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寄稿:関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介(第2回) – 前半

 本稿は、 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みの第2回の前半となります。執行役員である松浦 康雄様より寄稿いただきました。前半、後半の 2 回に分けてご紹介いただきます。本稿は、その前半となります。

連載記事として、以下も公開されておりますので、ぜひご参照ください。

1.はじめに

 本稿では、三部構成で当社の取り組みを紹介します。第1回では、当社スマートメーターシステムにおけるクラウド活用に向けた議論の全体像をご紹介しました。今回は、AWS を活用した次世代スマートメーターシステムの全体像について、技術的な観点も交えて私たちの現在の取り組み状況をご紹介します。 (図 1)

図 1 スマートメーターシステムと本稿における説明対象範囲 図 1 スマートメーターシステムと本稿における説明対象範囲

2.次世代システムの要件

 当社では次世代スマートメーターシステムの開発にあたり、15 年間に亘る現行スマートメーターシステムの開発や維持運用の経験、次世代スマートメーター制度検討会の取りまとめ内容や社外ニーズ、および最新技術動向を踏まえ、開発コンセプトを社内で議論しました。

 現行システムを開発した 15 年前は基本がオンプレミス環境であり、アプリケーションは私たちの観点での開発を行うものの、機能配置やシステム間連携方法などのアーキテクチャは、システム毎に異なるベンダに依存することになり、ベンダ間調整によりシステム全体を構築しました。つまり、私たちのコンセプトに基づく一元的なシステム開発は不可能で、その結果、システム間での機能重複や複雑なシステム間連携があり、結果として柔軟なデータ活用に制約が生じていました。

 次世代スマートメーター制度検討会では、再生可能エネルギーのコスト低下やエネルギーマネジメントの高度化、レジリエンス強化に対する関心の高まり、更には 2050 年カーボンニュートラル宣言等を背景とした分散型エネルギーリソースの導入拡大の進展がこれまで以上に期待されるようになってきていることが指摘されました。それらの結果、分散化・多層化を志向する次世代配電プラットフォームにおいて、データを活用した電力ネットワークの運用の高度化、電力分野以外への電力データの利用拡大、需要側リソースの拡大に伴う取引ニーズの多様化などへの対応を目的として、新仕様スマートメーターシステムへのアップグレードの必要性が取りまとめられております。

 私たちは社内外の環境変化を踏まえ、2023 年 8 月に関西電力送配電グループビジョンを制定し、関西一円のネットワーク設備、人財と技術、お客さまや社会の皆さまとのつながりといった送配電グループが有するプラットフォームを深化・拡大させることで、電気の安定供給のみならず、お客さまや社会に新たな価値を提供するエネルギープラットフォーマーへ進化し続けたいという考えを公表しました。そのキーとなるツールが、スマートメーターやそのデータを活用するためのシステムであると考えています。

 これらの背景のもと、次世代スマートメーターシステムの基本コンセプトは、「データの一元管理」、「類似機能の統廃合」、「相互影響しにくい疎結合な機能配置」であると考え、スマートメーターシステムに接続する周辺システムの更新計画、現行スマートメーターシステムから次世代システムへの円滑な移行等も踏まえ、将来にわたって柔軟かつ効率的な運用が可能なシステムを、シンプルかつ低コストに実現することも併せてコンセプトとして謳い、RFP を実施しました。より端的に表現すると、システムには、徹底的な拡張性や機能開発への柔軟性、および可用性を求め、今後想定される現行システムの移行や、スマートメーターへの機能追加要望、現行と次世代のシステム混在期の円滑な業務運用の実現、更にはスマートメーターシステムと周辺システムとの連携を推進し、再生可能エネルギーの導入拡大やレジリエンスの強化、およびお客さまの多様なニーズへの着実な対応にもつなげていきたいと考えています。

 これまで 15 年間のスマートメーターシステムの開発と運用の経験を踏まえると、当社が目指す姿の実現のためには、システム開発の考え方を抜本的に見直す必要があると考えました。実績のある従来の技術を継続採用することでリスク軽減が図れることは理解しながらも、私たちは新しい技術を正しく評価し、リスクコントールをしながら活用する方向性があると認識し、今回構築する全てのシステムを、AWS のクラウド上に実装するとともに、できる限り AWS サービスを利用することが望ましいと考え、開発に着手しております。その具体的な考えを、次章以降で記載いたします。

3.次世代スマートメーターシステム開発方針

前章で紹介した通り、次世代スマートメーターシステムでは、メーターの収容数や処理負荷増大に対する拡張性、現時点では未確定の将来の制度への対応などを見据え、新機能開発に係る実装の柔軟性とその俊敏性、送配電事業のレジリエンスを支える本システムの可用性を、将来にわたって高度に実現していくことが求められています。

 従来のモノリシックシステムアーキテクチャの考え方を踏襲した場合、スケールアップや機能追加、改修において、サイジングや一体的な機能開発などに多くの時間を要し、対応の柔軟性や俊敏性に制約が生じる傾向にあります。今回私たちは、品質を確保しながら柔軟なシステム開発の実現を志向するモダンアプリケーション開発手法によるアプローチを選択しました。モダンアプリケーションという考え方における重要な構成要素である、マイクロサービスやコンテナを用いてアプリケーションをより小さな機能単位にモジュール化して分割することで、システムとしての拡張性や将来機能実装への高い柔軟性、俊敏性を実現します。また、疎結合アーキテクチャを適切に取り込むことで、作業や障害時における影響範囲を限定し、システム全体としての可用性を高める仕組みとします ( 図 2) 。

図 2 当社のスマートメーターシステムにおける疎結合化の実現イメージ 図 2 当社のスマートメーターシステムにおける疎結合化の実現イメージ

 サブシステム内においては、疎結合化と拡張性の担保に留意しています。具体的には例えば、データベースや S3 にデータを配置し、データ授受は API 連携を基本とするとともに、データイベントをトリガーとしたイベント駆動型の仕組みを採用して非同期な機能間連携を実現します。これによって、次世代スマートメーターシステムのような大規模で複雑なシステムにおいても、耐障害性、スケーラビリティ、柔軟性の同時実現が図れます( 図 3)。

図 3 イベント駆動型アーキテクチャの特長 図 3 イベント駆動型アーキテクチャの特長

 また、システム開発時において、システムベンダがアプリケーション開発に注力できるようサーバレスやコンテナを積極的に活用するとともに、データベースをはじめインフラ周りは、システムベンダが個別構築するのではなく AWS マネージドサービスの利用を基本原則としました。 AWS の各種マネージドサービスを活用することで、拡張性やセキュリティ対応を AWS サービスで担保させながら、データベース等に係るシステムの維持運用を AWS にオフロードすることで当社側の業務負荷の軽減も狙っており、クラウドメリットを最大限享受する方向性としています( 図 4)。

図 4 AWS マネージドサービス活用によるメリット
図 4 AWS マネージドサービス活用によるメリット

 さらに、AWS クラウドにデータを一元的に集約管理することで、そのデータレイクを中心としてデータアナリティクスサービスや拡大を続ける AI/ML サービスなど AWS の最先端技術を活用し、将来に亘る高度なデータ利活用に向けた道筋を具現化していきます。AWS の分析サービスを活用することで、要件定義や設計、構築などのステップを踏まずに、ニーズが発生した初期段階から、すぐ簡単に手軽に試行錯誤しながら有用性や方向性を見極めていくことができます。メーターデータ分析の活用事例については AWS でも紹介されており( *1、図 5 )、これらも参考に最先端技術を「必要な時に、いつでも、手軽に」使って、データ分析やデータ利活用に取り組めるように進めて参ります。

(*1) https://aws.amazon.com/jp/solutions/guidance/meter-data-analytics-on-aws/

図 5 メーターデータ分析に係る AWS のソリューション事例 図 5 メーターデータ分析に係る AWS のソリューション事例

 このような検討背景を踏まえて、当社のシステム開発方針は以下のとおり策定しました。

  1. 疎結合アーキテクチャによる拡張性とシステム開発に対する柔軟性、高い可用性の実現
  2. マネージドサービス活用によるスケーラビリティや俊敏性、運用最適化の実現
  3. スマートメーターデータを分析し利活用するための AWS のデータ分析サービスの活用

 当社のシステム開発方針をシステムベンダ各社と共有しながら、AWS クラウド上での次世代スマートメーターシステムの開発を進めています。

 本稿では、当社のスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みについて、「3.次世代スマートメーターシステム開発方針まで」をご紹介致しました。後半については、「寄稿:関西電力送配電株式会社におけるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介(第2回) – 後半」をご参照ください。


執筆者

Yasuo Matsuura

松浦 康雄
関西電力送配電株式会社 執行役員(配電部、情報技術部)

2000 年代初期より、次世代配電網に適用する通信メディアの技術開発に携わり、 2010 年よりスマートメーターシステムの開発・導入プロジェクトを担当。
この経験を踏まえ、 CIGRE (国際大電力会議)にてスマートメーターのデータ利活用に関するワーキンググループを立ち上げて報告書をまとめるなど、スマートメーターシステムの全体像からデータ利活用にかかる論点を国内外の場で調査・発表し、脱炭素社会の実現、レジリエンス向上や効率化の実現に欠かすことのできない重要なキーデバイスとして、日本におけるスマートメーターの認知度向上に貢献。
2020 年には、資源エネルギー庁の声掛けのもと再開された次世代スマートメーター制度検討会に委員として参画し、次世代スマートメーターに求められる構造、機能や性能などについて、現行スマートメーター導入の経験や諸外国調査の知見を活かして議論をけん引。
2022 年度には、同社の現行スマートメーター全数導入を成し遂げるとともに、データプラットフォームとなり得る次世代スマートメーターシステム構想を描き、同社における検討を推進。
現在に至る。