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AIで変える鉄道保全と、「クローズド」を読み解くクラウド設計 — AWS Summit Japan 2026 展示ブース開催報告
2026年6月25日〜26日、幕張メッセで開催された AWS Summit Japan 2026 にて、AWSの鉄道ブースで業界向けに2つの展示を行いました。本ブログではその展示内容をご紹介します。
会場の「AWS for Railway/Logistics」展示エリアで、多くの来場者をお迎えしました。
今回は以下の2つの展示を行いました。
- 展示①:鉄道設備保全プラットフォーム — AIエージェントと地理情報システム(GIS)を統合した保全の仕組み
- 展示②:「クローズド」をクラウドで読み解く — 国土交通省ガイドライン第6版から考えるOT/IT設計アプローチ
展示① 鉄道設備保全プラットフォーム
本展示は、2025年11月の鉄道技術展2025(ブログ)で展示した鉄道保全ソリューションを、いただいたフィードバックを踏まえさらに発展させたものです。
鉄道保全の現場が直面する課題
鉄道設備の保全現場では、構造的な課題が深刻化しています。
- 保全の担い手の減少 — 生産年齢人口の減少に伴い、鉄道設備のメンテナンスに従事する技能労働者が減少しています。ベテランが退職していく中で、その現場ノウハウをどう残し、どう伝えるかが喫緊の課題です。
- 保全対象機器の増加 — 従来の鉄道機械に加え、ホームドアなどの旅客サービス向上のための新機器が増加しています。「省力化」のために導入した機械が、逆にメンテナンス対象を増やしていくというジレンマが生じています。
- 情報資産の複雑化 — 作業記録、設備マニュアル、保守履歴といった非構造化データが各所に散在し、個別最適を繰り返した結果、業務システムがサイロ化しています。
人が減り、保全対象は増え、情報は散らばる。この三重の課題に対し、AWSが提案するのは 「聞けば、必要な情報が集まり、やるべきことが分かる」 保全の仕組みです。
ソリューションの全体構成
以下が本ソリューションの全体像です。
駅設備群や変電所からセンサーデータを収集し、異常を検知すると通知を配信します。同時に保全AIエージェントが起動し、チャットを通じて原因調査から作業指示書の生成までを支援します。また、時系列基盤モデル Chronos-2 を応用した予兆検知を日次で実行し、故障の予兆を地図上に可視化します。保全担当者はこれらすべての情報に、地図・ダッシュボード・AIチャットのいずれからでもアクセスできます。
以降、この構成の中核となる2つの柱について詳しくご紹介します。
コンセプト:誰もが使える、鉄道設備保全プラットフォーム
今回の展示では、特定の担当者向けではなく、立場の異なる誰もが直感的に使えることを目指したデモソリューションをご紹介しました。2つの柱で構成されています。
各柱はブースで実際に手を動かして体験でき、来場者が自分の業務に置き換えてイメージできる構成にしました。
柱1:AIエージェントによる異常対応フロー
異常の発生から対応完了まで、AIエージェントが自律的に伴走します。入口は AIチャットひとつ です。やりたいことに応じて、地図UI・ダッシュボード・AIエージェントへ自然につながります。
以下が実際のデモ画面です。左側に地図UIと3Dビューア、右側にAIチャットとダッシュボードが統合されています。
保全AIエージェントは、問い合わせ内容に応じて最適な画面・機能へ自動的につなぎます。
異常対応の4ステップ
① 異常を検知 — 設備のセンサー値から異常をリアルタイムに検知します。AWS IoT Core でデータを受信し、AWS IoT SiteWise で328アセット・13モデルとして構造化された設備情報から異常を判定します。
② AI調査を自動起動 — 異常検知と同時に地図画面が該当設備に自動フォーカスし、AIエージェントへの問い合わせが自動で開始します。担当者へのメール通知も並行して行われ、検知から調査開始までのタイムラグを最小化します。
③ 原因と対応計画を提示 — AIエージェントが保守履歴・設備マニュアル・センサーの数値データを横断的に調査し、原因の手がかりと対応計画を生成します。ベテランが経験に基づいて「あのとき似たことがあった」と思い出すプロセスを、AIが瞬時に再現します。
④ 作業指示書を出力 — 対話の内容を基に、作業指示書をExcel帳票として出力します。チャットで深掘りし、情報が揃った段階で「指示書にまとめて」と言えば完成します。
技術的構成
- Amazon Bedrock AgentCore + Strands Agents — AIエージェントの実行基盤と、Amazonが開発したオープンソースのAIエージェントフレームワーク。エージェントが実行する個別機能を「Agent Skill」として実装
- Amazon Bedrock Knowledge Bases — 設備マニュアル・保守履歴に対するRAG(検索拡張生成)
- Amazon Bedrock AgentCore Memory — 会話・作業履歴を保持し、文脈を踏まえた継続的な対話を実現
- Amazon Location Service — 鉄道設備の位置と状態を地図上にリアルタイム表示
- Grafana(Amazon Elastic Container Service 上) — センサー値の時系列可視化。チャットからダッシュボードを呼び出す仕組みも実装
柱2:学習不要の予知保全 — Chronos-2の応用
従来の予知保全が抱えていた課題
予知保全は鉄道保全の効率化に大きな可能性を持ちますが、従来のアプローチには大きなハードルがありました。設備ごとにモデルを構築し、定期的に再学習する運用が必要で、新設備が増えるたびに追加のモデル開発コストが発生します。
保全の担い手が減っている中で、モデルの運用まで手が回らない。結果として、予知保全は「やりたいけど始められない」ものになりがちでした。
Chronos-2 が変えること
今回の展示では、Amazon Scienceが開発したオープンソースの時系列基盤モデル Chronos-2 を活用した、学習不要(ゼロショット)の予知保全をご紹介しました。
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鉄道保全での活用
国内鉄道事業者様にご提供いただいた変電所のセンサーデータを元に生成したデータを使用し、日次で自動予測を実行するデモを構築しました。
本デモでの予兆検出の仕組みは以下の通りです。毎日の始まりに、Chronos-2が最新のセンサーデータを基に将来の値を予測し、信頼区間とともに算出します。その後、実際のセンサーデータが取得されるたびに予測の信頼区間と比較し、実測値が信頼区間から逸脱した場合に予兆として警告を発出します。
- 毎日、最新データから翌日以降の値と信頼区間を予測
- 実測値が信頼区間から逸脱した場合に予兆として警告
- 予兆が検出された設備は地図上でステータスが変化し、予測グラフを重畳表示
設備ごとのモデル構築が不要なことで、予知保全を始めるハードルを大きく下げられる可能性があります。鉄道保全における時系列基盤モデルの活用は新しいアプローチであり、本展示ではその可能性を具体的なデモとしてお見せしました。
活用AWSサービス
- Amazon SageMaker AI — Chronos-2モデルの推論エンドポイント
- Amazon EventBridge + AWS Step Functions — 日次バッチでの予測実行オーケストレーション
- Amazon Simple Storage Service(Amazon S3) — 時系列データ・予測結果の格納
AWSの詳細構成図
最後に、ここまで紹介した仕組みを支えるAWSの詳細構成を示します。設備エミュレーターからのデータ取り込み、異常検知、目的別の通知パイプライン、保全AIエージェント、Chronos-2を応用した予兆検出までを1枚に集約したものです。通知パイプラインは目的別に複数存在し、それぞれ独立して動作します。
展示② 「クローズド」をクラウドで読み解く — 国土交通省ガイドライン第6版から考えるOT/IT設計アプローチ
鉄道の制御系システム(信号・CTC・ATS・連動装置など)は、重要インフラとして高い安全性が求められます。国土交通省「鉄道分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン」第6版はその設計指針を示す重要な規範です。
本展示では、このガイドラインの要件をクラウド上で実現するための設計アプローチをパネルで紹介しました。
「クローズド ≠ 安全」という認識転換
物理的に隔離された環境であっても、USBメモリ等を介した侵入は起こり得ます(参考:IPA 制御システムのセキュリティリスク分析ガイド)。重要なのは「切り離す」ことではなく、システム全体のリスクを継続的に管理することです。
また、「クラウド」=「インターネット」ではありません。AWS Direct Connect を使うことで、インターネットを経由せずに閉域網を介してクラウドサービスを利用できます。
ガイドラインが求めるセキュリティを、自前で維持し続ける難しさ
ガイドライン第6版では、脅威環境の変化に追従する「継続的なリスク対処」が求められています。具体的には、脅威の検知、監査証跡の管理、脆弱性への対応を組織として継続的に運用する必要があります。
しかし、これらを自前のオンプレミス環境で維持し続けることは、鉄道事業者にとって大きな負荷となり得ます。セキュリティ人材の確保、監視基盤の構築・更新、脅威インテリジェンスの追従 — いずれも専門性が高く、継続的な投資を要する領域です。
AWSのセキュリティリソースを活用する意義
ここで有用だと考えているのが、責任共有モデルに基づき責任範囲を明確にした上で、AWSが担う領域のセキュリティ運用をマネージドサービスに任せるというアプローチです。
- Amazon GuardDuty — 脅威検知をマネージドで提供。自前で監視基盤を構築・運用する負荷を軽減
- AWS CloudTrail — 監査証跡を自動で記録・保存。ガイドラインで求められる操作ログの管理を支援
- AWS Security Hub — セキュリティ状況を一元的に可視化。継続的な改善サイクルの基盤に
クローズドな閉域網接続(AWS Direct Connect)を前提とすることで、インターネットを介さずにこれらのセキュリティリソースを活用できます。もちろん、Amazon Bedrock等のAIリソースもクローズドな状態で利用可能ですが、ガイドライン準拠という観点で最も直接的なメリットは、責任共有モデルのもと、AWSのマネージドサービスでセキュリティ運用の負荷を軽減できることにあると考えています。
設計の3原則
原則1:論理的境界も有効
ガイドラインは「クローズド環境構築」を求めますが、その手段を物理に限定していません。IEC 62443やNIST CSF 2.0の考え方に基づき、Amazon Virtual Private Cloud(Amazon VPC)による論理的な境界の分離も有効な手段です。
原則2:境界の明確化と片方向通信
例えば、制御系(OT)と業務系(IT)を別のVPCに分離し、中継ストレージ(Amazon S3)で片方向通信を強制するといったパターンが考えられます。制御系VPCはクラウド内のインターネットからも隔離されたネットワーク上に構築し、データの逆流が起きない設計とします。
原則3:継続的なリスク対処をAWSでオフロード
NIST CSF 2.0の「統治」機能を踏まえ、組織レベルで継続的な改善サイクルを構築します。前述のAWSセキュリティサービスを活用することで、脅威環境の変化への追従を自前で抱え込まずに実現できます。
鉄道ユースケースへの展開
このアーキテクチャパターンにより、セキュリティを確保しながら制御系データの利活用が可能になります。
データを活用した業務変革はIT領域に閉じるものではありません。制御系のセキュリティドメイン内にAI推論リソースを配置することで、制御系データをIT側に出すことなくOT領域内でAI活用を行うことも可能です。また、OTからITへの片方向データ連携により、運行ダッシュボードを構築できます。IT系では需要予測や遅延予測など、ドメインの境界を明確にした上でデータの価値を引き出す設計も可能です。
来場者の反応
展示ブースには2日間を通じて多くの方にお越しいただきました。
保全プラットフォームのデモでは、地図とAIチャットが連動して動く様子に多くの方が足を止めてくださいました。デモが具体的でイメージを持ちやすいとの反応をいただく一方で、「この仕組みを活かすためには、設備データをどう取得するかという長期的な戦略が前提になる」という本質的な指摘もありました。私たちにとっても、ソリューション単体ではなくデータ戦略とセットで提案していく必要性を再認識する機会となりました。
Chronos-2を応用した予知保全については、「学習不要」というコンセプトへの関心が想定以上に高く、鉄道に限らず幅広い業界の方から質問をいただきました。既に類似の取り組みを進めている方からも前向きな反応があり、実用化への期待の高さを感じています。
セキュリティ設計のパネル展示も、保全デモとは異なる層の来場者に関心を持っていただきました。AI関連の展示が多い中で、制御系ネットワークの設計という具体的なテーマが来場者の課題に合致したようです。
まとめ
鉄道は社会インフラの根幹を支える産業です。しかしその保全現場は、人手不足・設備増加・情報の散在という構造的課題に直面しています。
今回の展示を通じてお伝えしたかったのは、テクノロジーは人を置き換えるためではなく、人がやるべきことに集中できるようにするために使うものだということです。
- ベテランの知見はAIが引き出す。人は判断と意思決定に集中する
- モデルの構築・運用に追われない。時系列基盤モデルにより予知保全を始める選択肢が広がる
- クローズド前提のシステムであっても、クラウドをセキュリティ運用・データ活用・AI活用に取り入れることで、人が本来注力すべき判断や改善に集中できると考えている
AWSは、鉄道業界のデジタルトランスフォーメーションを支援し、安全で持続可能な鉄道サービスの実現に貢献してまいります。
展示内容にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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