AWS Startup ブログ

開発組織のリーダーに求められる要素とは【AWS ExecLeaders – CTO Talks in Makuhari】

アマゾン ウェブ サービス ジャパンは 2023 年 4 月 21 日、日本最大級の AWS イベント「AWS Summit Tokyo」の併設企画として、スタートアップまたは元スタートアップや Web 系サービスの技術経営者(CTO/CIO/CDO/VPoE)を対象に、招待制イベント「AWS ExecLeaders – CTO Talks in Makuhari」を開催しました。

今回のイベントでは AWS Summit Tokyo Day2 Keynote Speaker のラフール・パサックおよび世界全体のコマーシャル部門でテクノロジー & カスタマーソリューションを統括しているフランチェスカ・ヴァスケスの 2 名が、業務で大切にしていることや組織のリーダーとして向き合ってきたことなどをご紹介しました。

Opening Message from AWS Executive

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 技術統括部 本部長 塚田 朗弘

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 技術統括部 本部長の塚田 朗弘が司会を務め、各セッションを進行していきました。

まずは「Opening & Key Message from AWS Executive」セッション。アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表執行役員社長の長崎 忠雄が、会場のみなさまにごあいさつをしました。今回の「AWS Summit Tokyo」は 4 年ぶりのリアル開催であり、3 万人以上の参加者登録がありました。長崎は「対面でお客さまと会話をし、フィードバックをいただくことがいかに重要であるかを、『AWS Summit Tokyo』で再認識しました」と述べます。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表執行役員社長 長崎 忠雄

私たち AWS がここまで事業を成長させられたのは、スタートアップをはじめとする世界中のテック企業の方々がクラウドとして AWS を利用してくださったからです。そして、テック企業において CTO や CIO、CDO、VPoE といった技術経営者の存在は極めて重要です。

その考えのもと、アマゾン ウェブ サービス ジャパンでは世界に先駆けて技術経営者の方々のコミュニティを長期間に渡り支援してきました。「これからも、技術経営者にとって有益な情報や意義のある機会を提供していきたい」と長崎は述べ、本セッションの概要説明を行いました。

そのうえで、「AWS の 2 名のリーダーがアメリカから来ています。企業経営において何に気をつけながら、組織や、人、イノベーションと向き合っているのかを解説してもらいます。みなさまには明日から使えるような実践的なヒントを持ち帰っていただきたいです。ぜひ、楽しんでいただけたら幸いです」と締めくくりました。

Fireside Chat with Rahul Pathak and Francessca Vasquez

ここからは、ゲストスピーカーとしてラフール・パサックとフランチェスカ・ヴァスケスが登場。アマゾン ウェブ サービス ジャパン Specialized Sales Leader の一栁 健太がモデレーターを務め、セッションを進行しました。

テーマ:優先順位付けについての考え方

一栁:テクノロジーの進歩は非常に早く、技術経営者は常に各タスクの優先順位付けの必要に迫られています。優先順位付けについてのお二人の考え方を聞かせてください。

ラフール:優先順位を付けることは、組織のリーダーがお客さまに対して価値を提供していくために重要な業務のひとつだと考えています。「自分たちのチームが取り組むタスクによってサービスの利便性やセキュリティ、クオリティを担保できるのか」を考えるのは、リーダーの大切な役割です。

アマゾン ウェブ サービス リレーショナルデータベース エンジン担当 バイスプレジデント ラフール・パサック

フランチェスカ:ラフールさんと同意見ですね。付け加えるとすれば、私たちはお客さまのニーズに応えるうえで、“協働すること”を主眼に置いています。お客さまとの対話を続ける過程で、真に必要な要素を見極め、やらないことを決めるのもリーダーの重要な役目です。

一栁:過去に、優先順位を付けて取り組んだ具体的な事例はありますか。

ラフール:数年前に、あるデータベースにおいて「多種多様なデータソースを利用できるように機能変更する」というプロジェクトを進めていました。しかし、そのデータベースのパフォーマンス改善をする必要があることも、私たちは認識していました。

優先順位を考えた結果、機能変更のためのプロジェクトを遅らせて、パフォーマンス改善を優先する決定をしました。データベースのパフォーマンスが低く可用性が上がらなければ、いくら新たな機能を追加したところで、お客さまのためにはならないと考えたからです。

フランチェスカ:私の事例も数年前のことです。AWS のソリューションアーキテクトの一人が、定期的にお客さまを招いて AI や機械学習についてのワークショップをしていました。そのために、少なからぬ労力を割いていたのです。

そんな折に、別のソリューションアーキテクトが「AI や機械学習の知識を、お客さまが楽しみながら学べるような AWS のサービスを作ればいいのではないか」というアイデアを出してくれました。つまり、真の意味で優先すべきだったのは、ワークショップを開くことではなく、お客さまが自分自身の力で学習できる環境を整えることでした。

そして、AI や機械学習によってレースカーが走る様子をシミュレーションする AWS DeepRacer というサービスを構築したのです。これにより、あえてワークショップを開催しなくても済むようになりました。

テーマ:イノベーション文化を維持しつつ新たな事業構想を練る

一栁:次の質問です。Amazon には、イノベーションを推進する文化があります。しかし、現代は厳しい社会情勢が続いており「コスト削減のために、イノベーション創出の取り組みをやめよう」と考える企業も少なくありません。どうすれば、企業が革新的な文化を維持できるでしょうか。

アマゾン ウェブ サービス Worldwide Commercial Sales (WWCS) テクノロジー & カスタマーソリューション担当 バイスプレジデント フランチェスカ・ヴァスケス

フランチェスカ:Amazon にはイノベーション加速のためのさまざまな工夫がありますが、そのなかでも大きく 2 つ重要な点があると思っています。1 つ目は Amazon の Leadership Principles です。これは、全社員に浸透している文化ですが、この Principles のなかでも特に「Customer Obsession(お客さまを起点に考え行動する)」が大切です。

このフレーズに関連した要素として、Amazon にはイノベーションを創出するための「Working Backwards」という思考プロセスがあります。直訳すると「逆方向に思考する」という意味ですが、これは「お客さまのニーズを起点として、そのソリューションとなるサービスを発案する」ということです。

さらに 2 つ目は、Amazon のイノベーションを加速させるカルチャーの1つとして、「全てナラティブ(直訳:物語)を元に議論を進める」が挙げられます。Amazon の優れたリーダーたちは、新しいアイディアが生れたら、PR/FAQ(プレスリリース)形式でそのアイディアをまとめて社内でリクエストを上げ、フィードバックを反映させながらアイディアを新しい実際の取り組みとして実現していきます。

ラフール:実際に私も多くの PR/FAQ を書いており、2012年にプロダクトマネージャーをしていたときに PR/FAQ を通じてリリースしたサービスが Amazon Redshift という初めてデータウェアハウスをクラウドで提供したサービスになります。まさにこの事例はナラティブを通じてイノベーションを促進した結果だと思います。

一栁:良い事例ですね。私たちリーダーは、ナラティブをまとめる優秀なライターにならなければならないと実感しました。

テーマ:お客さまが直面している課題に応える

一栁:お客さまが直面している課題に応えるため、そしてお客さまに成果を上げていただくためにどのようなお手伝いをされていますか。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン Specialized Sales Leader 一栁 健太

フランチェスカ:私のチームは主に 4 つの分野でお客さまと協働しています。1 つ目はコスト最適化。2 つ目はお客さまの持っているアプリケーションやワークロードを AWS にマイグレーションし、マイグレーション後にアプリケーションをモダナイズしていくこと。3 つ目はセキュリティ向上。4 つ目はエンジニアの確保です。これらはいずれも、お客さまからのニーズもビジネスの価値も高い仕事だと思います。

付け加えると、データ活用に関する戦略の立案・実行の価値が近年さらに高くなりつつあります。昨今、生成系AI が台頭していますが、それもあってデータの重要性が増しているのです。私のチームではこれらの各分野のサポートをより強化するためのプログラムを立ち上げました。特定分野のスペシャリストやアーキテクトなどで組織を構成し、ラフールさんのチームなどとパートナーシップを組んでさまざまな取り組みを行っています。

ラフール:フランチェスカさんの言ってくれた通り、データを活用する業務は今後増えていく一方だと思います。お客さまにも「データ戦略に基づいて、あらゆるワークロード、あらゆるタイプのデータに対して、エンドツーエンドのデータ分析、機械学習を支える包括的な仕組みを考えましょう」とよく提案しています。AI や機械学習をよりうまく扱ううえでも、データ基盤の構築は必須要件になります。

テーマ:ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン

一栁:ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(多様性・公平性・包括性:以下、DE&I)は、より良い企業を構築していくために必要不可欠です。この取り組みと課題について教えてください。

ラフール:おっしゃる通りで、DE&I は現代社会において重要なトピックだと思います。パフォーマンスを出せるチームを構築したいのならば、さまざまな経験や文化的背景を持った人たちが集まるような多様性が求められます。さらに重要なのは、組織のリーダーが DE&I をサポートしている姿勢を、他の方々に見える形で発信していくことです。チームメンバーは、必ず私たちリーダーを見ています。

フランチェスカ:個人的には、企業が DE&I を事業戦略の一部として考えないのであれば、組織やビジネスの成長そのものにネガティブな影響が出ると考えています。優秀な人材はどの企業も不足しているのですから、人を惹きつけて、採用して、育てて、力を発揮してもらうためにも DE&I が必須です。

私の昔話をさせてください。私は大学でコンピューターサイエンスを勉強していましたが、在学中に私と同じように女性でテクノロジーを学ぶ人を見たことがありませんでした。「この道できちんとキャリアを構築していけるのだろうか」という不安にかられました。

ですが 6 年前に Amazon に入社した際に、素晴らしいメンターの方々に恵まれたのです。実は、何名かいた優秀なメンターの一人が、まさにここにいるラフールさんでした。ラフールさんをはじめとしたチームメンバーたちは、まさに DE&I にあふれた環境を用意してくれました。不安な気持ちはなくなり、そのおかげで良いキャリアを歩んでこられたように思います。ぜひみなさんにも事業戦略の一環として、DE&I を組み込んでいただきたいです。

セッション終了後は、登壇者・参加者で記念撮影をしました。

Networking

イベント終盤では、ネットワーキングのためのカクテルパーティーを開催しました。会場のみなさまは、和やかな雰囲気で談笑や情報交換を楽しまれていました。

「AWS ExecLeaders – CTO Talks」のように技術経営者の方々が集まるイベントでは、各セッションの発表内容だけではなく参加者同士の交流も重要です。悩みを相談できる横や縦のつながりを築いたり、またつながりをきっかけとして開発組織を改善するヒントがもらえたりすることもよくあります。


アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、今後も技術経営者の方々へのさまざまなセッションやネットワーキング機会を企画していきます。どうぞお楽しみに。