AWS CLI の普及活動の継続とカイゼンがもたらすもの

~JAWS-UG CLI 専門支部 波田野氏インタビュー

2021-10-05
インタビュー

波田野 裕一氏 (JAWS-UG CLI 専門支部・運営管理者)

現在、AWS のユーザーコミュニティである JAWS-UG には、44 のエリア別支部と 17 の目的別支部が存在しています (2021 年 8 月現在)。なかでも、JAWS-UG 史上初となる専門支部として 2014 年に誕生した CLI (Command Line Interface) 専門支部は、新型コロナ感染防止対策のためオンライン主体となった現在、さらに参加者を増やしています。CLI 専門支部の創始者であり、現在も運営責任者を務める波田野裕一氏に、これまでのコミュニティ遍歴や CLI 専門支部設立までの経緯、コミュニティ運営に賭ける情熱についてお話をうかがいました。


出会い頭の「アクシデント」のような体験からコミュニティの世界に

— 波田野さんは、2014 年に JAWS-UG 初の専門支部「CLI 専門コミュニティ」を立ち上げ、現在も運営を続けているほか、アーキテクチャ専門支部、JAWS-UG 朝会 、X-Tech JAWS にも携わっていらっしゃいます。まずは旺盛な活動の原点について聞かせてください。いつ頃からコミュニティ活動にかかわっているのですか ?

波田野氏
「最初のコミュニティ体験は 2001 年のことでした。ある日、当時の同僚から『新しいコミュニティを立ち上げたから参加しない ?』と言われ参加した『BUG』という BSD 系 PC-UNIX の技術コミュニティが最初です。実は初参加となったイベントの当日、旗振り役の同僚が来ないというアクシデントがありまして、いつまで経っても来ないものですから、痺れを切らした関係者から『同僚ならなんとかして』と促され、仕方なく司会進行を引き受けたんです。心の準備も何も無いまま迎えた本番ですから、自分に仕切れるかどうかなんてわかりません。でも、結果的に多くの方が私の無茶振りに応えてくださって、なんとかその場を収めることが出来ました。不幸中の幸いと言いますか、私自身は、出会い頭のアクシデントにでも遭ったような気分でしたけれど、不思議と嫌な気持ちにはなりませんでした。」

— コミュニティ初参加にしてぶっつけ本番で初運営とは、貴重な経験をされましたね (笑)。その後も懲りずにコミュニティ活動に関わり続けたのはなぜでしょうか ?

波田野氏
「一番のモチベーションは、技術系メディアに取り上げられたり、著書を書いていらっしゃるスーパーエンジニアの方々と接点を持てたことですね。当時は駆け出しのエンジニアでしたから、著名な方と面識を得て、わらしべ長者のように知り合いが増えていくのがすごく楽しかったんです。あの頃は今よりもイベントを回せる人が少なかったのか、見よう見まねで続けるうちに、さまざまなコミュニティに誘われるようになりました。おそらく私自身にも適性があったのかもしれません。自分の居場所を見つけたような気がしました。」

—その後も継続してコミュニティ活動を ?

波田野氏
「ええ。2001 年の時点では想像すらしていなかったことですが、5 年も経たないうちに 1000 人規模の有料イベントの運営にも携わるようになりました。参加するコミュニティの種類も、OS から開発言語、システム運用へと広がったのは、すべてコミュニティで培った人間関係のおかげです。実際、技術面でもイベント運営面でも使えない人だと思われたくなかったので努力もしましたから、チャンスをいただけたのだと思います。実際、さまざまな人と出会い経験を積み鍛えられるなかで、視野が広がりましたし、自分の進むべき道がハッキリ見えてきたのはコミュニティに参加してよかったことの 1 つですね。実は途中、仕事に忙殺されて数年ほど活動から遠ざかっていた時期もあるのですが、いまも複数のコミュニティとつながりを持っていられるのも、あの『出会い頭のアクシデント』に遭ったおかげでしょう(笑)。


インフラ構築、システム運用の常識が変わると確信した AWS と出会い

— 20 年にわたるコミュニティ遍歴のなかで、AWS とのかかわりを深めたのはいつ頃からですか ?

波田野氏
「仕事やコミュニティ活動を通じて、サーバーの管理・運用の最適解を模索するうちに、『クラウドってどんなかんじなんだろう ?』と興味を持つようになりました。それで 2012 年の秋に、AWS のハンズオン講習を受けに行ったんです。衝撃でしたね。これまで打ち合わせや準備を含めれば  3 カ月は費やしていた三層アーキテクチャのシステムの立ち上げが、わずか 15 分で終わってしまいましたから。これは間違いなく普及するし、そうなれば確実にインフラ構築やシステム運用の常識が変わる。そう直感しました。」

—起業されたのも、AWS との出会いがきっかっけだったのでしょうか ?

波田野氏
「はい。大きな理由の 1 つです。AWS に触れてみて感じたのは、ごく普通のインフラエンジニアの仕事はなくなってしまうだろうという危機感と同時に、AWS を学び、習熟すれば、いままでのように会社に所属しなくても仕事が出来るようになるのではという思いでした。自分のなかで同時に沸き起こったこの気持ちが、独立への意欲を後押ししてくれたように思います。」

— 会社を辞め、独立された直後に JAWS-UG 初の専門支部「CLI 専門支部」を立ち上げられましたね。その経緯についてもお聞かせいただけますか ?

波田野氏
「2014 年に、当時提供されていた AWS 公式トレーニングのほとんど全てを一通り受けた後、講師を務めてくださったソリューションアークテクトの荒木靖宏さんに勧められて JAWS DAYS 2014 に足を運びました。それが最初の JAWS-UG 体験です。圧倒される程の熱気と興奮から覚めやらぬうちに、今度は荒木さんから『4 ヶ月後の 7 月に開催される AWS Summit で、運用をテーマに話してほしい』と依頼されたのですが、その時、何気なく『JAWS-UG の支部ってどうやったら作れるんですか ?』と聞いたんです。それが CLI 専門支部立ち上げのきっかけになりました。当時、JAWS-UG にはエリア支部しかなかったので『1 つのテーマを掘り下げる支部があればいいな』程度の軽い気持ちから尋ねたつもりだったのですが、設立のプロセスについて教えていただくうちに『よし、やろう』という気持ちが固まりました。」

— AWS CLI をテーマに選んだのはなぜですか ?

波田野氏
「当時はまだリリースされたばかりで、ドキュメントが揃っていなかったことが一番ですね。もし学びたい意欲がある人と一緒に勉強出来たら、学習が捗るのではないかと考え、AWS Summit の当日、壇上から 500 人の来場者を前に『立ち上げます !』と宣言しました。自分を追い込むためでもあったのですが、いまなら別のやり方を取るでしょうね。だって一緒にやろうと思っていた方には辞退されてしまい運営者は自分 1 人だけでしたから (笑)。でも宣言通り、無事に第 1 回目の勉強会を開けたので、自分の言葉が嘘にならなくてよかったです。」


CLI 専門支部の活動を通じて、インフラ運用の品質向上に貢献したい

— 改めてうかがいたいのですが、AWS CLI を学ぶメリットはどこにあるとお考えですか ?

波田野氏
「AWS が提供するほぼすべてのサービスは API で提供されています。AWS CLI は、その API をステートレスに操作するようなもの。ですから、AWS CLI を通じて得た知識はそのまま AWS API の知識と言っても過言ではありません。またマネージメントコンソールは頻繁にインターフェイスが更新されますが、AWS CLI は機能の追加はあっても、既存の使い方にかかわる仕様変更はほぼありません。見た目も変わらないのでいちいち手順書上の表示と比較して戸惑うこともありませんし、学んだ知識が陳腐しづらいという優れた利点があります。また運用の面では作業の自動化も容易ですし、再現性が高く動作も速い。そもそも AWS CLI の出来が素晴らしいこともあり、事あるごとに習得をお勧めしています。」

— CLI 専門支部がこれまで行ってきた勉強会を振り返って驚きました。2014 年 7 月 28 日に行われた第 1 回から、2021 年 9 月 13 日現在で、227 回 を迎えていますね。参加のべ人数は 7,000 名の大台を超え、いまも右肩上がりに参加数を伸ばしています。秘訣は何ですか ?

波田野氏
「参加者数の伸びについて言えば、コロナ禍の影響が大きいですね。2014 年から 2020 年の 3 月までは、茅場町にあるコワーキングスペースの Co-Edo さんを借りて、月 2 回ペースで勉強会を開いていました。当時の参加人数は少ない時で 10 名弱、多い時でも 20 名から 30 名程度。それが、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一環で、2020 年 4 月 20 日から、オンライン開催に切り替えたところ、参加者が全国から集まるようになりました。そのおかげで、いまではコンスタントに 30 名から 50 名、100 名を超える回もあるほどです。オンライン開催にしたことで、時間的、地理的な制約がなくなり、開催回数を増やせたのも参加者の増加に貢献しています。また、これまであちこちで AWS CLI の魅力を伝えてきた成果が 7 年経ってようやく実を結び始めたことも一因かも知れません。」

— 毎回、ハンズオン用に手順書を作成されているそうですね。おひとりで運営されているので準備が大変そうです。

波田野氏
「普段、自社の実務で使用している作業手順書から、シェルスクリプトを介してハンズオン用の手順書を自動生成出来るようにしています。毎回すべて 1 から書いているわけではないので想像されるほど負担は重くありません。むしろ私にとっての勉強会は、参加者のみなさんから手順書のフィードバックを得るための場です。勉強会の準備や手順書の用意は大変というより、むしろ大きなやりがいを感じるために必要なプロセスだと思っています。」

— コミュニティ運営にあたって、いつもどんな点を大切にしていらっしゃいますか ?

波田野氏
「やはり、参加者からのフィードバックやコミュニケーションですね。ハンズオンの後、必ずアンケートを取り『今日のハマリどころ』について詳しく尋ねるようにしているのですが、手順書の精度を高めることが、ひいては日本のインフラ運用の品質向上につながると信じているからです。『もっと簡単に出来る方法を知っている』といったアドバイスや、『この記述は間違いではないか』といったご指摘を得られるのは、私自身にとっていい学びの機会でもありますし、嬉しい反応の 1 つですね。最近は、アンケートを読み上げながら質問に答えるのが『ラジオ DJ っぽくていい』と言ってくださる方が増えて、新たなやりがいになっています。」

— インタラクティブなコミュニケーションを大切になさっているのですね ?

波田野氏
「ええ。時折いつでも見られるよう映像アーカイブを公開してほしいという要望をいただくことがあるのですが、イベント終了後に見られるのは、簡易版の手順書だけに留めています。もちろん録画を配信することは出来ますし、ご覧になった方もコメントを残せますが、ライブと比べると主催者と参加者との間にインタラクティブなコミュニケーションが生まれにくいので、今のところやるつもりはありません。今後もライブ感覚を大切にしつつ、勉強会を運営していければと思っています。」

—今後、どんな方に CLI 専門支部に参加していただきたいですか ?

波田野氏
「AWS を使う機会はあっても、CLI の経験がない方、それとは逆に CLI は使い慣れているけれど、AWS については知識が乏しいという方に参加していただきたいですね。これまでご参加された方々を見ると、そういった方の成長には目覚ましいものがあるのです。とくに実務上のニーズの高い、AWS IAM、Amazon SQS、Amazon SNS、Amazon S3、AWS Lambda、Amazon CloudWatch Logs に関しては、これからも定期的に勉強会を開くつもりです。1 度受けてピンとこなかった方も、復習を兼ねて 2 回受講されると劇的に理解が深まる方が少なくありません。興味のある方にはぜひ複数回、受講されることをお勧めします。」

— コミュニティへの参加によって、さまざまないい変化を体験されていることがよくわかりました。最後にコミュニティ参加経験がない読者に対しても、メッセージをいただけますか ?

波多野氏
「もっと経験を積んでから参加しようなんて考える必要はありません。むしろ興味のあるイベントや勉強会を見つけたら、すぐ参加してみることをお勧めします。一回でも参加したら、次に自分が得た知識や考えをアウトプットしてみてください。イベントに登壇したり運営に参加したりするのがベストですが、ハードルが高いと思うなら、質疑応答で発言するのでも構いません。コロナ禍が収まった後なら、イベント後の懇親会に参加し、多くの人と親交を深めてみるのもいいでしょう。コミュニティには、さまざまな技術を持った方が集まる場です。会社や職場では得られない学びに触れる機会がありますし、ロールモデルや仲間も見つけやすい環境でもあります。視野が広がりますから、その後のキャリアの選択肢もきっと増えるはずです。まずは恐れずに参加してみてください。きっと見える風景が変わると思いますよ !」


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プロフィール

波田野 裕一 氏
JAWS-UG CLI 専門支部・運営管理者

運用設計ラボ合同会社 代表社員 シニアアーキテクト。ADSL キャリア、ISPにてネットワーク運用管理、監視設計を担当後、ASP にてサーバー構築運用、ミドルウェア運用設計、障害監視設計に従事する。2009 年夏、有志と共同でシステム運用の研究を開始。2013 年に独立して、運用設計ラボ合同会社を設立。セキュアな運用を実現するための運用改善支援、ドキュメンテーション支援および関連教育を行っている。コミュニティ活動においては、2014 年 7 月、JAWS-UG 初の専門支部「CLI 専門支部」を立ち上げ、現在も運営を継続。現在は、アーキテクチャ専門支部、JAWS-UG 朝会 、X-Tech JAWS の運営にも携わっている。

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