nib Group

ディスカバリー、デリバリー、スケール: nib Group による機械学習の導入の内側

2021 年

自動化における先駆者

オーストラリアとニュージーランドに 140 万人以上の加入者を有する nib Group (nib) は、この地域における大手医療保険会社の 1 つです。最新の機械学習イノベーションを活用して、より速く、より正確に、より効率的に加入者に対応しています。

「私たちは、機械学習で道を切り開いてきたと自負しています。加入者により迅速かつ容易に請求を行ってもらえるようにし、同様に、現場チームが、チャットボットで回答できる契約内容の質問に対応することなく、重要な問い合わせに集中できるようにしたいと考えています」と、nib の Emerging Technology and Data Platforms の責任者である Mathew Finch 氏は述べています。

nib のデベロッパーチームは、数年前から自動化と機械学習のテストを行っています。機械学習の能力をさらに高めたいと考えている同社は、アマゾン ウェブ サービス (AWS) のプレミアパートナーであるデータサイエンスコンサルティング会社 Eliiza に相談しました。

Eliiza は、エンジニアとデータサイエンティストからなるチームを結成し、Amazon Textract を使用して構築された Melvin という機械学習エンジンの設計を支援しました。また、Amazon Kendra を使用して nib のチャットボットである nibby を強化しました。これらは、2 つのまったく異なる顧客サービスの課題に対する革新的な AWS ソリューションです。

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Amazon Textract が世界水準であることはすぐにわかりました。このパフォーマンスに匹敵するものはありませんでした。

Mathew Finch 氏
nib Group、新技術およびデータプラットフォーム責任者

最初の課題: より多くの請求を、より迅速に、より低いコストで処理すること

nib は 2015 年に、加入者がモバイルアプリで健康保険の請求書を提出できる画期的なツールをリリースしました。医療費の領収書を撮影し、アプリに直接アップロードすると、通常 24 時間以内に有効な経費が払い戻されます。

加入者にとっては大きな前進でしたが、nib の請求処理チームは、領収書から顧客番号、薬、用量、日付、プロバイダー番号などのデータを抽出し、この情報をデータベースに入力するために大変多くの時間を費やしていました。

「私たちは、文字起こしやデータ入力というルーチンワークを自動化する方法を試すことにしました。私たちの最終目標は、より多くの請求を、より簡単に、より短時間で処理し、会社の請求処理チームが、検証プロセスにおけるより重要なステップに集中できるようにすることです」と、Eliiza の CEO である James Wilson 氏は述べています。

「私たちは、領収書からデータを『読み取り』、データベースの対応するフィールドに事前入力する機械学習エンジンの構築に着手しました。私たちのソリューションは、nib Group の請求処理チームと同じように迅速かつ正確である必要がありました。また、機密性の高い医療データを損なうことなく、既存の請求処理アーキテクチャにきちんと入れ込む必要がありました」

統合へのシームレスなアプローチ

nib の機械学習の導入は、関係者が集まって解決すべき課題を特定する「ディスカバリー」ワークショップで幕を開けました。その結果、次のステップと反復の指針となる「機械学習ブループリント」が作成されました。

「デリバリー」の段階では、Eliiza と nib Group は、手書きや印刷物などの画像ベースのテキストをマシンエンコードされた電子テキストに変換するために用いられる画像認識技術である光学文字認識 (OCR) などのさまざまなテクノロジーを用いて、少数の模擬文書のテストを開始しました。最終的に、1 つのソリューションが他のソリューションよりも優れていることがわかりました。それが、ほぼすべてのドキュメントからテキスト、手書き文字、データを自動的に抽出する機械学習サービスである Amazon Textract でした。

「Amazon Textract が世界水準であることはすぐにわかりました。精度はもちろん、低画質の画像を読み取る能力においても、このパフォーマンスに匹敵するものはありませんでした。私たちが直面している課題の多くに対応していました」と Finch 氏は述べています。

ちょっとした問題もありました。Amazon Textract はオーストラリアでまだリリースされていませんでした。それでもひるむことなく、Eliiza と nib は 2019 年初めに Amazon Textract を使って「Melvin」と名付けられた機械学習エンジンの構築を始め、同年末に Amazon Textract がオーストラリアで発売されるまでパイプラインを待機させました。

「これは、実際、複数のメリットがありました。エラー検出と修正のメカニズムを実装し、自動化のレベルを深めるための時間を確保することができました。私たちのソリューションを MIMS 医薬品データベースなどの他のデータベースと統合すれば、請求の妥当性を検証することもできます」と、Wilson 氏は述べています。

Melvin のコンポーネントは、既存の nib データ構造を使用してローカルで開発、テストされました。完成後、Melvin は、非同期処理を容易にする Amazon Simple Queue Service (Amazon SQS)Amazon Lambda を使って、同社の処理フレームワークに直接組み込まれました。一方で、顧客の機密データが流出するリスクを最小限に抑えるため、Eliiza はこのデータが AWS 環境を離れることがないよう、隔離するための「檻」を作りました。

より迅速な反復のためのスケールアップ

2020 年 5 月より、nib は Melvin を使用して、驚異的な精度でデータを抽出し、データベースに自動入力するようになりました。Amazon Textract の精度は、事前入力されたフィールド全体で 87% を超え、事前入力されたフィールドのほぼ半数で精度が 95% 以上となっています。全請求の約半分が、手作業による再入力やデータ入力の調整なしに処理されています。あとは nib のチームが迅速に請求を確認し、処理するだけです。

その結果、Melvin によって各請求の処理を 20 秒程度短縮でき、大幅に多くの請求を毎日処理できるようになりました。

Melvin は既に 1 日あたり 150 件以上の請求を処理しており、nib で近い将来、請求の何割かを人手を介さずに処理できないか模索しています。「結局のところは、それが最終目標です。理想を言えば、リアルタイムに自動処理される請求の割合を増やし、加入者が数分以内に回答を受け取れるようにしたいと考えています。それが私たちが目指しているものであり、達成するには、データ抽出が重要な役割を果たします」と、Finch 氏は述べています。

次のハードル: nibby の投入

nib は、2017 年にチャットボット nibby をリリースしました。AWS パートナーである DiUS とのパートナーシップにより、Amazon Alexa に搭載されているのと同じ深層学習テクノロジーである Amazon Lex を使用して構築されました。このチャットボットのおかげで、基本的な契約補償内容に関する質問が nib のコンタクトセンターに転送されず、エージェントはより複雑な問い合わせに集中できるようになります。

「Lex を選んだのは、当社の AWS 環境の他の側面とシームレスに統合できる完全なパッケージであったからです。データサイエンティストを雇用しなくても、機械学習モデルを作成するための手間のかかる作業は Lex が処理してくれました。概念実証は、4~6 週間で開発できました」と、Finch 氏は述べています。

このチャットボットは、非常に大きな成功を収めました。現在、チャットによる問い合わせの約 65% は nibby で処理され、コールセンターでの解決に回される問い合わせは 35% にとどまっています。この保険会社で処理するチャットの数は、nibby のリリース当初は 4,000 件程度でしたが、現在では月間 15,000 件程度に増えています。

この成功を踏まえ、2019 年、nib は Eliiza と提携し、nibby のスピードと精度をさらに向上させ、nibby のデータをより効率よく分析することを目指すことになりました。しかし、どのような方法で実現できるのでしょうか。

高度な自動化とインテリジェントな検索をクリック操作のみで実現

両社では、機械学習を活用したインテリジェントな検索サービスである Amazon Kendra のテストを開始しました。

加入者から「レントゲン撮影は保険適用になりますか」と聞かれたときに、nibby は的確に詳細を答えることができるようになりました。これまでは、nibby は、契約文書へのリンクを共有していました。残念ながら、大半の利用者はこれらの文書を読むことはなく、代わりに電話やオンラインチャットで連絡を取ることがほとんどです。現在、nibby は、特定の保険契約に関する加入者の質問に対して、正確な回答を即座に提供するために必要なコンテンツを備えています。

これを実現するために、Eliiza は Amazon Kendra を使って、nibby の「Kendra Index」を構築しました。この Index は、数ページに及ぶ 40 以上の商品開示文書、複数ページに渡る長い契約書 PDF 複数件、FAQ を取り込んで作成されました。

「セットアップは、驚くほど迅速に行えました。Eliiza では数回クリックするだけで、Kendra Index を簡単に設定し、関連するデータソースに接続することができました」と、Finch 氏は述べています。

Eliiza の機械学習エンジニアである James Dunwoody 氏はさらに、次のように述べています。「従来の検索テクノロジーとは異なり、Kendra の自然言語検索機能のおかげで、Index 内にどれだけ深い部分に情報があっても、nibby は迅速かつ正確に質問に答えることができます」

このソリューションは、2021 年にロールアウトされる予定です。また、Eliiza は nibby のチャットデータの活用でも nib と連携しており、これまでに 30 万件以上の会話が照合されています。

最終的には、nib と Eliiza は、電話による問い合わせにも対応できるよう、nibby を拡張していきたいと考えています。

「現在、Amazon Connect を利用して、nibby をチャットのみでなく、音声ベースにすることも検討しています。そうすることで加入者は、非常に人間らしく聞こえる音声のボットと会話でき、コンタクトセンターへの問い合わせをさらに減らすことができます」と、Finch 氏は述べています。

「月間 15 万件の問い合わせがありますが、これはチャットによる問い合わせの 10 倍になります。このような電話の 10% でも減らすことができれば、大きな節約と効率化につながります」

さらなる高みを目指して: nib がセルフサービスの目標を達成した方法

非常に手間のかかる反復的な作業を AWS のテクノロジーに任せることにより、nib はセルフサービスの目標 (加入者からの問い合わせのうち、人の手を介さないものの割合) を継続的に改善する見込みです。

「成功のための重要な指標の 1 つはセルフサービスであり、それは、チャット/ボイスや加入者の問い合わせの分野におけるすべての作業を判断する基準になっています」と、Finch 氏は述べています。

8 か月前、この保険会社のセルフサービス率は 35%~40% でしたが、現在では 65% に達しています。つまり、コンタクトセンターに送られるチャットは 35% ほどであり、残りは nibby が適切に処理するため、従業員はより複雑なケースに対応できます。

「セルフサービス率が 50% を超えるとは考えてもいませんでした。65% という数字には本当に満足しています。これは、Amazon Kendra や Amazon Lex など、さまざまなテクノロジーを組み合わせた結果であり、現在も nibby を後ろから支えています。私たちの目標は、セルフサービス率を可能な限り上げ続けることです」

Amazon Textract から Amazon Lex や Amazon Kendra まで、nib は AWS の一連のソリューションを採用することによって、現状に挑戦し、業界初の革新的なソリューションを提供しています。

現在はまさに、人工知能や機械学習を革新的な方法で取り入れるデータ駆動型企業にとって、エキサイティングな時代です。nib は、データ入力や加入者からの問い合わせ対応など、時間のかかる作業を自動化することで時代をリードする、革新的な企業の 1 つです。


nib Group について

nib Group (nib) は、オーストラリアとニュージーランドの 140 万人以上の加入者に健康保険と医療保険を提供しています。加入者が十分な情報を得たうえで医療に関する意思決定を行い、医療システムを利用し、多くの人が健康的な生活を送れるようなサポートを行っています。また、nib Group は、約 20 万人の留学生や労働者に健康保険を提供しています。オーストラリアで 3 番目に大きい旅行保険会社で、nib Travel を通じて旅行保険を世界規模で取り扱っています。

利点

  • 87%~95% の精度でデータを抽出して事前入力することにより、請求あたりの平均処理時間が 20 秒短縮
  • 処理された請求の 50% は追加の人的作業やデータ入力の修正が不要なため、従業員はより複雑なケースに集中可能
  • わずか 18 か月で nib Group のセルフサービス率は 35~40% から 65% に上昇
  • nib のチャットボット nibby では、現在、月あたり 15,000 件のチャットを処理 (2017 年は 4,000 件)

使用されている AWS のサービス

Amazon Textract

Amazon Textract は、スキャンされたドキュメントからテキスト、手書きの文字、データを自動抽出する機械学習サービスです。この機能では、単純な光学文字認識 (OCR) のレベルにとどまらず、フォームやテーブルのデータも識別、理解したうえで抽出することが可能です。

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Amazon Lex

Amazon Lex は、音声やテキストを使用して、任意のアプリケーションに対話型インターフェイスを構築するサービスです。Amazon Lex では、音声のテキスト変換には自動音声認識 (ASR)、テキストの意図認識には自然言語理解 (NLU) という高度な深層学習機能が使用できるため、非常に魅力的なユーザーエクスペリエンスを伴うアプリケーションや、リアルな会話を実現するアプリケーションを構築できます。

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Amazon Kendra

Amazon Kendra は、機械学習を原動力とする高精度のインテリジェント検索サービスです。Kendra を使用すると、ウェブサイトやアプリケーションのエンタープライズ検索に対する考えが変わります。お客様の従業員や顧客は、企業内の複数の場所やコンテンツリポジトリにコンテンツが分散して保存されている場合であっても、目的のコンテンツを簡単に見つけることができます。

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AWS Connect

Amazon Connect は使いやすいオムニチャネルのクラウドコンタクトセンターであり、お客様が優れた顧客サービスを低コストで提供するのに役立ちます。10 年以上前、Amazon の小売業には、顧客に個人的かつダイナミックで自然な体験を提供できるコンタクトセンターが必要でした。

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開始方法

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