Amazon Web Services ブログ
株式会社アーベルソフト様の AWS 生成 AI 事例 「災害監視用の自社開発モデルの代わりとして Amazon Bedrock を活用することで、 コストを削減しつつ更なる機能追加を実施」のご紹介
本ブログは 株式会社アーベルソフト様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの文珠です。
昨今、様々なお客様と会話している中で、今まで自社開発で提供していた機械学習モデルから、サードパーティ製の生成 AI モデルに置き換えるケースが増えてきていると感じています。生成 AI モデルへの置き換えにより、精度向上やコスト削減だけではなく、新しいユースケースへの対応も可能となります。実際に AWS の生成 AI サービスを活用して、自社プロダクトのユースケースを拡大されているお客様は多くおられます。
本記事で紹介させていただく株式会社アーベルソフト様も、画像認識を行う機械学習モデルを開発し、自社サービスに組み込んでいました。アーベルソフト様はこちらの機械学習モデルを AWS の生成 AI サービスである Amazon Bedrock に置き換えることで、精度を上げながらコストも削減し、自社プロダクトを新たなユースケースに対応させる検討もすることができました。
アーベルソフト様の状況と経緯
アーベルソフト様は、災害写真情報サービス「ビューちゃんねる(防災 DX)」を開発しており、複数の自治体に向けてサービスを提供しております。
本サービスは、ほぼリアルタイムに地域の道路状況や河川状況を把握するソリューションとなっており、地域・自治体の方々に有益な情報を日々提供しております。例えば、大雨の日などに水害情報を遠隔で確認し、災害対策に用いることができます。
(出展: 株式会社アーベルソフト)
サービスで提供される画像は電柱に取り付けられた IP カメラで取得され、数分おきに LTE 回線経由でイメージサーバーに送られています。イメージサーバーでは、プライバシーに配慮するための画像加工を行っており、保存した画像は後から閲覧することが可能です。
自社で開発した画像認識モデルを用いて、冠水を自動判定する Web サービスも提供しております。増水によって、水位があらかじめ設定した閾値を超えたと判断された場合には、通知を受け取ることができます。
(出展: 株式会社アーベルソフト)
本サービスを運用している中で、機械学習モデルの作成に必要な「学習用のデータ収集」や「専門知識の獲得」にかかる時間は大きな課題でした。本ユースケースの学習用データは災害時の画像データであり、データ収集に時間がかかりました。また、集めた画像データを用いてモデルの精度を上げるためにも、機械学習に関する専門的な知識が必要であり、独学での習得には時間がかかりました。機械学習モデルは一度作成したら終わりではなく、モデルの精度改善を行うために繰り返し学習を行う必要があるので、これらの作業が日々の開発工数を圧迫している状況でした。
ソリューション/構成内容
アーベルソフト様は上記の課題に対して、生成 AI サービスを用いた解決の検討を行いました。様々な生成 AI サービスがある中で「複数のモデルを簡単に切り替られること」や「本番環境にすぐ活用できること」を評価して、Amazon Bedrock を採用いたしました。本ユースケースでは、画像を入力値とするために Anthropic 社のマルチモーダルモデルである Claude 3.5 Sonnet (検証時の最新モデル) を選択して、検証を行いました。検証当初、工夫をせずに生成 AI を利用すると誤検知が頻繁に発生することがわかり、IP カメラの設置箇所ごとに生成 AI に対する命令(プロンプト)を作成することを考えました。具体的にはカメラの画角や写っているオブジェクトを見て、増水の判断をする材料だけ抽出するようなプロンプトを作成しました。生成 AI からのレスポンスも状況の説明をする文章を返すのではなく、結果ごとに比較が可能なスコアを JSON 形式で返すことで、より微細に現在の災害状況のトレンドを把握できるようにしました。
プロンプトの工夫以外にも、前段のイメージサーバーにて、画像から増水の判断に不要な部分を削除するプログラムを実装しました。また、誤検知への対策として、生成 AI が複数回連続で閾値を超えたと判断した際に、ユーザーへ通知を行うように実装しております。この判断に使う回数は増水の深刻度にあわせて可変な値とすることで、緊急度にあわせた対応ができるようになっています。通知機能は既存のサービスから利用できていたメールの他に、LINE のインターフェイスからも利用できるように再設計を行い、ユーザーエクスペリエンスの向上にも努めました。
自社開発モデルの代わりとして Amazon Bedrock を活用することで、精度を向上させることは勿論のこと、自社モデル開発の必要性がなくなり、開発・運用コストを大幅に削減できました。さらに、本対応で培った経験を生かして、水害以外の「交通事故」や「火災」などのユースケースにも対応できるように、現在検証・開発を進めております。
(出展: 株式会社アーベルソフト)
導入効果
Amazon Bedrock を導入することで、下記の3つの効果を得ることができました。
- 災害の状況を正しく判定する精度が従来から約 45 %向上
- 自社モデル開発の必要性がなくなり、開発・運用コストが年間約 260 時間削減
- 今まで行っていた水害監視以外に、交通事故や火災などの幅広い災害を監視したいお客様のニーズに対応することが可能に
精度の向上やコストの削減の他に、既存のユースケース以外の様々なニーズに対応することができるようになりました。削減できたコストはお客様に還元することを検討しており、最終的には約 40 %低減させた価格で提供できる見込みとなっております。その後も新たなお客様のニーズに応えるための機能検討や検証を継続して行っております。
本取り組みは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 広域事業統括本部主催の生成 AI コンテストにてアイデアの革新性、ビジネスインパクト、実現性を含めた技術力が総合的に評価され、26 社の取り組みの中で「生成AIコンテスト 開発実績部門」にて 1 位を獲得されました。また、 10 月 31 日(木)に開催された「 AWS AI Day 」でもユースケース展示が行われました。
まとめ
今回は災害写真情報サービスで、独自開発の機械学習モデルを AWS の生成 AI サービスである Amazon Bedrock に置き換える事例を紹介させていただきました。Amazon Bedrock を用いることで「精度向上」、「コスト削減」、「既存ユースケース以外のニーズに対応」といった幅広いメリットを享受していただきました。生成 AI モデルへの切り替えは、単純な置き換えだけではなく、プロンプトの検討やデータの最適化など工夫する部分がありますが、比較的少ない工数で大きなメリットを享受することができます。今まで自社開発で提供していた機械学習モデルから、サードパーティ製の生成 AI モデルに置き換えることで、精度の向上やコストの削減をすることにご関心のあるお客様は、ぜひ AWS までお問い合わせください。
株式会社アーベルソフト : 代表取締役社長 西岡 和也 様 (中央右)、第3システム部第2システム課 課長 高橋 圭太郎 様 (中央左)
Amazon Web Services Japan : アカウントマネージャー 瀧澤 栞 (左端)、ソリューションアーキテクト 文珠 啓介 (右端)
ソリューションアーキテクト 文珠 啓介