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株式会社グレイプ様の AWS 生成 AI 事例「記事校正ツールを企画から 2 週間、タグ推薦ツールを 3 日間で構築。校正作業工数を 60 %削減」のご紹介

本ブログは 株式会社グレイプ様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの田中です。

2024 年は、非常に多くのお客様に、生成 AI の活用にチャレンジいただいた一年でした。生成 AI を活用した文書要約やチャットボットなど、社内の業務効率化に繋がる多くのユースケースが生まれました。さらに喜ばしいことに、生成 AI 活用をコアビジネスの価値向上や成長加速に繋がる事例も増えてきています。

今回ご紹介するのは、生成 AI の活用をコアビジネスの成長加速に繋げた、チャレンジングな取り組みです。月間 1.8億 PV を誇るウェブメディア「grape(グレイプ)」を運営する株式会社グレイプ様が、AWS の生成 AI サービスである Amazon Bedrock を活用して、メディアビジネスの根幹である高品質なコンテンツ制作を加速させた事例をご紹介します。

グレイプ様の状況と経緯

grape(グレイプ)」は、「心に響く」をコンセプトに、読者の共感を呼ぶコンテンツを提供し続けているウェブメディアです。近年、ユーザーの情報収集手段はますますオンラインへとシフトし、従来型のマス広告だけでなく、個々のユーザーの興味や関心に寄り添ったコンテンツマーケティングの重要性が高まっています。グレイプ様は、長年培ってきたウェブメディア運営のノウハウを活かしながら、より多くの価値ある情報をユーザーに届けるためにチャレンジをし続けています。

オンラインメディア_grape

グレイプ様が日々公開するコンテンツは、数十件にも及びます。その一つ一つに、読者の心に響く質の高さが求められます。プロのライターたちは、生成 AI には真似できないクリエイティビティを発揮されつつ、魅力的なコンテンツを多く生み出していますが、一方では課題を抱えていました。

一つは記事の校正に関する課題です。記事の品質を担保するため、各記事は二名体制での校正を行っています。校正作業は、誤字脱字のチェック、語彙のゆらぎのチェック、表現のチェックなどに加えて、HTML タグの確認など技術的な要素も含まれるケースがありました。そのため、経験が豊富なライターに頼らざるを得ない校正がいくつかあり、そのための作業に時間が費やされていました。

二つ目はタグ付けに関する課題です。記事の適切な分類と発信のためにタグは不可欠ですが、このタグはライターの経験と勘をもとに付与されていました。似たような記事でも人によってつけるタグが違ったり、経験が浅いライターにとっては効果的なタグがどれかわからないなど、適切なタグ付けが難しい状況にありました。

ソリューション/構成内容

これらの二つ課題に対して、グレイプ様は、ライターの方々に記事のライティング業務に集中してもらうため、校正作業に生成 AI の力を活用できないか、という発想からプロジェクトがスタートしました。検討の結果、Amazon Bedrock を活用したアプリケーションの構築を決定しました。コンテンツ制作はビジネスの核となる部分であるため、入力したデータが基盤モデルの学習に使用されない点が、重要な選定理由となりました。

様々な基盤モデルを比較検討した結果、 Anthropic Claude 3.5 Sonnet (v1) を採用することにしました。この基盤モデルを選んだ理由として、1) 日本語の校正に特に高い精度を示したこと、2) 簡単な文書作成においてライターから見ても自然な日本語表現ができており今後さらなる活用につながる見込みがあること、3) 応答時間とコストが現実的な範囲に収まったこと、の三点が挙げられます。

開発したアプリケーションのもつ主要機能は、以下の二つです。

1.校正支援機能

記事作成の加速を目指し、生成 AI を活用した校正支援の仕組みを構築しました。まず、ライターが作成したドラフト文書に対して、基盤モデルが誤字脱字のチェックを実施します。さらに、グレイプ様では独自の表記ルールを持っているため、このルールに沿っていない表現を見つけた場合、基盤モデルが適切な表現への置き換えを提案します。加えて、記事のドラフトに含まれる HTML タグについても、基盤モデルがチェックを行い、不適切な記述があれば正しい表記への修正を行います。

2.タグ推薦機能

基盤モデルに記事の内容をインプットとして与えると、アウトプットとして適切なタグを提案してくれる機能を実装しました。基盤モデルに対しては、記事の内容とともに、JSON 形式のタグ使用実績データも一緒に与えるようにアプリケーション内で実装しました。これによって、基盤モデルがよく利用されているタグから適切なタグを提案することができるようになり、タグに一貫性をもたせることを可能にしました。また、実際に付与するタグはライターが付与するので、その選別の手助けとなるよう、選別したタグの推薦理由も提案するようにしました。

記事構成ツール
(実際のアプリケーション画面)

これらの機能開発は、記事校正ツールの開発 2 週間、タグ推薦ツールの開発はわずか 3 日間、という速さで行われました。主に開発を担当された柳本様は、それまで AWS のご経験はありませんでしたが、インフラ運用のご経験を活かし、まずはイメージがつきやすい Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2) をご自身で構築され、その上でアプリケーションの開発を進めました。

また、柳本様は生成 AI の活用も初めてのご経験でしたが、積極的にプロンプトエンジニアリングにも挑戦されました。開発中に期待する精度が得られないケースも発生しましたが、それらの問題解決にも時に生成 AI を活用しながら、一つ一つ解決していきました。

さらに、システムのテスト公開後は、ユーザーからのフィードバックを即座に取り込める体制を整えました。具体的には、実際に使用して期待する結果が得られなかった場合に、ユーザーがすぐに報告できるインターフェースを用意しました。この仕組みにより、ユーザーのフィードバックを元に追加開発を行う PDCA サイクルを素早く回すことができ、結果としてユーザーの積極的な利用に繋がりました。

導入効果

Amazon Bedrock を利用したアプリケーションの導入により、以下の効果が得られました。

  • 記事の校正に関わる作業工数が 60 %削減
  • 記事のタグ選定に関わる作業工数が 20 %削減

数字では表せない定性的な効果もあがっています。例えば、校正作業の品質が均一化され、一定水準以上の質が保たれるようになりました。また、タグ付けにおいても、より適切で一貫性のある記事分類が可能になりました。

導入を担当された柳本様からは「AWS・AI 初学者でも生成 AI を使ってコードを作成し、実務対応レベルのツールが作れました。自分になんてと思わず生成 AI を活用して社内の課題にまずは挑戦するという気持ちが大切です。」とコメントをいただいています。

まとめ

本事例は、文章コンテンツをコアビジネスとする企業が、生成 AI を活用してビジネスの加速に繋げることができた好例です。人しか出せない価値について理解を深めていたからこそ、効果的な生成 AI の活用ができたのではないかと思います。また、短時間での構築を実現した点も注目です。AWS では、サーバーレスな API 形式で提供される生成 AI に加え、仮想サーバーやコンテナ、サーバーレスといったコンピューティングサービスなど、お客様のスキルセットやビジネス要件に合うサービスを選択して組み合わせることができます。これらをうまく活用することで、迅速なサービスリリースにつなげることができます。

グレイプ様では、さらなる進化を目指しています。具体的には、プロンプトの継続的な改善や、RAG(Retrieval Augmented Generation)の活用を通じて、コンテンツの品質向上に取り組んでいく予定です。

生成 AI を活用したビジネスの促進、業務の効率化、AWS が提供する様々なサービスの選択肢にご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

株式会社グレイプの皆様

株式会社グレイプ : 技術開発部長 大槻 大作 様(中央右)、技術開発部 主任 柳澤 良介 様(中央左)、技術開発部 柳本 安利 様(中央)
Amazon Web Services Japan : アカウントマネージャー 石井 美佑子(右端)、ソリューションアーキテクト 田中 里絵(左端)

ソリューションアーキテクト 田中 里絵