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Riot Games の AWS へのグローバル移行最終章 〜 最後のデータセンター閉鎖に向けた準備

このブログは 2023 年 11 月 27 日に Doug Buser 氏によって執筆された内容を日本語化したものです。原文はこちらを参照して下さい。

AWS re:Invent にて、Riot Games のグローバルインフラストラクチャとオペレーションの責任者である Brent Rich 氏が、同社が 2024 年初頭で完了予定の数年にわたるグローバル規模なデータセンター廃止の取り組みの最終段階にあることを発表しました。Riot Games は『リーグ・オブ・レジェンド』・『VALORANT』・『リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト』・『チームファイト タクティクス(TFT)』や『レジェンド・オブ・ルーンテラ』などのゲームタイトルを運営しており、この取り組みにより、Riot はこれまでにないほどプレイヤーの近くにサーバを配置できるようになりました。

2017 年、Riot Games は自社のデータセンターを廃止しアマゾン ウェブ サービス(AWS)クラウドに完全に移行する意思決定をしました。その後、14 のデータセンターが閉鎖され、先月にもラスベガスとチリのデータセンターが閉鎖されています。Riot は向こう数ヶ月内にブラジルとトルコの残りのデータセンターも閉鎖する予定です。

AWS は Riot の公式のクラウドサービスプロバイダーであると同時に、公式のクラウド人工知能(Artificial Intelligence、AI)・クラウド機械学習(Machine Learning、ML)・クラウド深層学習(Deep Learning、DL)プロバイダーでもあります。

Riot が会社として成長し続け、テレビ番組や音楽・eスポーツ放送などのプレイヤーを楽しませるための新しい道を模索している中、Rich 氏はチームにクラウドファーストのマインドセットを持つよう促しています。「壁にぶつかった時、昔は『自分たちで頑張ろう』と考えるのが普通だったが、今ではまず『AWS に相談してみよう』とみんな思うようになりました」

Riot と AWS のコラボレーションの歴史を振り返り、クラウドの導入にあたって Riot が取った段階的なアプローチがいかにして社内で最もクラウドに対して懐疑的な人たちさえも味方につけられたかについて見ていきましょう。

物語のはじまり

「2015 年の Riot は破竹の勢いでした」と Rich 氏は振り返りました。「『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』が大ヒットし、当時の Riot はパフォーマンスとプレイヤー体験を最優先事項としていました」

2015 年から 2018 年にかけて、Riot は隔週で『LoL』のアップデートをリリースし、プレイヤーを熱中させるゲームであり続けるよう注力しました。この時 Riot のデータセンターで使われているテクノロジーは 10 年ほど昔の古いものでした。ライフサイクルアップグレードや古めのソフトウェアサービスの AWS 上での仮想化は行なったものの、Riot は依然としてオンプレミスのインフラストラクチャに依存していました。

2019 年が差し迫るころ、Riot ではスタンドアローンのモバイルゲーム『チームファイト タクティクス(TFT)』のローンチと 2020 年の次の大型タイトル『VALORANT』のリリースが控えていました。『VALORANT』では世界中のプレイヤーに遊んでもらうため、当初の計画では世界各地の 40 拠点でデータセンターを構える予定でした。レイテンシの低いソリューションの採用は『VALORANT』の成功の絶対条件でした。『VALORANT』では開発の初期段階から、ピーカーズアドバンテージの排除をプレイヤーにとっての中核となる価値の一つとして位置づけていました。(ピーカーズアドバンテージとは、プレイヤー間のレイテンシのばらつきによりサーバがプレイヤーの入力を受け付けるタイムラグにずれが生じ、一部のプレイヤーがわずかに有利になる現象です。)

Rich 氏は「当時、パフォーマンスを出したいならベアメタルだという考え方が主流でした。一方、データセンターを所有・運用するのは途方もなく複雑なことで、自動化しようと思うのならなおのことです。我々はクラウドでもベアメタルと同等なパフォーマンスを引き出す方法を探っていました」と語りました。

Riot Games の『リーグ・オブ・レジェンド』シニアプリンシパルソフトウェアエンジニア兼テックリードの David Press 氏はこのように述べました。「これまで以上にキャパシティの柔軟な増減が必要でした。オンプレミスだと数ヶ月のプランニングが必要で、そうするとプロジェクトはウォーターフォール志向にならざるをえませんでした。我々はもっとアジャイルでいきたいと考えました」

Riot は運用の簡素化・効率向上によるイテレーションの高速化と負荷試験の自動化を目標とし、クラウドをオンプレミスのデータセンターの拡張として利用することを検討しはじめました。目標達成のため、Rich 氏と彼のチームは AWS との協力に踏み出し、プランの策定・実行に移りました。

「当時も今も AWS はクラウド業界のトッププレイヤーです。当時、我々はすでに数年間 AWS と仕事してきて、彼らの Customer Obsession(カスタマーオブセッション)を実感してきました。だからこそ、彼らは我々にとって素晴らしい戦略的パートナーになると確信していました」と Rich 氏は語りました。

『VALORANT』の攻めのレイテンシ要件を前に、Riot は Amazon Elastic Kubernetes(Amazon EKS)のサービスチームと連携し Riot と Riot ゲームのプレイヤーが求めるような機能やサポート、そして体験を提供するためのロードマップを策定しました。

段階的なアプローチ

2019 年 6 月、Riot は『TFT』を皮切りにゲーム開発のアプローチをクラウドに移し始めました。Rich 氏曰く『TFT』は「AWS 生まれのゲームだった」とのことです。一方『VALORANT』は大きな試練でした。Riot チームは『VALORANT』のローンチに向けて 18 か所でのグローバル展開に決定しました。そのうち 14 か所は AWS、4 か所は Riot のデータセンターを活用することになりました。2020 年初頭、『VALORANT』のクローズドベータが開始し、期間中の 4 月から 5 月にかけては 1 日あたり約 300 万人のプレイヤーがゲームをプレイしました。これは正式リリースとほぼ同等の規模感でした。

「3 月から全面的にクラウドを活用し、クラウドの超大規模スケーリングを頼るようになりました」と Rich 氏は語りました。

『VALORANT』はクラウドベースで正式のパブリックローンチを果たし、瞬く間に Riot の新たな数十億規模のフランチャイズとなりました。その後も Riot はいくつかの規模の小さめのゲームをクラウドでローンチしました。これらのローンチの成功を経て、Riot は残りのサーバも AWS に移行すると舵を切りました。

社内合意を得る

Rich 氏は時間をかけてコンセプトを徐々に実証していくアプローチを取ったことが、当初懐疑的な CXO クラスの役員たちの信頼を得るための鍵となったと説明しました。「クラウドで新しいものをきちんと動かせることを証明しなければなりませんでした。一番のポイントはユーザーデータグラムプロトコル(UDP)のレイテンシとパケットロスが許容範囲内に収まることを証明することでした。パケットロスは一旦発生すると回復不可能で、ゲームプレイ中にパケットロスが発生すると自キャラがテレポートしているかのように見えてしまいます」

Rich 氏はプロジェクトを始めると、最初にチームメンバーにクラウド採用に関する懸念事項を全て挙げてもらい、集まったものを一つ一つ検証していきました。「彼らの懸念はいずれも正当なものでした。我々はこれらについて調査し、全て対処できるものだと証明しました」と Rich 氏が語りました。「『TFT』はクラウドから直接ゲーム体験を提供しています。これによりクラウドの処理能力に問題はないと証明でき、クラウドはデータセンターと同等の品質だったということです」

Riot の CTO・Derek DeFields 氏は Rich 氏の段階的なアプローチを支持し、新しいデータセンターをこれからも作るべきだと主張する人たちにも働きかけました。「全員が全員納得してくれたわけではなく、中には予備として設備を買っておきたい人もいました。『TFT』や『VALORANT』を AWS 上に載せる際オールインするとは一度も口にしませんでしたが、AWS との良好な関係と彼らからの協力は我々に大きな影響を与えました」

Press 氏によると「オンプレミスで運用していたころは、ハードウェア障害が起きるたびに 90 分間のサービス停止が発生していました。AWS に移行し RDS を使うようになってからは、ハードウェア障害がなくなったわけではないのですが、サービスの停止時間はわずか 30 秒となりました」

Rich 氏は、レガシーゲームの AWS 移行を担当するリードエンジニアリングチームが Rich 氏のチームからプロジェクトを引き継ぎたいと申し出た時、プロジェクトの成功を確信したと述べました。「彼らがプロジェクトを引き受けられるように、我々は 2 年間努力を重ねてきました。これをもって移行プロジェクトの最後のチェック項目もクリアできました」

新しいマインドセット

クラウド移行によってどんな新しい道が開かれたかと質問された時、Rich 氏は発想を逆転しこう述べました。「むしろ何が閉ざされるのかが重要です。一つの物語が幕を閉じました。データセンターで生まれたものはほとんど消え去り、クラウドが我々の目標達成に有効であることが実証された今、昔ながらのデータセンターマインドセットも変わりました」

Riot は自社の多くのプロジェクトを支援するために、Amazon EKS サービスチームと定期的に機能プランニングセッションを行いツールや新機能の開発を続けています。「戦略的パートナーなしでは非常に難しいこともあります。我々と AWS と我々のインテグレーションパートナーである Slalom 社との連携を例にあげると、我々は三社で一つの『LoL』の綿密な自動化ランブックを共有しています。新しいリージョンで何かを立ち上げる際数週間もあれば事足ります。こうしたパートナーシップは非常に貴重なものだと言えます」

翻訳はソリューションアーキテクトのBaixiao Linが担当しました。