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AWSを通じて日本取引所グループ(JPX)のarrownetにアクセスをする

“undifferentiated heavy lifting”という言葉をしばしば聞くことがあると思います。これは、競合他社との差別化にはなりえない作業にリソースを大量に消費することを言います。たとえば、サーバを構築し、OS にセキュリティパッチを適用するようなことです。このような作業は、より付加価値が高い製品やサービスを生み出すための活動から、ヒト・モノ・カネを奪い去ります。AWS では、お客様起点の重要な役割として、作業を簡素化し、自動化できるクラウドによるソリューションによって、開発者を”undifferentiated heavy lifting”から解放できるように支援しています。

金融業界では、過去20年間で大きな進歩を遂げています。たとえば、キャピタルマーケットの領域では、クラウドによるマーケットデータの活用により、トレーディングチームはリアルタイムでより良い洞察を導き出し、増え続けるデータからリスクをより効率的に計算できるようになりました。

しかしながら、いくつかの企業にとって、”undifferentiated heavy lifting”はまだ存在しています。それらの1つは、金融機関が規制機関や取引所によって設定された規制や業界ルールを遵守しなければならないことに関連しています。市場参加者は、これらの市場ルールを遵守する必要があり、遵守しない場合はペナルティを受ける場合もあります。

金融業界は、進化し続ける要件の複雑さと細分性が高まっている世界で最も規制の厳しい業界の1つです。しかし、金融機関がコンプライアンスに投資するすべてのリソースについて、多くは義務から機会への移行を行えていません。言い換えれば、ほとんどの金融機関では、同業他社との差別化を図るのではなく、ビジネスを行うためのコストとして、依然として規制やコンプライアンスを捉えています。

野球で例えるならば、プレイヤーはゲームのルールに従わなければなりませんが、優れたプレイヤーは、常に個人とチームの両方のレベルでパフォーマンスを改善するために戦略と戦術を使用しています。同様に、企業は規制要件に対応する必要がありますが、合理化、自動化、コスト効率の高い方法でそれに対応する必要があります。

このブログでは、日本取引所グループ (JPX) が AWS でどのように市場参加者にとってより良い顧客体験を生み出しているかをお話します。JPXは、これまでネットワークへのアクセスに関連していた”undifferentiated heavy lifting”を排除することで、市場参加者が新しいサービスのテスト、構築、立ち上げに向けてリソースを再利用できるようにしています。

JPXは、メンバー企業のクラウドでの市場アクセスを強化

2020年5月、JPX は市場参加者が AWS Direct Connect を介して、売買システムや清算決済システムなどにつながる高信頼ネットワークである arrownet にアクセスできるようにしました。

以前は、会員企業がarrownetに接続したい場合、JPXと自社のオフィスやデータセンター間に専用線を注文し、そのうえでネットワーク構築やセキュリティ対策を実施する必要がありました。このネットワーク構成は、変動する市場に迅速に対応するための信頼性と安定性が必要で、さらに十分な通信容量を提供する必要がありました。回線が接続されると、市場参加者は24時間365日体制で監視し、ハードウェア障害に対応するために人的リソースも投下する必要がありました。また専用線ベンダー側の監視にも、これらの重要なタスクのための人件費とサポート費も付属しています。つまり、arrownetへの接続は、利用者が長年にわたって対応してきた”undifferentiated heavy lifting”とも言えます。

JPXは、市場参加者からフィードバックを取り入れ、arrownetをクラウドに拡大し、市場参加者のアクセスを簡素化しました。市場投入までの時間が短縮され、マーケットからのデータを AWS 環境で扱うことで、マーケットの変動に対してオンデマンドで拡張できるようになります。

JPX は AWS Direct Connect の仮想インターフェイスを提供します。これにより、会員企業は短い期間でarrownetに接続して、テストすることができます。その結果、AWS の利用者は、以前は専用回線接続で直面していた”undifferentiated heavy lifting”な作業をすることなく、クラウド環境でマーケットからのデータを受け取ることができます。

現在の会員企業がこの合理化されたマーケットアクセスの恩恵を受けるだけでなく、FinTech スタートアップも恩恵を受けることができます。多くの Fintech スタートアップは AWS のサービスを使用しているため、彼らの既存の環境をより効果的に活用するには、クラウドネイティブ接続が必要でした。マーケットへの迅速なアクセスができるようになったFintech スタートアップは、新製品やサービスの市場投入までの時間をさらに短縮することができるでしょう。

現在、AWS Direct Connect により、JPX はarrownetのテスト環境で TCP/IP を提供し、会員企業と FinTech スタートアップの両方から追加の機能強化に関するフィードバックをリクエストしています。このような活動を通じて、JPX は市場参加者がマーケットによりアクセスしやすくする取り組みを行っています。

JPX arrownetはミッションクリティカルなワークロードであり、日本市場への影響は世界的に大きな影響を与えます。JPX が、AWS 経由でarrownetに通信手段を提供したことは、市場参加者の取引所とのやりとりにおける、ゲームチェンジアプローチとしてクラウドを活用したと言えます。

金融機関は”undifferentiated heavy lifting”の削減を求めており、AWS は継続的な支援を行っています。当社のグローバル・インフラストラクチャ、175を超えるサービス、広範なパートナー・コミュニティは、金融業界のお客様が持つさまざまなニーズに対応し、セキュリティ、耐障害性、拡張性に関して最高水準の基準を満たすよう努めています。

AWS は、お客様が新製品やサービスの市場投入までの時間を短縮し、顧客とのエンゲージメントを深めるのに役立ちます。競争の激しい市場で革新するために必要なスピードとスケールを提供します。

JPXは、arrownetへのアクセスを簡単かつ迅速にします

JPX の新しいarrownetへのアクセス方法の詳細については、最近公表された “AWSによるJPX arrownet接続のための実装ガイド“をダウンロードしてください。

この実装ガイドには、次の 2 つの目的があります。

1) arrownet への既存の接続を持つ金融機関が AWS による接続へ簡単かつ迅速に移行できるように支援すること
2) クラウドネイティブなアプリケーションと開発を行っているFintechスタートアップがJPXルールを理解できるように支援すること

市場参加者は、使用すべきシナリオに沿って、AWS の優れたアーキテクチャーフレームワークの 5 つの柱(運用上の優秀性、セキュリティ、信頼性、パフォーマンス効率、コスト最適化)に従って構築されたリファレンスアーキテクチャをご覧ください。

 

Author

著者について

澤野佳伸は、アマゾン ウェブ サービスジャパン 株式会社のソリューションアーキテクトで、AWS での可用性と拡張性、安全なアーキテクチャ構築を支援することで、金融サービス業界における顧客のイノベーションを支援しています。休みの日は料理を楽しみ、出身地の大阪のお好み焼きやたこ焼きの大ファンです。