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人工知能で進化する人材開発

1 年と少し前に、私は LearnGeek の創業者兼プリンシパルである JD Dillon と一緒に人材開発 (Learning and Development: L&D) カンファレンスのエキスポホールでチャットボット、予測学習管理システム、ゲーム化されたコースのデモを見学していました。各ベンダーがそれぞれの人工知能 (Artificial Intelligence: AI) ソリューションを「未来の働き方」を推進する「AI 対応」と宣伝するにつけ、 AI という売り文句の滑稽さにジョークを飛ばし、決してまだ万能ではない現在の AIに対する認識が間違ってひとり歩きするさまを笑いものにしていました。

ただしそれでも、AI が職場学習における次の重要な話題になってきていることまでは否定しませんでした。AI がビジネスにもたらした影響を考えれば、驚くまでもないことです。IDC の予測ではエンタープライズアプリケーションの 75% が 2021 年までに AI を使用し、自動認識および AI 関連の支出は 522 億ドルに増加するとされています。最近 JD と私は L&D 分野における AI 活用の議論を進めることを目的として「人工知能で進化する人材開発」と題した共同プレゼンテーションを行いました。今こそ L&D が多岐にわたる AI の可能性や実務の発展に求められる具体的なステップを模索し、それによって AI 活用を段階的に推し進める時です。

 

AI とは

機械がある課題を解決する一連の規定されたルール (アルゴリズム) に基づいてタスクを実行するとき、この「インテリジェントな」一連の動作を AI と呼びます。ほとんどのエキスパートは AI の現在と未来を説明する際の便宜上、 AI を特化型 AI と汎用型 AI に区別します。

汎用型 AI は AI が人間のように考えて動作し、視覚や言語処理などの知覚タスクや、思考や理解などの認知タスクの実行ができるような画期的な状態を指しますが、段階としてはまだ進化の途上といえます。汎用型 AI を創り出すツールやテクノロジーは現在のところ存在せず、これはまだ未来の話です。

その一方、特化型 AI は現在進行形での広がりを見せています。特化型 AI はすでに日常的に利用されており、スパムフィルタ、推奨アルゴリズム、画像のタグ付け、Amazon Alexa のような音声アシスタントなどが例として挙げられます。特化型 AI ではパターン認識、自然言語処理、会話応答、検出、視覚認識、感情分析、テキスト読み上げなど、分野ごとに極めて限定された特定のタスクを実行できます。これらのアプリケーションはデータ分析の手法である機械学習を活用し、データを使用してアルゴリズムをトレーニングしています。

では、こうした能力の違いを踏まえて次の質問に対する答えを考えてみましょう。「スマート信号機と自動運転車のうち、 AI アプリケーションとしてより優れているのはどちらでしょうか」

この質問に対する答えは、既存の信号機システムを改善しようとしているか、あるいは交通そのもののあり方を再考しようとしているかによって異なってきます。信号機は、個々のドライバーの意思決定プロセスを管理する際に介在するものです。これをスマート化することは、交通フローの効率を高め、排気を減らし、交通事故を減少させることにつながる可能性があります。

一方、自動運転車はドライバーが意思決定を行わず、効率的な交通フローの責任がリアルタイムデータに応答するネットワーク上のノード全体に分散される世界に存在します。ドライバーのいないこの世界において、そもそも信号機の最適化を考える必要があるでしょうか。

 

AI を L&D に応用する

L&D 業界は歴史的に、先に述べた例でいう信号機に焦点を当てるアプローチで新しいテクノロジーに対応してきました。つまり既存のコンテンツを取り込み、新しいフォーマットで再リリースするというやり方です。クラスルームトレーニングはオンラインセミナーや e ラーニングに、コースカタログは学習管理システムに、トレーニングマニュアルは PDF や電子書籍にそれぞれ置き換えられてきました。

こうしたサイクルからは、そろそろ脱却の時期が近づいてきています。 AI は L&D の次なるターニングポイントとなり得る可能性を秘めており、また現代的な職場学習のあり方を抜本的に変革するチャンスを象徴するテクノロジーです。 L&D が信号機から自動運転車の世界に焦点を移し、予測、能力開発、再考、自動化といった AI の可能性を新しい職場学習のあり方に落とし込むべき時は、まさに今なのです。

想像してみてください。製品ドキュメントとディスカッションスレッドに基づいてコンテンツを作成できるアプリケーションを。そのコンテンツがリアルタイムで翻訳され、アップロードされ、タグ付けされ、組織内の全員がアクセスできる状態になる様子を。推奨、管理、翻訳、自然言語処理 (Natural Language Processing: NLP) 検索、コンテンツのタグ付けといった諸機能は今まさに実装されてきています。これに続く AI 活用の次の波と目されているのがギャップの特定、インパクト分析、パーソナライズ、メンタリング、コーチング、チャットボットといった機能です。

しかし L&D にとってのボトルネックは AI が単に導入して即座に使える代物ではないということです。こうしたアプリケーションはリッチデータの使用が前提であり、そうしたデータはすぐにでも使える状態にあるというわけではないのです。L&D が本気で AI の秘める可能性を引き出したいのであれば、まずはデータプラクティスの修正が必要になります。

 

IA なくして AI なし

Forrester 社のレポート Predictions 2019: Artificial Intelligence では AI を採用している企業の意思決定者のうち 60% が AI の能力を引き出そうとする際の最大の課題としてデータ品質を挙げています。ほとんどの組織ではデータがさまざまなプラットフォームに散在し、データ形式もバラバラで相互運用性もありません。だからこそ AI 活用の最初のステップはデータの収集、整理、構造化、ラベル付けといった情報アーキテクチャ (Information Architecture: IA) なのです。 IA は分析を可能にし、分析は機械学習を可能にし、機械学習は AI を強化します。言い換えれば「IA なくしてAI なし」ということになります。

L&D が AI 活用のステップを進むにはまず、収集する学習データとパフォーマンスデータの量と質を改善する必要があります。これにより、人口構成、利用量、フィードバック、コンテキスト、つながり、知識、行動、結果といった価値の高い AI を強化します。ここから AI 活用の第 2 段階であるより広範囲な組織への適用につなげていきます。

L&D が主体的に職場に AI を迎え入れるケースはまれだと想定されるため、リーダーには L&D の玄関口にやってきた AI なる存在が何者であるかを明らかにし、必要なデータの収集、整理、保存、分析、アクセスといった新しいワークフローおよびプロセスとパートナーを組むことが求められます。

人工知能は仕事のやり方そのものを変えています。皆が日々ベストの仕事をできるよう支援するという L&D の仕事も例外ではありません。

AWS トレーニングと認定 は、個人や雇用主向けに AI を使ったビジネスの変革に必要なクラウドスキルの構築と検証を支援しています。新しいテクノロジーがどのように私たちをとりまく世界を再構築できるか想像し、未来の働き方を実現するインフラストラクチャに投資することは、現代の学習エコシステムのプレイヤーである私たちひとりひとりの責任です。

 

By Becca Wilson