クラウド移行の成功に必要なステップをグラレコで解説
Author : 安田 茂樹
本記事では、2019 年 9 月 15 日に AWS Summit Bahrain にて行われたセッションの 1 つである ”Migration, Disaster Recovery, & Business Continuity in the Cloud (移行、ディザスタリカバリ、およびクラウドにおける事業継続性)” セッションの概要を、グラレコを使って解説します。
※ 本連載では、様々な AWS サービスをグラフィックレコーディングで紹介する awsgeek.com を、日本語に翻訳し、図の解説をしていきます。awsgeek.com は Amazon Web Services, Inc. プリンシパル・テクニカル・エバンジェリスト、ジェリー・ハーグローブが運営しているサイトです。
近年、オンプレミスからクラウドへ、自社アプリケーションやデータベース等の IT リソースを移行する企業が増加しています。(オンプレミスとは、自社内またはデータセンター内に自社サーバーを設置し、運用・管理する方式のことです。)
なぜ、IT リソースをクラウドへ移行する企業が増えているのでしょうか ?
クラウドへ移行する理由は企業によって様々ですが、一般的な理由としては以下のものが挙げられます。(順不同)
- 障害や災害の際の回復性を高めるため
- 外部からの攻撃に対するセキュリティを高めるため
- コストを削減するため
- 既存のデータセンターを統合するため
- AI (人工知能) /ML (機械学習) を活用するため
- デジタル化を進めるため
- グローバル化に対応するため
- アプリケーション開発の俊敏性・生産性を高めるため
なお、日本において企業がクラウドサービスを利用する理由としては、「資産、保守体制を社内に持つ必要がないから」(43.3 %) が最も多く、次いで「場所、機器を選ばずに利用できるから」(40.9 %)、「安定運用、可用性が高くなるから」(34.8 %) となっています。(出典:総務省「令和元年通信利用動向調査」)
クラウドへの移行を検討するにあたり、「具体的に、移行することでどれだけメリットを得られるのか ?」「移行への準備はどうやるのか ?」「具体的な移行のやり方は ?」といった点を明らかにするため、一般的にクラウドへの移行は、次の図のように 4 段階のステップで実施します。
1~4 の各ステップについて、それぞれご説明します。
ステップ 1. 評価 : ワークショップを開催
最初の「評価」のステップでは、関係者が集まり、クラウド移行の準備状況を評価するワークショップを開催します。AWS クラウドへ移行する場合は、以下の段取りでワークショップを実施します。
- 最初に、AWS へシステムを移行する目的 (スタッフの生産性を高める / コストを削減する、等) およびその効果を明らかにします。短期的および長期的な目標、リスク、移行に伴う問題点を話し合います。
- AWS で利用可能なリージョンやサービス、運用プロセス、統合プロセスについて評価します。具体的には、以下の観点から話し合います。
■ビジネス上の観点から
・事業 : 事業戦略や予算に沿っているか
・ガバナンス : ポリシー、規格、コンプライアンスへの適合性
・人々 : 役割と準備状況
■技術的観点から
・運用 : 運用モデル
・セキュリティ : リスクとコンプライアンス
・プラットフォーム : インフラストラクチャ
- 意見を取りまとめ、次に行うべきアクションを決定します。
なお、ワークショップの司会進行 (ファシリテーション) は、AWS の営業担当が行わせて頂くこともできますし、クラウド移行のための準備状況評価ツールである AWS Cloud Adoption Readiness Tool (CART) をお使いになることで、自己評価を行なって頂くことも可能です。
ステップ 2. 準備 & 計画 : 7 つの R から選択
次に、2 番目の「準備 & 計画」のステップでは、既存のシステムの整理・棚卸しを行い、各アプリケーション / データベースをそれぞれどのような形で AWS クラウドへ移行すべきか分類します。移行の方法としては、アルファベットの R から始まる 7 つの選択肢があり、アプリケーション/データベースごとにいずれかの方法を選択します。
以下に、実施が容易なものから順に記します。
廃止 (Retire)
不要と判断されたアプリケーション / データベースを単純に廃止または削除します。
保持 (Retain)
クラウドへ移行する正当なビジネス上の理由が無いため、移行せず元の環境で稼働させ続けます。
リロケート (Relocate)
オンプレミスの VMware 環境を VMware Cloud on AWS に移行します。既存のアプリケーション/データベースには何も変更を加えません。
リホスト (Rehost)
既存のアプリケーション / データベースに何も変更を加えることなく、そのままクラウドへ移行します。(例 : オンプレミスの Oracle Database を、AWS クラウドの EC2 インスタンス上の Oracle に移行)
再購入 (Repurchase)
既存の製品から、別の製品に切り替えます。特に、既存のライセンスモデルの製品から、SaaS モデルの製品に切り替えることを指します。(例:既存の顧客管理システム (CRM) を Salesforce.com に切り替え)
リプラットフォーム (Replatform)
クラウドへ移行する際に、クラウドの機能を活用するため、部分的に最適化を行います。(例 : オンプレミスの Oracle Database を AWS クラウドの Amazon RDS for Oracle へ移行)
リファクタリング (Refactor)
アプリケーション / データベースを移行するにあたり、クラウドネイティブな機能を最大限に活用し、俊敏性・パフォーマンス・拡張性を高めるため、コードの修正やデータベースの変換を行います。一般的に、OS やデータベースの変更を伴います。(例 : オンプレミスの Oracle Database を Amazon Aurora PostgreSQL へ移行)
ステップ 3. 移行 : 移行ツールで安全かつ簡単に移行
3 番目の「移行」のステップでは、2 番目の「準備 & 計画」で決定した移行方法に基づき、移行を実施します。
移行方法として、リホストを選択した場合は、AWS の提供する移行ツールである CloudEndure Migration を使うことで、素早く、安全かつ簡単に移行することができます。なお、本ツールは、様々なソース (移行元) / OS / データベース / アプリケーションに対応しています。
ステップ 4. 運用 & 最適化
最後の 4 番目の「運用・最適化」のステップでは、クラウドへの移行後に実際に運用を開始し、以下を実施します。
- 可用性やパフォーマンスを改善する
- Amazon Elasticsearch Service のようなサービスと統合することで、アプリケーションを進化させる
- モノリス (単一の巨大なアプリケーション) をマイクロサービスへ分割し、アプリケーションのモダン化を行う
なお、クラウドへの完全移行が難しいお客様には、「ハイブリッドクラウド」を利用するという選択肢もあります。具体的には、
- 低遅延で処理を実行する必要がある
- ローカル環境で処理を実行する必要がある
といった場合、以下のサービスを利用することで、ハイブリッド環境でアプリケーション / データベースを実行することが可能です。
- AWS Outposts : AWS のインフラストラクチャとサービスをオンプレミスで実行するハイブリッドサービスです。 具体的には、AWS が設計したハードウェアをオンプレミスに設置します。 Outposts のインフラストラクチャと AWS のサービスは、クラウドの場合と全く同様に、AWS によって管理、監視、更新されます。
- VMware Cloud on AWS : AWS のデータセンターに格納されているベアメタル EC2インスタンス (物理サーバー) 上で VMware のサーバー仮想化ソフトウェアを実行するサービスです。オンプレミスのデータセンターの迅速な避難、ディザスタリカバリ、アプリケーションのモダン化を実現できます。
最後に、全体の図を見てみましょう。
今回は AWS クラウドへの移行に関する概要をご紹介しましたが、移行の目的や予算によって、最適な移行方法は異なってきます。そのため、移行を成功させるためには、最初の「評価」段階で、利害関係者を巻き込み合意を形成する事が重要です。
AWS クラウドへの移行に関する詳細な情報および事例は、こちらをご覧ください。チャットでのご相談も随時承っておりますので、お気軽にご相談頂ければ幸いです。
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筆者プロフィール
安田 茂樹
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
テクニカルコンテンツマネージャー。
2014 年にアマゾンジャパン合同会社に入社後、デバイス試験部門にて発売前の数多くの Amazon デバイスの試験に携わる。2019 年より現職。
趣味は新しいガジェットを試すこと、旅行、食べ歩き。
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