お客様事例/製造業

2024 年
古野電気株式会社

古野電気、コト売りビジネスへの転換に向けて船舶の DX を推進。船の位置をモニタリングする『イチダケ 30』を 5 か月でリリース

5 か月

データ活用サービスの開発期間

4 か月に 1 回

アジャイル開発による機能改善サイクル

データビジネスの立ち上げ(コト売りビジネスの拡大)

社内の開発文化への影響

概要

舶用電子機器の総合メーカーとして、グローバルに事業を展開する古野電気株式会社。2030 年までの経営ビジョンで、データを活用した“コト売り”ビジネスの拡大を目指す同社は、全社のデータプラットフォームにアマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用。船の位置情報をモニタリングするサービス『イチダケ 30』を 5 か月でリリースしました。現在も AWS を活用しながら、新たなデータビジネスの立ち上げに取り組んでいます。

古野電気株式会社

ビジネスの課題 | データビジネスを新たな事業の柱にする戦略投資の強化を決定

海運業界では近年、デジタル技術を活用した運航状況や船内外ナビゲーション、船舶機関システムの可視化が急激に加速しています。古野電気においても、船舶の自動運航やリモート管理に向けてさまざまなソリューションを開発しています。なかでも 2017 年にリリースした本船データ収集プラットフォーム『フルノオープンプラットフォーム(FOP)』は、航海に関する情報や船舶のデータを一括して収集し、船内と陸上のオフィス間を連携することで、運行状況の把握や保船業務の効率化に貢献しています。

同社は 2018 年に 2030 年までに目指す経営ビジョン『FURUNO GLOBAL VISION “NAVI NEXT 2030”』を策定。機器販売事業に加えて、データビジネスを新たな事業の柱にする戦略投資の強化を進めています。2023 年 1 月には IT 部が中心となって『データ推進ビジネス協議会』を立ち上げました。

データを活用した“コト売り”ビジネスの拡大を目指す同社の戦略を象徴するサービスが、2023 年 1 月にリリースした『イチダケ 30』です。これは、漁船、商船、観光船、プレジャーボートなど小型船向けのモニタリングに特化したクラウドサービスで、30 分単位で船舶の位置情報を取得し、衛星通信を介して陸上と共有します。サービス利用者は、Web ビューアによって世界中どこの海上にいてもスマートフォンやパソコンから位置情報や航跡を把握することができます。

「当社には本船データ収集プラットフォームの『FOP』がありますが、小型船舶や最小限のリモート管理を実現したいお客様にとって、『FOP』は導入のハードルが高いものになっていました。そこで、簡単かつ安価に位置情報を把握できるサービスとして『イチダケ 30』を企画しました。元々はエンジニアの一人が、ヨットレース向けに開発したものです。これが評判を呼んでヨットで太平洋を横断する挑戦者から当社に声がかかり、そこでの実績を受けて商品化に至りました」と舶用機器事業部 デジタライゼーション推進部 企画開発課(以下、同課)課長の小嶋達也氏は語ります。

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海洋のデータビジネスはまだ端緒についたばかりです。さらなるビジネス化にむけて、今後も技術面ビジネス面ともに AWS と連携していきたいと考えています"

峯川 和久 氏
古野電気株式会社 IT 部 部長

ソリューション | 船の位置をモニタリングする『イチダケ 30』をサーバーレスで構築

『イチダケ 30』の開発にあたり、同社はサービスのプラットフォームに AWS を採用しました。同課 主任の住田翔太氏は次のように語ります。

「『イチダケ 30』は、『FOP』の技術を活用して開発しました。『FOP』のプラットフォームは当初から AWS を採用しているため、『イチダケ 30』では、AWS 以外の選択肢はありませんでした。『FOP』開発時に AWS を採用した理由は、クラウドならではの拡張性や他サービスとの連携容易性に加えて、情報量の多さと扱いやすさです」

開発は 2022 年 1 月から検討を開始し、コンセプト開発、最低限の機能を備えた MVP(Minimum Viable Product)版の開発などを経て、同年 6 月から本格的に着手。5 か月後の 11 月に製品版が完成し、“1 並び”の 2023 年 1 月 11 日から提供を開始しました。

開発は内製で進め、AWS のサービスはサーバーレスアーキテクチャを積極的に採用しています。今後の顧客増加で発生するシステム変更作業をできる限りシンプルにするため、AWS CloudFormation で AWS 環境をテンプレート化し、プログラムのコード変更が不要になるように工夫しています。また、システムトラブルが発生した際に調査および復旧が容易にできるよう、機器から取得したデータだけでなくシステムログのデータなども含めて Amazon Simple Storage Service (Amazon S3)にバックアップしています。

開発工程について同課 システムエンジニアの豊田雄介氏は次のように語ります。

「『イチダケ 30』では、私たちが開発と運用を兼ねることになるため、開発者の運用負荷軽減を意識して設計しました。『FOP』をベースにシンプルなアーキテクチャを目指したこともあり、システム開発の負担は少なく、端末や通信機器の評価やオンラインストアの契約作業などに時間を割くことができました」

最小構成で立ち上げた『イチダケ 30』は、リリース後もアジャイル開発で 4 か月に 1 回の頻度で機能追加や改善を重ねています。同課のシステムエンジニアで、新卒入社 2 年目の尾崎洸人氏は「取得した位置情報を活用し船の入港時や、指定エリア通過時にメール通知する機能を開発しました。この機能は好評でしたので、2023 年秋に LINE 通知機能をリリースしました。また、より詳細に位置を把握したいというニーズに応え、30 分周期に加え 5 分周期のデータを収集する機能の提供を開始しました」と話します。

アーキテクチャ

導入効果 | 社内にアジャイル開発のノウハウが浸透、データビジネスを本格スタート

2023 年 1 月のリリース後、『イチダケ30』は順調にユーザーを獲得しており、同課では 2023 年度で 200 隻の導入を見込んでいます。予算を抑えながらわずか 5か月で新たなサブスクリプション型ビジネスを立ち上げた今回のプロジェクトは、社内からも多くの反響が寄せられました。「舶用事業は重厚長大型の産業で、長時間をかけて品質の高い製品を開発するのが当たり前となっています。その中で、5 か月で新サービスをリリースしたことで社内から注目を集め、他の開発チームからプロジェクトについてヒアリングを受ける機会がありました。シンプルな機能を実装したサービスを、いち早くリリースすることのメリットを社内に認知してもらえたことは、データビジネスの推進に向けて好影響を与えられたと自負しています」(小嶋氏)

開発メンバーもプロジェクトを通して、クラウドのメリットを改めて実感することになりました。住田氏は「やりたいことがすぐにできる、試して効果検証ができる点がありがたく、私たちの開発スタイルにあっていると思います」と語り、豊田氏も「開発環境の維持やコード化による再現性の高さやトレーサビリティにメリットを感じています」と語ります。

『イチダケ 30』は、今後も継続しての機能強化を続けていく方針です。現在は、Webビューアの機能の拡張、他の製品との連携、位置情報の 2 次活用などを計画しています。

一方、古野電気全体のデータビジネスの推進に向けて、2023 年 1 月より AWS プロフェッショナルサービスのメンバーが同社のデータ推進ビジネス協議会に参画し、AWS に関する情報提供やアーキテクチャレビューを実施しています。全社共通データプラットフォームの構築に向けた取り組みも本格的にスタートし、各事業部から数人単位でメンバーを集め、あるべき姿のデザインや、アーキテクチャの策定を進めています。

IT 部 部長の峯川和久氏はこれからの展望と期待を次のように語ります。「海洋のデータビジネスはまだ端緒についたばかりであり、さまざまな可能性との遭遇を期待しています。その可能性のビジネス化にむけて、今後も技術面ビジネス面ともに AWS と連携していきたいと考えています」

企業概要 : 古野電気株式会社

1948 年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功し、1951 年に水産電気工業株式会社として設立。現在、漁船をはじめ、大型商船や官公庁船、プレジャーボートなど、広範囲にわたる顧客に舶用電子機器を提供するほか、船舶用電子機器で培った技術をもとに、ヘルスケア、GPS、無線 LAN、気象観測、防災、監視など産業用電子機器の開発・製造・販売を手がけている。

峯川 和久 氏

峯川 和久 氏

小嶋 達也 氏

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住田 翔太 氏

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豊田 雄介 氏

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尾崎 洸人 氏

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