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ユーティリティにおけるAWS IoTを用いた分析・可視化(北海道ガス株式会社の事例)

電気ガス水道などの公共事業において、設備をIoT化しクラウドと連携する動きは、日々加速しています。
ユーティリティ設備においてクラウドに繋がることによるメリットとしては、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 省人化によるコスト削減
    • 点検、保守など、人が行っている作業の自動化・半自動化することによって、コスト削減が図られるケースがあります。例としては、保守が必要なタイミングをシステムが判断することで、施設への訪問回数の削減を行ったり、設備のリモート操作を可能にすることにより、訪問自体を無くすことが挙げられます。
  • 新たな付加価値を利用者に提供
    • ガスの使用量などの情報を紙ではなく、電子化し、スマートフォンやPC上でいつでも確認できるようにしたり、ユーザーの利用傾向をインテリジェントに分析し、最適なプランや利用料を下げる方法があります。

この投稿では、一つの事例として、北海道ガス株式会社(以下、北ガス(読み方:キタガス))様の例を取り上げます。北ガス様は、AWS IoTのサービスを活用することで、大規模なインフラ構築の投資不要で、高速にPoCを実施しています。北ガス様の抱える課題と、その課題解決のためにどのようにAWS IoT のサービスを活用しているかについて、技術的な視点でご紹介したいとおもいます。

エネルギーサービス事業における課題

北ガス様は、北海道エリア内にて都市ガス事業・電力事業を主なビジネスとして手がける総合エネルギーサービス事業者です。持続可能な社会を支え、北海道に最適なエネルギー社会を創造するべく、ガス、電気、熱、再生可能エネルギーの最適利用と、デジタル技術の高度活用を通じて「持続性」「環境性」「経済性」に優れた新たなエネルギーシステムの構築を目指しています。近年では、デマンドサイドのエネルギーマネジメントによる省CO2・省エネルギーの推進を図るとともに、電気・冷温水を供給するエネルギーセンターを構築し、特定エリア内におけるエネルギーマネジメントを行うCommunity Energy Management System (CEMS)を導入・運用するなど、エネルギーに関わる広範なサービス事業を展開しています。

総合エネルギーサービス事業の展開にあたり、業務用分野においては、お客さまのガスや電気の使用量実績を把握するだけではなく、ボイラーや空調機器、暖房機器等、お客さまが実際に機器をどのように使い、室内環境がどのように変化したのかを把握するデマンドサイド(需要家側)のデータ収集が求められていました。

業務用機器を含むエネルギーシステムは、機器単体の性能・効率向上だけではなく、エネルギーシステム全体として、需要家側の最適利用や省エネを図る必要があり、こうした運用は需要家側に任されております。しかし、積雪寒冷地の北海道では、季節によってエネルギー負荷が大きく変化するため、需要家側で最適な運用ができていないケースが散見されていました。

お客さまの最適運用・省エネを支援するため、機器データや室内環境データを把握することは重要な取り組みと位置付けておりましたが、測定した様々なデータをクラウドにどのように集め、蓄積し、可視化するかに関しては、知見に乏しく、多くの課題がありました。

アーキテクチャの検討

この件に限らず、データ分析や機械学習のワークロードを進めるうえでは、過去の大量のデータが必要となる場合が多くあります。一方で、これからIoT化を進めるケースでは、過去のデータが存在しないケースがほとんどです。さらに、エネルギーサービスなどで分析に使える実データを集めるためには、季節変化等も考慮する必要があるため、データ収集には長い期間が必要となります。
今回のケースにおいても、最初に着手するべき事項として、データを集めて蓄積する部分に焦点を絞り、データ収集・分析基盤のアーキテクチャ設計と構築をすすめました。設計議論における観点は以下のようなところです。

  • 保守・運用にかかる作業を最小化したい。コストを抑え、短期間でPoCを完了させ、次のステップへ進みたい。
  • 蓄積したデータに対して、今後様々な活用が可能な状態にしたい。例えば機械学習やBIツール等を使う可能性を視野に入れる。(具体的な活用方法はこれから考えたい。)
  • デバイスの設置場所は、Wi-Fiなどのインターネット環境が無い場合を想定している。

これらのポイントを考慮したうえで、以下のようなアーキテクチャを設計しました。

architecture

ハードウェア・通信環境

このPoCでは、上述のとおり、データの蓄積を主眼としているため、新たなハードウェアの開発は行わず、市販のデバイスを組み合わせてハードウェア環境を構築しています。クラウドへの通信、およびエンドポイントにはSORACOMを用い、そこからAWS IoT Coreへすべてのデータを送信しています。1つのゲートウェイに接続されている複数のセンサー情報が、1つのJSONドキュメント形式でまとめられており、それが一定時間間隔で送られます。

SORACOMからIoT Coreへのデータ送信では、クラウドリソースアダプタであるSORACOM Funnelを利用しています。ゲートウェイからのデータは、SORACOM Funnelを介して、アクセスキー認証によるHTTPS通信によりIoT Coreへ送信しています。本構成では、SORACOM Platform 上で認証情報を管理することで、物理的なハッキング対策を講じるとともに、ゲートウェイからSORACOM Platformまでは閉域網で通信することで、セキュアなIoTシステムを構築しています。

IoT Coreに送られたデータは、IoT Coreのルールエンジンによって、AWS IoT Analyticsへと送信されます。ルールの設定は数クリックで可能であり、SORACOMからIoT Coreへ送られるすべてのメッセージをIoT Analyticsに送る設定を行いました。今回のPoCで作成したルールは1つのみですが、ルールを増やすことによって、例えば、IoTデバイスから届いたデータの値が一定値を越えた場合にE-mailなどでアラートを通知したり、アプリケーション用のデータベースを更新するなど、柔軟に拡張することが可能です。

さて、IoT Analyticsにデータが届くと、IoT Analyticsは内部で、送られてきたJSONをパースし後段の分析で利用可能な形式への変換を行います。ここでは、IoT Analyticsのパイプラインに Lambda Activity を追加し、データが一定量もしくは一定期間蓄積されたら自動的にLambdaを呼び出す設定を行いました。Lambda関数の中で、JSONオブジェクトから必要なデータのみを抽出し、1つのオブジェクトに含まれる複数のセンサーデータの情報を配列に変換し、データストアに保存するようにしました。

分析

IoT Analyticsでは、データソースおよびデータセットの保存先としてS3を選択しています。S3を選択することにより、将来的にAthenaやGlueなどの分析系のサービスや外部ツールを利用し、より高度な分析も行うことが可能になります。
上がって来たデータの確認・可視化のためには、QuickSight を使用しました。IoT Analyticsのデータストアから、定期的にデータセットを作成し、それをQuickSight上で可視化する設定を行っています。

QuickSight

今後の計画

ここまでの取り組みにより、初期のPoCは完了しました。クラウド側の開発は、Lambdaで実行する簡単なスクリプト以外の実装は無く、IoT Core, IoT Analytics, QuickSightの設定のみで完結しています。これによってデータの収集が継続的に行える環境が構築できたため、次のステップとして、分析や機械学習を用いてデータを価値に変えるフェーズへと移って行く予定です。
北ガス様の開発チームの中には機械学習のスペシャリストは居らず、アルゴリズムの開発が難しい状況です。AWSには、MLの開発経験が無い方でも利用可能なMLのAPIサービスが数多く存在します。次のPoCでは、その中の一つ、Amazon Forecastの導入を行うことで、蓄積されたデータから予測値を計算することにチャレンジしようとしています。

このブログでは、北ガス様の事例をご紹介し、ユーティリティの分野においてのAWS IoTの使い方についてご紹介しました。この事例にもあるように、電気ガス水道などユーティリティの分野においても、データの蓄積や分析の取り組みは進んでおります。その第一歩としてIoTデータをクラウドに保存する仕組みは不可欠です。AWSを活用いただくことで、非常に少ないステップで分析に使用するデータの蓄積が可能であり、その先の分析や可視化へとシームレスに繋げることができます。ぜひチャレンジして頂ければと思います。

お知らせ

AWSでは、IoT 関連ビジネスで開発を担当するデベロッパーのためのイベント「IoT@Loft」を定期開催しております。次回の IoT@Loft は、6/17(水)に「スマートビルディングにおける IoT 活用の取り組み」というテーマでオンライン開催予定です。そこで、本ブログでご紹介した北ガス様の事例に関して、実際に開発を担当されている北海道ガス株式会社 エネルギーシステム部 の國奥 様と小笠原様にご紹介いただく予定です。オンライン開催ですのでぜひお気軽にご参加ください。また、本イベントの模様は後日このブログにて掲載を予定しております。

IoT@Loft #11 – スマートビルディングにおけるIoT活用の取り組み
https://go.aws/2XTWdZ1

著書について

飯田 起弘

AWS プロトタイピングソリューションアーキテクト
電機メーカーでソフトウェアエンジニアとしてIoT関連の新規事業の立ち上げを経験の後、AWSにてプロトタイピングソリューションアーキテクトとして、IoT関連案件のPoC, 本番導入などの支援に携わる。