マイグレーションの勉強方法を聞いてみた。

2023-09-01
How to be a Developer

Author : 杉山 大夢

こんにちは 、テクニカルトレーナーの杉山大夢です。
AWS トレーニングのトレーナーを担当しております。前職では、SIerでオンプレミスから AWS へのシステムマイグレーション案件を担当しており、現在も Migrating to AWS というマイグレーションに関するトレーニングにも登壇しております。

突然ですが、みなさんはクラウドはお好きですか ? 私は大好きです!

クラウドを利用することで、キャパシティ予測が不要になったり、ハードウェアの管理が不要になったり、従量課金なのでアーキテクチャを柔軟に変更できたり、様々なメリットがあります。

ただ、既にシステムがオンプレミスで稼働している状況で、AWS を利用したい場合にはマイグレーションを行うことになりますが、お客様から下記のような課題をよく耳にします。

「どうやってマイグレーションするのか、手順やツールがわからない」
「マイグレーション計画に漏れがあって、プロジェクト期間が延びてしまっている」

もしかしたら皆様の中にも「今後 AWS へのマイグレーションをしたいんだけど、何を勉強したらいいんだろう ?」というお悩みをお持ちの方がいらっしゃるかもしれませんね。

この記事では、マイグレーションのスペシャリストである松尾さんを招いて、下記の 2 つのテーマについてインタビュー形式でお話していきます。

前半 : マイグレーションに関するキャリアの話
後半 : マイグレーションに必要なスキルとおすすめの勉強方法

これから AWS へのマイグレーションを始める方の参考になれば幸いです。
それではお楽しみください。

このシリーズ記事のその他の記事はこちら

選択
  • 選択
  • サーバーレスの勉強方法を聞いてみた
  • サーバーレスの開発方法を聞いてみた
  • ネットワークの勉強方法を聞いてみた。
  • ストレージの勉強方法を聞いてみた。
  • データ分析の勉強方法を聞いてみた。
  • マイグレーションの勉強方法を聞いてみた。

マイグレーションに関するキャリアの話

杉山「こんにちは、テクニカルトレーナーの杉山です。よろしくお願いします。」

松尾「こんにちは、プリンシパルソリューションアーキテクトの松尾です。よろしくお願いします。」

(写真左) 杉山 大夢 (テクニカルトレーナー)
(写真右) 松尾 康博 (プリンシパルソリューションアーキテクト)

杉山「早速ですが、松尾さんのこれまでのキャリアに関して聞かせていただけます ?」

松尾「はい。元々独立系の SIer で仕事をしていて、オンプレミスでミドルウェアの開発から導入や運用の支援をしていました。そこで、様々な OS、言語、データベースなどの技術に触れてきました。」

杉山「幅広い領域を担当されていたんですね。」

松尾「ミドルウェアを担当していたので、ミドルウェアと連携する部分のコードを読んだり、動作するためのインフラの準備なども担当していました。2011 年頃から AWS に入社して、ソリューションアーキテクトとして、様々なお客様の案件を支援してきました。」

杉山「2011 年だと、日本では AWS の普及はこれから!という時期だったと思いますが、どういうきっかけで AWS に入社されたのですか?」

松尾「実は、SIer で働いていたころ、AWS のようなものを作ろうとしていたんですよね。例えば、Linux の KVM という技術で仮想化基盤を作ったり、サーバーに対する OS インストールを自動化したり、OS の中の設定を自動化するスクリプトを用意したりして、誰でも環境を作れるような取り組みをしていました。AWS と同じようなものを作ろうと頑張れば頑張るほど、AWS のすごさが身に染みてわかってきたんですよね。」

杉山「それらを自分で用意するのは大変そうですね。あとは、機器を購入して、ラックにマウントして、ケーブル配線をしてといった物理的な作業も苦労しますよね。事故のリスクもありますし。」

松尾「AWS を利用すると物理的な事故が減るってこともありますし、無駄な仕事がなくなることで生産性もあがりますよね。例えば、段ボールとか発泡スチロールとか緩衝材の片付けとかって、意外と骨が折れたり時間がかかったりしますよね。」

杉山「あ~!段ボールの開梱作業とかやってましたね~ !」

松尾「そういうところに使っていた時間を、サーバーのチューニングだとか運用の改善といった他の業務に使える点も AWS  を利用することの大きな価値ですよね。なので、このまま頑張って AWS のようなものを作る作業をしていく仕事と、お客様に AWS を使いこなして頂くための支援をする仕事、どっちが良いのかを考えた時に、僕は AWS というサービスを世に広めていくことをしたいなと思いました。」

杉山「2011 年の頃だと、まだクラウドを利用することに慎重なお客様も多く、提案も大変じゃなかったですか ?」

松尾「そうですね。当時は、Amazon という本屋が何をしにきたんだと良く言われました。ゲームのお客様は当時からクラウドをよくご利用頂いていたんですが、エンタープライズのお客様は理解されないことが多かったです。コンセプトはご理解頂けても、可用性やセキュリティの観点で心配されるお客様が多かったですね。」

杉山「わが社の大事なデータをクラウドに保存するの心配 ! みたいな感じですかね。」

松尾「そうですそうです。あとは、ソフトウェアベンダーさんが AWS をサポートをしていなかったんですよね。ライセンス的に Amazon EC2 はサポートしません ! みたいなソフトウェアベンダーさんを、ユーザーであるお客様が説得してくれたりといったことがよくありました。それと、パートナーの SIer さんも少なかったです。なので、お客様向けにトレーニングをしたり、できることは色々とやっていました。その後、コンピューティング関連のポジションにロールチェンジしました。」

杉山「どういうきっかけコンピューティング関連のポジションに移られたのですか?」

松尾「当時、他に得意としている方が少なくて、僕が得意としていた領域がハイパフォーマンスコンピューティング (以後、HPC) だったんですよ。大学の頃から HPC 領域を学んでいて、SIer の時にもグリッドコンピューティングとかを経験していたので、 HPC の領域に詳しかったんですね。お客様と HPC の用語も踏まえた会話ができるということもあって、だんだん担当している案件の多くが HPC になってきている時に、ちょうどコンピューティング関連のポジションができたので、ロールチェンジをしました。コンピューティング関連のポジションを 6 年くらい経験して、現在のマイグレーション関連のポジションにうつりました。」

杉山「HPC の仕事が松尾さんに集まっていたんですね ! マイグレーション関連のポジションに移られたのはどういったきっかけだったのですか ?」

松尾「コンピューティング関連のポジションで、優れたメンバーが増えてきたんですよね。そこで、今支援を必要としていて、僕にできることは何かと考えた時に、マイグレーションだったら価値が発揮できるんじゃないかと考えました。マイグレーション関連の案件はオンプレミスとクラウドの両方を知っている人じゃないと難しくて、苦労するお客様が多かったんですよね。コンピューティング関連のポジションの時にもマイグレーション案件を多く担当してきていたこともあって、じゃあ専門的にマイグレーションを担当しようかなと思い今に至ります。」

杉山「ありがとうございます ! ちょっと今の話と関連するのですが、ここからはマイグレーションに必要なスキルと勉強方法についてお話を聞かせてください。」


マイグレーションに必要なスキルとおすすめの勉強方法

杉山AWS へのマイグレーションを成功させるには、どういったスキルが必要ですか?

松尾「まず、オンプレミスの技術と AWS の技術を変換するスキルが必要です。AWS のスキルは必ず必要ですし、移行元となるシステムへの理解も重要です。オンプレミスの技術を知らないとお客様と会話ができないんですよね。」

杉山「翻訳をするときも日本語と英語の両方を知っていないとできないですもんね。」

松尾「まさに翻訳ですね ! オンプレミスのこの機能を AWS で実現しようとすると、こういう方法がありますっていう説明をするスキルが必要になります。アーキテクチャだけでなく、マイグレーションした後の運用についても考える必要があります。物理的な管理がなくなって楽になる面もありますが、変わる部分もあるのでオンプレミスと AWS の両方の知識が必要ですね。インフラ、アプリケーション、データベースも含めた幅広い範囲の知識が必要になるので、私も苦労しています。」

杉山「オンプレミスの技術と AWS の技術の変換がポイントなんですね。」

松尾「もう 1 つ重要なスキルが、プロジェクト管理のスキルです。テクニカルな話ももちろん大事ですが、実は一番マイグレーションで苦労するのが、ノンテックな部分なんです。とりあえずマイグレーションしたいんだ ! みたいな最初のふわっとした状況から、目的や要件を整理して、プロジェクトの立案、マイグレーション計画の作成、プロジェクト管理をしていくスキルが重要です。」

杉山「ノンテックな部分って正解がなかなかわからないですよね。テクニカルな部分って、検索したりドキュメントや書籍でも必要な情報を見つけられますが、ノンテックな部分って会社ごとに事情も違うので、どの会社もこの計画で進めれば OK ! といった万能なマイグレーション計画ってないですもんね。」

松尾「そうなんですよね。特にマイグレーションって、開発と違って拠り所になるフレームワークも少ないので、みなさん苦労されています。プロジェクトをきっちり計画して進めていくことが、一番の近道になります。」

杉山「マイグレーションを成功させるには技術に関する知識以外も重要ということですね !ではこれらを踏まえて、マイグレーション関連のスキルを学習できる勉強方法についてお話をさせてください。座学とハンズオンについてお話を伺いたいのですが、まず座学での勉強について、おすすめの資料や教材はありますか ?」

松尾「まず、AWS のスキルについては、AWS サービス別資料の「移行と転送」シリーズ を見ていただくと良いと思います。私たちも AWS Black Belt Online Seminar (以後、Black Belt) の資料は力を入れて、わかりやすいように作成しているので、ぜひチェックして頂きたいです。」

杉山「どの資料も図がついていて視覚的にわかりやすかったり、かみ砕いた説明をしてくれているので、初学者の方でもとっつきやすいですよね。AWS Application Migration Service (AWS MGN) 概要 みたいにサービスに特化した内容だけでなく、 クラウド移行で実現できるビジネス価値と経済性評価の考え方 みたいな考え方についての内容もあるので、多くの方に参考になると思います。」

松尾「あとは AWS Summit の資料もおすすめです。マイグレーションに特化したセッションやお客様事例も参考になるかと思います。」

杉山「AWS Summit のセッションもかなりわかりやすいですよね。ちょっと私からもおすすめのセッションを紹介させて頂きたいのですが、これから大規模なマイグレーションを控えていえるという方には リホストから始める AWS への サーバー移行 を一度見て頂きたいですね。あとは、普段からマイグレーションの支援をされているよという方には マイグレーション&モダナイゼーション関連サービス概要とアップデート みたいなアップデートのキャッチアップができるセッションもおすすめです。」

松尾「ありがとうございます。Black Beltや AWS Summit の資料を入口として使って頂いて、詳細な仕様を確認したい時などにAWSのドキュメントをご確認頂くと良いのかなと思います。」

杉山「オンプレミスの技術を知るにはどうしたら良いでしょうか ?」

松尾「オンプレミスの技術については、少し古い技術を知っておくことがポイントです。マイグレーション対象のシステムって 10 年 20 年前に構築されていることが多いんですよね。なので、年代を絞ってネットで検索をしたり、IT 雑誌のバックナンバーを見るたりします。」

杉山「なるほど。おすすめの雑誌はありますか ?」

松尾「今は廃刊になっちゃったんですけど WEB+DB PRESS総集編[Vol.1~120] と Software Design の総集編 (【2001~2012】/ 【2013~2017】) がおすすめです。」

杉山「総集編なんてあるんですね!」

松尾「そうなんですよ ! 紙媒体だと場所もとるんですけど、ディスクやデータだと持っておくのも楽で良いんですよね。全部頭から見る必要はないんですが、マイグレーション案件があったときに、さかのぼって検索するインデックスとして使って頂くと良いと思います。」

杉山「マイグレーション対象のシステムが作られた当時の技術を知っておくことがポイントなんですね。ほかにおすすめはありますか?」

松尾「あとは Amazon Web Services 基礎からのネットワーク&サーバー構築 もおすすめです」

杉山「これは私も読みました !」

松尾「この本って、実は AWS だけを学ぶ本じゃなくて、AWS 上で様々な技術を学ぶ本なんですよね。様々な技術の中に、DNS とか HTTP とかマイグレーション案件で関わる技術も含まれています。」

杉山「AWS の技術とオンプレミスで使われている技術の両方が学べるのは一石二鳥ですね ! プロジェクト管理について学べるものはありますか ?」

松尾「プロジェクト管理でいうと、PMBOK が参考になりますね。IT に限らず、プロジェクトマネジメントに関する知識を学ぶことができます。資格でいうと PMP とか IPA のプロジェクトマネージャー試験 が勉強になります。合格するかは別として、受験勉強するだけでも体系的な知識が得られるので良いと思います。IPA のプロジェクトマネージャー試験の学習をしていると参考になる IPA の資料が出てくるので、私もそれを現場で輸入して活かしています。」

杉山「ありがとうございます ! ここまでは座学の勉強方法に関してお伺いしてきましたが、手を動かして学べるようにハンズオンでおすすめのコンテンツはありますか ?」

松尾AWS Skill Builder がおすすめです。」

杉山「AWS が提供するE-Learningのオンライン学習センターですよね ! 日本語化されたコンテンツもかなり増えてきてるので、学習しやすいですよね。」

松尾「私も普段から Skill Builder をチェックしていて、新しい日本語のコンテンツが出てくると学習したりしています。」

杉山「Skill Builder は、有償のサブスクリプション契約を結んで頂くと、手順書付きのハンズオンが使えるんですよね。無料でも AWS Application Migration Service (MGN)AWS CAF などのマイグレーションに役立つ多くのコンテンツを見ることができるのでとりあえず登録しておいて損はないですね。」

松尾「あと最後に、座学とハンズオンの勉強の両方でおすすめできるのが、AWS のクラスルームトレーニング です。特にマイグレーションについて学びたいということであれば、Migrating to AWS がおすすめです。」

杉山「ありがとうございます ! ちょうど私から紹介しようと思っていたところでした!Migrating to AWS は、マイグレーションの企画段階から、計画の作成、実際のマイグレーション方法、切り替え、マイグレーション後の最適化まで、マイグレーションに関わる全てのフェーズを学べるコースです。マイグレーションプロジェクトのコアメンバーを担う方はもちろん、ベンダーさんにマイグレーションを支援してもらうという場合のベンダーさんとの窓口になって中心的に話をする方にもおすすめのコースです。」

松尾「私はクラスルームトレーニングが守破離でいうところの守。BlackBelt、AWS のドキュメント、SkillBuilder などのコンテンツで学習して補完して頂くのが破。実案件や PoC で検証して頂くのが離だと思っています。まずは Migrating to AWS で体系的に学んで頂くと良いかなと思います。」

杉山「本日はどうもありがとうございました ! 勉強方法だけでなく、貴重な 2011 年ごろのクラウド業界のお話まで聞けて非常に面白かったです。」

松尾「ありがとうございました !」


マイグレーションに関する勉強方法のリスト


まとめ

いかがでしたでしょうか ? キャリアの話では、オンプレミスの時に抱えていた課題を聞くことで、改めて AWS のメリットを確認することができました。

マイグレーションに必要なスキルと勉強方法の話では、「オンプレミスと AWS 技術を変換できるスキル」に加えて「プロジェクト管理のスキル」も重要であることや、「少し古いオンプレミスの技術を知っておくことがポイント」など、経験豊富な松尾さんならではの話が参考になりました。

インタビューを通じて、私自身普段のトレーニングでマイグレーションに関してお話しする際のメッセージングが明確になり、大変勉強になりました。

この記事が少しでも “How to be a Developer” な皆様のお役に立てれば幸いです。
また別の記事でお会いしましょう !

このシリーズ記事のその他の記事はこちら

選択
  • 選択
  • サーバーレスの勉強方法を聞いてみた
  • サーバーレスの開発方法を聞いてみた
  • ネットワークの勉強方法を聞いてみた。
  • ストレージの勉強方法を聞いてみた。
  • データ分析の勉強方法を聞いてみた。
  • マイグレーションの勉強方法を聞いてみた。

builders.flash メールメンバーへ登録することで
AWS のベストプラクティスを毎月無料でお試しいただけます

筆者プロフィール

杉山 大夢 (すぎやま ひろむ)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
AWS トレーニングサービス本部 テクニカルトレーナー

テクニカルトレーナーとして、お客様がより AWS を活用できるようになるための支援をしています。
トレーニングが、スキルアップやビジネスの拡大に貢献していたら嬉しいです。

話者について

松尾 康博 (@understeer)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
プリンシパル マイグレーションソリューションアーキテクト

入社後、ソリューションアーキテクトとして流通業、製造業、スタートアップを担当した後、コンピュート ソリューションアーキテクトとして、EC2 全般の技術支援や HPC  (ハイパフォーマンスコンピューティング)、ディープラーニングの案件支援に加え、AWS Outposts、AWS Wavlengthといったハイブリッドソリューションや AWS Graviton 搭載インスタンスの日本での立ち上げに従事。現在は、マイグレーションのスペシャリストとして、AWS へ移行する案件の立ち上げから移行完了まで、技術面以外にも組織や人材スキルなどの課題に対応中。オフの時間は育児とモータースポーツに勤しんでいます。

AWS を無料でお試しいただけます

AWS 無料利用枠の詳細はこちら ≫
5 ステップでアカウント作成できます
無料サインアップ ≫
ご不明な点がおありですか?
日本担当チームへ相談する