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【開催報告&資料公開】AWS メディア業界向け勉強会開催報告
2025 年 7 月 4 日(金)および 2025 年 12 月 17 日(水)に、メディア業界のお客様向けに AWS 勉強会を開催いたしました。放送局のお客様にご登壇いただき、 AWS の活用事例についてご紹介いただきました。登壇者の所属部署および肩書きは登壇当時のものとなります。
AWS メディア業界向け勉強会 #7(2025 年 7 月 4 日開催)
ABC キャッチアップ配信 CMS をサーバーレスで構築してみた
朝日放送グループホールディングス株式会社
DX・メディアデザイン局 サービス開発チーム チーフ
金谷 洋佑 氏
朝日放送グループホールディングス株式会社では TVer や ABEMA 向けに公開している放送素材の管理を行う CMS を2016年頃から AWS 上で稼働していましたが、メタデータの仕様に大きな変更があったことや、Amazon EC2 と Amazon RDS をベースに構築したシステムで運用保守の負荷やコストに課題があったことから、サーバーレスサービスを用いた構成に全面刷新を行いました。CMS のフロントエンドは Amazon Cognito を用いたシングルサインオンと、Amazon S3 の静的ウェブサイトホスティング機能を利用、バックエンドについては Amazon API Gateway、AWS Lambda、Amazon DynamoDB を中心に構成し、社外システムとの連携に関わる部分で AWS Secrets Manager や Amazon SES なども利用しています。
本システムに登録されている2万件を超える放送素材の中から、社内ユーザーは出演者などをキーに必要な素材の検索を行いますが、これらのメタデータの蓄積や検索を、これまで使っていた Amazon RDS ではなく Amazon DynamoDB を用いて実現したことが今回のシステム刷新の中での最大のチャレンジでした。放送素材は通常、シリーズ、シーズン、エピソードという3つの階層で管理されていますが、これを一つのパーティションキーで管理したり、配信先や入稿済みかどうかの情報も一つのソートキーで管理したりするなど、複数の情報を複合キーで表現することや、グローバルセカンダリインデックスを活用することで、ランニングコストの低い Amazon DynamoDB 上で、複雑なクエリを高速に実行することを可能としました。
従来 Amazon EC2 上で動かしていたロジックは 90 近くの Lambda 関数に置き換え、AWS Compute Optimizer による奨励事項を適用することで適切なメモリーサイズの指定とコストの低減を実現することができました。Amazon S3 上に保管する映像素材についても、S3 Glacier Instant Retrieval ストレージクラスを利用することでコストの低減を実現しています。サーバーレスサービスの活用と上述のさまざまなコスト低減策によって、AWS の費用を従来の 1/3 まで削減できました。
ライブキリトリ・タテ型動画生成システム 『シン・キリトリ君』の開発
讀賣テレビ放送株式会社
DX推進局 放送DX部
但馬 晋二 氏
今回開発した『シン・キリトリ君』は、収録した映像素材を専用の編集機上で編集、別の PC に編集後の素材を転送して SNS へと投稿という、複雑な縦型動画の制作フローをもっと簡単に実現したいという社内のニーズから生まれた、動画の切り取りと縦型動画への変換を行うシステムです。SNS の流行りに合わせたシステム改修が今後も続くことが予想される一方で、生成 AI の登場や AWS のマネージドサービスの利用でコーディング量を大きく減らすことができることから、讀賣テレビ放送株式会社では外注ではなく社内メンバーでの内製を選択しました。このシステムは、ライブ配信中にイン点とアウト点を指定して必要な映像素材を切り出す「収録アプリ」と、横型の動画から縦型の動画を切り出したり、縦型フォーマットに合わせた背景画像を挿入したりすることが可能な「切り出しアプリ」から構成されています。切り出しアプリは、複数の動画クリップから1つの動画を作成することや同一素材を複数ユーザーで共有することなども可能です。
Web アプリとして構築したことにより場所を問わず作業が可能になったことと、サーバーレスアーキテクチャの採用によって作業への立ち合いなどの作業負荷や AWS の利用コストを低減できたことが本システムの大きな特徴です。映像素材の変換には AWS Elemental MediaConvert を、動画の合成処理には AWS Lambda を利用しており、MediaConvert 上の変換処理が終了すると Amazon EventBridge 経由でイベントが発火し、AWS Lambda を用いた後処理を自動で開始できるようにしています。
本システムは他社でも活用されており今後も機能追加を進める予定です。既に Amazon EC2 上で YOLO モデルを実行することで物体や顔のトラッキングデータが取得できることを確認していますが、これらを活用した縦型動画の切り抜きや特定のシーンのみを集めた動画の作成、字幕の自動付与などにも今後チャレンジする予定でいます。
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LT枠: AWS で文字起こし検証してみた
関西テレビ放送株式会社
DX推進局DX戦略部 兼 総合技術局制作技術センター
渡邊 真也 氏
近年の AI の発展によって多くの文字起こしサービスが乱立していることから、各社の文字起こしサービスの精度を比較してみました。AWS では Amazon Transcribe という音声テキスト変換サービスがあり、音声の合計時間に基づいて課金されます。ファイルをAmazon S3 バケットにアップロード、もしくはストリーミング形式によってデータの入力が可能で、特定の言語を指定することも、言語を自動識別させることも可能です。
今回は社内の人間に関西弁で話をしてもらい、これを正しく文字起こしできるかを確認しました。1分程度の素材の場合、出力結果が出るまで20-30秒掛かりました。他の文字起こしツールと比べても Amazon Transcribe の出力結果の精度は良く、専門ツールと張り合うことが可能な精度であると感じています。ファイルを入力する場合、一般ユーザーが Amazon S3 にファイルをアップロードすることに障壁があると感じていて、ユーザーに使い勝手の良い Web アプリ等を作成して、その裏側で Amazon Transcribe を動かすような実装が必要になりそうだと考えています。
LT枠: Amazon Nova を使ってみて
株式会社ytvメディアデザイン
ICT技術
藤本 駿 氏
Amazon Nova を含む複数の生成 AI が、静止画から動画を作成したり、画像の描写を行う能力をどの程度持つのかについて調べてみました。影が物体に追従するような違和感の無い動画を生成するモデルもあれば、途中から新たな物体が急に登場する動画を生成するモデルもあり、モデルによって得手不得手があるようでした。
次に食べ物が写っている静止画を入力して、レストランの口コミサイトにあるようなグルメリポートを Amazon Nova に作成してもらいました。ある程度の精度のグルメリポートを作成することは可能でしたが、他のモデルと同様、食べ物によってはそれを正しく識別できなかったり、文字数のカウントが正しく行われないなどの課題もありました。各モデルの進化に期待したいと考えています。
LT枠: ラジオ番組ショート動画生成システム『クリボー(CRIVO)』
株式会社毎日放送
放送運営センター 送出担当
萬谷 和樹 氏
社内ハッカソンをきっかけに生まれた『クリボー(CRIVO)』は、アップロードしたラジオ番組の音声ファイルと静止画ファイルからショート動画を生成することのできるシステムです。30分の素材をアップロードすると、8分ほどの処理時間の中で5本のショート動画を作成することができます。これまでこの作業は人の手で4-5時間掛かっていました。
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LT枠: クラウドスイッチャーで配信してみた
名古屋テレビ放送株式会社
方便 剛 氏
ケーブルレスでの制作環境の構築やクラウド上のソフトウェアスイッチャーを用いたコンテンツ制作の知見を蓄積するために、Amazon EC2 上でソフトウェアスイッチャーの vMix を動かし、その映像を動画配信サイト Locipo で配信するということにチャレンジしました。vMix の操作は Stream Deck と呼ばれる物理スイッチを使ってリモートから行っていますが操作性に問題はありませんでした。
クラウドであるか無いかに関わらず、局舎外に映像を伝送する場合には伝送や処理に掛かる遅延が気になるところですが、ともに AWS 上で構築している vMix と Locipo の配信基盤との間は、遅延を3秒以内に収めることができました。またこの配信の後に vMix 上の設定を見直したところより低遅延での配信も実現できたため、今後の配信でこれらの知見を活かせるのではないかと考えています。
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AWS メディア業界向け勉強会 #8(2025 年 12 月 17 日開催)
カンテレのクラウドセキュリティ第一歩
関西テレビ放送株式会社
DX推進局 DX戦略部 主事
石井 克典 氏
関西テレビ放送株式会社では AWS 上での会計システムの本格稼働を前に、AWS のアカウントチーム、株式会社 JSOL、Security-JAWS などに助言を求めながら、クラウド上で稼働するワークロードに対する、セキュリティ対策の標準化を行いました。一定レベルの安全性を全てのワークロードで担保すること、組織として対応にあたることでセキュリティ対策の継続性や作業負荷の軽減を実現することがこの取り組みの狙いです。
主な対策として
- AWS セキュリティ成熟度モデルに記載の優先度の高いアクションの実行
- AWS Control Tower の有効化とその一機能であるリージョン拒否コントロールの活用
- ベストプラクティスに基づいたマルチアカウント環境の構築
- 在阪放送局セキュリティガイドラインに基づいた Amazon GuardDuty, AWS Security Hub CSPM, AWS IAM Access Analyzer 等の AWS のセキュリティ、アイデンティティ、ガバナンスサービスの有効化
などを行っています。当初はこれらのサービスを有効化することに対するコスト増を懸念していましたが、AWS 全体のコストに占めるこれらのサービスの利用料は想定範囲に収まっています。今後は立ち上げたばかりの AWS 活用・推進チームを人材育成などを通じてより強化するとともに、作業の自動化を推し進めることでより少ない負荷でのクラウドの運用や維持を実現を目指します。
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内製の著作権管理システムを AWS へ──移行を通して見えた「設計の真価」
株式会社毎日放送
コンテンツ戦略局 プラットフォームビジネス部
山下 遼河 氏
著作権管理システムをクラウドサービスから AWS へと移行する際に考慮した「調査性の向上」「同型性の実現」「複雑さの上限を設定」という3つの設計の考え方についてお話しをいただきました。調査性の向上、つまり内部状態の確認とデバッグをより容易に実現するために、これまで使用していたクラウドサービスでは実現が難しかったコンテナ内部へのアクセスを、 Amazon ECS およびその一機能である ECS exec を用いることで実現しました。また AWS Lambda と Amazon CloudWatch を組み合わせて、エラーの通知などをリアルタイムに Slack に送るなどの工夫も施しています。
同型性の実現、つまりローカル環境やステージング環境、本番環境を可能な限り同じ構造で動かすために行ったこととしては、非同期処理を従来のクラウドサービスベースのものから Rails で一般的な Sidekiq と Redis の構成へ変更したことや、それによってローカル環境でも本番時と同じ Sidekiq の処理フローを再現できるようになったことがあります。これによりローカルと本番の動作の差異が解消され、ローカル環境でのデバッグや検証作業の精度が大幅に向上しました。また、複雑さの上限を設定、つまり対応できる担当者が限られてしまうほどの複雑性をシステムに持たせたり、過剰にコストが掛かりすぎることを防ぐために、各コンポーネントが満たすべき可用性を個別に判断して、コンポーネントによってはあえてマネージドサービスを採用せずに Amazon EC2 上で機能構築するなどの判断も行っています。
人事異動等による開発メンバーの交代もありうる中で、低い負荷でシステムを育てそれを運用するためには、これら3つの設計原則は非常に重要です。またこれを実現するために、AWS Cloud Development Kit (CDK) によるインフラストラクチャーの開発や CI/CD パイプラインの構築によるデプロイの自動化も行っています。
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内製ってたのしいよ
東海テレビ放送株式会社
総務局システム部 兼 デジタルビジネス局コンテンツ事業部
瀧 祐作 氏
東海テレビ放送株式会社の AWS の利用は古くは公式サイトの AWS 移行に始まり、視聴者投票システム、プレゼント応募システム、データ放送中間サーバ、AI を用いた PR 文の作成などのシステムについても、社内のメンバーで内製して AWS 上で稼働させています。内製する最も大きなメリットは、自分たちで決めた仕様に沿ってシステムをすぐに作ったり変更を加えたりできること。自由度の高さやオンプレ時と比べてコスト削減できる点も AWS を用いて内製する際の大きな魅力だと感じています。内製する中で新たな技術スタックを試すことは、自身のスキルアップにも貢献します。
内製の取り組みを進める中で最近開発したのは、電話や FAX 等を介して視聴者から寄せられるご意見を集約する「番審システム 」です。AI の手を借りた Vibe Coding へのチャレンジや AWS Cloud Development Kit (CDK) によるインフラストラクチャーの開発、CI/CD パイプラインを用いたデプロイもこのプロジェクトの中で実現しており、ベンダーに外注する場合と比べて数週間単位でスケジュールを短縮することができました。DevSecOps の考え方にも注力しており、現在の CI/CD パイプラインをより強化していくことも今後予定しています。
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LT枠: クラウドマスター実現に向けた機能拡充の研究
関西テレビ放送株式会社
総合技術局放送推進センター 主任
中道 尚宏 氏
関西テレビ放送株式会社では、Inter BEE におけるクラウドを活用した各社のマスター展示などを受けて、自社でもそれを検証する取り組みを進めています。2024年の夏頃から AWS メディアサービスを用いてマスター機能の実現に取り組み、すぐに環境を立ち上げたり落としたりできるクラウドのメリットを最大限享受すべく、最近では AWS CloudFormation を用いた Infrastructure as Code(IaC)の実現にもチャレンジしています。
現在は AWS メディアサービスを用いた映像ストリームの処理と、時刻制御などのロジック、またそれを外部から制御するための API 等を構築済みで、今後は Amazon CloudWatch のメトリクスをベースにしたモニタリングや、Amazon SageMaker AI を用いて独自モデルを作成するなどして、異常が起こる前にそれに気づくための異常予知システムの実現を予定しています。
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LT枠: 「AWS の呼吸 壱ノ型:Twelvelabs 動画分析!!」~全集中で”AI 柱”を目指す~
九州朝日放送株式会社
谷本 亮輔 氏
九州朝日放送株式会社では、技術メンバーが各部署へ足を運び、現場のニーズをヒアリングして、内製によってこれらに応える取り組みを進めています。その活動により、280件ほどのニーズを収集し、現在は80件ほどが解決に至っています。こうした取り組みを継続する中で、未着手の課題を精査したところ、分析や切り出し等の放送素材に関する要望が複数部署から寄せられており、業務効率化への期待が非常に高いことが判明しました。そこで、動画理解が可能なマルチモーダル基盤モデル(FM)である TwelveLabs Pegasus を用いて、映像分析を行うアプリケーションを開発しました。
このアプリケーションに放送素材をアップロードすると、映像と音声を同時に分析し、この素材に含まれるコンテンツを時系列順に抽出・要約して表示します。これにより、番組や素材構成を一目で把握できます。また、解析結果として表示される各項目をクリックするだけで、該当箇所から即時に再生できる仕組みを取り入れました。あわせて、イン点とアウト点の指定(尺指定)、もしくは範囲を視覚的にドラッグすることで、任意部分だけを切り出してダウンロードすることができます。これにより、編成部署における「放送内容と視聴率データの照合による人気コーナーの特定や、番組改編に向けた検討材料の創出」、営業部署における「取引先が露出した箇所の抽出・切り出しおよび送付業務」といった、これまで複数名で多大な時間を要していた手作業が、低く見積もっても従来の10分の1程度の時間で完結できる見通しとなりました。また、1時間の素材をわずか5~10分ほどで解析完了できる処理スピードは、実運用への移行に向けた強力な足掛かりとなっています。
本アプリケーションは、フロントエンドに React を使用。Amazon S3 に保存した放送素材に対して Amazon Bedrock 上の TwelveLabs Pegasus で分析を行い、その結果を Amazon DynamoDB に格納しています。
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まとめ
メディア業界向け勉強会の開催概要をご紹介させていただきました。内容について詳しく知りたい方は、記事上部より資料のダウンロード及び動画を視聴いただけますのでご確認ください。引き続き業界の皆様に役立つ情報を、セミナーやブログで発信していきますので、どうぞよろしくお願い致します。
参考リンク
AWS Media Services
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)
AWSのメディアチームの問い合わせ先: awsmedia@amazon.co.jp
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この記事は SA 小南英司が担当しました。










