はじめに
こんにちわ、JAWS PAKRATION 2024 実行委員長 吉江 (AWS Security Hero) です。本記事は実行委員メンバーを代表して執筆しています。
日本時間の 2024 年 8 月 24 日 (土) の正午から、25 日 (日) の正午まで、前後の Opening と Closing も含めると 24 時間を超える日本発の 24 時間グローバルオンラインイベントを開催いたしました。
本イベントの趣旨や開催の裏側などをぜひ知っていただきたいと思います。また、実行委員メンバーも多くの AWS Hero、AWS Community Builder、AWS User Group Leader にて構成されており、我々が成し遂げた最終的なアウトプットについてお伝えできればと思います。
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JAWS PANKRATION とは
まず、「JAWS 改め JAWS-UG とは」から説明させていただきます。JAWS-UG (AWS User Group – Japan) は、日本全国に 70 以上の支部を持つ Amazon Web Services (以下 AWS) のユーザーグループです。全国の各支部では、AWS に関する技術交流や人材交流が毎週のように行われ、AWS ユーザーの技術力向上およびビジネスの拡大に寄与しています。
JAWS PANKRATION は 24 時間オンライングローバルイベントです。全国の JAWS-UG 支部だけでなく、世界中の AWS HERO、AWS Community Builder、AWS User Group Leader、その他 AWS タイトルホルダーに、AWS 内の方を招待して、各国の AWS に関するカルチャーや AWS に関するテクニカルトークなど様々なセッションを開催します。
日本の AWS ユーザーグループが主体で企画した、かなりエクスペリメンタルなイベントですが、ひそかに海外には本イベントのファンである方々もいるほどです。初開催は 2021 年で東京オリンピックの開催年に行いましたが、2 回目となる今回もオリンピックイヤーに合わせて、世界中の AWS ユーザーの様子を地球の自転とともにフォロー・ザ・サン形式でお届けしました。
リスナーの中には、24 時間一緒に起き続けて、イベントに参加してくれていた方もいるときいています。イベント運営側も一睡もしないでイベントの運営に加担していたメンバーもいます。
JAWS PANKRATION 2024 で実現したかったこと
2021 年に開催をした前回とイベントのコンセプトは変わってはおらず、下記の 5 つとなっています。
- 日本初のグローバルイベントを開催すること
- 海外の優れたエンジニア達とのリレーションを図ること
- 国内にいるローカルエンジニアをグローバルイベントに登壇してもらうこと
- 前回の 24 時間イベントを超える
- JAWS-UG の価値観 (ステートメント) でもある「Find new heroes」による新たなヒーローへの機会の提供
日本だけでなくグローバルに広がる登壇者
JAWS-UG 初の 24 時間イベントは JAWS SONIC 2020 であり、それを超えるイベントを検討したのが、前回の JAWS PANKRATION 2021 でした。結果として日本のエンジニアだけに限らず、他国でも前回のイベントが初めての登壇であったり、そんなイベントを経験して、現在グローバルに活動するエンジニアや、AWS Hero として認定された人たちがいます。
JAWS PANKRATION 2024 の狙いとして当初考えていたことは、「Fusion of localization and globalization (ローカリゼーションとグローバリゼーションの融合)」でした。これは、2 年前に参加した AWS APAC Community Summit 2022 のテーブルワークショップの参加をきっかけに考えました。オーストラリアやインドのエンジニアと会話して知ったことは、彼らの国もたくさんの優秀なエンジニアはいるが、英語を話すことができないでいること、だいたい英語を話すメンバーが勉強会を開催しており、彼らの中でも実はランゲージバリアが存在するということを知りました。
それを目の当たりにし、考えたことはこのランゲージバリアを取っ払ったイベントで、純粋に AWS に関する技術力が優れた人が登壇できるイベントを開催できないか、ということを考えていました。

No Border
そういった狙いをテーマに実行委員メンバーで考えた結果、今回のイベントテーマは「No Border」に決まりました。「No Border」をテーマに、配信環境における多言語同時翻訳はもちろん Ask The Speaker の環境においても多言語同時翻訳が可能であることを実現したいと考えていました。
配信環境においては、前年は翻訳デバイスを用いましたが、今回は翻訳デバイスを用いないで配信環境を構築するというチャレンジをしました。なお、Ask The Speaker の多言語同時翻訳については JAWS PANKRATION 2024 公式ページの ニュース よりご確認ください。

登壇者・参加者の集め方
今回もCFP (Call For Papers または Call For Proposal) で募りましたが、イベントの知名度を上げることや CFP 応募・参加者への呼びかけには SN Sだけでなく、広告動画の作成、AWS や JAWS-UG における各種 Slack ワークスペース (AWS Hero, AWS Community Builcer, AWS User Group Leader, AWS Ambassador, AWS Developer, JAWS-UG, AWS Startup Community, AWS Amplify UG)、また各種 AWS オンサイトイベント (AWS re:Invent 2023, JAWS DAYS 2024, AWS Heroes Summit, AWS re:inforce 2024, AWS Summit Japan 2024, AWS) における広報活動も行いました。
イベントの参加者数は JAWS PANKRATION 2021 を超えることにはなりませんでしたが、日本初のグローバルイベントに 150 程の CFP が集まり、25 カ国の国/地域から登壇いただくことができたことは、我々も驚きました。日本のイベントを海外に認知していただき、参加してもらうことの難しさを改めて思い知りました。

配信環境
配信環境は JAWS PANKRATION 2024 実行委員メンバーによるお手製となります。JAWS PANKRATION 2024 ニュース にも掲載させていただいた内容を再掲しつつ、説明できていない構成も追加でお話します。
同時翻訳ということをもっと具体的にプロセスに書き出すと、
- スピーカーの音声をスピーカーが話す言語でテキストに書き起こす
- テキストに書き起こしたものをさらに翻訳してテキストに出力する
という二段構えになります。そこに対しての議論が何度も実行委員メンバーと AWS の Amazon IVS プロダクトチームメンバーとで行われました。OBS で Whisper model という言語モデルを用いて、文字起こしをするということも考えましたが、テストの過程で、パフォーマンスと動作が不安定でうまく動かない部分がありました。
最終的に、Web ブラウザの Speech Recognition で対応することにしました。
Speech Recognition 自体は JavaScript で呼べます。Speech Recognition で取得した音声データを文節ごとにチャンクに分割します。チャンクに分割されたことをトリガーにバックエンドの Amazon API Gateway に送り、そこから AWS Lambda を呼び出します。呼び出された AWS Lambda はパラメータとして書き起こされた文字列を持っており、Amazon Translate に対して翻訳リクエストをだします。翻訳されたものは後に Amazon Bedrock を使ってサマリーをつくるために Amazon DynamoDB に保存したりもしますが、Amazon IVS Chat Room 機能を使ってクライアント側に配信し、クライアントのブラウザに翻訳字幕を表示させます。
同時視聴者数の表示 (1 分間ごと) は、Amazon EventBridge で AWS Lambda を呼び出し、Amazon IVS のチャンネルの視聴者数を API で取得し、Amazon DynamoDB に格納していきます。Amazon IVS の Timed-Metadata 機能でフロント側にも送ります。
前回のイベント同様に Google SpreadSheet で登壇者情報を管理しており、Google Sheets API を用いて、オペレーター向け Web ページに表示し、同時視聴者数もオペレーター向け Web ページ上に表示します。オペレーター用端末上でオペレーター向け Web ページを開いたところを、OBS Studio で切り取り、まとめたものを配信動画として、Amazon IVS Low-Latency Stream Channe lに流します。流したものは、Viewer 側のフロントエンド側から SDK で読み込むことができるので、これで字幕や同時視聴者数などのリアルタイム情報が表示されるようになります。
アクセスポイントになってくる Viewer のエンドポイント、つまり配信サイトであったり、オペレーター向け Web ページはすべて AWS Amplify でホストしています。このあたりは、JavaScript、React、Next.js といったフロントエンドの技術を用いて実現しています。
多言語翻訳配信環境アーキテクチャ
同時翻訳で遅延を起こさなかったポイント
上述でオペレーター用端末と記述しましたが、当初は Amazon Workspaces を活用して OBS を立ち上げ、スピーカーの音声を拾い、Amazon API Gateway に送ろうとしていました。Amazon Workspaces 上の OBS を操作することにおける物理的なレイテンシーをほんの少しながら感じることがあり、我々の判断としては、本番 2 日前にオーディオケーブルを準備し、オペレーター用端末に物理的にケーブルを繋ぎ、Amazon API Gateway に送出するための端末と接続して、音声だけを別経路で送出することを判断しました。これが同時翻訳でさらなる遅延を起こさなかったポイントでもありました。
また、オーディオケーブルの前後に物理端末を 2 台用意しているのは最初の端末でミーティングアプリケーションを開き、最後の端末でマイク入力させることで、ブラウザに音声を入力させることができます。
音声データの物理送出環境
25 言語の翻訳に対応したプラットフォームを提供
また、視聴サイトでは 25 言語の翻訳に対応したプラットフォームを提供させていただきましたが、この 25 言語の選定についても、各国の人口、主要言語、IT 指数 (IT 指数は NRI (Network Readiness Index 2023) に依ったデータを参考)をもとに上位 25 言語を選定しました。
イベント中の様子
JAWS PANKRATION 2024 開催中もいくつかの改善 (ブラウザのキャッシュクリアボタンリリース、翻訳結果の自動スクロール機能リリース、ビットレート変更機能リリース、Amazon Bedrock への要約 API リリースなど) を行いながら、24 時間イベントを終えることができました。PC ブラウザはもちろん、モバイルブラウザにも対応しています。
登壇者は実行委員が用意した Zoom に入っていただくことになりますが、Zoom を利用したことがないユーザーや、国の事情もあって、インターネットがなかなか繋がらない、それ故に本番直前まで連絡がつかないなど、我々が普段当たり前と思うことが当たり前ではなかったりして、これもまたグローバルなイベントならではという経験をしました。
JAWS PANKRATION 2024 本編および幕間動画は下記リンクにて公開しています。
実際の開催中の画面イメージ
ブラウザ視聴画面

言語を切り替えた状態 (左からフランス語、中国語、ロシア語)

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Amazon Bedrock を用いて、各スピーカーごとの要約を生成
また、すべての動画を視聴するのは大変と思いますが、今回は Amazon DynamoDB に書き出されたデータをもとに Amazon Bedrock を用いて、各スピーカーごとの要約を生成し、スピーカーごとの Web サイトにも掲載しております。後に動画をみていただくための導線として考えた取り組みでもあります。ぜひそちらを参考に、興味あるセッションを見ていただけますと幸いです。
(画像 : Amazon Bedrock を用いたセッションサマリー)

最後に
JAWS PANKRATION 2024 の開催計画は、JAWS PANKRATION 2021 開催直後の運営メンバー同士による懇親会の中で、この環境は AWS のサービスだけで翻訳・構築できるのではないか ? とお酒を飲みながらホワイトボードを使って議論したりもしていました。そのときに話をしていたコンセプトや構成から足掛け 3 年、ようやく AWS サービスだけの構成でプラットフォームを提供することができ、多言語同時翻訳が目論見以上に成果として出すことができたことはとても良かったです。各国の登壇者や参加者からもいいフィードバックをいただけました。特にオペレーションの部分については今回「も」海外からの反応はとても良かったので、本メンバーでこうして動くことができてとても良かったです。
イベント開催後は南アフリカの Senior Developer Advocate の方が 記事に取り上げてくれました。 ケニアのスピーカーからは、良かったらケニアに来て登壇しないか ? とも言っていただきました。
また、本イベントを参考に AWS China UG では、中国版の JAWS PANKRATION (ただし 12 時間) を開催する予定とも伺っていたりします。このように、日本主体で開催したイベントが少なからず色んな国で影響を与えられているということは嬉しい限りです。
本イベントの開催にあたり JAWS PANKRATION 2024 実行委員メンバーだけでなく、協力いただいた方々に厚くお礼申し上げます。
(写真 : 最後まで残っていた運営メンバーとともに)

この記事の著者
JAWS PANKRATION 2024 実行委員メンバー
吉江 瞬, 織田 繁, 阿部 拓海, 角 潮美, 栗栖 幸久, 和田 健一郎, 柴尾 哲也, 古里 武士, 榊原 和哉, 前原 良美, 岸川 孝明, 岸川 静, 松井 英俊, 米澤 拓也, 木原 卓也, 山口 正徳, 早川 愛, 青柳 英明, 沼口 繁
Special Thanks
Todd Sharp, Hao Chen, 金森 政雄. 小板橋 由誉, 桐本 靖規, 尾谷 紘平, 小林 賢司
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