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クラウドを活用するプロジェクトを進める際の考慮点(第1回:プロジェクトの立ち上げ)
最近は日本政府および多くの企業が「クラウド・ファースト」を宣言し、クラウドを最優先にシステム開発に取り組む事例が数多く出てきています。業界や規模を問わず多くの企業が、クラウド上でシステムを開発するプロジェクトに取り組んでいます。クラウドを活用する場合でも、プロジェクト管理のポイントは従来のプロジェクトと変わらず、PMBOK® Guide等のナレッジを最大限活用して進めることが重要です。一方で、クラウドの特性ゆえに陥りがちな問題もあり、回避策を知り正しく実践することでプロジェクトの成功率を高めることができます。
そこで、著者がカスタマーソリューションマネジャーとしてお客様を支援する中で得られた、クラウドを活用するプロジェクトを進める際の具体的な考慮点を、複数回に分けてお伝えいたします。初回となる本ブログでは、プロジェクトの立ち上げにフォーカスし、目標とするビジネス価値を明確にして関係者と合意することの重要性について記載します。クラウドを活用したプロジェクトの立ち上げをリードする方を主な読者と想定していますが、プロジェクトメンバとして実行に関わる方にも参考になる内容と考えています。
クラウドを活用するプロジェクトで起こりやすい問題
クラウドを活用するプロジェクトは「クラウドの活用」自体が目的となり、具体的なビジネス上の目標が不明確なまま開始されてしまうことがあります。それにより、以下のような問題が発生し、プロジェクトの減速・停滞につながってしまうケースが見られます。
- 想定外の問題が発生した時や、他の重要案件が発生した時にプロジェクトの優先度を正しく評価できず劣後・停滞してしまう
- システムのリリース後にコストの削減のみが注目され、「期待していた効果が出ていない」と評価される。またはそもそも効果の評価自体ができない状態となる
このような状況を避けるためには、以下2点を注意してプロジェクトを立ち上げることが重要です。
考慮点① クラウド活用で得られる価値を正しく理解し、具体的なビジネス上の目標を設定する
クラウドを活用することで得られる価値は多岐にわたります。以下にAWSがこれまで多数・多様なお客様のクラウド移行をご支援する経験に基づいて整理した、クラウドの活用により期待できる価値のフレームワーク(AWS Cloud Value Framework)を記載しています。もちろん実際に期待できる価値は各システムの特性や状況にもよりますが、システムの信頼性向上や俊敏性向上がコスト削減以上にビジネスに大きな価値をもたらすことも多くあります。
そのため、プロジェクト立ち上げの際に、これらを踏まえた広い視点で具体的なビジネス上の目標を定義し、検証できるよう準備をすることが非常に重要となります。そうすることで、想定外の問題が発生した時や、他の重要案件が発生した時に客観的な評価をすることが可能となり、プロジェクトの減速・停滞を防止することができます。また、システムリリース後に効果の計測・評価を適切に行うことも可能となります。
考慮点② ビジネス部門を含めたプロジェクトのステークホルダー全員で目標を合意する
具体的なビジネス上の目標を立てているものの、ステークホルダーの特定や重要度判断が不足することで、ビジネス部門との認識が合致していないケースが見られます。このような状態では、プロジェクトを進める中で、仕様変更の判断が正しくできない、テストや移行準備などで適切な協力が得られない、といった問題につながってしまいます。
そのため、設定した目標をプロジェクトのステークホルダー全体に共有し、合意しておくことが非常に重要です。プロジェクトマネージャーにはこの点を意識し、必要なコミュニケーションを丁寧に行うことが求められます。加えて、合意した内容は極力プロジェクト憲章等に文章化して残すことが推奨されます。それにより、認識相違の防止や、プロジェクトメンバへの共有の効果が高まります。
また、クラウド活用推進をミッションとした、ビジネス部門とIT部門が一体となった組織(CCoE:Cloud Center of Excellence)がプロジェクトの立ち上げを支援することも有効な方法となります。CCoEについてはその役割等を解説しているブログを是非参考にしていただければと思います。
まとめ
クラウド活用プロジェクトを成功に導くためには、プロジェクト立ち上げの時点で達成すべきビジネス価値を明確にし、関係者間で合意することが重要です。具体的には、以下の2点に注意しましょう。
- クラウド活用の価値を広く理解し、具体的なプロジェクトの目標を設定する
- ビジネス部門を含めたステークホルダー全員で目標を合意する
プロジェクト立ち上げ後の重要な考慮点については、次回以降のブログでお伝えいたしますので、そちらも是非ご覧ください。
参考リンク
- 第1回:プロジェクトの立ち上げ
- 第2回:柔軟なベースライン管理