AWS DevDay 登壇者が語る、コミュニティ活動を成長の糧とする方法

2021-02-23
インタビュー

佐々木 了 氏 (MARUSA TECH)

AWS が主催する、開発エンジニアのための日本最大級のファレンス AWS DevDay 。2020 年は AWS DevDay Online Japan と題し、10 月 20 日から 22 日にかけてオンライン開催されました。今回ご紹介するのは、この AWS DevDay の Call for Papers  (セッション公募) 部門に選ばれ、 Amazon DynamoDB の活用をテーマにした講演で多くの参加者から高い評価を集めた、フリーランス・インフラエンジニアの佐々木了氏です。佐々木氏に登壇の経緯からこれまでのキャリア、開発者コミュティに関わる醍醐味まで、縦横無尽に語っていただきました。


Amazon DynamoDB の活用ノウハウを公開。好評を博す

—AWS DevDay Online Japan の Call for Papers 部門に応募され、サーバーレスな環境下で AWS の NoSQL データベースサービス「Amazon DynamoDB」を活用するためのノウハウを発表されました。このテーマで応募しようと思われた理由を聞かせてください。

佐々木 氏
私が DynamoDB に初めて触れた 2018 年頃は、まだフルサーバーレスな環境下で DynamoDB を活用するにあたって、参考になるような詳しい事例紹介を目にする機会がほとんどありませんでした。このテーマで応募しようと思ったのは、私と同じように苦労している開発者の助けになればと思ったからです。

—2020 年の AWS DevDay はオンライン開催でした。直接、参加者からの感想を受け取る機会は限られていたと思います。登壇の手応えはいかがでしたか ?

佐々木氏
登壇後、自分で Twitter を検索したり、主催者からいただいたアンケートを見せていただいたりしたところ、「知りたかったことがよくわかった」「曖昧だった部分がハッキリと理解できた」という前向きな評価が多く、当初の狙い通り私の知見を必要としている方に届いていたことがわかりました。とてもうれしかったですね。

<佐々木氏のAWS DevDay Online Japanでの講演内容>

タイトル◆「DynamoDB の初心者に伝えたい初めて触るときの勘所」

新サービスを立ち上げるにあたってフルサーバーレスアーキテクチャを採用。その際、全く何も知らない状態から Amazon DynamoDB を学び開発、リリース、運用した 1  年を振り返り、使って良かった点、反省点、気をつけるべきポイント、役立つ Tips を初心者視点で紹介する (セッション公募内容紹介ページより抜粋・編集)

—今回の講演テーマのもとになったという、 AWS ネイティブなフルサーバーレス構成による「建築業界向け施工写真管理アプリ」について解説していただけますか ? どのような経緯でこのサービスを立ち上げられたのでしょう ?

佐々木氏
このサービスは、前職時代にお世話になった施工管理者の先輩が、建築現場で撮影した膨大な写真の整理に困っているのを知り、開発した Android アプリを母体としたサービスです。2014 年に、その iOS アプリをマルチデバイス環境で使えるようウェブアプリ化し、2018 年にサービス運用の手間を減らしたくて、AWS ネイティブなフルサーバーレス環境に移行しました。昨年の講演はそのときの経験をまとめたものです。

—どのような機能があるのですか ?

佐々木氏
一般的に建築現場では、工事が適切に行われた証拠として、工事箇所ごとに、施工前と後で写真を撮り管理しています。問題は現場あたりの撮影枚数が数千点から、ときには数万点におよぶこと。多くの場合、施工管理者がその日に撮影した写真を整理するのですが、どうしても現場を終えた後、会社に戻ってからの作業になるため、何日分も溜め込んでしまい、後になって撮り忘れに気付くことや、ブレたりボケたりして使いものにならない写真を見つけて後の祭りということも少なくありません。こうした問題を解決するために、撮影した現場写真だけでなく、撮影日時などの撮影情報をクラウドに自動保存し、報告書作成に適した形で出力したり、別の場所にいる上長が撮影された写真をリアルタイムに確認しながら、現場に指示を出したりできる機能を実装しました。

—実際に DynamoDB を使ってみていかがでしたか ? 率直な感想を聞かせてください。

佐々木氏
以前、 DynamoDB と同じ NoSQL の MongoDB を使ったことがあったので、さして変わりはないだろうと思っていたのですが、使い勝手はかなり違っていて、初めて使う際には試行錯誤もありました。ただ、いま振り返ると DynamoDB を選んでよかったと思いますし、試行錯誤することで得た知見がこういう形で生かせたので、個人的にはとても満足しています。


祖父の影響でモノ作りの世界へ

—そもそもいつごろから、IT やソフトウェア開発に関心を持たれるようになったのでしょう?

佐々木氏
直接のきっかけは中学生時代にオンラインゲームに興味を持ったことでした。インターネットでゲームに関する情報集めをするうち、徐々にプログラミングに興味を持つようになったのがソフトウェア開発との出会いです。高校時代になると、ロボット操作を行うWindowsアプリの開発をするようになり、その流れで大学は情報工学系の学部に進学し、自作のロボットをスマホで制御するコードを書くようになりました。卒業後は、大学在学中に学んだネットワーク技術やサーバー技術を多くの人のために生かそうと思い、SIer でインフラエンジニアになりました。

—お子さんのころからテクノロジーに関心があったのですね。

佐々木氏
はい。IT やソフトウェアとの出会いは中学時代でしたが、エンジニアになった原点を辿ると、大工だった祖父の存在にあたります。祖父はよく幼い私を仕事場である建築現場に連れていってくれました。更地に土台を築き、木を組み上げ家が建つのを見せてもらって、本当にスゴい仕事だなと。ゼロから大きなモノを作り上げることへの憧れから、自然と自分も作り手に回りたいと願うようになりました。大人になって選んだ道はインフラエンジニアでしたが、私の原点が手仕事にあるからなんでしょう。実はいまも趣味で家具作りや大工仕事に親しんでいます。

—インフラエンジニアでありながら、ソフトウェアエンジニアとしてサービス開発に携わっていらっしゃるのも、モノ作りの醍醐味に触れた原風景と関係がありそうですね。

佐々木氏
ソフトやハード、デジタルやリアルを問わず、モノ作り全般が好きなのはきっとそのせいでしょうね。私は普段インフラエンジニアを名乗っているのですが、極力インフラ構築や運用に手間を掛けたくありません。フルマネージドなサーバーレス環境に興味を持つようになったのも、時間的な制約から逃れていろいろなことにチャレンジしたいからです。作らなくて良いものは、作らないに越したことはないと考えるインフラエンジニアだからこそ、こうした発表ができたんだと思います。

— SIer を辞めてフリーランスになられたのも、領域を限定しないためでもあるのですか ?

佐々木氏
そうですね。実際、フリーランスになってからは、建築系システムや金融系システムのインフラ構築に取り組む傍ら、スタートアップのサービス立ち上げに関わったり、ウェラブルデバイスのプロトタイプ開発などに携わったりしてきました。私はひとつのテーマを深掘りするより、好奇心の赴くまま知識の幅を広げることに喜びを見出すタイプなので、サラリーマンよりも選択肢が多く、やりたいことを自分で決められるフリーランス向きなんだと思います。


発表するに値しない知見なんてない

—佐々木さんはご自身の経験を、エンジニアコミュニティに公開することに対して、どのような意義を見出していらっしゃいますか? モチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか ?

佐々木氏
これまで、自分ではどうすることもできなかった課題を、オープンソース活動やコミュニティ活動で出会った方々に助けていただき、解決できたことが何度もありました。コミュニティから受けた恩をコミュニティにお返しするのは筋ですし、そもそも新しいことを学ぶのが好きなので、蓄えた知見をアウトプットし、空いたスペースに新しい知識を入れるようなイメージで取り組んでいます。

—普段はどのようなコミュニティ活動をされているのですか ?

佐々木氏
ここ数年は、家族との時間を作りたくて勉強会に出たり登壇したりする回数はずいぶん減ってしまいました。それを補う意味もあって、エンジニアが利用する技術共有サイトに自分の経験を記事化して投稿する機会を増やしています。自分が書き込んだ記事に対するリアクションがあればうれしいですし、読んでくださった方からのコメントから知らない情報に触れることもできます。私にとってとても有益な学びの場です。

—コミュ二ティ活動に興味はあっても、なかなか最初の一歩を踏み出せないエンジニアは少なくありません。どうしたら積極的に取り組めるようになりますか ?

佐々木氏
私もどちらかというと人見知りですし、ひとつのコミュニティに腰を落ち着けるタイプではないので、その気持ちはよくわかります。でも自分とは専門分野が異なるエンジニアからのアドバイスはとても参考になりますし、自分の考えや経験を求めている人に届いて感謝されれば、もっと役に立てるよう技術を磨きたいという気持ちも高まります。外の世界に触れて刺激を受けることは、エンジニアの成長にとって、なくてはならないものなので、ぜひ機会を見つけてトライしてほしいですね。

—具体的には何から始めれば良いでしょうか ? アドバイスをお願いします。

佐々木氏
いきなり大規模なイベントで登壇するのは難しいかも知れませんが、仕事仲間や友だちと小さな勉強会を開いたり、技術共有サイトに投稿したりすることから始めてみるのをお勧めします。大事なのは「自分が持っている知見なんて取るに足らないもの」などと思わないこと。まずは小さな活動から始めていき、徐々にその範囲を広げていけば良いと思います。

—自分の経験を人に伝えることによって、何か得られることはありますか ?

佐々木氏
人に説明しようと思ったら自分が持っている知見が古くなったり、間違ったりしていないか精査しなければなりませんし、どんな順番でどう伝えたら理解してもらえるか体系立てて整理する必要も出てきます。その過程で学びを得ることができるのは確かでしょうね。いつの時代にも、技術を学び出したばかりの人はいるのですから、自分が当たり前だと思っている情報を求めている人は常に存在していると思って間違いありません。そうした人たちの期待に応えることは、巡り巡って自分自身の成長にもつながるわけです。やらない理由はないと思います。

—いま注目している技術、今後、挑戦してみたい技術があったら教えてください。

佐々木氏
いま注目しているのは WebAssembly ですね。ここ数年、ブラウザ上でリッチなコンテンツやサービスが動くようになりましたが、JavaScript に依存している限り動作速度には限界があります。WebAssembly がさらに進化し普及が進めば、いまより軽量かつ高性能なサービスを開発できるようになると感じています。発展途上の技術ですから過信は禁物ですが、これによってソフトウェアエンジニアがビジネスロジックやコードに専念できるようになればそれはそれで素晴らしいこと。年内には挑戦してみるつもりです。

—次の登壇テーマにいかがですか ?

佐々木氏
それは面白いかも知れませんね。難しい分野なのでやりがいがありそうですが、いずれ自分の経験をまとめて公表する機会を作れたらと思います。

—これからも技術領域にとらわれない縦横無尽な活躍に期待しています。本日はありがとうございました。

佐々木氏
こちらこそありがとうございました。今後もエンジニアコミュニティに貢献しながら、多くの方に喜んでもらえるシステムやサービス作りに携わっていければと思います。新しい働き方が叫ばれている昨今ですが、オンライン環境でできることは少なくありません。外の世界の人たちと触れ合おうというソフトウェアエンジニアが、ひとりでも増えてくれたらうれしく思います。


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プロフィール

佐々木 了 氏 (MARUSA TECH)
1990 年生まれ。大学で情報工学を学び、建築会社を母体とする SIer に入社。エンジニアとして、各種システムのインフラ構築に従事する傍ら、個人プロジェクトとして施工管理者向けの写真管理サービスを立ち上げるなど、スマホアプリやウェブアプリ開発にも注力。2017 年、フリーランスのインフラエンジニアとなり、現在はクラウドを活用したインフラ構築からアプリ開発、ハードウェア開発まで幅広く手掛ける。

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