステムでも、いずれかのタイミングではシステムの混乱が現実には発生してしまうため、そこからの回復を行えること、つまりレジリエントであることは重要なのです」。 交通セクターは、様々な事象の影響を、ダイレクトに被る傾向があります。停電、悪天候、交通事故、サイバー攻撃──これらの事象はすべて、交通の流れの中断、公共交通機関および空港運用の可用性、あるいは、より必要な交通パイプラインに影響を及ぼす可能性がある災害の例です。各交通機関において、破壊的な出来事が発生した場合でも業務を継続できるビジネス・レジリエンシー戦略を立案することが不可欠です。
 地域住民は、生活のあらゆる部分でレジリエントな交通ネットワークを構築するために、 州および地方自治体のリーダーを頼りにしています。つまりは、通学や通勤、予約時間どおりの病院への訪問、旅行やレジャー、最善の救急サービスの継続的な提供──などが実現することを、信じています。交通システムのレジリエンスを実現するには、いつ起こってもおかしくない災害に直面した場合にも回復力があるデジタル・テクノロジー・インフラストラクチャが必要です。これが、州政府や地方自治体がクラウドに目を向けている理由です。
 クラウドが、テクノロジーのインフラストラクチャと管理を効率化し、手作業によるアクティビティを自動化してリソースを解放できる回復力のある基盤をリーダーに提供することによって、スタッフはより大きなインパクトをもたらす課題へと集中し、イノベーションにより多くの労力を注ぎ、有害事象や緊急事態の発生時に公共のニーズに合わせて自らの対応能力をスケールさせることができます。州政府および地方公共団体がクラウドを使用して、オペレーションに際してレジリエンスを構築している例を以下に示します:

マイアミデイド郡 公共交通事業部 (フロリダ州)

マイアミデイド郡交通公共事業部 (DTPW) はモビリティ管理機関であり、交通制御、信号および標識、交通工学、自転車と歩行者、トランジット計画、トランジット運営、さらには 34 の自治体とその地域に住む 280 万人全体に対する商用車両の規制を、全面的に所管しています。

マイアミデイド郡交通公共事業部は、クラウドを使用して、小規模な事業者を含めたマイアミ地域のすべての交通機関を支援し、単一のインターフェイスで複数のチャネル (モバイルアプリ、SMS、ソーシャルメディアなど))でリアルタイムの交通データを生成し、ドライバー達と共有しています。マイアミデイド郡交通公共事業部 は、アナリティクスを使用してサービスとスケジュールの変更による潜在的な影響を予測し、リアルタイムデータを使用して正確な到着時間 (ETA) 情報を提供しています。移動中の人々には、ソーシャルメディア上のテキストやメッセージを介してリアルタイムの変化が通知されます。異なる組織の垣根を超え、異なるシステムやプロセスを使用している場合でも、郡の各事業者間でシームレスな運転体験[=rider experience]を直接提供します。

マイアミデイド郡交通公共事業部 はまた、クラウドを使用することで、絶えず新しい戦略へと革新を続け、同郡の交通サービスが地区住民に最適なサービスを提供できるようにしています。同事業部 はAWSクラウドを使用して、AWS パートナーである Swiftly および Remix の2社と協力し、A Better Bus プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは、正確なスケジュールを作成するために、過去の走行・速度データを使用してルートを再評価し、ビッグデータを活用し移動パターンに基づきスケジュールを再評価します。Swiftly と Remix の両社は、Amazon Relational Database Service (Amazon RDS)Amazon AuroraAmazon CloudWatchAmazon Elastic Block Store (Amazon EBS)Amazon ElastiCacheAmazon Elastic Container Service (Amazon ECS) などのさまざまな AWS クラウドサービスを使用することで、プロダクトを開発および管理しています。こうしたサービスは、同事業部 が収集するギガバイト、あるいはテラバイト級に及ぶトランジット・データをコスト効率よく安全に保存し、コンピューティング・リソースを柔軟にスケールできます。A Better Bus プロジェクトが、従来のサイロ化されたデータセットを実用的なインサイトに変えることで、マイアミデイド郡交通公共事業部は部門間で社内コンセンサスや意思決定を推進し、通勤者とその移動パターンの最適化にメリットをもたらします。

ロングアイランド鉄道、ニューヨーク市と市交通局

ニューヨーク市都市交通局 (NYC MTA) の一部門であるロングアイランド鉄道 (LIRR) は、ロングアイランドとニューヨーク市間の通勤者を毎日 30 万人以上運んでいる、全米最大の通勤鉄道です。新型コロナウィルス感染症 (COVID-19) のパンデミックに対応して、ロングアイランド鉄道はクラウドを活用し、通勤者の信頼と安全を維持するためのレジリエントな戦略を立案しました。ロングアイランド鉄道 のイノベーション責任者主任である Will Fisher 氏によると、ロングアイランド鉄道は「未知の要素を取り除く」ことでレジリエンスを実現し、乗客の経験を改善しています。 2020 年に ロングアイランド鉄道は 「列車の混雑 度合可視化 イニシアチブ」を開始しました。このイニシアチブは、ロングアイランド鉄道 の TrainTime アプリ に新しい機能を追加して、利用者に各列車の座席の空き状況についてリアルタイムのデータ・インサイトを提供するものです。アプリでこの空き状況トラッカー機能を使用している利用者には、到着する列車と各車の利用可能な座席状況の図が表示されます。これにより、混雑が最小限に抑えられ、ソーシャルディスタンスと快適性が最大化されます。 新しい機能を構築するために、ロングアイランド鉄道 は AWS クラウドのAWS Elastic Beanstalk、Amazon RDS、Amazon RekognitionAmazon MQAWS CodeBuild、Amazon CloudWatch、AWS Systems Manager を使用しました。これらソリューションにより、利用者は通勤経路について確かな情報に基づいた意思決定を行い、移動体験をコントロールできる──と感じることができます。 ロングアイランド鉄道は、最新情報を活用することで、鉄道旅行を遠隔地域間の旅行の好ましい代替手段にしたいと考えています。高度な分析と 機械学習 (ML) を備えたロングアイランド鉄道 の TrainTime アプリは、「明日の旅行時に電車はどれくらい混みますか?」あるいは、 「今、駅の駐車場に空きはありますか?」などの行く前に知っておくべき質問にも回答します。ロングアイランド鉄道のレジリエンスを高めるためのイニシアチブは、124 駅の状態と到着時の案内方法についても、乗客からのフィードバックを得ています。例えば、エレベーターやエスカレーターが稼働している場合、TrainTime アプリケーションはこれを利用者と共有します。アプリから収集した乗客からのフィードバックは、定性的および定量的なデータを提供し、「どうすればいいか?」の質問にほぼリアルタイムで回答することができます。列車のホームでは、ロングアイランド鉄道は到着する列車の「どの車両」が満席かを図で表示するために色分けされた赤色の LED ストライプを配備し、空席のある車両には緑色のストライプを表示する計画です。AWS クラウドは、ロングアイランド鉄道の小規模な内部デベロッパーチームに 柔軟性、リソースへの即時アクセス、サービスのデプロイのための自律性と所有の向上、より長いアップタイム [=最後にシステムが起動してからの経過時間。連続稼働時間]を提供しています。これにより、同社はよりタイムリーな情報で運用を改善できます。 

カントン市 、オハイオ州

オハイオ州カントン市は、Amazon パートナーネットワーク (APN) パートナーである RoadBotics社に着目し、現在の資産管理とマッピング機能の欠陥を修正しました。カントン市の市/交通アシスタントエンジニアである Nick Loukas 氏によると、これにより同機関は交通ネットワークにおいて高いレジリエンスを実現しました。カントン市は、AWS 上のビジュアルマッピングアプリケーションである Roadbotics 社の AgileMapper を使用して、フィールドアセットのインベントリ把握と追跡を行い、それらのアセットが管理され運用可能であることを常に確認しています。

AgileMapper は、AWS LambdaAmazon RDSAmazon DynamoDBAWS GlueAmazon CloudWatchAmazon Elastic Container Registry (Amazon ECR)Amazon Secrets ManagerAmazon Athena などの AWS のサービス上に構築されています。同市は、設置環境を反映したデジタルツインを構築し、アセットのアップタイムを増やし、カントン州の住民や通勤者にとってより快適で、安全な移動体験を創出する予測分析を可能にしています。

カリフォルニア州車両管理局

カリフォルニア州車両管理局 (CA DMV) は、米国最大の自動車登録および許可機関です。同局は、 Amazon Connect Amazon AppStream Amazon WorkSpaces、その他のセルフサービス機能をデプロイして、カリフォルニア州住民が移動を継続するための鍵となる「ライセンスと許可プロセス」を効率化しています。

カリフォルニア州車両管理局は、2019 年にいくつかのプロジェクトを開始しました。これには、REAL ID 要件の増加した需要を処理しながら、45 分以上もかかっていた待機時間を短縮する方法が含まれます。これを実施するため、カリフォルニア州車両管理局は、お客様がエージェントを介在させずにカリフォルニア州車両管理局とビジネスを迅速に処理できるよう、効果的なセルフサービスツールの探索と開発を開始しました。これにより、同局の 300 人のコールセンターエージェントが通常行っている年間 1,500 万件のコールの総量を削減し、職員はこれまでよりも複雑な支援ニーズに集中できるようになりました。

新型コロナウィルス感染症 (COVID-19) のパンデミックによって対面でのオフィスワークが制限され、カリフォルニア州車両管理局は、同局の従業員が Amazon AppStream と Amazon WorkSpaces を使用してリモートで作業できるようにすることで、業務を維持しました。同局のエグゼクティブディレクターである Steve Gordon 氏は、「AWS ソリューションにより、ユーザーがブラウザを使用してインターネット経由で自宅で作業できる環境にアプリケーションを非常に迅速にデプロイすることができるようになりました」と述べています。カリフォルニア州車両管理局は現在、コールセンターに Amazon Connect をデプロイしています。

カリフォルニア州車両管理局は、複数の AWS マネージドサービスを活用して、エージェントとの直接または対話型チャットボットによるオムニチャネルのやりとりを促進するセルフサービスと自動化ツールを提供しています。同局は、AWS上で (以前のシステムでは数週間や数か月かかっていたのに比し) 数時間から数日での迅速なイノベーションを実現しました。近い将来、同局は、お客様が通話している理由を把握するためのリアルタイム・アクセスを可能にし、通話量を減らして発信者エクスペリエンスを向上させる最新のセルフサービスツールを提供する予定です。

州機関交通機関空港交通計画組織などが AWS を使用して、より優れた住民エクスペリエンスを創出し、最新のクラウドベースのテクノロジーをデプロイすることで高度なレジリエンスを実現しています。

クラウドが交通部門で近代化(modernization)を実現する方法については、ぜひAWS Public Sectorブログをお読みください。交通部門の現場での回復力がどのようなものかは、AWS のホームページをご覧いただくか、担当チームにお問い合わせください。

日本の公共部門の皆様へのご案内

AWSでは、政府・公共部門、パブリックセクターの皆さまの各組織におけるミッション達成が早期に実現するよう、継続して支援して参ります。

今後ともAWS 公共部門ブログで AWS の最新ニュース・公共事例をフォローいただき、併せまして、「AWS公共部門サミット 2021の速報」など国内外の公共部門の皆さまとの取り組みを多数紹介した過去のブログ投稿に関しても、ぜひご覧いただければ幸いです。「クラウド×公共調達」の各フェーズでお悩みの際には、お客様・パートナー各社様向けの相談の時間帯を随時設けておりますので、ぜひAWSまでご相談くださいContact Us)。

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このブログは英文での原文ブログを参照し、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が翻訳・執筆しました。

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小木 郁夫
AWSジャパン パブリックセクター
統括本部長 補佐(公共調達渉外)
BD Capture Manager
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#AWSCultureChamp (2021年7月~)