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【開催報告】With コロナ時代の消費者データの活用と消費体験の変革 #1 「化粧品業界における真の OMO の実現に向けて」

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 デジタルトランスフォーメーションアーキテクトの國田です。2021 年 11月 4 日 (木) に「With コロナ時代の消費者データの活用と消費体験の変革」というテーマで、流通小売・消費財業界の変革をリードするゲストスピーカーにご講演をいただきました。

本ブログでは、株式会社コーセー様においてIT戦略立案から実行まで、DX プロジェクトの推進をされている進藤様のご講演をご紹介します。

コロナ禍の困難な時期であったからこそ OMO のあり方、業務を根本から問い直し、AWS の俊敏性や特徴を活かして再設計をし、不確実な時代に前に進まれている貴重な事例となっています。

「化粧品業界における真の OMO の実現に向けて」

株式会社コーセー
情報統括部グループマネージャー
進藤広輔様

進藤広輔氏

1.ブランド・美容部員・カウンセリング

まずは、コーセー様のブランドと、そこで働いている美容部員、その中で行われているカウンセリングについてご説明いただきました。

コーセー様はブランドごとに戦略と売り方や販売チャネルが異なり、化粧品をお客様に届けています。
そして、そこで働く美容部員(ビューティーコンサルタント)は、百貨店やドラッグストアで商品の説明や肌の悩みの相談を行い、お客様をきれいにしてあげたいという思いで働いています。
美容部員は、店頭やカウンターに来客されたお客様に、対面で、肌年齢や肌の状態を見て、アドバイス、メイクアップをし、テスターと呼ばれる化粧品を用いて、個々のお客様に合った最適なご提案を差し上げています。
また、商品陳列や在庫管理や顧客管理など日常的な業務も行っています。

2.コロナ禍の影響とコロナ禍への挑戦

次に、コロナがコーセー様の事業に与えた影響と、それにより生じた挑戦についてお話いただきました。

コロナの発現により化粧品業界は大きく様変わりしました。言い方を変えると大きなダメージを受けたとも言えます。
臨時休業、時短営業のほか、化粧品売り場では、テスターが撤去され、それを用いたメイクのレッスンなどタッチアップがすべて禁止されました。
また、店頭には飛沫防止シートやついたてが置かれ、美容部員もマスクをして、ものものしいスタイルで接客をしなくてはいけなくなりました。
この当時、化粧品売り場に行くと非常に寂しい状況だったのを覚えているとのことです。
売り場が臨時休業になると、美容部員はお店に出勤できず自宅待機になり、時短営業になると、売り場に入る人数制限があり、出勤日数や時間が抑制されたました。
そして何より、従来できていたようなカウンセリングが全くできないという状況でした。

一方でお客様は在宅勤務、マスクの着用が一般化しました。
社会として良い影響もあったこと言えますが、化粧品の今のビジネスモデルでは、喜ばしいことばかりではなかったそうです。
調査結果によると、メイクへの関心やかける時間が大きくダウンする事態となり、また、リップ、ルージュなどを使用する機会がなくなりました。
そして、マスクにより顔の半分近くが覆われるので、メイクをする機会も量も減ったとのことです。
スキンケアの関心はアップしたという面もあったものの、化粧品業界においては、メイクやスキンケア商品においては必ずしもプラスにならなかったとのことです。

Slide-Beforeコロナを前提としない取組み

こういった状況において、コーセー様は、コロナの以前に戻ろうとするのではなく、コロナ以前の環境を大きく上回り、業務をよりよくしようとする取り組みを行ってきました。
つまり、大きくデジタルに舵を取り、従来の接客のモデルを壊して、新たな接客のモデルを作ろうとしました。
また、接客だけでなく、働き方も従来の水準を上回り、美容部員のニューノーマルの確立を目指しました。
言い方を変えると、現場で現物・現実主義からの脱却ということで、デジタルを活用して新たな価値体験を提供しようという考え方とのことです。

3.コーセーが考えるオンラインカウンセリング

続いて、コーセー様が考えるオンラインカウンセリングと、それを実現するWEB-BCシステムのアーキテクチャについてご説明いただきました。

基本的な考え方として、働き方、業務/機能、品質/性能の観点から、従来の接客を超えた新たな接客スタイルの確立を目指しました。

  • 働き方:働き方改革の実現⇒インターネットとクラウドを徹底活用
  • 業務/機能:ビデオ通話だけでなく、店頭業務と同等以上⇒顧客体験と店頭業務をアプリケーション化
  • 品質/性能:リアルを超えたリアリティ⇒より超えた形で、色味・質感・ツヤ/テクスチャーを伝える

これらをオンラインの世界で実現しようとするのであれば、映像のクオリティも人間の目を超えた「リアルを超えたリアリティ」をいかないといけないため、Before コロナを前提としない取組みが必要です。

次に OMO について考えると、今の定義はリアル店舗と EC の買い回りができていることと捉えられているケースが多いとのことです。
すなわち、買い場とデータにフォーカスしているが、コーセー様の考える新しい OMO は、お客様と顧客体験にフォーカスしていることが特徴です。
つまり、美容部員を介することでリアルと EC の体験を融合させようとしています。

Slide-Koseが考えるオンラインカウンセリングのイメージ

その根底には、「従来のオンラインカウンセリングは、カウンセリングと通話を混同しているのではないか?」という疑問があり、それらのものは基本的にはWeb会議をお客様と実施しているだけで、接客というレベルには及ばないと考えているとのことです。
コーセー様が考えるのは全く違うものであり、高解像度、高フレームレートといった性能において、Web会議のビデオ通話の制約を前提とはしていません。
すなわち、従来、店頭でやっていた業務をすべてアプリケーション化して、お客様の動線をすべてアプリケーションにおとしていくいう意図で始めたとのことです。

そのため、検討方針として、”要件定義”の呪縛からの解放をテーマとされたことをご紹介していただきました。
すなわち、そもそもオンラインカウンセリングは世の中にないため、要件を握っているのは美容部員であって、システム部門でも業務部門でもありません。
敢えて言うならばお客様の”キレイになりたい”がシーズであって、要件定義をしないというと語弊があるものの、呪縛から逃れることを方針としたとのことです。
その方法としては、美容部員との対話にこだわり、対話した内容をすぐに作って見せるというループを繰り返し、要件定義が固まっていない中で、概念の実現としてPoC (Proof of Concept) を実施したとのことです。
それにより、ライフサイクルの高速化を視野に入れた設計をし、抽象度の高い仕組みとすることでスケールしやすいことを指向されました。

それを実現する体制として、「システムは情シスだけのものではない」という考えのもと、事業部門と情シス、アプリベンダーとインフラベンダー全員が車座で座り、互いに業務領域を超えて意見を出し、全員で検討を進められました。
その中で、システムだけでなくビジネスレベルで理解するという意味合いから、AWS も事業会社の一員として一緒に検討を行っていきました。

そのような仕組みを支えるプラットーフォームは、全ての事業で標準化されているとのことで、WEB-BC システムのアーキテクチャをご紹介いただきました。
土台を共通化して作り、業務をマイクロサービス化して API で連携している構造になっています。
3rd Party によるエンジンも API から呼び出せる仕組みになっていることから、汎用性と拡張性に優れています。

Slide-Web-BCシステム

4.Why インターネット? Why クラウド?

最後に、技術がもたらす可能性と、予測不能な時代には従来と異なる考え方で活用しないといけないことから、インターネット技術とクラウド技術について、一段深い考察を披露していただきました。

インターネット

システム部門は、インターネットがもたらすビジネスの可能性を深く考え、会社に提案していかないといけないと考えている。
インターネットの持つ世界中どこでも誰でも誰とでもという力をコーセー様に当てはめて考えると、例えば店舗であるBCが行っている接客が最高だとするのであれば、それを遠く離れたブラジルにまで届けることができるということである。
そうなると多様な働き方が可能となり、例えばライフステージの変化により仕事を辞めざるをいけない美容部員も、インターネットにつながれば場所に依存せず仕事を続けることができる。
また、身体やインフラの制約により買い物に行けないお客様にもサービスを提供できると考えている。

クラウド

インターネットで提供するインフラだけでなく、ロジックとデータを載せるためにはクラウドが必要である。よって、インターネットとクラウドを組み合わせることでビジネスの価値を最大化できると考えている。

なぜ AWS?

インターネットの弱みとして、信頼性やセキュアでないことが上げられるが、AWSを使うことで可用性が担保され、弱みを強みに変えることができる。その際、いかにAWSを使いこなすのかがポイントになる。
世の中にはまだ懐疑的な見方もあり、まだインターネットよりWANの方が信頼性が高い、また、クラウドよりオンプレミスの方が可用性が高いと言われることがある。
しかし、考え方を変えると、堅牢性と確実性を追求したシステムにこれからニーズがあるのか?を問い直さなければいけない。すなわち、信頼性や可用性がトッププライオリティなのかは再考の余地がある。なぜなら、2020年のコロナの発生とともに、売上げの減少も経験したが、そもそもコロナの発生を予測できていなかった。
そして、コロナにより生じた購買心理・購買行動がどうなるのかは予想できないことであり、グローバルでの状況に目を向けたときにはスピードと弾力性は大きな武器であり、おのずと答えがでてくると考えている。

そのような考えのもと公開されたオンラインカウンセリングシステムのDECORTÉ Personal Beauty Conciergeをご紹介いただきました。

Slde-PersonalBeautyConcierge

そして最後に、
「今、コロナを通じて分かっていることはほんの一部であり、このあと、何が起きるのかは分からない。そのような中、コーセーは美を通じて夢と希望を与え続ける。その実現のため、AWSに益々期待をしている。」
とのメッセージをいただき、大変示唆に富むご講演を締めくくっていただきました。

質疑

AWS: 情シス部門と事業部門、さらには現場とのギャップをどう超えているのか?

事業部門は技術から遠い世界で仕事をしている。言い方を変えると、技術を使うと自分たちの仕事がどう変わるかわかっていないと言える。そのため情シス部門がいちばん最初にやらないといけないのは、システムのプロとして、システムがビジネスに対してどのような影響を与えるのかを説明すること。それは要件定義ではなくて、一緒に夢を広げる、ビジネスの可能性を一緒に語るということだと思っている。
システムを使うと、考えていなかったこういうことができるのだと思ってもらう事が重要で、そのきっかけができれば、いろいろなニーズはどんどん口から出てくる。
それに対して、システムのプロが、もっとこういうことができるという世界を説明する、ということをやることで、壁もなくなるし、システムに対するギャップもなくなってくる。
まずはシステム部側の人間がビジネス側に入っていって、可能性を一緒に考えることが重要だと考える。
それにより、壁を取り除くだけでなく新しい取り組みにつながっていく。

そのあとPoCをやるかどうかはそれに比べると重要ではないが、情シス部門とビジネス部門の両社にとってメリットのある話だと考える。
システム側も、ずっと作っていて最後にようやく出来上がると、自分たちが何を作っているのか見えづらくなってくる。特にシステムが大きくなると一部分だけを作る人もでてくるので、全体が見えなくなってくる。
そのため、小さい塊をどんどんアウトプットしていくことが重要で、そのためにPoCを繰り返す。
事業部側も、自分たちのビジネスが今どういう状況にあるか、形をなす過程が目に見えるようになるというメリットがある。そうすることで、方向性がずれていない確認にもなるし、PoCの過程で出てきた新たなニーズが取り込めるというのがポイントであると考える。

AWS: サービスの実現という面だけではなく、開発の過程や運用面で、AWSが役に立ったことがあるか?

AWSの価値は200あるサービスに目が行きがちであるが、それだけではない。
そこで働いているソリューションアーキテクトやプロフェッショナルサービスと呼ばれるエンジニアと、ビジネスの課題を共有して、方向性を合わせることで非常に大きな体験を生み出すことができた。
それは、事業会社にとっても大きなAWSのインプットがあったと思うし、AWSのエンジニアに対しても、コーセーのビジネスサイドが何を考えているかというインプットができたと思う。
そうした取り組みの中では、AWS と コーセー、エンジニアと事業部門という境目がなく、すべてが一体となって仕事をやっていた。
おそらく、担当した AWS のエンジニアはカウンセリングというものを理解することができたと思し、コーセーはカウンセリングの中でどう AWS を使っていけるかをより深く理解することができた。
AWS のサービスがすべてではなく、その中にいるエンジニアこそが最も価値の高いものなのではないかと思うし、そこを使いこなしていくことこそが、AWSのサービスを使いこなすことにつながってくると思う。
事業会社にとって重要なことは、ソリューションアーキテクトやプロフェッショナルサービスといったエンジニア達とうまく仕事をしていくことなのではないかと考えている。