組織を超えてクラウドで繋がる !
エンジニアの挑戦マインド醸成に向けた取り組み
Author : 北原 康太(株式会社豊田自動織機ITソリューションズ)
こんにちは、株式会社豊田自動織機ITソリューションズ (以下 TIIS と呼称) の北原です。
私は社内の CCoE (Cloud Center of Excellence) メンバーとして、クラウド活用の推進を担当しています。
CCoE の活動の一環として、社内のエンジニアに対して世の中の最新のクラウド技術の情報発信を行うために、社外イベントでの情報収集を実施しています。
その活動の中で、昨年開催された AWS Summit Tokyo 2023 に参加しました。
AWS Summit 2023 では、「たけのこの里が好きな G くんのために、きのこの山を分別する装置を作ってあげた」と題された、きのこの山とたけのこの里を画像認識で分別する装置が展示されていました。私はこの装置を見て、製造業 IT を生業とする弊社のメンバーの興味を掻き立てるものだと感じました。
そこでこの展示のアイデアを持ち帰って、メンバーと一緒にワークショップを開催して、同様の分別装置を作ってみたいと考えました。このような遊び心をもった活動からクラウドを触るきっかけや普段の業務ではあまり接点がないメンバーと楽しみながら新しいものを作り上げる体験ができそうだと期待を膨らせました。
エンジニアの挑戦マインドを醸成したい
企業文化変革活動「TIIS-X」
TIIS では、他社より魅力ある TIIS 独自の働きがいや共通の価値観を創る活動として 、社員ひとり一人がやりがいをもち、幸せに働き続けられる会社にするための企業文化変革活動を実施しています。
その活動の中で、2022 年度より「TIIS-X プロジェクト」が発足しました。いくつかある TIIS-X の活動の中の最新テクノロジーの利用をする活動を TIIS の CCoE が推進しています。
TIIS が進める企業文化変革活動
CCoE では、立ち上げから 1 年間活動してきた経験やこれからの想いを基にメンバー間で議論を重ね、「未来への挑戦。仲間と共に変革を。」という CCoE の核となるミッション を決定しました。
クラウドをはじめとする最新のテクノロジーの情報にアンテナを張り、全社員に対して Slack で情報発信 を行っています。また、エンジニアが新しい技術に触れるワークショップを開催することで創造性を刺激し、新たなアイデアが生まれる土壌を整備しています。
CCoE ミッション
CCoE が主導する重要な取り組みの一つが、「X-Garage」 と呼ばれる活動です。この名前はガレージ発祥のビッグIT企業にあやかりTIISの飛躍に想いを込めて命名しました。
X-Garage は、エンジニアの創造性を引き出し、新たなアイデアやビジネスを生み出す環境や機会を提供することを目的にしています。そして、部署や職能などの壁にとらわれず、自由に活動できる場として提供する ことで、エンジニア同士で刺激し合い、新たな視点での気づきや学びを得ることで、挑戦マインドを育成する活動を実施しています。
X-Garage の取組みの一環として AWS のソリューションアーキテクトと一緒に 「きのこの山・たけのこの里ワークショップ JetsonNano でエッジ推論しよう !」と題したワークショップの開催をすることになりました。
ワークショップ準備
ワークショップの企画を本格的に始めたのは、AWS Summit から 4ヶ月経った 2023 年 8 月頃でした。まずは、AWS のソリューションアーキテクトと相談することから始め、ワークショップ開催日やワークショップの進め方などについて、アドバイスをいただきながら調整を開始しました。その後、ワークショップの実施に向けて参加者の募集やスコープを明確化していきました。開催するワークショップは単なる技術の紹介やサービスを学ぶだけにとどまることなく、エンジニアの創造性を掻き立てることを目的に置くことにしました。そのため、ハンズオンを中心とした参加型のワークショップとし、一方的な講義形式は避けることにしました。
また、参加者のスキルレベルにも配慮が必要でした。ワークショップの参加者は全社への情報発信の場を活用したため、クラウド初心者から上級者まで幅広いレベルが見込まれました。また、クラウドスキルだけではなく機械学習による画像認識の経験や製造ラインの自動制御で用いられる「ライン制御」の経験 も配慮しなければいけないポイントでした。
そこで、レゴブロックを使って簡易ラインを作成する初心者・中級者向けの「カジュアルチーム」とドイツ製ミニチュアラインと PLC 制御を使った上級者向けの「ガチ勢チーム」の 2 つのチームに分けました。各チームのリーダーにはこれまでに機械学習や AWS の経験があるメンバーを配置し、参加者の年次や業務領域になるべく偏りが出ないようにチーム編成を実施しました。
ガチ勢チームは TIIS オリジナルの取り組みです。ガチ勢チームで特に重視したのが、ワークショップで得た経験を実際の業務にフィードバックすることです 。例えば、ミニチュアラインの制御で学んだ PLC の知見は、製造現場の自動化システムに役立てられるかもしれません。また、それらとクラウドサービスを組み合わせたアプリケーションを構築する経験は新しいアイデア創出にもつながる可能性もあります。
このように遊び心から発したアイデアを形にしながらも、 実業務への還元を意識した取り組みにしたかったのです。参加者のハードルを下げつつ、実践的な価値も提供することを狙いとしました。
ワークショップ
ワークショップでは、「たけのこの里が好きな G くんのために、きのこの山を分別する装置を作ってあげた。~ 分別装置作成編 ~」を実施していくために必要な Amazon SageMaker 及び機械学習、AWS IoT Greengrass について、作者の AWS SA 呉さんと市川さんに講義をしていただきました。
その後、実際にきのこの山・たけのこの里を判別するための AI モデルを作成するハンズオンに入っていきました。(下図の黄色線)
まずクラウド上で推論用のAIモデルを作成しました。クラウドの推論の大まか流れとしては、
- Jetson Nano に接続されている Web カメラできのこの山・たけのこの里の写真を撮影し、Amazon S3 にアップロード
- Amazon SageMaker Ground Truth できのこの山・たけのこの里をラベリング
- ラベリングデータの整形(ランダムクロップ)
- Amazon SageMaker で学習・推論を実行
全体アーキテクチャ
この 4 つの工程の中で特に印象深かったのが、Amazon SageMaker Ground Truth でのラベリングです。写真一枚一枚に対して、すべて手作業できのこ山・たけのこの里の位置を矩形で選択していくため、かなり集中力がいる細かな作業を求められました。同じ写真を使っているのにも関わらず、人によってラベルデータを使ってトレーニングされたモデルの判定精度に数 % の差が出てくるところが面白かったです。
精度の高い AI モデルを作るためにはラベリングが非常に重要な作業であることを学びました。
しっかり判定できています !
クラウド上での推論ができたら、その AI モデルをエッジデバイス (Jetson Nano) 上で推論できるようにしていきます。(下図のピンク線)
AWS IoT Greengrass をエッジデバイスにインストールし、その上で推論モデルを動かします。
IoT Greengrass はエッジデバイス上で動くソフトウエアとクラウドのサービスを含めた物であり、これを利用することによって、同一のアプリケーションや推論モデルのデプロイを簡単におこなえることを学びました。
この機能は、私たちが担当する製造業の領域でも活用できそうだと感じました。工場に設置された多数の機器に対して、AI モデルやソフトウェアの更新を一括で行えるため、現場でのアップデート作業が格段に容易になるはずです。IoT Greengrass のようなクラウドサービスを活用することで、製造現場の生産性と効率が大きく向上する可能性があります。
各チームの活動の様子
ワークショップ当日は、AWS のソリューションアーキテクトの方々からサポートを受けながら学びました。ワークショップ後は、各チームがその内容をおさらいしつつ、エッジデバイス上での推論後の分別装置の物理制御に取り掛かっていきました。 カジュアルチームは、M5stick、サーボモーター、レゴを組み合わせ、ベルトコンベアの速度やサーボモーター角度の微調整を試行錯誤しながら構築していきました。クラウドならではのあるあるですが、 UIが変わって戸惑いましたが、サービスの機能向上と前向きに捉えて乗り越えました。
一方、ガチ勢チームはミニチュアラインを利用しているので、カジュアルチームのように物理的な構築は発生しませんでしたが 、PLC のソフトウェアにラダープログラムを書き込んでいく必要がありました。ミニチュアラインはカジュアルチームに比べ、ベルトコンベアのスピードが速かったり、カメラとベルトコンベアが近いため推論を早くかつ正確に行う必要がありました。そのため、何度も推論モデルの作成をして、分別の正確さを高めていきました。また、ラダー図の記述を経験したことがあるメンバーは少なかったため、戸惑いを感じながらも検証を進めていきました。決して簡単なものではありませんでしたが、チームワークを発揮することで、一つひとつ課題を乗り越えていったのです。
その他、こだわりポイントとしてメンバーの一人が 3D プリンターを使って、Jetson Nano の会社ロゴ入り収納ケースと電圧変換を行う中継器、カメラのジョイント部分を自作しました。この出来栄えにはメンバー一同驚きました。(笑)
ミニチュアラインの全体像
Jetson Nano の会社ロゴ入りケース
電圧変換中継器ケース
以下が完成した分別装置です。
カジュアルチームライン
ガチ勢チームライン
まとめ
ワークショップ終了後、参加者からは「ソリューションアーキテクトの皆さんと交流しながら、実際にモデルを作成でき、楽しく学ぶことができた」「さらに AWS が好きになった」「基礎知識に不安があったが、手順とフォローがしっかりしていたため、最後までやり切ることができた」といった声が聞かれました。また、「普段は関わることのない部署の人と協力出来て刺激になった」という声もありました。
AWS では様々なサービスが用意されています。そのサービス 1 つ 1 つは単体で利用することもできますが、サービス同士を連携させることでより高度なことを実現できることが大きな強みだと思っています。
今回のワークショップでは、異なる部署のメンバーがまさにそうしたサービス同士の ”つながり” を構築していきました。ワークショップを通して、クラウドサービスの ”つながり” を体験してもらいながら、異なる部署のメンバーが協力し、1 つのものを創り上げていく。そうした人と人同士の ”つながり” に対しても、このワークショップを通じて貢献できたと思います。
今後もこのような取り組みに挑戦し、エンジニアに創造的な機会を提供し、新しいアイデアが次々と生み出されるような土壌を整備していきたいと思います。
みんなでたけのこポーズ !
筆者プロフィール
北原 康太 (Kota Kitahara)
株式会社豊田自動織機ITソリューションズ
入社後、インフラエンジニアとしてキャリアをスタート。アプリケーション開発基盤の構築・運用保守を担当し、2023 年より CCoE として活動。
近所のまぜそば屋さんで、まぜそばを食らうことが最近の幸せです。
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