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イノベーション推進における、人材・カルチャー・プロセスの重要性
本稿は、2024 年 8 月 24 日に公開された “Propelling Innovation: The People, Culture, and Process Imperatives “を翻訳したものです。
新たな需要に対し中小企業が対応するのは、小さな船で嵐の中をかき抜けるようなものです。テクノロジーの進歩が続く中、顧客の期待はさらに高まっています。このような波の中を乗り越えるためには、レジリエンスや適応性、積極的な問題解決力、そして慎重なリスク管理が必要不可欠となっています。
最近のデータによると、テクノロジーの進歩とともに、顧客の 73% が更なる差別化を期待し、また顧客ニーズの変化に対応することを 65% の顧客が求めています。これは、商品や顧客体験の絶え間ない改善を望んでいることを示しており、競争の激しい事業環境においては、イノベーションを受け入れることが成功への鍵となっています。
しかし、数々の問題に直面する中で、テクノロジーファーストの考えに惑わされることなく、立ち位置をしっかりと保つことが重要です。イノベーションは真空の中で生まれるものではありません。多様な考えを奨励する活気に満ちたエコシステム、新しいアプローチを評価する企業文化、アイデアを具体的な成果につなげるプロセス、それらによってイノベーションは初めて生まれるのです。この3つの領域にフォーカスすることで、企業は新しい製品やサービスを素早くスケールさせ、顧客価値を最大化するための態勢を整えることができるのです。
イノベーションの原動力となる人材
デジタルツールはイノベーションを推進する上で重要な役割を果たしますが、それらを活かすことができる人材がいなければ空の器となります。適切な人材がいれば、顧客のニーズに沿ってビジネスを前に進めるだけでなく、未知の領域を積極的に探求し、イノベーションの旅に情熱的に取り組むことができます。Amazon の CEO、Andy Jassy はイノベーションについて次のように述べています。
「一般常識を疑い、常識の枠組みを超えて考えられる人こそがイノベーションを生み出すのです」。
しかし、実際のところ多くの人にとって、イノベーションは自分の快適な範囲を超えるものだと感じられています。議論の中心は楽しさや創造性に置かれがちですが、現実はそうではないのです。優秀な人だったとしても、顧客体験の向上やソリューションの効率化において、さまざまな課題に直面して前に進めなくなることがよくあります。これは、イノベーションとは大きな変革を意味すると誤解していることが原因です。実際には、小さな継続的な改善の方が、より大きな変革をもたらすことも多いのです。
社員にリスクをとることを奨励すれば、他の人が見落としていた新しい可能性やソリューションに気づくことができるようになります。変化への不安に立ち向かい、自己認識を高めることで、イノベーションに活かせる心の知能指数 (EQ:Emotional Intelligence Quotient) を培うことができます。研究では、リーダーの EQ が、既存の能力やIQ(Intelligence Quotient) よりも将来の成功を予測するのに優れた指標であることが示されていることから、これは非常に重要なことです。強い対人スキルは、部門を超えた関係構築、ステークホルダーへの影響力、新しいコンセプトに向けた関係者の巻き込みを可能にします。
好奇心を含んだ企業文化の醸成
テクノロジーの変革は、企業文化の変革と表裏一体です。なぜなら、イノベーションは個人の取り組みだけでは生まれないからです。組織全体が絶えず学習し続け、新発想に向けて活動していれば、ポジティブな変化を生み出す大きな原動力となります。全社を挙げて実験的な取り組みを推進できるのは、高いコストが払える大企業だけというわけではありません。むしろ、企業には、お金ではなく、成長のマインドセットを醸成することが求められるのです。
経営者が社員との間に心理的安全性を持つことができれば、社員一人一人が通常業務を超えて、会社の成功をリードする立場にもなれます。心理的安全性があることが、高いパフォーマンスを発揮し、イノベーションを起こすのに最も重要な要因だと研究からも裏付けられています。組織の進化と学びは、チームが互いに啓発し、弱点を見つめ直し、懸念を表明し、ためらわずに間違いを認められるような、そうした活気ある職場環境を醸成することから生まれるのです。
ただし、イノベーションのために重要なのは、企業内の課題ではなく、顧客ニーズに目を向けることです。Amazon の Day1 カルチャーとオペレーションモデルをご覧ください。Amazonの 取り組みは、好奇心を評価し、顧客にこだわり、大胆に実験を重ねることで、顧客のニーズに応えようとしていることがことが分かります。一方で、Day 2 のカルチャーは、企業の成長に伴い広がり、意思決定が遅くなることで、ビジネスのアジリティに影響を与えることになります。
急成長を遂げている決済プラットフォームの「Equals Money」は、組織の各層に渡って成長のマインドセットを醸成することで、グローバルな成長目標を実現しています。共感性に富んだ経営層と、そして絶えず変化し続けようとする企業姿勢が、慢心を防ぎ、イノベーションを呼び起こしています。初期メンバー 6 人から 450 人以上にまで成長したにもかかわらず、同社は多様性のある視点を保ち続けています。さらに AWS とのイノベーションや変革に関する取り組みを通じ、Equals Money は常に顧客に目を向け続けています。
好奇心旺盛な姿勢は、外部の動向にも積極的に目を向けることにつながります。ただし、最新の技術動向に振り回されないことも重要です。顧客ニーズを起点として、そのニーズを解決するためにどのような技術が活用できるかを見極めていくことが、成功へと導く道筋となります。
アイデアから影響力へ
人材と企業文化がイノベーションの基礎を築く一方で、構造化されたメカニズムによって、アイデアは実際のソリューションへと変化します。例えば、Amazon におけるCutomer Obsession(顧客へのこだわり)という行動指針は、社員に顧客の代理として創造することを促します。顧客ニーズから逆算し、潜在的な欲求を理解することが重要となります – それは顧客自身が明確にニーズを表現できない場合でも同様です。
効果的なフレームワークを利用することで、早すぎる要件の議論によってビジネスが振り回されるのを防ぎ、顧客にとって価値のある整合した1つのビジョンに集中することができます。例えば、Amazon の PRFAQ (Press Release and FAQ) プロセスは、ビジョンを具体的な成果物へと固めていきます。まず、企業内で新製品によって得られる顧客体験を描いた未来のプレスリリースを作成することから始め、その後、仮定やリスク、未解決の課題を体系的に捉え、関係者間で調整するために広くPRFAQ を活用します。
これらの実践は、Amazon のようなグローバル大企業だけのものではありません。プロセスも必ずしも複雑なもの、または手間がかかるものでもないのです。Amazon のドキュメントには、通常 30 近くの PRFAQ が含まれますが、中小企業の場合は、自社向けの一貫性のある外部向けの 3 つの質問と内部向けの 3 つの質問を設定し、それらを繰り返し使え、広く展開可能なテンプレートに単に記入するだけで十分です。そして、実際の顧客との対話を通じてこれらの仮説を検証することができます。これにより、早い段階で先入観に気づき、市場に合致しないソリューションを盲目的に作らずにすむようになります。
イノベーションという到達目標
顧客の期待が高まり、技術進化が加速する中、絶えずイノベーションに取り組むことが事業を継続する重要な鍵となります。結局のところ、活発なイノベーションを実践として確立することは、多方面でのチャレンジとなります。これは変化に柔軟に対応できる感情知性と回復力を備えた人材を育てることについて言及しています。イノベーションは、実験志向やアジリティ、顧客にこだわるという文化を意図的に形作ることを必要としています。そしてイノベーションは、生のアイデアを具体的なソリューションへと変換するという、実証されたプロセスを必要としています。
これまで述べてきた全体的なアプローチこそが、人を中心としたイノベーションを推進することができますが、その実践方法はたくさんあります。人材、企業文化、プロセスを企業戦略の中心にすることについて、これまで以上に詳しく学びたい場合は、AWS Connected Community のオンデマンドインサイトを探索してください。もしくはあなたが、クラウド初心者であれば、AWS Cloud エキスパートにガイダンスを求め、自社のイノベーション創出をどのように支援できるかを確認してください。
本記事の飜訳は、カスタマーソリューションマネージャーの釈迦郡一郎が担当しました。