Amazon Web Services ブログ
自動車および製造業界むけ AWS re:Invent 2025 のダイジェスト
AWS の年次フラッグシップイベントである AWS re:Invent 2025 は、 2025 年 12 月 1 日から 5 日にかけて開催され、5 日間にわたる基調講演、ブレイクアウトセッション、製品発表、ライブデモが行われました。本イベントでは、多数の新しいサービスや機能が発表されました。本振り返りでは、自動車および製造業にとって特に重要なハイライトとして、主要な発表内容、実際のお客様事例、注目のデモを取り上げます。内容は戦略的なワークロード領域ごとに整理されており、現在のプロジェクトや優先事項に対応するトピックをすぐに確認できる構成になっています。
Autonomous Mobility
自動運転車 (AV) および高度運転支援システム (ADAS) の開発は、計算性能とストレージリソースの両面で非常に高い要求が課されるワークロードです。 AWS CEO の Matt Garman は基調講演において、 AWS Trainium3 チップを搭載した AWS Trainium3 UltraServers の一般提供開始を発表し、次世代の Trainium4 チップに関する展望も共有しました。Trainium3 UltraServers は、 AI トレーニングおよび推論ワークロード向けに高いパフォーマンスを提供し、 Trainium2 UltraServers と比較して最大 4.4 倍の計算性能、 4 倍のエネルギー効率、そして約 4 倍のメモリ帯域幅を実現します。これらは、次世代のエージェンティック AI 、推論モデル、強化学習に最適化されており、自動運転の意思決定システムのトレーニングや、複雑な運転シナリオを推論できる AI エージェントの開発に適しています。
AV および ADAS ワークロードでは、 Amazon S3 の最大オブジェクトサイズが 5 TB から 50 TB に 10 倍拡張されたことで、 LiDAR のポイントクラウド埋め込みやカメラ特徴ベクトルなど、巨大なセンサーデータセットの保存と分析が容易になりました。 Amazon S3 Vectors は現在一般提供されており、 1 インデックスあたり最大 20 億ベクトルまでスケールし、最大 90% のコスト削減を実現します。これにより、ペタバイト規模のデータで学習された知覚システムを支援します。
AWS はさらに、 Amazon OpenSearch Service においてサーバーレス GPU アクセラレーションと自動最適化されたベクトルインデックスを導入しました。これにより、大規模なベクトルデータベースを最大 10 倍高速かつ低コストで構築でき、リアルタイムの類似度検索が可能になります。加えて、 AWS Clean Rooms におけるプライバシー強化型の合成データ生成により、エッジケース向けのトレーニングデータ作成が可能になりました。また、 Amazon Nova 2 Omni (プレビュー) は、テキスト、画像、動画、音声を横断したマルチモーダル分析と推論を実現し、知覚および意思決定支援ワークフローを支えます。
AMZ304 のブレイクアウトセッションでは、 Zoox が Amazon SageMaker HyperPod を使用して自律走行ロボタクシー向けの基盤モデルをトレーニングしている事例を紹介しました。カメラ、 LiDAR 、レーダーデータを処理するマルチモーダルモデルを実行し、複雑なエッジケースに対応しています。Amazon SageMaker の Hybrid Sharded Data Parallelism (HSDP) とテンソル並列処理を組み合わせることで、 64 GPU を超える環境で 95% の GPU 利用率を達成し、 AWS Data Transfer Terminals を通じて最大 400 Gbps の速度で毎時最大 4 TB の車両データを取り込んでいます。Zoox は, 正式にサービスを開始した自律走行ロボタクシーサービスのデモンストレーションを、 re:Invent 期間中に実施しました。
Software Defined Vehicle (SDV)
AWS は 2025 年 7 月に、仕様駆動型開発によって構想から本番までを支援する AI IDE Kiro をリリースしました。さらに AWS は、新たなクラスの AI エージェントである 3 つの frontier agents 発表しました。 Kiro 自律エージェント、 AWS Security Agent 、 AWS DevOps Agent は、ソフトウェア開発チームの一員として数時間から数日間稼働し続けることができます。 Kiro 自律エージェントは、ソフトウェア定義車両開発を加速するための仮想開発者として活用できます。
Matt Garman は基調講演で、 AWS 史上最も高性能かつ高効率な CPU である Graviton5 も紹介しました。 Graviton5 ベースの新しい Amazon EC2 インスタンスは、前世代と比較して最大 25% 高い性能を提供し、キャッシュサイズは 5 倍に拡大されています。
IND382 のセッションでは、日産自動車が AWS 上での新しい Nissan Scalable Open Software Platform を通じて、ソフトウェア定義車両の開発をどのように加速しているかを共有しました。このプラットフォームにより、テストは 75% 高速化され、世界中の 5,000 人以上の開発者がソフトウェア開発、データ管理、車両運用で協働できる統合クラウド環境が提供され、機能更新の迅速化が実現されています。また CMP360 のセッションでは、 AWS が Graviton5 の設計と性能について詳しく解説し、 Siemens 、 Synopsys 、 Honeycomb 、 Airbnb 、 SAP などの顧客による実ワークロードでの結果と、 Graviton プラットフォームへの移行および運用に関する知見が共有されました。
Connected Mobility
すべての AWS お客様は、ワークロード向けに伸縮性と信頼性の高いコンピューティング基盤の恩恵を受けていますが、これはコネクテッドモビリティのバックエンドを運用する自動車業界のお客様にも当てはまります。 AWS は、 AWS Lambda (Lambda), Amazon Elastic Kubernetes (Amazon EKS), Amazon EMR に対して、コネクテッドモビリティのユースケースに関連する新機能を発表しました。
AWS は Lambda Managed Instances を発表しました。これは、サーバーレスの運用の簡便さを維持しながら、独自の Amazon EC2 上で Lambda 関数を実行できる新機能です。この機能により、特定のコンピューティング要件への対応や、定常的なワークロードのコスト最適化が可能になります。 Lambda Durable Functions は、長時間実行されるタスクにおいて最大 1 年間の実行停止と自動チェックポイント、障害復旧を可能にし、信頼性の高いマルチステップアプリケーションや AI ワークフローを構築できます。 Amazon EMR Serverless は、 Apache Spark ワークロード向けにサーバーレスストレージを提供し、ローカルストレージのプロビジョニングを不要にすることで、データ処理コストを最大 20% 削減し、ディスク容量不足によるジョブ失敗を防ぎます。
Amazon S3 Tables には 2 つの新機能が追加されました。データアクセスパターンの変化に応じてストレージコストを自動最適化する Intelligent-Tiering ストレージクラス と、 AWS リージョンおよびアカウント間で Apache Iceberg テーブルの一貫したレプリカを自動的に維持する レプリケーション機能 です。これにより、地理的に分散したコネクテッド車両データの管理が可能になります。また AWS は、 AWS の Virtual Private Cloud (VPC) と他クラウド上の VPC を高速に接続できるマネージドプライベート接続サービス AWS Interconnect – multicloud(プレビュー) を発表しました。
IND308 のセッションでは、 BMW が Amazon API Gateway, AWS Step Functions, AWS Lambda, Amazon Simple Notification Service (SNS), Amazon Simple Queue Service (SQS), Amazon DynamoDB を用いて、モノリシックな Java EE アプリケーションからイベント駆動型サーバーレスアーキテクチャへ移行し、Connected Drive のリモートサービス基盤をモダナイズした事例を紹介しました。この新しいソリューションにより、新機能の市場投入までの時間は 60% 短縮され、 AWS インフラコストは 20% 削減され、インフラ運用負荷も軽減されました。現在では、 1 日あたり 166 億件以上のリクエストを処理し、 184 TB 以上のデータと 1 億件の API コールをサブ秒レイテンシーで処理し、 2,450 万台のコネクテッド車両を支えています。
Digital Customer Engagement
デジタルカスタマーエンゲージメントは、音声、チャット、デジタルチャネル全体にわたって、シームレスでパーソナライズされ、信頼性の高い体験をエンドユーザーに提供すると同時に、ブランドの一貫性、コンプライアンス、運用ガバナンスを維持するというお客様のニーズによって推進されています。今回の発表では、会話型 AI モデルおよび本番環境で利用可能なエージェントに焦点が当てられました。
Amazon Nova 2 モデルファミリー は、顧客とのインタラクションの選択肢を拡張します。音声から音声までの体験を提供する Amazon Nova 2 Sonic 、 100 万トークンのコンテキストウィンドウによる拡張推論を可能にする Amazon Nova 2 Lite 、そしてテキスト、画像、動画、音声を横断したマルチモーダル入力に対応する Amazon Nova 2 Omni (プレビュー) が含まれます。カスタマージャーニーにおけるアクション実行のために、 Amazon Nova Act は、フォーム処理、検索および抽出、予約、 QA などの UI ワークフロー自動化を、信頼性高く構築、デプロイ、運用することを支援します。
エンタープライズ規模で安全かつ効果的にエージェントを構築、デプロイ、運用するために、 Amazon Bedrock AgentCore は、品質評価、ポリシー制御、強化されたメモリ機能、自然な対話機能を提供します。これにより、企業全体でエージェントを展開することが可能になります。さらに、 Amazon Bedrock では 18 種類のフルマネージドなオープンウェイトモデルを含むモデルカタログが拡充され、品質、レイテンシー、コストのバランスに応じた柔軟な選択が可能になりました。
IND320 のセッションでは、 Toyota Motor North America と Toyota Connected が、 Amazon Bedrock を用いて AWS 上にエージェント型 AI プラットフォームを構築し、 RAG (検索拡張生成)ベースのディーラーアシスタントを提供している事例を紹介しました。このアシスタントは、公式な車両情報へ即座にアクセスでき、月間 7,000 件以上のインタラクションをサポートしています。 Toyota のプラットフォームは 2026 年に次世代システムへと進化し、 AgentCore Runtime, AgentCore Identity, AgentCore Memory を追加することで、安全にスケールし、ローカル在庫確認などのアクション実行を可能にする予定です。
IND3329 のセッションでは、 Cox Automotive が、エージェント型 AI をプロトタイプから本番環境へわずか数週間で移行した事例を紹介しました。同社は Amazon Bedrock AgentCore と Strands Agents を用いて 5 つのエージェント型 AI 製品をデプロイしました。完全自律型のバーチャルアシスタントは、人の介在なしに営業時間外の販売およびサービス対応を行っており、強力なガードレール、評価、コスト管理によって支えられています。 SPS313 のセッションでは、Volkswagen Group が、独自の画像ライブラリでトレーニングしたカスタムファインチューニング済みの拡散モデルと Amazon Nova を組み合わせ、各市場においてブランドガイドラインを自動的に適用することで、グローバルマーケティングをどのようにスケールさせたかを説明しました。
IND3326 および INV204 のセッションでは、大規模なデジタルエンゲージメントに焦点が当てられました。 Formula 1 は AWS Media Services とエージェント型 AI を活用し、同期されたマルチビュー配信を実現するとともに、運用上の根本原因分析を自動化しています。一方 Lyft は、会話型エージェントを用いてカスタマーサポートを変革し、解決までの時間を数分に短縮し、やり取りの半数以上を人のエージェントを介さずに解決しています。
製造およびサプライチェーン
生成 AI (GenAI) 、特にエージェント型 AI は、製造およびサプライチェーン管理を大きく変革しています。 Matt Garman の基調講演では、推論と行動が可能な最新の AI エージェントが、これまで専門家による判断や手作業を必要としていたタスクを担い始めていることが紹介されました。 Amazon Bedrock AgentCore は、品質評価、ポリシー制御、強化されたメモリ、自然な対話機能を追加し、信頼できる AI エージェントの展開を可能にします。これにより、メーカーは予知保全、品質管理、現場最適化といった領域で AI ソリューションを安心してスケールできます。さらに、 Strands Agents のエッジデバイス対応により、 Strands Agents SDK を使って小規模デバイス上で動作する自律型 AI エージェントを構築でき、自動車、製造、ロボティクス分野における新たなエージェント型ユースケースが実現します。
IND367 のセッションでは、 Audi が AWS 上でトレーニングした AI ベースの品質検査モデルを製造品質プロセスに統合し、溶接継ぎ目の検査を手動サンプリングを大幅に上回るカバレッジで実施している事例を紹介しました。これにより、ほぼ 100% に近い溶接検査が可能となり、人的作業の削減と品質監視の向上を同時に実現しています。 HMC217 のセッションでは、 Rivian が AWS Outposts Gen2 を使用して、 SCADA (監視制御およびデータ収集)、 MES (製造実行システム)、ロボット制御などのミッションクリティカルな工場アプリケーションをエッジで実行している事例を紹介しました。クラウドネイティブなハイブリッド環境により、運用負荷を低減し、キャパシティプランニングを簡素化しています。
PEX305 のセッションでは、 Toyota が IBM などのパートナーとともに、 Amazon SageMaker AI などの AWS サービスを用いて、車両製造および物流全体にわたる配送 ETA の予測モデルを構築している事例を紹介しました。 API206-S のセッションでは、富士通が Amazon Bedrock AgentCore を活用してエージェント型サプライチェーンワークフローを実現している事例を共有しました。この仕組みでは、ガーディアンエージェントがエージェントの出力を継続的に監視し、エージェントの逸脱を修正します。
プロダクトエンジニアリング
自動車メーカーのプロダクトエンジニアリングチームは、コンセプト設計、生成最適化、シミュレーション、拠点間のエンジニアリングコラボレーションにおいて、迅速なサイクルを必要とします。 AWS は、 5 GHz プロセッサと 3 TiB のメモリを備えた新しい メモリ最適化・高周波数 EC2 X8aedz インスタンス の提供開始を発表しました。これらは、シミュレーションの前処理・後処理や大規模なエンジニアリングデータセットなど、メモリ集約型ワークロードを支援します。
Amazon SageMaker HyperPod のチェックポイントレスかつエラスティックなトレーニングは、エンジニアリング向け AI モデルの大規模トレーニングと反復に適用できます。グローバルチーム間で CAD、シミュレーション、テスト成果物を管理するために、 Amazon FSx for NetApp ONTAP と Amazon S3 の統合により、ファイルベースのエンジニアリングワークフローを維持しながら、 S3 スケールでのデータ階層化、共有、分析が可能になります。
CMP340 のセッションでは、 Toyota が AWS Parallel Computing Service (PCS) によって、高性能コンピューティング (HPC) のセットアップ時間を 6 週間からわずか 30 分に短縮した事例を紹介しました。研究者はオンデマンドで大規模な CPU および GPU シミュレーションを起動し、長時間実行ジョブを実行し、ジョブ完了時に自動でリソースを停止できるようになり、ベンダーによる遅延が解消されました。
マイグレーションとモダナイゼーション
AWS の自動車および製造業のお客様は、 AI を活用したサービスによってアプリケーションの移行とモダナイゼーションを加速しています。 AWS は AWS Transform をエージェント型機能で拡張し、 Windows .NET アプリケーション、 VMware 環境、メインフレームのモダナイゼーションを支援しています。これにより、 11 億行を超えるコードを分析し、 81 万時間以上の手作業を削減しました。AWS Transform custom は、あらゆるコード、API、フレームワーク、ランタイム、アーキテクチャ、言語、さらには企業独自のプログラミング言語やフレームワークに対して、組織全体でのモダナイゼーションを加速します。事前構築済みおよびカスタムの変換を通じて、多様なコードベースに対して一貫性と再現性のあるモダナイゼーションを実現します。また、 Amazon EKS Capabilities は、モダナイズされたプラットフォームにおけるワークロードのオーケストレーションとクラウドリソース管理を簡素化します。
IND218-S のセッションでは、 Mercedes-Benz が AWS 上で GenAI とエージェント型リファクタリングを活用し、メインフレームベースのグローバル受注システムをモダナイズした事例を紹介しました。 130 万行の COBOL を Java に変換し、最初のコミットから本番稼働まで 6 か月未満で、無事故のリリースを達成しました。
INV212 のセッションでは、 BMW と AWS が、 AWS Transform におけるドメイン特化エージェントが、調査、計画、リファクタリング、テストをどのように加速するかを紹介しました。AI 機能によって支えられた移行ファクトリーにより、テスト作成時間を数日から数時間に短縮し、75% 以上の時間と効率の改善、最大 60% のテストカバレッジ向上を達成しました。 BMW は MAM205 のセッションで再び登壇し、エージェント型 AI を活用したリファクタリングによってメインフレーム移行のリスクをどのように低減したかを詳しく説明しました。さらに、 PEX203 のセッションでは、 AWS Transform for VMware および .NET により、 EC2 と Aurora PostgreSQL 上の Linux ベースアーキテクチャへフルスタック Windows アプリケーションを移行できることが説明されました。 Toyota Motor North America は、サプライチェーンアプリケーションのメインフレーム移行を 50% 以上加速しています。
まとめ
本ブログでは、自動車および製造業界向けに関連性の高い AWS の発表内容と BMW 、 Toyota 、 Rivian 、 Nissan 、 Mercedes-Benz 、 Zoox といったお客様の革新的な事例をまとめました。これらの発表を確認し、ご自身のワークロードを支援できる機能を見極めていただくことをお勧めします。
新しい機能が組織の俊敏性と効率性をどのように支援できるかについて詳しく知りたい場合は、ぜひ AWS にご相談ください。 AWS for Automotive のページをご覧いただくか、担当の AWS チームまでお気軽にお問い合わせください。
本ブログの翻訳はソリューションアーキテクトのショーン・セーヒー (Shawn Sehy) が担当しました。原文は「AWS re:Invent 2025 Recap for Automotive and Manufacturing 」です。