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成功を測定する:パラドックスと計画

Context

あなたは会社を新しい方向に導きました。その影響は、前年比で 10% の収益増加です。新しいマーケティングプログラムにより、見込み顧客が 5% 増加しました。交渉が成功したおかげで、通信コストが 5% 削減されました。結果を測定することは私たちのビジネス活動の重要な部分です。しかし、コンテキスト (訳注:文脈、背景情報) がなければ測定は意味がなく、適切なコンテキストを見つけるのは難しい場合があります。

たとえば、収益が 10% 増加したとします。もっと成長できたはずですか? おそらく、あなたは巨大な潜在市場の最前線にいるのでしょう。潜在的可能性を考えれば、10% の成長は妥当な数字でしょうか? 競合他社の方が優れていますか? もしかすると競争上の優位性をもっと活用すべきだったのかもしれません。見込み顧客が 5% 増加するまでにどれくらいの費用をかけましたか? 市場は抵抗力があり、見込み顧客を獲得するのが難しい状況ですか? 見込み顧客は適格ですか? ビジネスの別の部分を共食いしていませんか?

「私たちは確かにうまくいったが、もっとうまくやれたかもしれない」と言いたくなるかもしれません。 これが正しいかどうかはわかりません。もしあなたの会社が 30% の成長を享受できる体制が整っていて、新 CEO が 10% の成長しか達成しなかったとしたら、それは間違いなく失敗であり、「限定的な成功」ではありません。

これらの測定値に欠けていて、確認するのが難しいのは、ベースライン、つまり行動を起こさなかったら世界がどのようになっていたかという感覚、または達成したことに対する可能だったことの感覚です。

すなわちコンテキストが重要なのです。

デジタルトランスフォーメーションの成功を測る理由

私がこれを指摘するのは、私たちはデジタルトランスフォーメーションの成功について、完璧で抽象的でコンテキストにとらわれない指標を探したくなるからですが、そのような指標はおそらく存在しないでしょう。デジタルトランスフォーメーションは広範かつ大まかに定義されています。その成功は、会社がそこからどのようなビジネス固有の結果を達成できるかにかかっています。デジタルトランスフォーメーションの成功を測定するためのコンテキストは、その会社が達成したいと願っていたことであり、指標はそれらの成果がどれだけうまく達成されたかを測定するものです。

ちょっと話を戻します。まず、なぜ成功を測定したいのかを考えるべきです。考えられる目的の1つは、トランスフォーメーションを主導または実施する人々のパフォーマンスを評価することです。それには人事と組織のコンテキストが必要ですが、このブログ記事では脇に置いておきます。もう1つの考えられる理由は、結果を社外、たとえば株主やアナリストに伝えることです。そのために、会社はストーリーを伝えようと努めており、そのストーリーを最も裏付けると思われる指標を選択します。その種の指標についても、ここでは触れません。

イニシアチブの成功を測るべきではないと言っているわけではなく、さまざまな見方があり、伝えたいことに基づいて評価することになるということだけです。持続可能性に関する開示を行う場合は、二酸化炭素排出量への影響を測定します。事業の成長について取締役会と話し合う場合は、収益への影響を推定するようにします。

もう1つの可能性は、投資が成功したかどうか、つまりどれだけの利益を実現したかを知りたいということです。この目標には、前述の課題があります。トランスフォーメーションに投資していなかったら会社がどうなっていたか知ることはできず、どのような潜在的な機会を逃したかも分からないため、通常は妥当なベースラインはありません。

うまくいっていれば、トランスフォーメーションの結果は企業全体の結果に深く組み込まれるため、解きほぐすのは困難です。結局のところ、テクノロジーのためだけに投資しているのではなく、テクノロジーがビジネスの非常に重要な部分であり、それをビジネスの運営部分の改善に使用することを期待しているからです。トランスフォーメーションは、コスト構造と収益、リスク態勢、従業員の満足度、ESG目標に影響を与えるはずです。成果はそれら全てです。

代わりに、継続的に結果を測定し、改善と調整を推進し、従業員の行動を動機付ける方法に焦点を当てます。現代のデジタル技術は反復的で段階的です。私たちはもはや、望ましい結果を達成するための最適経路が事前に分かるとは考えていません。代わりに、ありそうな道を進み始め、頻繁に立ち止まって達成したことを測定し、調整を加えます。したがって、デジタルトランスフォーメーションにおける重要な指標は、目標をどれだけうまく達成しているかを示す指標です。成功を測ることよりも、成功するための測定が重要です。

成功『するため』の測定

目標に対する成功の程度を測定するには、まず、目標とする成果を理解する必要があります。そして、それは多くの組織にとっての課題です。デジタルトランスフォーメーションは、「最新化」または「追いつく」ための包括的取り組みとなっており、多くの組織では何を達成したいのかが曖昧になっています。リーダー間で共通の理解がない場合もあります。そうなると、成功の度合いを測ることが難しくなり、優先順位付けや、前に進むべき緊急性の見極め、やるべきことを従業員に伝えることも難しくなります。組織内の誰もが「本業務」を持っています。つまり、日々の業務はすでに飽和しています。では、変化が重要な理由を明確に理解していないのに、どうすればその変化に時間を割くことができるでしょうか。 (変化が重要であると伝えるだけでは十分ではありません。)

私が成果について話すとき、私はビジネス上の成果について話しているのであって、中間的な成果や手段としての成果について話しているのではありません。一方、リーダーはビジネスの成果についてあまりにも限定的な見方をすることがあり、多くの場合、それを即時かつ予測可能な ROI のみと関連付けていることもわかりました。しかし、他に考えられるビジネス成果としては、リスクの軽減、従業員のモチベーション、将来のニーズへの機敏な対応などがあります。「ワークロードの 80% をクラウドに移行」のようなことはビジネス上の成果ではありません (ただし、「ワークロードの 80% をクラウドに移行することでセキュリティ侵害のリスクを軽減する」ことはビジネス上の成果です)。 秘訣は、真のビジネスインパクトが明らかになるまで、その理由を問い続けることです。

おそらく手始めに、考えられるビジネス成果には次の 4 つのカテゴリが考えられます:

  1. 収益への直接的な影響
  2. コストへの直接的な影響
  3. リスクの軽減
  4. アジリティ。本質的にはコストや収益に間接的に影響します。(私はアジリティを、変化の [機会と課題] に迅速に、安価に、創造的に、そして低リスクで対処する能力と定義しています。)

3 番目と 4 番目のカテゴリは、予測 ROI の観点からは測定するのが難しい (実用的ではない)ことに注意してください。(ただし間接的に影響します。)

どの会社もこれら 4 つすべてを望んでいます。しかし会社の状況に応じて、一部の目標にフォーカスすることになります。その会社のテクノロジー活用の古いやり方を考慮すると、今日では達成できない一部の目標にです。それが、私たちがトランスフォーメーションの望ましい成果を探している場所です。

おそらく、その会社は収益を拡大したいと考えて製品を販売できる新しい地域を特定しましたが、インフラストラクチャとソフトウェアがグローバル化をサポートしていないため、販売を控えています。トランスフォーメーションの目的は、それらの市場に販売することかもしれません。(そのことと市場に販売する能力を獲得することとの間には微妙な違いがあります。しかし、「能力を身につける」ことは、実際にはビジネス上の成果ではありません。) あるいは、IT システムが非常に古いテクノロジーを使用しているため、それを変更できるプログラマーが 1 人しかいないのに、そのプログラマーが頼りないという重大なリスクを会社が特定したのかもしれません。その場合、目的は、新しいテクノロジープラットフォームに移行することで、そのリスクを軽減することかもしれません。

最後の例から、テクノロジー目標がビジネス目標になり得ることがわかります。それは問題ありません。テクノロジーがビジネスに浸透し、その活動の多くを牽引するようになった今、その可能性は高いでしょう。この場合、テクノロジーリスクはビジネスリスクです。

したがって、成功はこれらの主要な目標の達成という観点から評価され、それを継続的に測定することで、それらの目標を最大限に達成するための段階的な調整が可能になります。主な目標が米国外からの収益を増やすことであれば、それが成功指標です。メインフレーム APL (訳註:メインフレームで使用されるプログラム言語の一つ) で記述されたコードによるリスクを軽減することが目標であれば、それが成功指標です。なぜトランスフォーメーションを実施しているのでしょうか?

完全に IT 部門の管理下にあるわけではないため、収益の増加は間違った成功指標のように思えるかもしれません。実は、完全に IT 部門の管理下にあるわけではないからこそ、適切な指標なのです。これは IT 部門と、関係する事業部門の共有目標であり、結果として両者の足並みを揃えることになります。これが、従業員のパフォーマンスを評価するための指標と成果の改善に使用される指標を慎重に区別した理由です。私たちは通常、両立しない、または矛盾するインセンティブのもとで働いているサイロ化による影響と闘う必要があります。この指標は、個人の業績に対して報酬を与えたり罰したりするため (その場合は、その人の管理下にあるものだけを測定したいと思うでしょう) ではなく、段階的に成功を促進するために用いていることを覚えておいてください。

ビジネスレベルの目標を選択し、それに照らして測定することで、推進する行動が望ましい結果を得ることを確実にします。IT 部門の IT 目標のみを測定した場合、その測定における IT 部門の成功が実際に会社の業績に影響するかどうかはわかりません。一方、会社の業績が目標であれば、IT 部門は会社の目標を最大限にサポートするように自由に活動を変えることができます。

上記の IT 部門のみのリスク削減目標に関しては、それをビジネス目標として扱うことで、IT 部門がその目標に向けて能力の一部を使用するという事実を正当化するためのさらなる力と信頼性が得られます。これは IT 目標ではなく、ビジネス目標です。実際、CFO と取締役会の監査委員会は、IT だけでなくリスク管理にも投資しています。

一部の目標 (例: IT の機敏さ) には、トランスフォーメーションの主要な目標 である (ひいてはビジネス目標でもある) 場合に使用できる、よく理解された指標があります。Accelerate の指標には、リリース頻度や平均修復時間などが含まれます。また、ITシステムの安定性が重要なビジネス目標である場合は、変更の失敗率と可用性が成功の指標となることもあります。

重要なのは、トランスフォーメーションの主要な目的 (なぜやるのか? 緊急性が高い理由は? への答え) を定義し、トランスフォーメーションの取り組みにフォーカスし、緊急性を与え、従業員のやる気を引き出すことです。それができていれば、成功の度合いを測る指標、すなわち成功を拡大するための点検と適応のための指標は、自ずと決まってきます。

Mark Schwartz

Mark Schwartz

Mark Schwartz は、アマゾンウェブサービスのエンタープライズストラテジストであり、The Art of Business Value and A Seat at the Table:IT Leadership in the AgeofAgility の著者です。 AWS に入社する前は、米国市民権および移民局 (国土安全保障省の一部) の CIO、Intrax の CIO、および Auctiva の CEO を務めていました。 彼はウォートン大学で MBA を取得し、イェール大学でコンピューターサイエンスの理学士号を取得し、イェール大学で哲学の修士号を取得しています。

この記事はアマゾンウェブサービスジャパンの大塚信男が翻訳を担当しました (オリジナルはこちら。)