バイオガスプラントの無人・自動稼働を実現
地域の生ごみをエネルギーや肥料に転換
食品廃棄物などの焼却コスト削減に貢献
概要
株式会社ビオストックは、地域産業の課題解決を通じて持続可能な循環型社会を目指すべく、NTT 東日本のグループ企業として 2020 年に誕生しました。家畜の排泄物や生ごみなどの有機性の廃棄物からエネルギーと肥料を生み出すバイオガスプラントに着目し、これまで実現が難しかった小型化・自動運転に成功。IoT による遠隔監視にアマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用し、生ごみなど廃棄物処理やエネルギー消費の課題を抱えている食品会社や自治体から注目を集めています。
ビジネスの課題 | 再生エネルギーと廃棄物処理の両立のため超小型バイオガスプラントを開発
地域産業は、農業などの 1 次産業における担い手不足、企業や自治体の ESG 経営といった課題に直面しています。世界的にも脱炭素・循環型社会への変革が進むなか、デジタル活用によって再生可能エネルギーの地産地消を支援しているのがビオストックです。同社は、家畜の排泄物や生ごみなどの有機性の廃棄物を、メタン菌で発酵することでバイオガスと液体肥料に変換することができるバイオガスプラントの提供に注力しています。NTT 東日本グループの強みである通信や IT を活用しながら、これまで大規模集中型だったエネルギーシステムや廃棄物処理を小規模・分散化することで社会コスト、環境負荷の低減に取り組んでいます。
設立当初は、北海道を中心とした酪農業で生じる乳牛の排泄物をバイオガス化する大規模プラントを開発していましたが、1 つのプラント設置に数十億円、建設工事も 2~3 年かかります。また、一日に数 10~100 トン単位の原料を集める必要があり、牛を飼っていない地域での展開は困難です。そこで、全国的に課題となっている、食品工場や一般家庭から出る生ごみの処理に着目し、「超小型バイオガスプラント」の開発に乗り出しました。
「日本では多くの生ごみを焼却していますが、実はこの処理方法は世界的にみると稀です。生ごみは水分が多いため燃えづらく、燃えやすいプラスチックなどと混焼する必要があるためです。しかし最近はプラスチックも生ごみも燃やすのではなく、資源としてリサイクルしようという流れが強くなってきています」と語るのは、取締役 事業開発部 部長の井上翔吾氏です。
超小型バイオガスプラントは省スペース/低コストを意識した設計で、海上輸送用のコンテナにほとんどの機器を収めることができ、工場で組み立てた後トレーラーで運び、2~3 日で設置可能です。原料の必要量も 1 日 1 トンからのため、毎日 2~3 トンの食品廃棄物が出る食品工場などでは年間1,000 万~2,000 万円の処理費用を節約し、地産地消のエネルギー生産と脱炭素化に貢献できます。
また、従来のプラントでは専門スキルを持った人員が常時現地にいる必要がありますが、超小型バイオガスプラントではより運用コストを抑えるため、遠隔から監視/管理を行う無人運転システムが有効と井上氏は考えました。そこで 2021年の夏頃、NTT 東日本の関係者から紹介を受け、IoT とクラウドを使ったシステム開発に精通したIoT.kyoto(株式会社 KYOSO)に相談を持ちかけました。
将来的には蓄積したデータをクラウド上の AI が分析し、自動制御を行いたいと考えています。資源循環システムを支えるための要素技術として、AWS のサービスを上手に活用していきたいです”
井上 翔吾 氏
株式会社ビオストック 取締役 事業開発部 部長
ソリューション | 超小型バイオガスプラントの遠隔監視サービスを AWS 上に構築
超小型バイオガスプラントから様々な情報を取得し、クラウドを通じて遠隔管理するという構想に対して IoT.kyoto の担当者は、AWS サービスを活用し、短期間で実証ができる同社のサービス『IoT スターターパック』の利用を提案します。このパックは、数々の IoT プロジェクトの経験から最適なセンサーや機器と AWS サービスなどの連携をスモールスタートできるよう体系化したものです。井上氏は、IoT.kyoto のIoT プロジェクトの実績を評価し、この案を採用しました。
超小型バイオガスプラント遠隔監視サービスにおける AWS システムのアーキテクチャは『おまかせバイオガスプラント』と名付けられ、シンプルながらもスケーラビリティが確保されたものとなりました。プラント側にゲートウェイ機器を設置し、各種機器のデータを PLC(プログラマブル ロジックコントローラ)から無線通信を介して AWS にデータを送信します。データは一旦 AWS IoT Core に集約され、Amazon DynamoDB に蓄積します。蓄積したデータに対し、様々なアプリケーションが処理を実行。たとえば、取得した値に異常があれば AWS Lambda などを使ったアプリケーションで判断し、Amazon Simple Email Service(Amazon SES)や Amazon Simple Notification Service(Amazon SNS)を使って E メールや SMS で監視担当者に通知するなどの処理を行います。従来のプラント監視では、限られた専用環境でしか確認できませんでしたが、この監視システムは NTT グループのセキュリティ基準を遵守しながら、PC やスマートフォンからアクセスしてプラントの状態や設定内容をいつでも確認できます。
「この分野にあまり詳しくない方にも、プラントの状況をわかりやすく伝える画面にしました。24 時間 365 日自動運転し、アラートが出たときだけ対処すればよく、“安くて早くて簡単”というのが特徴です」(井上氏)
おまかせバイオガスプラントの実現にあたり、プラント筐体の製造会社と IoT.kyoto はそれぞれの専門領域について互いに理解を深める必要がありました。井上氏は「IoT.kyoto の担当者がデータの収集方法や頻度等について 1 つひとつ確認するなど調整をしてくださいました。また、開発においても様々な提案をいただき、AWS サービスの活用方法の説明も、プロジェクトを進める上で非常に助けになりました」と振り返ります。
導入効果 | 食品会社や自治体が注目。持続可能な資源循環型社会を目指す
超小型バイオガスプラントとおまかせバイオガスプラントは 2022 年 1 月、東京調布市にある NTT 中央研修センタに初導入され、社員食堂の食べ残しや近隣の小学校の学校給食の調理くずを処理する、都市型の循環エコシステムが実現しました。2023 年 3 月からは環境省の実証事業として、京都市京北地区で地域の生ごみを生分解性ごみ袋で集め、袋ごとメタン発酵する取り組みが始まりました。「これまで遠くの焼却処分場で処理していたものを、近くでエネルギーに変えられます。プラントで生じる消化液は、肥料として農地での活用を検討しています」(井上氏)
このような活動は食品企業を中心に注目を集め、大手食品メーカーにも導入されるなど、廃棄物処理コストや CO2 排出量の削減が進んでいます。学校給食センターの廃棄物に課題を抱えていたり、生ごみを焼却せずに処理をしたい希望を抱えたりしている自治体も興味を示しています。また今後、おまかせバイオガスプラントの他社のプラントへの適用についても相談が進んでいます。
さらに井上氏は、今後のチャレンジとして、プラントの運転に関する機器制御をクラウドで行う構想を明かしました。現在は、プラントの機器制御はプラント側で行っていますが、これは機器の安定性の管理が必要だったからです。しかし、クラウドを利用してプラントの制御を行い、PLC などの装置を削減すれば、さらなるコスト削減や処理の高度化が期待できます。
「当社はシステムをこれからも進化させ、さらなる発展を目指していきます。たとえば、プラント自体のメンテナンスについても、今後はアラート発報後に人が対応するのではなく、蓄積したデータをクラウド上の AI が分析し、自動制御する仕組みについて開発を進めています。忘れてはならないのは、社会システムとしての資源循環システムを作ることです。それを支えるための要素技術として、AWS のサービスを上手に活用していきたいです」(井上氏)
企業概要 : 株式会社ビオストック
東日本電信電話株式会社(NTT 東日本)のグループ会社として 2020 年 7 月に設立。食品廃棄物からエネルギーを生み出す超小型バイオガスプラントなど資源循環ソリューションを提供。一次産業や、自治体、ESG 経営に注力する企業など地域産業の課題解消に貢献し、持続可能な循環型社会の実現を目指している。
井上 翔吾 氏
AWS アドバンストティア サービスパートナー
IoT.kyoto(株式会社 KYOSO)
「まだ世の中にない価値をお客様に届ける」をミッションとし、IoT を中心に AI やサーバーレスコンピューティングなどの最新のクラウド技術を駆使し、DX によるビジネスの変革を支援している AWS パートナー。エンタープライズ領域での IoT プロジェクトに豊富な実績を持ち、デバイスの量産やグローバル大規模プラットフォーム、レガシーな工場設備のレトロフィットなど、難易度の高い領域を強みとしている。
ご利用中の主なサービス
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