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【開催報告&資料公開】テレコム業界向け:Mobile World Congress (MWC) 2024 Recap
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクトの黒田です。
通信事業者の方々、通信業界に関わられている方々、5G やエッジコンピューティングなどの最新技術の動向にご興味のある方々を主な対象として、2024年4月18日に「テレコム業界向け:Mobile World Congress (MWC) 2024 Recap」をウェビナーで開催しました。
本記事では、当日の内容・動画を皆様にご紹介します。
ウェビナー開催の背景
2024年2月26日から2月29日までスペイン・バルセロナで開催されたテレコム業界最大のイベント Mobile Word Congress (MWC) 2024。AWS は現地にて、昨年に引き続き2回目のブース出展を行いました。通信事業者様やパートナー様と AWS の協業による数々の取り組みがデモンストレーション含め展示されました。今回のウェビナーでは、テレコム業界向けの AWS の取り組みとして、「通信事業者の変革」「産業のデジタル化」「消費者体験の再考」のテーマで、様々な事例をご紹介しました。
1. MWC 2024 における AWS 出展内容のハイライト
AWS
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ
本部長 山内 晃
資料はこちらからダウンロード頂けます。
まず山内より、今回の出展内容のハイライトとして、MWC 2024 における AWS の取り組みについての概要説明をお届けしました。 今回の最大のトピックは、ちょうど MWC 2024 開幕日に合わせて発表した NTTドコモとのモバイルネットワーク構築に関する取り組みです(*)。こちらは、5G の無線アクセスネットワーク (Radio Access Network / RAN)、コアネットワーク、衛星通信の3要素で構成されています。
まず、5G RAN 領域では、モバイルの基地局を構成するコンポーネントを、Amazon EKS Anywhere というコンテナ基盤を使って日本全国に展開する取り組みが行われています。また基地局だけでなく 5G のコアネットワーク (端末の位置登録、認証、セッション管理などを司るコンポーネント) でも、その一部にオンプレミスとのハイブリッド構成で AWS を活用頂く為の開発も進んでいます。さらに、Amazon が開発中の低軌道衛星ブロードバンド Project Kuiper と提携し、基地局が建てづらい山や島といった地域のエリアカバレッジ向上や、被災地の通信復旧などの取り組みも検討しています。5G におけるモバイル通信そのものが、部分的に AWS 上で稼働するという非常にミッションクリティカルな領域での取り組みとなりますので、引き続きご注目頂ければと思います。
2. 通信事業者の変革
AWS
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信ソリューション第一部
ソリューションアーキテクト 黒田 由民
資料はこちらからダウンロード頂けます。
黒田からは、通信事業者の変革をテーマとして、通信事業者のチャレンジ、それらに対するクラウド化されたネットワークへの期待と、AWS がその期待に対し何を提供できるかについてお届けしました。
通信事業者様は、5G に必要不可欠なクラウドプラットフォームの自前構築による煩雑さ、ネットワーク運用の煩雑さ、それらに伴うコスト面での収益化への影響といった様々なチャレンジに直面しております。これらチャレンジに対し、RAN、コアネットワーク、IP Multimedia Subsystem (IMS)、Operations Support System (OSS) /Business Support System (BSS) の各領域の観点から、(1) 5G ネットワークを構築する手法としてのネットワーククラウド化への期待と、(2) これら期待に応える AWS が提供する価値を、MWC 2024 で展示/デモンストレーションされた、AWS が通信事業者様及びパートナー様と協業したソリューション内容を踏まえてご紹介しました。
以下に各領域毎の概要をまとめました。
【RAN】
ネットワークをクラウド化することにより、クラウドからエッジまでの連続性、市場投入時間の短縮、品質運用の高度化、等が期待されています。これらに対する AWS の提供する価値としては、Nokia と協業したソリューション内容を具体例に挙げると、AWS Outposts を活用した RAN アプリのクラウド / エッジでの適材適所の配置、パートナーソリューションの事前インテグレーションによる市場投入の加速、そして生成AI と機械学習を活用し自然言語チャットボットを使った RAN NW 診断とKPI 異常検知が挙げられます。
【コアネットワーク】
コアネットワークは信号やパケットが集約される 5G ネットワークの中枢の為、突発的なリソース調整や、作業ミス影響範囲減少を目的とした人的介入の最小化などがネットワークのクラウド化として期待されます。また違った観点にはなりますが、国際ローミング向けの NW 機能の容易な海外展開も期待されています。これらに対する AWS の提供する価値としては、(1) LG U+ と協業したソリューション内容からは、時系列予測と機械学習をそれぞれ使ったトラフィックの予測と異常検知から、パイプラインを介しトラフィックスコアに応じて、自動的かつ柔軟にリソースを増減できる仕組みが挙げられます。また、(2) SK Telecom との協業からは、国際ローミングユーザーの訪問先近くの AWS リージョンに User Plane Function (UPF) を配置しユーザートラフィックをローカルブレークアウトさせることで、ユーザーのウェブアクセス遅延時間を最小化し、顧客体験の向上に寄与している点も挙げられます。
【IMS】
IMS は音声サービスを司るがゆえに、ネットワークのクラウド化による迅速な障害発見や是正処置など品質・運用の高度化、等が期待されています。対する AWS の提供する価値としては、TELUS と協業したソリューション内容の具体例から、障害発生時のリアルタイムアラート、生成 AI を用いて運用者への是正アクション推奨とクローズドループを使った是正処置、そして生成 AI チャットインターフェースを介し運用者が自然言語を使ってのネットワークのオンデマンドオブザーバビリティが挙げられます。
【OSS/BSS】
OSS/BSSでは、ネットワーククラウド化によりサービス多角化と並行した TCO 削減、等が期待されています。対する AWS の提供する価値として、Amdocs と協業したソリューション内容の具体例から、スタジアム向けのプライベートネットワーク接続サービスのライフサイクル管理において、生成 AI とAWSサービスを組み合わせて導入から運用、インシデント対応、予防保守までと管理範囲を多角化しながら、シームレスに自動化することで TCO の削減に寄与していることが挙げられます。
3. 産業のデジタル化
AWS
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信ソリューション第二部
ソリューションアーキテクト 陳 誠
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陳からは、AWS が通信事業者様やパートナー様と協業して、金融、農業、製造、運用、医療、教育の各分野における産業のデジタル化の取り組みをお届けしました。これら取り組みは今回 MWC 2024 にて多数の展示とデモンストレーションを介して紹介されました。
以下に各分野での概要をまとめました。
【金融: Network API を活用したセキュアなデジタル認証】
API プラットフォームプロバイダである Axiata Digital Labs と協業し、CAMARA ベースの 通信事業者 API フェデレーションプラットフォーム Sinergi を開発。Sinergi は、インドネシアの主要通信事業者である XL Axiata と Indosat Ooredoo Hutchison の Network API を AWS 上で 1つのポータルに統合しています。フィンテック企業等はこの単一の統合ポイントから複数の通信事業者の API にアクセスできるようになり、例えば SIM スワップ API を活用したデジタル本人確認などのサービスを提供できます。
【農業: 5G と MEC を活用した農業 DX】
カナダの通信事業者 TELUS と協業し、5G、生成AI などの最新技術を活用した農業向けのワンストッププラットフォームを提供。農家が AI チャットボットとの会話を通して、ドローンを用いた除草ソリューションの提案を受けたり、農作物の健康状態のモニタリングを実現したりなど、生産性向上や労働時間の削減に寄与しています。
【製造: 製造業におけるスマートな欠陥検出】
アメリカの製造業大手の JABIL と協業し、プライベート5G、エッジコンピューティング、コンピュータビジョン、ワイヤレスカメラを活用し、製造ラインでのリアルタイム製品欠陥検出を実現。高速プライベート 5G ネットワークと AWS Snowball Edge に配置した画像解析モデルによって、組立ラインのリアルタイムのカメラ映像を平均 60ミリ秒の遅延で解析することで、組立終了後の検査不合格を大幅に削減し、生産性向上に寄与しています。
【運輸: 港湾のプライベート 5G ネットワークの収益化】
港湾向けプライベート 5G ネットワークを提供する Verizon Business Group と協業し、入港時の航運会社向けに B to B to X のマルチテナントプラットフォームを開発。例えば入港者はタブレットでアプリを起動し、ビデオカメラによる「作業者安全検査」やドローンによる「在庫検査」などのサービスを発注、注文に基づいてプライベート 5G ネットワークおよび関連のビデオ分析やドローン監視などのサービスがユーザーテナント内でデプロイされます。このソリューションは航運会社に便利なサービスを提供しつつ、マルチテナントのフレームワークでコスト削減を実現でき、Verizon Business Group にとっても収益化に繋がります。
【医療: コネクティッド医療現場】
5G ソリューションプロバイダの Celona と協業し、プライベート 5G と Multi Operator Exchange (MOXN) ソリューションを使い、病院キャンパス内カバレッジを拡大させ通信環境を改善。プライベート 5G によるキャンパス内のプライベート接続だけでなく、MOXN と T-Mobile の Build Your Own Coverage の仕組みを利用し、来訪者や持ち込みモバイル向けにもパブリック接続の屋内カバレッジを増強しました。その結果、医療スタッフ間の音声コミュニケーションや患者モニタリング向けデバイスの通信品質が向上し、従来のシステム (分散アンテナシステム) と比べて TCO を40~60% 低く抑えています。
【教育: 没入型ゲームによる医療教育の変革】
アメリカのソリューションプロバイダの Level Ex が、AWS のエッジコンピューティングサービスの一つである AWS Wavelength を利用し、低遅延・高帯域のネットワーク環境上で AR/VR を活用した医療トレーニングソリューションを開発。ソリューションを GPU ベースのエッジコンピューティングに配置することで 30ミリ秒の低遅延で 4K 映像の仮想トレーニング環境を構築、これにより AR/VR を介してゲームのように手術の模擬練習ができ、臨場感と操作性を高めたソリューションとなっています。
4. 消費者体験の再考
AWS
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信ソリューション第一部
ソリューションアーキテクト 小林 新一
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小林からは、消費者体験の向上をテーマとした AWS の取り組みをお届けしました。こちらでは、生成 AI によるモバイルデバイス顧客体験強化と、統合型スマートホームソリューションの2つの事例を通じて、AWS がネットワーク、デバイス、ホームデータの統合的な活用により、ユーザーにとって利便性の高いサービスを提供していることをご紹介しました。
以下に2つの事例の概要をまとめました。
【生成 AI によるモバイルデバイスの顧客体験強化】
モバイルデバイスにおいてゲームは顕著なユースケースの一つです。モバイルゲームではネットワーク越しに他のユーザと対戦や交流することが特徴のため、ユーザの操作性に影響するネットワークの低遅延性や、モバイルデバイスの安定性が重要な体験要素になります。これまで問題が発生した際のネットワーク障害調査やデバイス診断には通常数週間以上かかることが課題でした。Mavenir と協業したネットワーク診断ソリューションでは、⽣成 AI を活⽤したネットワーク障害時のデバッグファイルの解析、過去の障害ケースとの照合、AIチャットボットとの会話による問題特定、解決方法の提示を受けることができ、ネットワーク障害の調査・解決までの時間を短縮できます。また MCE と協業したモバイルデバイス診断アプリでは、生成 AI チャットボットが組み込まれており、デバイスの不調というユーザの NPS (Net Promoter Score) 低下の要因を緩和するソリューションが提案され、例えばゲーミフィケーションされたデバイス操作テストや、AIによる端末のアップグレードの提案など新たな体験をユーザに提供します。
【統合型スマートホームソリューション】
スマートホーム市場には多様な製品が存在するがゆえに、異なるプラットフォームとサイロ化されたデータが存在するという課題があります。今回、TELUS と AWS の協業により、多様な IoT デバイスを統合的に管理するソリューションを開発しました。BLE、ZigBee、Wi-Fi、Matter など複数の通信プロトコルに対応し、異なるホームデバイスの容易な追加や、マルチ音声アシスタントによる制御も実現しています。また生成 AI チャットボットとの会話により、デバイスをコントロールしたり、利用パターンに基づいたルーチンを簡単に構築することができます。一つのコントロールパネルから全てのデバイスを制御・監視し、トラブルシューティングすることも可能です。センサーデータはヘルスケアとも関係が深く、宅内の各種センサーデータを集約することで、例えば生活や健康状態を包括的に把握したり、転倒検知によって高齢者のサポートをしたりすることも可能です。このように両社のコラボレーションにより、デバイスの統合管理、AI 活用によるユーザー体験の最適化、ヘルスケア機能の強化など、スマートホームの体験を大幅に変革する先進的な取り組みが実現しています。
まとめ
本ウェビナーでは、2024 年 4 月 18 日に開催した「テレコム業界向け:Mobile World Congress (MWC) 2024 Recap」の振り返りとして、開催概要や発表の見どころ、お客様事例をご紹介しました。セミナーにご参加いただいた方、誠にありがとうございました。ご参加頂けなかった方も、このブログから動画や資料を参照いただき、今後の AWS 活用の参考としてお役立ていただければ幸いです。ご質問やご要望がございましたら、お問い合わせページ、もしくは担当営業までご連絡をお願いします。
このブログの著者
黒田 由民 (Yoshimi Kuroda)
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信ソリューション第一部
ソリューションアーキテクト