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株式会社iimon 様の SaaS のデータ分析事例 : データ分析基盤を導入することで、カスタマーサポートチームがユーザーの解約リスクを発見する時間を8割程度削減し、サービス継続率 99% に貢献
本ブログは 株式会社iimon 様と アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社が共同で執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。AWS アカウントマネージャーの尾形です。
昨今、多くの企業で SaaS (Software as a Service) を導入するケースが増加し、SaaS 市場が拡大してきております。一方で SaaS を提供する側には、お客様に自社サービスを効果的に使っていただくために、利用するユーザーのアクティビティデータを基にした営業活動やカスタマーサポートを実現し、日々サービスの改善が求められています。
本記事では AWS 上で 自社 SaaS データ分析基盤を構築し、「提供している様々な機能を、より多くの SaaS ユーザーに活用してもらうこと」 や 「SaaS ユーザーのデータに基づく営業活動の推進」 を実現された iimon 様の事例をご紹介します。同社は Amazon QuickSight、Amazon Athena、Amazon Data Firehose などを利用して SaaS データ分析基盤を構築されています。
iimon 様の状況と経緯
iimon 様は、主に不動産仲介業務の効率化を目的としたデジタルトランスフォーメーション(DX)ツール「速いもんシリーズ」を提供しています。開発の背景として、不動産仲介の業務において広告業務や顧客対応時の作業など事務業務が全業務の約 50% 程度を占めるため、これらの作業を自動化・効率化することで、不動産仲介店舗の従業員が営業活動に集中できると考えました。
「速いもんを導入した不動産仲介店舗に、より多くのサービス機能を使いこなして業務を自動化・効率化していただくために、iimon 様は「速いもんシリーズ」のサービス利用状況のアクティビティデータを営業活動に活用していました。しかし当時は、エンジニアがサービス利用状況のアクティビティデータ抽出を実施し、その後に営業が手動でデータを分析していたので、エンジニアによるアクティビティデータ抽出の工数及び営業によるデータ分析の工数が発生しました。そこでエンジニア及び営業の負担にならないアクティビティデータ分析基盤の構築は重要課題でした。
また、サービスを導入する不動産仲介店舗が増加することに伴い、店舗毎のサービス機能の利用数にばらつきが発生し、カスタマーサポートのチームが全ユーザーに対して、高い質のサポートを提供することが困難な状況でした。カスタマーサポートチームは、サービス導入後のチャーンレート (解約率) は重要な指標のため、前述の状況を改善したいと考えました。そこで、ユーザーのサービス利用状況のアクティビティデータを業務に活かせないか検討しました。
ソリューション / 構成内容
「速いもんシリーズ」は、サービスを利用するユーザーが機能を利用した頻度やクリック数などのアクティビティデータを収集しています。
それらのアクティビティデータはリアルタイムでサービスから送られています。そこで Amazon Data Firehose を利用することにより、リアルタイムで送られるデータを一定期間バッファリングした後に Amazon S3 に保存しています。
Amazon S3 にデータを保存する際に工夫している点は 2 つあります。
- Parquet 形式でデータ保存
- Amazon Athena の検索に用いるパーティションを「日付」のみ使用
1 については、JSON 形式も検討しましたが、データ量が多くなると分析時の読み込みに時間がかかる懸念がありました。そこで、データの圧縮効率が高く、ストレージ容量の節約も実現できる Parquet 形式を採用しました。
2 については、「何をクリックしたのか」と「場所」のデータをペアで入れているため、それらもパーティションに含めることを選択肢として検討しました。しかし、取得するデータ量、流入するデータの偏り等が当初は不明だったため、後からでも変更できるようにシンプルな「日付」のみにしました。
Amazon S3 に保存されたデータは、Amazon Athena で検索し、BI ツールの Amazon QuickSight に読み込ませています。Amazon QuickSight は全社員が閲覧できるように設定しており、工夫している点が 2つ あります。
- Amazon QuickSight の認証方式を営業 / カスタマーサポートとエンジニアで分ける
- Amazon QuickSight インメモリエンジンの SPICE の利用を用途にあわせて絞る
1 については、営業やカスタマーサポートが Amazon QuickSight を利用する場合、各営業向けに発行した ID・パスワードを利用して直接ログインする方式にしました。一方で、エンジニアは IAM ユーザーを用いた認証方式にしました。これは、エンジニアが日頃 IAM ユーザーを利用しているため、Amazon QuickSight 用のユーザー認証より利便性が高いと判断したためです。
2 については、SPICE の利用により Amazon QuickSight のパフォーマンスを向上させることが可能ですが、対象期間の全てのデータを読み込む必要があったため、SPICE を活用しての差分更新が難しい状況でした。また、高頻度にデータが生成されるたびに Amazon Athena で対象期間の全てのデータをスキャンすると、コストが高くなる懸念もありました。これらの懸念を SPICE の利用が必要な Amazon QuickSight のダッシュボードを絞ることで払拭できました。
また、Amazon QuickSight では、ユーザーの料金が従量課金であり、上限価格も決まっているため、利用するユーザーが増加した場合でもコストを抑えて利用することが可能です。そのため、全社員が Amazon QuickSight を利用できる運用にすることができました。
導入効果
データ分析基盤を導入することで、下記の 3 つの効果を得ることができました。
•これまでのデータ活用は 1 ヶ月で数回程度の頻度に留まっていたが、導入後は毎日データを活用するように変化
•データを活用したカスタマーサポートによって、ユーザーによるサービス機能の利用数が 2 倍に増加
•カスタマーサポートチームがユーザーの解約リスクを発見する時間を 8 割程度削減し、サービス利用の継続率 99% に貢献
上記の結果、サービスを導入する店舗が増加する中でも、効率的かつ質の高いカスタマーサポートの提供や営業活動を実現することができました。 今後、サービスを導入する不動産仲介店舗が増加し、流入するデータ量が増加しても、AWS サービスを組み合わせたデータ分析基盤で、アクティビティデータを元にした適切なサービス提供のための分析が可能であると考えています。また、全社員が Amazon QuickSight を利用可能になった結果、データ分析における新たな観点や切り口の発見にも繋がっています
まとめ
今回は Amazon QuickSight 、Amazon Athena、Amazon Data Firehose などを用いて、データ分析基盤を構築した事例を紹介しました。
データ分析基盤を構築し、営業やカスタマーサポートの業務に活用することで、「提供している様々な機能を、より多くの SaaS ユーザーに活用してもらうこと」や「 SaaS ユーザーのデータに基づく営業活動」を実現しました。これにより、サービス導入後のチャーンレート (解約率) の改善や営業による売上向上に繋がっております。
また、今回の株式会社iimon 様の取り組みは AWS Japan 主催の SaaS イベント AWS SaaS Builders Forum – Tech Leaders Meetup でも発表いただきました。
SaaS のデータ分析に対してデータ分析基盤を導入することにご関心のあるお客様は、ぜひ AWS までお問い合わせください。
本ブログの執筆はアカウントマネージャー 尾形 龍太郎及びソリューションアーキテクト 文珠 啓介が担当しました。