AWS Startup ブログ

【2023年の振り返り】AWSによるヘルスケア・ライフサイエンス スタートアップ支援

こんにちは。AWS スタートアップ事業本部 ヘルスケア・ライフサイエンス担当の浦田です。
我々のチームは、ヘルスケア・ライフサイエンスのお客様向けに、多岐にわたるスタートアップ支援を展開しております。
これには、個別の技術相談会、AWS パートナー (開発会社や独立系の SaaS ベンダー)の紹介、更にはイベントの開催など、幅広い活動が含まれます。
本ブログでは、2023年に行った支援内容の一部をご紹介します。

ヘルスケア・ライフサイエンス分野において、スタートアップの成長とイノベーションは、多様なステークホルダーと密接に関わっています。補助金/助成金申請や規制対応のための関係省庁、共同研究や開発のための大学や大手製薬企業、資金調達のためのベンチャーキャピタルなど、日々異なる関係者と情報交換及び連携が必要です。一方でこれらは多くのスタートアップにとって課題になっています。
実際に、日々スタートアップのお客様とお話をする中で、『このテーマについてキャッチアップしたい』、『この専門家のお話を聞きたい』というようなお声をいただきます。

これらの要望に応えるために、2023年に我々は新たな取り組みとして、Healthcare and Life Sciences Startup Day (略称:HCLS Startup Day )を開催いたしました。
HCLS Startup Day とは、その時々で注目されているトピックを選出し、それらのテーマに精通した専門家を招待することで、知識と経験を共有するコミュニティ主導のイベントです。

2023年には、計4回の HCLS Startup Day を開催しましたので、以下それぞれのイベント概要をご覧ください。

日本医療ベンチャー協会の取り組み & 大学病院におけるヘルスケアスタートアップとの協業・PHR基盤の構築

開催日: 2023年3月31日
協賛者:
・日本医療ベンチャー協会 副理事長 山本 隆太郎 様
・藤田医科大学病院 教授

昨今、ヘルスケアが注目を集める一方で、業界全体として DX 化が課題になっており、ビジネスを取り巻く環境が整備されていないのがヘルスケア業界の現状です。また、冒頭でも述べた通り、 多くのステークホルダーを考慮する必要があり、情報が散在している為、最新の情報や取り組みをキャッチアップするのが難しいと感じている方も少なくはないのでしょうか?

本イベントの前半では、日本医療ベンチャー協会 山本様より当社団法人の目的と活動内容について紹介いただきました。当協会は、上記のような業界の課題に対処すべく、共有の問題意識を持っている業界の同志が集い、正確な情報共有ができる環境・ヘルスケア業界における情報の一元化を目指しています。具体的な活動内容として、行政機関・関係団体との意見交換や特定のテーマ(遠隔診療、SaMD、PHR等) に関する行政当局との集中的な意見交換や勉強会などを実施されているとのことです。

後半では、藤田医科大学病院の教授より、 同大学が多数のスタートアップと協力して進められている共同研究やプロジェクトの概要についてお話いただきました。その中でも、2022年からAWS上で開発を進められている「Fujita Healthcare Platform」というPersonal Health Record (PHR) 基盤について重点を置いて説明いただきました。このPHR基盤は、 藤田医科大学と地域の病院・診療所や薬局との間で、健康診断情報や医用画像、投薬履歴などのデータをセキュアに交換可能な地域医療の情報基盤として活用される予定で、医療情報の次世代標準規格「HL7 FHIR」や3省2ガイドラインの対応にも準拠しています。具体的な導入方法やタイムライン、システムアーキテクチャに関する詳細も提供してくださいました。

IPOを目指すヘルステックの知財戦略のリアル ~スタートアップが弁理士に聞く、創業当初から知っておきたいこと~

開催日: 2023年6月7日
協賛者:
・東京共同弁理士法人 パートナー弁理士 五十嵐 義弘 様
・株式会社 Yuimedi 取締役 CTO 井上 真吾 様

IPOを目指すヘルステックスタートアップにとって、創業当初から知的財産(IP)戦略を考えておくことは重要です。一方で、基本的な調査を行う時間がなかったり、専門家に相談するタイミングや方法の判断が難しいのが現実です。実際に、知財がIPOにもたらす影響や弁理士の先生の選び方に関するご質問を多く受けます。

本イベントでは、ヘルスケア領域での知財戦略サポートに豊富な経験を持つ、東京共同弁理士法人 五十嵐先生を招き、ヘルステックスタートアップが IPO に失敗しない為に知るべき知財戦略についてお話いただきました。リスクマネジメント、知財とヘルステックの相性の良さ、そして企業価値に対するディスカウント圧力への対抗手段などの観点から、知財にこだわるべき理由について話してくれました。知財の創出にはルールへの理解力と順応性が大切でありつつも、時には障害になり得ること、価値の最大化には、諸外国が得意とする『ルールを守ればあとは何やってもいい』のマインドセットへのスウィッチも重要であることなどを説いてくださいました。

続いて、ヘルステックスタートアップの Yuimedi CTOの井上様をお招きし、ご自身の経験談についてお話いただきました。Yuimedi 社は医療データに特化したノーコードのクレンジングソフトウェアや医療データを観察研究に適した共通データモデルの OMOP CDM に変換するサービス等を提供しています。実際に知財を取得した経験をもとに、スタートアップ目線で『特許出願前に考えておくべきこと』や『弁理士の先生との付き合い方』についての 貴重な洞察を共有してくださいました。

スタートアップ×ビッグプレーヤーズ:大企業・政府との連携の鍵とバイオ政策の未来

開催日: 2023年9月28日
協賛者:
・中外製薬様 デジタル戦略推進部 企画G グループマネジャー 関沢 太郎 様
・経済産業省様 商務・サービスグループ 生物化学産業課 課長補佐 庄 剛矢 様

左から
・アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 Sr. VC BDM 福井 健悟
・中外製薬株式会社 デジタル戦略推進部 企画G グループマネジャー 関沢 太郎 様
・経済産業省 商務・サービスグループ 生物化学産業課 課長補佐 庄 剛矢 様

ライフサイエンス領域において、大企業や政府との連携・協力は欠かせません。しかし、具体的にどのように関係性を築き連携できるのか、スタートアップに求めている要素や具体的な期待値はどこにあるのか、など気になる方も多いのではないでしょうか。

本イベントの序盤では、 中外製薬 関沢様より『大手製薬企業とスタートアップの協業』をテーマに、オープンイノベーションハブである Digital Innovation Lab ( DIL ) について、お話いただきました。DILとは、 中外製薬社員から創出されたアイディアの中で、先進性や拡張性、将来性等の観点を重視したプロジェクトを選出し、パートナー・スタートアップと共にPoC、本番開発を進め実現化を目指す取り組みです。 中外製薬様がスタートアップと協業する際に求めている要素やエンタープライズ視点での創薬ベンチャーの現状、そして中外製薬様が設立された総額2億ドルのコーポレートベンチャーキャピタル( CVC )の概要などについて、 共有してくださいました。

その後、経済産業省 生物化学産業課の庄様より『日本におけるバイオ政策の展開』についてお話いただきました。昨今、バイオテクノロジーの産業領域は世界的に注目を集めています。この潮流は日本も例外ではありません。しかし、米国のバイオ産業市場や投資状況と比較すると、日本にはまだ変革が必要であることは明らかです。この変革を実現する為に、スタートアップ5カ年計画に基づく大規模な支援策やグローバルエコシステムとの接続に向けた国の政策、およびスタートアップへの期待などについて熱く語ってくださいました。

最後のセッションでは、AWS Japan の福井がファシリテーターを務め、中外製薬 関沢様と経済産業省 庄様と共にパネルディスカッションを行いました。福井はシンガポールでのバイオテックスタートアップの起業経験があり、自身の体験も踏まえた上で、直球な質問を投げかける形になりました。日本のスタートアップのM&Aが進展しない理由、バイオ領域での生成AIの活用、スタートアップ5ヵ年計画の先にある未来など、リアルイベントならでは率直な意見が交換されました。

実例から学ぶ、SaMDビジネス参入のための戦略

開催日: 2023年11月17日
協賛者:
・経済産業省 商務・サービスグループ 医療・福祉機器産業室 室長補佐 雪田 嘉穂 様
・株式会社 CureApp 開発統括取締役 鈴木 晋 様
・株式会社 日立システムズ デジタル・ライフサイエンスサービス本部 健康支援サービス部 主任技師 吉田 壮輔 様

左から
・株式会社 日立システムズ デジタル・ライフサイエンスサービス本部 健康支援サービス部 主任技師 吉田 壮輔 様
・経済産業省 商務・サービスグループ 医療・福祉機器産業室 室長補佐 雪田 嘉穂 様
・株式会社 CureApp 開発統括取締役 鈴木 晋 様

Software-as-a-Medical-Device(SaMD;プログラム医療機器) は世界的に急速な拡がりを見せています。
日本においても、AI医療機器、スマートフォンやウェアラブル機器等を利用した治療用アプリ等、SaMDの承認件数は年々増加しています。一方でこの分野はまだ初期段階にあり、開発や事業化において様々な課題が存在し、ヘルステックスタートアップがどのように対応すべきか知りたいというお声を多くいただきます。

本イベントの冒頭では、経済産業省のSaMD政策担当の 雪田様より、日本におけるSaMDの研究開発の現状と課題について説明がありました。また経済産業省が行うディープテック・スタートアップ支援や若手研究者発掘支援などのSaMD開発支援施策の概要を、実際の採択事例を交えながらご紹介いただきました。

続いて、株式会社CureAppの鈴木様に、スタートアップの立場でどのようにSaMD開発や事業化を行われてきたか、実例をお話いただきました。CureApp様は、医師が患者に処方する治療アプリをSaMDとして既に製造販売されており、ニコチン依存症に対する治療アプリはスマートフォンで動作する治療用の医療機器として、アジア初の薬事承認及び保険適用されています。治療アプリを患者層、医師層、医療層の3層に分けて扱うという独自の考え方を共有くださいました。

最後に、株式会社日立システムズ 吉田様に、同社のSaMDスタートアップへの支援策についてお話いただきました。日立システムズ様はAWSプレミアティアサービスパートナーの一社で豊富なDTxの知見を持ち、多様な部門や規模のお客様向けのビジネスシステムの開発と実装をご支援されてきました。 今回は、日立システムズ様が提供する3省2ガイドライン対応、サイバーセキュリティ対応、バリデーション支援などの実例を紹介いただき、それぞれの対応プロセスやタイムラインについて情報を提供くださいました。

終わりに

本記事では、2023 年に開催した Healthcare and Life Sciences Startup Day について総括いたしました。
最後までご愛読いただき誠にありがとうございました!
2024年も引き続き、皆さまと共にヘルスケア・ライフサイエンス業界を盛り上げていきたいと思います!
「このテーマについてさらに深く知りたい」や、他にご質問やご要望がある場合は、 こちらの宛先 までお気軽にお問い合わせください。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

著者について

浦田 力樹 (Riki Urata) は、AWS Japan にて主にヘルスケア・ライフサイエンス領域のスタートアップのお客様を担当しています。趣味は野球とゴルフ。好きなアスリートは大谷翔平選手。ロールモデルは桑田真澄さん。