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【開催報告】製品・サービスのスマート化に向けた変革と挑戦

こんにちは!アマゾンウェブサービスジャパン合同会社で製造業のお客様を支援しているソリューションアーキテクトの山本、シニア事業開発マネージャーの和田です。
2023年11月9日に製造業向けオンラインセミナー「製品・サービスのスマート化に向けた変革と挑戦 〜クラウド活用は前提、併せて必要となる社内変革とは? 〜」を開催いたしました。セミナーの開催報告として、ご紹介した内容や、当日の資料・収録動画などを公開いたします。

はじめに

製造業のお客様にとって、自社製品のスマート化や自社ソフトウェアの SaaS 化により、モノ売りからコト売りへ変革していくことが求められています。多くのお客様が IoT による自社製品のコネクティッド化に取り組まれていますが、継続的に提供価値を向上するためには、システムだけの変革だけでなく、組織、人材、開発プロセス、販売方法、KPI などの変革も必要です。
当セミナーでは、自社製品やソリューションのサービタイゼーションを検討/実施されているお客様向けに、実現するために課題となる部分のご説明や解決のための方法、お客様事例のご紹介を行いました。
どうぞ皆様の事業のご参考に、各講演者の録画/資料をご活用下さい。

モノからコトへ サービタイゼーションの勘所

登壇者:AWS シニア事業開発マネージャー 和田 健太郎

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コト売りにおいてはソリューションを素早く立ち上げ、かつ立ち上げたソリューションを継続的に改善することが重要です。しかし、コト売りへの変革において製造業のお客様は様々な課題を抱えていらっしゃいます。Amazon ではイノベーションを起こすためには、組織、アーキテクチャ(システム)、メカニズム、企業文化の4つの要素が重要と捉えていますが、本セッションでは、これらの要素から製造業に求められる変革のポイントをご説明致しました。システム面ではクラウドを活用頂くことが有効ですが、クラウドの活用は前提として、その他の変革を合わせて進めて頂くことが重要です。また、これらの変革に取り組まれているお客様の事例と、AWSのご支援内容をご紹介させて頂きました。

サービタイゼーション実現のためにモノ売り企業に求められる変革

登壇者: Vieureka 株式会社 事業開発グループ 久芳 俊博 様

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Vieureka 株式会社の久芳様からは、大企業の中のプロジェクトからスタートし、カーブアウトを経て、サービス提供における気づきから新たな事業を開始したストーリーについてお話しいただきました。

もともと Vieureka 様は Panasonic 様R&Dの社内プロジェクトとして人手不足解消・働き方改革のためのエッジ AI/IoT のプラットフォーム構想として出発し、構想を現実のものとするため、当初はまずはコトを広めるためのモノであるカメラとサービスとしての Viereka Manager の提供を開始されました。

大企業の中でスタートした Vieureka 様が実施された改革は多岐にわたりますが、まずはツールとしての AWS クラウドやマイクロサービスの活用により継続的な価値向上や開発効率の向上を行えるようにしました。

また、カーブアウトに伴って広くパートナーデバイスにオープンなビジネススキームへと変革し、88社のエコシステムを構築し、ビジネスKPIもモノの売上げから、コトの KPI、すなわち ARR や対応端末数への変革も実施されました。

一方、実際のサービスでの運用の中で、重要だが顧客価値にとっては本質ではないデバイスマネジメントが共通課題であるという気づきから、これを Vieureka 様がデバイスに依存しないサービスとし、お客様が価値提供に注力できるようになります。

 

このように、大企業内の社内プロジェクトからスタートし、様々な改革を実施すると共に、モノに依存しないデバイスプラットフォームへとビジネスを拡大された事例はモノコト変革において多くの参考になる要素がありました。

スマート道路モニタリングのサービス開発

登壇者: カヤバ株式会社 技術本部 基盤技術研究所 情報技術研究室 主幹研究員 髙松 伸一 様

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油圧部品を中心としたB2Bの製造販売事業を行っているカヤバ様は、主力製品である自動車部品の開発で培われた車両挙動の計測・分析技術を保有されています。このアセットを応用し、R&D 部門が起点となって従来の受託製造モデルとは異なる、今までにないコト売り型のビジネス開発を推進されました。登壇いただいた高松様からは、新規事業創出や開発文化改革、デジタライゼーションなど、多面的な変革を芽吹かせようと取り組んでいる活動についてご紹介いただきました。

カヤバ様が提供する「スマート道路モニタリング」サービスは、従来手間のかかった自治体管理道路の路面調査を、日常パトロールカーにセンサーを搭載することで、走行するだけで計測、クラウドに収集することで定量的に路面状態を調査できるソリューションです。このサービスにより人手不足の解消と全路線の調査の実現を行えます。この新規事業はこれまでの製造業としてのビジネスと大きくモデルが異なり、また所管組織もなかったことから、実現には社内での推進合意に課題があったそうです。

これらの課題に対して高松様はスマートプロダクトビジネスと既存事業の特徴や相違点を整理し、トップとの調整を重ね引受先体制を検討するとともに、社内外へアセットをアピールすることによって、ブランド力を強化して味方を増やし、ソリューションの価値を向上させることで事業化を実現されました。多くの製造業のお客様にとって、従来の製造ビジネス(モノ)からスマートプロダクト(コト)へのシフトは組織やビジネスの構造を変える必要があり、大きなチャレンジとなりますが、カヤバ様の取り組みは先駆者事例として共感とともにご参考にいただけたのではないかと思います。

SaaS デリバリー戦略

登壇者: TOPPAN デジタル株式会社 ICT 開発センター DXソリューション開発部1T 棗田 昂 様

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TOPPAN デジタル様は校正から社内回覧までの業務を自動化・オンライン化する SaaS「review-it! for Package」を提供されています。

TOPPAN デジタル株式会社の棗田様からは、SaaS 事業、特に B2B に販売していく上で最も重要であると考える「デリバリー」という考え方についてお話しいただきました。

デリバリーとは「価値の伝達」であり、SaaS におけるデリバリー戦略は、各事業フェーズ毎に異なると説明されています。

0-1におけるデリバリーの重点ポイントは、あるファーストクライアントの事例を例に本気で課題を解決しようとしている顧客に熱量を持ってプロダクトが目指す未来や提供したい価値を伝達することの重要性を伝達することであるとおっしゃっています。

次に、1-10におけるデリバリーの重点ポイントは、メインストリーム市場の顧客に対してあらゆる価値の伝達の仕方が可能なサービスを作ることが重要であると述べられました。

しかし、メインストリーム市場は、初期市場との間の性質が大きく異なり、価値観のギャップを埋めていくことが重要であり、且つ難しいポイントにもなります。TOPPAN様が直面した課題は、プロダクトの改善において意思決定の難易度が上がった点にあります。この課題に直面する中で、開発メンバーに対する依頼も一方通行となり、開発メンバーのモチベーション低下という悪影響にもつながりました。サービスの観点では、要望が多岐にわたり、それらに対して個別に対応する中でプロダクトの全体像がぼやけるという問題も発生しました。

このような問題が発生した原因について出てきた仮説が「価値を売っていたつもりが機能を売っていたのではないか」ということでした。お客様に求められる要望を受け続けていく「Fit & Gap」のアプローチでは、様々な機能を作り続けていく必要が出てきてしまいます。

これに対して、顧客側が「サービス側が提示した現実界」に合わせる Fit to Standard を目指すため、プロダクトフィードバックループプロセスと組織の改善を実施しました。課題の把握とサービスビジョンのすり合わせをカスタマーサクセス、現場課題や製品像を把握して意思決定を行いデザインチームに仕様を落とし込むプロダクトマネージャーによる製品の意思決定を行い、デザイナーにより要望やUIを整理するといった改善を行いました。

結果として、新たなプロダクトフィードバックループ「Ver2.0」により、各チームが密に連携して現場での実用性を重要視した機能開発と優先度付けをした上で意思決定を行うことができるようになりました。フィードバックループをスピード感を持って機能改善していく上で AWS は無くてはならない存在であるとおっしゃっています。また、受注数が大きく伸び、受注までのリードタイムを圧縮することもできるようになりました。

AWS ではじめる・拡げる、スマートプロダクト&サービス

登壇者: AWS シニアソリューションアーキテクト 吉川 晃平

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イベント最後のセッションでは、新たなビジネス機会創出と付加価値獲得を目指し自社製品のスマートプロダクト化を目指す製造業の皆様向けに、Solutions Architect 吉川が主にテクノロジーの観点から AWS のサービスをつかって製品のスマートプロダクト化とサービス提供をおこなう方法をご紹介しました。スマートプロダクト化においてはユーザーの声をタイムリーにサービス・デバイスに反映させる迅速さが成功の秘訣です。これを実現するには試行を増やし、リリースサイクルを短縮させる組織力とソリューションが必要となります。

AWS はすぐに使えるマネージドサービスを中心に 200 を超えるサービスがあり、これを組み合わせることで開発量を抑えながら迅速にお客様のサービスをアップデートすることができます。このセッションではスマートプロダクトの開発・運用に必要な3つの要素、「デバイスとサービスの接続」「デバイス設計の加速」「継続的な機能更新と改善」に着目し、サービス、デバイスそれぞれについて、AWS を活用する方法をご紹介しました。また、多くのサービスの中から、ユースケースに適したサービスを選択する方法、継続的な開発・運用に適した環境、デバイス設計でのクラウド活用、サービスに機械学習を組み込む方法など、広くスマートプロダクトビジネスに役立つAWS活用方法や事例をお話しました。

終わりに

本セミナーでは、製造業のお客様が自社製品のスマート化や自社ソフトウェアの SaaS 化により、モノ売りからコト売りへ変革していくために必要な考え方やポイントについて紹介し、実際にサービタイゼーションを実現されたお客様の事例と体験談を共有いただきました。

本ブログは、事業開発マネージャーの和田健太郎、ソリューションアーキテクトの山本直志、吉川晃平、村松健が執筆しました。