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金融業界における生成 AI 活用動向

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 : (左) 近藤 祐丞 、(右) 飯田 哲夫

みなさん、こんにちは。アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 AI / ML 事業開発チームの近藤 祐丞です。

AWS では生成 AI サービスのAmazon Bedrockを始めとして、お客様の生成 AI 活用を支援する様々なサービスや機能を提供しています。AWS の年次イベント AWS re:Invent 2024 においても、生成 AI 活用を支援するサービスアップデートを発表しました。
生成 AI は、様々な業界や業種のお客様へと徐々に浸透しており、今後もその流れは進んでいくと感じています。

本日は、金融領域の事業開発チームに所属する飯田 哲夫さんに、お客様と接する中で感じた「金融業界の生成 AI 活用動向」についてインタビューしていきます。

金融領域のお客様の生成 AI 活用の現状

近藤:お時間いただき、ありがとうございます。まずは飯田さんの現在のお役割をお聞きかせください。


アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 : 近藤 祐丞

飯田:はい、私は金融領域における事業開発として、金融ビジネスにインパクトがある AWS の使い方やユースケースをご提案しています。また、お客様がクラウドを活用する上で、コンプライアンスや規制に関する課題の払しょくも支援しています。

近藤:ありがとうございます。私も AI / ML の事業開発として仕事をしていますが接する業界は様々です。本日は飯田さんが専門的に関わっている金融領域における生成 AI の活用の現状についてお伺いさせてください。

飯田:まず 2023 年から振り返ると、金融領域のお客様が自然対話型 AI サービスの利用を通じて、生成 AI の有用性、課題などを認識されたフェーズだったと思います。認識された課題として、ハルシネーション (=事実に基づかない情報を生成する現象) が挙げられます。
2024 年では、いかに生成 AI を業務の中に組み込み、組織として横断的に生成 AI を活用していくかを検討するフェーズへと進まれた印象です。Amazon Bedrock の観点では、サービスの機能が拡充したことから、Anthropic 社の Claude モデルを中心に業務での活用が進みました。そうした中で、セゾンテクノロジー様の事例のように、複数の生成 AI モデルから最適なものを選択する流れも生まれたと思います。一方で、生成 AI の活用を検証段階から実ビジネスへ進めようとされる中で、業務ユースケースの特定に悩まれるお客様は多かったと感じます。

近藤:2024 年は生成 AI 活用の観点で大きく動きが変わったということですね。飯田さんの仰る通り、2024 年は同様のことを私も感じています。AWS には、お客様のプロジェクトの加速を支援するために、システムのプロトタイプの開発を支援する Prototyping Program プログラムがあります。私は本プログラムを金融領域のお客様に提案する機会も多いのですが、2023 年と比較して 2024 年から金融領域のお客様でご活用いただくケースが大きく増えました。

元々 AWS 上でアプリケーション / システムを稼働いただいている金融領域のお客様は多いと思いますが、既存のシステムとの連携で AWS の生成 AI サービスを求める声は多いですか?

飯田:はい、その観点でのご要望は非常に多いです。金融領域では AWS をクラウドの標準環境としているお客様が多くおられ、そうしたお客様は AWS 上でアプリケーションやデータ蓄積基盤を構築されています。業務アプリケーションと連携したり、業務データを活用する際には、AWS の環境に閉じているとコントロールしやすいため、そこから Amazon Bedrock をご利用いただくケースが多いです。
Amazon Bedrock であれば、複数の生成 AI モデルを API 経由で呼び出せるだけでなく、複数モデルの評価機能モデルのカスタマイズデータのセキュリティ / プライバシーの担保が実現可能です。そのため、生成 AI 活用におけるプラットフォームとして、実ビジネスでご利用いただくケースが 2024 年後半くらいから増え、広がっていると思います。

近藤:正に Amazon Bedrock は生成 AI モデルを呼び出すだけでなく、生成 AI アプリの構築・運用をサポートする幅広い機能を提供するサービスです。生成 AI 活用のプラットフォームとしてご利用いただくケースは今後も増やしていきたいですね。

金融領域における生成 AI 活用のユースケース

近藤:金融領域のお客様の生成 AI 活用では、どういったユースケースが印象的ですか?

飯田:特徴的なユースケースとしては、営業支援、広告審査、コールセンター業務、不正取引検知などは挙げられます。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 : 飯田 哲夫

営業支援では、企業情報の状況分析や過去の取引履歴の集約などを通じて、営業活動の生産性向上を支援しています。具体的な事例としては、三菱UFJ銀行様の事例が挙げられます。法人顧客への営業活動で最適な提案を行うには、ニーズの断片的な把握、提案スキルのルール化の難しさから、個人の技量に依存する傾向になるという課題を三菱UFJ銀行様は抱えておられました。そこで法人顧客への営業活動に生成 AI を活用することで、多面的かつ複合的な企業情報の分析の実現に取り組まれています。また、各営業個人が保有しているナレッジもデータとして繋ぐことにより、組織的な提案力の強化も図っています。組織全体の営業生産性の向上に繋がっている事例です。

広告審査では野村ホールディングス様の事例が挙げられます。本事例では AWS を活用した生成 AI を広告審査業務に適用しています。野村ホールディングス様では広告物への審査を厳しくしている一方で、審査対応の業務負担は多く、対応する人材が不足するという課題がございました。そこに生成 AI を活用することで、広告物が金融商品取引法やガイドライン、自社規定に沿っているかを生成 AI がチェックして、業務負荷軽減を実現しています。最終的に広告審査を通すかどうかは人が判断する運用にしていますが、生成 AI が業務効率化に貢献する素晴らしい事例だと思います。金融機関様の中には生成 AI の活用を慎重になる場面もあるかと思いますが、生成 AI だけに全てを任せるのではなく、人の判断と生成 AI を組み合わせた参考になる事例だと感じます。

コールセンター業務では、例えばSBI生命保険様の事例が挙げられます。本事例では経験の浅いオペレーターでも経験豊富な方と同レベルのサービス提供をするために、生成 AI を用いて保険商品や契約関連の手続き書類を検索可能にする文書検索システムを構築しています。このシステムでは RAG (= 検索拡張生成) の構成が用いられており、回答の正確性を担保しています。金融機関様のコールセンターの業務では、オペレーターが大量の社内ドキュメントや金融商品の知識を基に正確な回答を提供することが求められので、スムーズな顧客対応やオペレーターの教育期間の短縮化に貢献しています。

不正取引検知では、海外事例にはなりますが、Nasdaq 様の事例では不正取引の検知およびその調査業務の中で生成 AI を利用しています。Nasdaq 様は IT 関連企業などの割合が多い Nasdaq 市場の証券取引所を運営しており、市場の公平性や信頼性の確保が求められます。そのための監視業務として、担当アナリストが不審な活動の自動アラートを受け取ると、レビューを行い、更なる詳細な調査が必要かどうかを判断します。一方で、アラートのレビューや詳細調査は、様々な外部データソースから膨大な情報を分析する必要があるため、非常に負担の大きいプロセスです。Nasdaq 様は本プロセスに生成 AI を活用することで、関連情報の分析を迅速に実施できるようにしています。担当アナリストの調査時間などの短縮に貢献している素晴らしい事例です。

また、AWS パートナー様が自社のプロダクト/ソリューションに生成 AI を機能として組み込み、金融機関様の課題解決を支援するケースも増えています。例えばデータ分析サービスを提供するナウキャスト様は、証券・保険領域の営業活動とコンプライアンス業務を効率化する「Finatext Advisory Assist」を提供しています。本ソリューションの中に Amazon Bedrock 経由で呼び出した生成 AI を組み込むことで、商談におけるコンプライアンスのチェックや商談の振り返りを AI がサポートする機能を提供しています。サービスを利用するユーザーの営業活動の効率化を支援しており、プロダクト / ソリューションを通じた営業支援の事例です。

その他の事例では、野村総合研究所様がコンタクトセンター向けのプラットフォーム「CC@Home」の AI ソリューション 「TRAINA」 シリーズに、Amazon Bedrock 経由で呼び出した生成 AI を組み込むことで機能強化を図っています。本ソリューションは主に金融業界を中心に展開されており、コールセンター業務の効率化を目的に提供されております。その中で「FAQ 検索・表示」「通話内容の要約」「VOC の分析」の機能を生成 AI 活用によって強化されています。こちらの事例も、AWS パートナー様の自社ソリューションへの生成 AI 組み込みを通じて、コールセンター業務の効率化を支援している事例です。

近藤:金融領域での特徴的なユースケースですね。金融領域では生成 AI にどういったことが求められますか?

飯田:やはりセキュリティを気にされるケースは多いです。生成 AI のモデルがデプロイされているリージョンや生成 AI に用いるデータの保管場所が国内であることは重要です。それ以外にもデータへのアクセス制御や通信の暗号化、セキュリティポリシーなど、生成 AI を社内横断的に利用する際には高いセキュリティ水準が求められます。また、検証段階から実ビジネスに生成 AI の活用を進めていく動きに伴い、生成 AI 活用のユースケースごとのセキュリティ担保ではなく、生成 AI 活用の標準基盤としてセキュリティの担保が求められています。

Amazon Bedrock では国内リージョンが利用可能なことに加えて、Amazon Bedrock Guardrails のような生成 AI 活用基盤としてセキュリティポリシーを担保する機能などが備わっており、よりクリティカルな業務領域で生成 AI 活用の検討を進める金融機関様が増えてきています。

近藤:生成 AI モデルやデータを活用する際のセキュリティが非常に重要ということですね。最近では様々な業界で業界特化型の生成 AI モデルを開発されるケースを聞く事が増えているのですが金融業界ではいかがでしょうか?

飯田:今後の可能性として、お客様独自の生成 AI モデル、もしくはお客様の独自データを用いたチューニングはケースとして増加すると思います。例えば一般的な QA のように、公開データを学習した生成 AI モデルをそのまま利用することで問題ない領域もありますが、一方で金融業界では特殊な用語や自社独自の背景を学習させないと価値を発揮しにくい特殊な業務も存在しますので、そうした領域ではお客様独自の生成 AI モデル、もしくはお客様の独自データを用いたチューニングが求められてくると思います。

お客様独自の生成 AI モデルを開発する場合は、「AWS ジャパン生成 AI 実用化推進プログラム」を始めとするプログラムや Amazon SageMaker HyperPod などのサービスでご支援可能です。AWS 独自のチップとして AWS TrainumAWS Inferenentia などの選択肢を揃えており、これらをご利用いただくことで深層学習と生成 AI トレーニングのパフォーマンス向上やコストを抑えながら推論の高速化に貢献できます。また、お客様の独自データを用いたチューニングにおいても、Amazon Bedrock ではモデルのカスタマイズを支援する機能が備わっています。

生成 AI の今後について

近藤:AWS re:Invent 2024 では Amazon Nova という生成 AI モデルも発表しており、Amazon Bedrock 上で様々な生成 AI モデルを選択肢としてご提供しています。今後、世の中でも生成 AI モデルの選択肢が増える中で、金融領域ではどのような流れを予測していますか?

飯田:生成 AI の利用が広がるにつれ、業務目的に合わせた適切なモデル選択と、コスト最適化の重要性が高まると思います。生成 AI はモデルによって性能やコストが当然異なるので、ユースケースによって生成 AI モデルを使い分ける形になるかと思います。また、生成 AI ではエージェントという考えが広まってきており、それを活用した業務支援もユースケースとして出てくると思います。例えば、「ある領域における投資判断のための情報を集めてください」と生成 AI にお願いすると、アプリケーション / システム側ではこの指示を複数のタスクに分解して自動的に実行していくということが実現されると思います。

AWS では Amazon Bedrock Marketplace を発表しており、100 を超える生成 AI のモデルにアクセス可能になりますので、色々な選択肢の中から最適な生成 AI モデルを利用するという場面ではご支援できると思います。他にも Amazon Bedrock のエージェント が機能として実装されており、単なるモデル利用に留まらず、生成 AI 活用を支援するプラットフォームとしてご支援できるかと思います。

近藤:ありがとうございます。これから生成 AI 活用を検討される金融機関様に対して、どのような観点でお話されていますか?

飯田:これから生成 AI 活用を検討される金融機関様においては、これまでに多くの金融機関様が行ってきた検証や実装例を参考にしながら、解決したいビジネス課題を明確にしていくことをお薦めしたいと思います。AWS ではユースケース特定からモデル選定、運用体制構築までを支援するサービスを提供していますので、生成 AI 活用の検討の際は是非ご相談いただければと思っています。

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本ブログの執筆はアカウントマネージャー 尾形 龍太郎が担当しました。