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【開催報告&資料公開】AWS メディア業界向け勉強会開催報告
2024 年 12月 13 日(金)に、メディア業界のお客様向けに AWS 勉強会を開催いたしました。放送局のお客様にご登壇いただき、 AWS の活用事例についてご紹介いただきました。登壇者の所属部署および肩書きは登壇当時のものとなります。
AWS メディア業界向け勉強会 #6 (2024 年 12 月 13 日開催)
VMware ESXi サーバー環境の棚卸しと最適化:クラウド移⾏とオンプレ活⽤の戦略
株式会社毎⽇放送
経営戦略局 DX推進部 主事
⽥中 淳史 氏
株式会社毎⽇放送
コンテンツ戦略局 ITビジネス部 主事
村⽥ 博司 氏
株式会社毎日放送では、2019年に購入した VMware ESXi の基盤サーバ上のワークロードの AWS への移行を進めています。移行の対象となるサーバは4ノード構成で、イントラネットワークの管理サーバ、ファイルサーバ、Web サーバ、会議システム、ログ管理サーバ、メールサーバなどをホスティングしていました。AWS が推奨する 7R(7つの移行戦略) を参考に、コストと効果のバランスを考慮して移行作業を進めています。
具体的な移行手法として、DNS サーバを BIND から Amazon Route 53 へと切り替えたり、Web サーバを Amazon EC2、Amazon RDS、Amazon Aurora など用いて再構築したりするなどの、オンプレミスから AWS への移行と、クラウドネイティブ化、一部ワークロードのオンプレミス間の移行、不要なサーバの廃止などを行っています。また、AWS とオンプレミスとの間に専用線の AWS Direct Connect を導入したり、AWS Security Hub、AWS CloudTrail などを用いてセキュリティの強化などしたりすることも同時に行われました。コスト削減のためには、AWS Cost Explorer や AWS Compute Optimizer を活用しています。なお AWS への移行により、柔軟にリソースを用意できるようになったり、ログの管理や収集がしやすくなったりするなどのメリットを感じられています。今後は、AWS Systems Manager の活用、セキュリティ管理機能の強化、運用監視の一元化などを目指しています。
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⽣成 AI 失敗してみた
東海テレビ放送株式会社
デジタルビジネス局 コンテンツ事業部 プロデューサー
⽇髙 丈尚 氏
東海テレビ放送株式会社では、生成 AI の導入に向けた取り組みを行っています。当初作成した AI チャットに対してのスタッフからの反応が芳しくなかったため、Generative AI Use Cases JP を導入するなど、実用的なユースケースを見つけるための試行錯誤を繰り返しました。結果、一部の社員がドラマや見逃し配信の PR 制作に活用していることが分かりました。例えば、過去のシーズンの台本を読み込ませて名ゼリフをピックアップすることで、新しいシーズンのPRを作成したり、放送中に X で投稿された感想を読み込んで要約することで、見逃し配信の PR 動画に活用するなどの取り組みです。この方法により、当該動画の再生回数は大幅に増加しました。
この取り組みの中で、生成AIの基盤モデルは妥協しないことが重要であるとの知見も得られました。Amazon Bedrock にて、Claude 3 Sonnet から Claude 3.5 Sonnet に変更したところ正確性が大幅に向上し、スタッフからの反応が大きく変わりました。今回の取り組みでは、現場のニーズを想像してツールを作るのではなく、生成 AI などの新しいツールを積極的に活用しようとする各部署のキーパーソンを見つけ、各部署の課題に沿ったユースケースを特定することが重要であるという知見も得ることができました
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ねったまくんじゃんけんをサーバーレス化!機器制約に直⾯した苦悩と学びの記録
朝⽇放送グループホールディングス株式会社
DXMD 局
橋本 隼佑 氏
朝⽇放送テレビ株式会社
放送技術センター放送実施グループ
宮川 陸 氏
「ねったまくんじゃんけん」は、高校野球中継にて視聴者がリモコンの色ボタンでじゃんけんの手を選ぶと、ランキングが生成され、商品がもらえるというデータ放送のコンテンツです。しかし、毎年、新しい担当者に運用が引き継がれその度に担当者が試行錯誤を繰り返すことや、PHP を用いたレガシーな構成を長年使用していたために処理速度が遅いなどの問題がありました。また、高校野球中継が無い時間帯にもシステムが稼働し続けていたために、コストが掛かり続けるとの課題もありました。
そこで AWS Site-to-Site VPN と Amazon VPC を用いてプライベートな通信を確立するとの従来の構成は維持したまま、AWS Lambda と Amazon DynamoDB を組み合わせたサーバレスアーキテクチャに移行しました。さらに、PHP から Python へのコードの移行も行っています。データ放送コンテンツからの通信には HTTP を用いていますが、AWS で処理できる HTTPS へと変換をするために、Amazon API Gateway と Amazon CloudFront を使用しています。今回のシステムの再構築により費用は 83% も削減され、処理速度も10秒程度まで改善されました。今後は、AWS CloudFormation 等を用いたサービスの一括立ち上げを検討しています。
報道素材クラウドアーカイブシステムの構築
株式会社毎⽇放送
報道情報局 報道業務部⻑
寺下 智 氏
株式会社毎⽇放送
総合技術局 制作技術センター 部次長
伊藤 亮介 氏
株式会社毎日放送は、保管するメディアの増加による本社ライブラリーの不足、茨木市の倉庫からの取り寄せに時間がかかること、テープメディアのリスク、メディアのマイグレーションの必要性などの従来の報道ライブラリーの課題を解決すべく、AWS 上に報道素材クラウドアーカイブシステムを構築しました。このシステムでは、素材は NV センターのサーバーに一度収録され、マザー素材とオンエア素材の両方がオンプレミス上のニアラインサーバに一定期間保存されるとともに、 AWS 上の Amazon S3 Glacier Deep Archive にこれらの素材が無期限に保存されます。AWS 上でオンエア素材は XDCAM MPEG HD 422(映像レート 50Mbps)で保存され、マザー素材は XAVC(25Mbps)で保存されます。システムの構築時点では 1.5 PB の過去素材が存在し、2026年9月にはこれらの AWS への移行が全て完了する予定です。利用者は、報道支援システムを使用して素材を検索し、低解像度の映像を見ながら必要な部分を選択することが可能です。システムは選択した素材をニアラインサーバー、もしくは Amazon S3 Glacier Deep Archive から取得します。
本システムの特徴としては、日本国外の米国東部 (バージニア北部)リージョンを利用することで、東京や大阪のリージョンと比べて約半分の利用料を実現している点です。また、データアーカイブ専用に設計されている Amazon S3 Glacier Deep Archive を利用することも、コスト圧縮に一役買っています。また、AWS Elemental MediaConvert を用いて必要な素材のみを切り出すことで、ダウンロードコストの圧縮も実現しています。今後の予定としては、承認フローのオンライン化を検討しており、一部残っている紙ベースによる申請を廃止します。また、素材を取り出せるライブラリー端末を社内各所に配布することも検討しています。
在阪局で⼀緒に取り組めることを考えてみた
讀賣テレビ放送株式会社
技術局 制作技術担当 番組編集
藤井 一也 氏
株式会社毎⽇放送
総合技術局 制作技術センター 部次長
伊藤 亮介 氏
朝日放送テレビ株式会社
技術局 放送技術センター 放送情報グループ チーフ 兼 技術戦略部
荒木 優 氏
テレビ大阪株式会社
技術局 システム開発部 部長
野口 新一 氏
関西テレビ放送株式会社
DX推進局 DX戦略部 主任
石井 克典 氏
クラウドサービス等の普及によって、同一のシステムを複数の放送局で共用することのできる環境が整ってきたことから、在阪5局の担当者が集まり AWS の提案に乗る形で共通のシステムの検討やガイドラインの策定を試みました。例えば、放送番組や CM を正確に送出するためのマスターシステムを現在は各局が保有していますが、個別にシステムを構築していくことは運用コストやメンテナンスの負担が大きいとの課題があり、本検討会でも共用利用についての検討を行いました。また、これらのシステムをクラウドに移行するにあたっては、セキュリティに関する検討も重要となります。
そこで本プロジェクトでは、3つの試みにチャレンジしました。1つ目は共通のセキュリティガイドラインの策定です。AWS をはじめとするクラウドを共通で利用するにあたっては、各放送局が同程度の水準のセキュリティ対策を講じることが不可欠です。このため、AWS が用意したセキュリティリファレンスを基に作成したガイドラインにより、各放送局が AWS を利用する際の最低限のセキュリティ対策を統一し、コストの削減とセキュリティの強化が図れることが期待されています。2つ目のチャレンジは Amazon GuardDuty の導入です。先述のセキュリティリファレンスにも記載されている Amazon GuardDuty は、不正アクセスやマルウェアの検出が可能で、これを有効化することにより各放送局のセキュリティをより強化することが可能です。最後はシステムの共用化の検討です。システムの共用化は、同一地域の放送局同士で行う場合と系列局の枠組みで行う場合が考えられます。
本プロジェクトは今後も活動を継続予定で、クラウドを利用する際のセキュリティに関する検討と並行して、2025年はクラウドマスターに関する取り組みを本格化させる予定です。
まとめ
メディア業界向け勉強会の開催概要をご紹介させていただきました。引き続き業界の皆様に役立つ情報を、セミナーやブログで発信していきますので、どうぞよろしくお願い致します。
参考リンク
AWS Media Services
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)
AWSのメディアチームの問い合わせ先: awsmedia@amazon.co.jp
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この記事は SA 小南英司が担当しました。