AWS Startup ブログ

“知と熱”を解き放つ「Startup CTO of the year 2023 powered by Amazon Web Services」開催報告

新たなテクノロジーの台頭・進化が著しい昨今、スタートアップ企業の成長において重要なカギを握るのが CTO です。

技術的な視点から経営をリードする CTO の“知”が、変化に強い組織を作り、新たな価値を創造します。そして、技術の世界に閉じない CTO の“熱”が、組織を超えて化学反応を起こし、また新たな熱を生み出します。Startup CTO of the year は、そんな CTO の秘める“知と熱”を解き放つ、唯一無二のピッチコンテストです。

Startup CTO of the year の前身となる「CTO of the year」が 2014 年に始動してから、記念すべき 10 周年を迎える今年。2023 年 11 月 22 日に「Startup CTO of the year 2023 powered by Amazon Web Services」が開催されました。今回はその模様をダイジェスト形式でレポートします。

*イベントの様子については、アーカイブ配信より視聴することが可能です。「Startup CTO of the year 2023 powered by Amazon Web Services」はNewsPicks 社による次世代ビジネスリーダーに向けたイベント「START UP EVERYTIME」との連動にて開催いたしました

オープニング

イベントのオープニングでは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社より開会のあいさつを行いました。「CTO of the year」がスタートしたのは 2014 年。当時は、CEO などビジネス系の人材を表彰するイベントは数多くあった一方で、CTO 関連のイベントは数が限られていました。また、CTO という役職の認知度もそれほど高くはなかったのです。

テクノロジーを事業のコアに据える企業にとって、技術課題に取り組む CTO は欠かせない存在です。そんな CTO の存在を周知させるため、AWS は「TechCrunch Tokyo」関係者の方々とともに「CTO of the year」の表彰をスタートしました。

その後、毎年開催された「CTO of the year」ですが、「TechCrunch Japan」(運営:Boundless株式会社)の終了に伴って、一時はイベントが終わるかと思われました。しかしその後、NewsPicks 社の協力により再始動しました。

これまでの 9 年間で通算 69 名が登壇。この活動を通じて、徐々に CTO の認知度が向上してきました。本イベントが、みなさんの仕事やキャリアのヒントになり、さらには CTO のプレゼンス向上につながることを AWS は目指しております。

歴代 CTO of the year が語る、次世代 CTO に求められる「思考法」と「果たすべき役割」

続いてはオープニングセッション「歴代 CTO of the year が語る、次世代 CTO に求められる『思考法』と『果たすべき役割』」が実施されました。本セッションでは、過去 9 回の歴代「CTO of the year」最優秀賞受賞者の中から 3 名にお越しいただき、CTO の存在意義や果たすべき役割といったテーマについてディスカッションしました。スピーカーは株式会社イエソド 代表取締役 竹内 秀行 氏と dely株式会社 CTO 大竹 雅登 氏、株式会社スマートラウンド 取締役 CTO 小山 健太 氏です。

左から順に、株式会社イエソド 代表取締役 竹内 秀行 氏、dely株式会社 CTO 大竹 雅登 氏、株式会社スマートラウンド 取締役 CTO 小山 健太 氏

最初のトピックは「CTO になるまでの道のり」について。各スピーカーが、CTO になった経緯について説明しました。小山 氏は「正直、先の見通しが立たないところもありましたが『きっとなんとかなる』という気持ちで CTO になりました。会場の方々で同じような境遇の人がいるならば、勇気を出してほしい。見通しを完全に立てられることは永遠にないので、まずは飛び込んでみてください」と、人々の背中を押すコメントを投げかけました。

次のトピックは「CTO が果たすべき役割」。大竹 氏は「基本的に CTO は経営者であり、技術領域に特別な強みを持っているというだけ。事業内容や企業のフェーズに応じて、取り組むことを変えていかなければ、会社の成長についていけなくなる」と言及しました。

シード期であれば、CTO 自身がコードを書いてプロダクトを生み出すことが求められます。また、その後の事業拡大期では採用に注力して組織拡大に努めたり、マネージャーを育成して体制構築を行ったりという働き方にシフトすることも考えられます。セッション内では「経営者として、自分自身がどのような立ち回り方をすれば成果を最大化できるのかを考えるべき」という旨の議論がされました。

また、「創業期のエピソード」というトピックでは竹内 氏が前職のユーザベース時代の創業エピソードについて言及(竹内 氏は前職時代に「CTO of the year」を受賞)。ユーザベースに参画したのは 2008 年で、当時はまだスタートアップがエンジニアを採用するのが難しい時代でした。そのため、2008〜2011 年にかけては「SPEEDA」のソースコードの 8 割ほどを CTO である竹内 氏が書いていたといいます。

大竹 氏と小山 氏は創業からサービスが軌道に乗るまでにかなりの時間がかかったことについて触れ、「事業の芽が出ない時期に、自分自身とメンバーのモチベーションをいかにして維持するかが大切」と語りました。

セッション終盤では「CTO を目指す方へのアドバイス」というトピックも。小山 氏は「スタートアップは一般的な常識が当てはまらない世界なので、創業期には自分がこれまで学んだことをアンラーニングするのが重要」と説明。竹内 氏は「世の中に公開されている情報を参考にするのは良いですが、そのノウハウに従うことが『CTO のやるべき仕事』かというと違います。CTO はぜひ『CTO にしかできない仕事』にフォーカスしてほしい」と解説しました。

そして大竹 氏は「日本政府がスタートアップ支援の方針を打ち出しているように、スタートアップにとって良い環境が整いつつあります。ぜひ、挑戦する人が増えてくれたらいいなと思います」と結びました。

ファイナリスト CTO によるピッチコンテスト

いよいよ、本編であるピッチコンテストを実施。登壇するのは、事前応募の中から厳正なる審査を経て選ばれた 6 名のファイナリストたちです。

1.ミチビク株式会社 取締役 CTO 金杉 優樹 氏

2.Turing株式会社 共同創業者・取締役 CTO 青木 俊介 氏

3.アスエネ株式会社 VPoE 石坂 達也 氏

4.株式会社 ALGO ARTIS 取締役 VPoE 武藤 悠輔 氏

5.株式会社tacoms CTO 井上 将斗 氏

6.株式会社フツパー 取締役 CTO 弓場 一輝 氏

左から順に、ミチビク株式会社 取締役 CTO 金杉 優樹 氏、Turing株式会社 共同創業者・取締役 CTO 青木 俊介 氏、アスエネ株式会社 VPoE 石坂 達也 氏

左から順に、株式会社 ALGO ARTIS 取締役 VPoE 武藤 悠輔 氏、株式会社tacoms CTO 井上 将斗 氏、株式会社フツパー 取締役 CTO 弓場 一輝 氏

審査員を務めるのは、グリー株式会社 取締役 上級執行役員 最高技術責任者 藤本 真樹 氏とビジョナル株式会社 取締役 CTO 竹内 真 氏、東京大学 FoundX ディレクター 馬田 隆明 氏、株式会社Yazawa Ventures CEO 矢澤 麻里子 氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 技術統括部 本部長 塚田 朗弘です。

ミチビク株式会社の金杉 氏は「取締役会に革命を。100% フルリモート組織で切り開く未来」というテーマで発表。同社は「招集通知」「議事録」「印鑑」をクラウドに置き換え、取締役会管理を DX 化する業務支援ツール「michibiku」を提供しています。金杉 氏はプロダクト開発における重要な課題として「セキュリティ向上」「機能の立案」「開発体制構築」という 3 つの軸について解説。とりわけ、オフショアを有効活用してスケーラブルな開発組織を構築したエピソードを重点的に語りました。

Turing株式会社は「We Overtake Tesla」をミッションに掲げ、2030 年に完全自動運転 EV を 10,000 台量産し、完成車メーカーになることを目指す企業です。同社は 2021 年に創業し、わずか 1 年半で初めての製品を世の中に出すという異例なスピードの事業成長を実現しています。企業としてのこれまでの沿革や今後のビジョンについて青木 氏は解説。最後に「Turing で大きな夢を叶えるために、開発や採用、広報など何でも取り組みたいと考えております。そして、情熱と元気を持ち続けます」と力強く結びました。

アスエネの石坂 氏は「急成長プロダクトを支えるエンジニア組織づくり」というテーマで発表。同社は CO2 排出量見える化・削減・報告クラウドサービス「アスエネ」を提供し、気候変動 × テクノロジー事業に挑戦するスタートアップです。石坂 氏がアスエネに参画したばかりの頃は、エンジニアが非常に少ない状況だったといいます。そこから、フリーランスエンジニアとの共創や積極的な採用活動などを行い、1 年半で開発体制の人数を 15 倍にした取り組みについて主に解説しました。

株式会社 ALGO ARTIS 武藤 氏は「大きな社会課題への技術的挑戦」と題して発表。同社は「社会基盤の最適化」というコーポレートミッションのもと、コンサルティング・デザイン・システムの力を駆使して優れた最適化 AI(アルゴリズム)を現場に導入し、継続的に価値を提供することを目指す企業です。ALGO ARTIS が着目したのは、競技プログラミングにおけるヒューリスティック・コンテスト。このコンテストの中で用いられ、日々進化している技術をプロダクトに組み込んでいます。武藤 氏は高いセキュリティ基準を満たしつつ、生産性を損なわないために行ってきた技術的挑戦を述べました。

株式会社tacoms の井上 氏は「API 連携がけん引する事業成長」というテーマで発表。同社は「発明で、半径 5m の人を幸せに」をミッションに、デリバリー注文一元管理サービス「Camel」を提供する企業です。井上 氏は「Camel」の提携先企業を迅速に増やすために実施した施策について紹介し、連携ネットワーク構築の歩みを「迅速」「柔軟」「高品質」の 3 つの観点から振り返りました。

株式会社フツパーの弓場 氏は、「世界で戦える AI 企業を目指すためのプロダクト戦略」というテーマで発表しました。日本の製造業は、GDP の約 2 割を占める一大産業です。しかし、労働人口の減少などにより深刻な人手不足が問題になっています。その課題を解消するため、フツパーは創業しました。発表の中で弓場 氏は、製造業向け外観検査 AI の「メキキバイト」の改善事例について解説。「検品・検査という領域から裾野を広げ、製造業の課題にフォーカスして工場全体の最適化を推し進めたい」と締めました。

審査結果 / Startup CTO of the year 2023 最優秀賞・オーディエンス賞発表

イベント最終盤には、いよいよピッチコンテストの審査結果が発表されました。

オーディエンス賞に輝いたのは、Turing 社の青木 氏。審査員の塚田は「非常にインパクトのある事業やプロダクト、そして人柄でした。みなさんに人気があったのも納得です」と述べました。

青木 氏は「私はあまりこういったピッチコンテストに登壇する機会がないため、貴重な経験でした。『登壇者のみなさんは発表が上手だな』と思いながら見ていましたね。実は Turing という企業は、過去にピッチコンテストなどで勝ったことがありませんでした。やはり、見る人が違うと良い部分が伝わるのだなと思いました」と、ユーモアを交えながら受賞の喜びを語りました。

続いて「Startup CTO of the year 2023」に輝いたのは、ALGO ARTIS 社の武藤 氏です。審査員の藤本 氏は「『Startup CTO of the year』の評価項目を高い水準で満たしているだけではなく、社会課題への取り組みが具体的な成果として現れていました。そして、技術者集団をビジネスと有機的に結びつける手腕が高いと感じました」と述べました。

武藤 氏は「『ALGO ARTIS の事業はわかりづらい』と外部の方々から言われることが多いです。でも、今回ピッチでの発表内容をこうして評価していただき、うれしく思っています。私は人前で話すことが本当に苦手なのですが、申し込んでから今日まで必死に練習してきたかいがありました」と結びました。

こうして「Startup CTO of the year 2023」の全プログラムは終了。最後に、塚田と藤本 氏以外の審査員の方々がイベントの感想や将来の CTO へ向けたメッセージを述べました。

ビジョナル株式会社 取締役 CTO 竹内 真 氏

「これまで何度か審査員を経験してきましたが、昔と比較してスタートアップの採用が難しくなり、技術もより進化しなければ競争が難しい時代になっているように感じます。将来的には、今よりもさらに困難な状況が待ち受けているでしょう。しかし、それは逆に言えば先人たちが到達できなかった領域に技術で進出できるチャンスです。みなさんにはぜひ、素晴らしい事業やサービスを作り上げていただきたいです」

東京大学 FoundX ディレクター 馬田 隆明 氏

「ここに立っているみなさんはおそらく、技術を通じて会社の成長をけん引する使命を持った方々でしょう。そして、会社の成長を通じて社会を変えていこうとする熱意のある方々だと思います。ぜひ、他の方とのネットワークを築いて、CTO としての力を高めていただきたいです。難解な課題に取り組み、世界を変革してくださることを期待しています」

株式会社Yazawa Ventures CEO 矢澤 麻里子 氏

「今回の登壇者たちは異なる業種・業態の企業であり、審査における評価項目も多岐にわたりました。採点基準が少し違えば、結果も変わった可能性があるほどに、最優秀賞の選出は容易ではありませんでした。みなさんのピッチは素晴らしかったです。ぜひこれからも成長して、日本の経済力の向上を実現していただけたらと期待しています。みなさん、お疲れ様でした」


イベントの様子については、アーカイブ配信より視聴することが可能です。是非ご覧ください。