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スマートシティの 都市OS におけるデータ連携に AWS と FIWARE を利用する方法

私たちが住んでいる都市は、医療や交通、教育、建築、環境など多くの要素と、人やものが複雑に交差しています。いわゆる我々がスマートシティと呼ぶ取り組みによって、この複雑な都市機能をスマート化し、住民や企業にとって便利にする取り組みが活発化しています。City on a Cloud に見られるように、テクノロジーを利用したスマートシティへのチャレンジは既にグローバルに行われており、日本国内でも内閣府が主導するスーパーシティ構想デジタル田園都市国家構想が注目を集めています。
AWS では、Open & Agile Smart Cites とのパートナーシップによってグローバルに都市をスマート化するための取り組みを進めています。

公共窓口の課題を解決するために会話型 AI を使って公共部門がお客様との窓口を便利に変革したり、ごみ回収の効率化のためにごみ収集車を使ったデータ収集によって街を改善するなど、多くの取り組みが既に始まっています。
このような都市機能のスマート化によって、データを収集したり、保存する仕組みが整ってくると、その連携による新たな価値を生み出すことや、解決できる課題を考えはじめることができます。

例えば、河川の情報を収集するシステムがリアルタイムに必要な人のもとにデータの変更や異常を通知することで未然に被害を防ぐことや、怪我人を載せたモビリティの情報を病院や家族に通知して患者への対応を改善したり、介護現場の状況変化を家族や介護サービス事業者や医師に通知するといった連携が考えられます。

このブログでは、都市において、このような情報の連携を開始するための基盤となる都市OS と、データ連携の仕組みとして利用されるオープンソースである FIWARE をご説明し、FIWARE を AWS で利用する方法をご紹介します。

都市OS と FIWARE

一般的に情報連携を行う手段として、データ連携基盤を考えることができます。データ連携基盤はシステムのハブとしてデータを仲介し、接続するシステムやアプリケーションが共通のデータを扱うために機能します。スマートシティの中で、データ連携基盤として最近注目されているのが、都市OSという概念です。

都市ごとにその特徴やサイズは様々ですが、機能やデータには共通部分があり、分野を横断したデータ連携のための共通プラットフォームを考えることができるという考え方です。内閣府から公開されたスマートシティリファレンスアーキテクチャでも、都市OSについて言及があります。都市OSは単に共通データを保存するのではなく、仲介(ブローカー)役として利用者やそのデータの公開範囲などの管理を行うための機能をもつとされています。

このような都市OSの構築は国内のみならず海外でも活発化しており、都市OSの中でも、データ連携のコンポーネントとして多くの実績をもつのが FIWARE というオープンソースです。FIWAREの利用や取り組みが、日本国内でも活発化 しています。

一般社団法人データ社会推進協議会では、前述したデジタル田園都市国家構想における、各地域のエリアデータ連携基盤のコアとなる連携モジュールとしてもFIWAREが推奨されています。

FIWARE の特徴

FIWARE のコアは 都市OS の中でデータ連携を担うコンポーネントですが、その特徴の 1 つが API とデータモデルです。NGSI と呼ばれる形式の WEB API とデータモデル形式を定義します。
FIWARE を利用することで、API 形式やデータモデルが共通化され、連携が促進されるというものです。データ形式の標準化としての仕様です。

もう 1 つは、データ連携の仕組みを既に実装したオープンソースであるという点です。システム同士が連携するための機能を備えており、コンテキストブローカーと呼ばれます。その名の通り、データを仲介する機能です。コンテキストブローカーへデータが追加されたり、編集、削除されると、イベントが発火しデータの連携先へ通知することができます。また他のブローカーへデータを問い合わせることも可能です。コンテキストブローカーとデータブローカーの違いは、コンテキストブローカーはコンテキストという概念をもつことで、データの意味づけを別のサーバから取得することができる柔軟性です。コンテキストデータを共有しておけば、そのデータの意味について共通認識を得ることができます。FIWARE では、ブローカーに保存するデータモデルは NGSI 形式であればよく柔軟なため、データ連携とその検証を素早く開始でき、変更も容易である、というメリットがあります。

このように、都市OS のデータ連携に必要とされる機能が実装済みであること、API とデータ形式の標準化の取り組みが進んでいることが、FIWARE を連携のコンポーネントの選択肢として考えることができる大きな要素であると言えます。

AWS と FIWARE

FIWARE は FIWARE Foundation と呼ばれる非営利団体によって管理されています。2022 年の 7 月、AWS は FIWARE Foundation にプラチナメンバーとして参加しています。FIWARE と AWS のパートナーシップにより、お客様により多くの技術的なメリットを提供します。

それでは、FIWARE の検証環境を構築し、実験を開始するために、どのように AWS サービスを活用できるのでしょうか?
AWS は、お客様が迅速に検証環境を構築するための、いくつかの具体的なリソースを提供しています。

Smart Territory Framework (STF)

Smart Territory Framework(STF)は、FIWARE エコシステムのオープンソースをベースに、パートナーや顧客が持続可能で高効率なソリューションを構築・運用するために組み立てることができるツールや標準化モジュールを集めたオープンソースです。モジュールは AWS のマネージドサービスを使ってデプロイされます。

モジュール型で、オープンソースと NGSI 標準規格に基づいて構築されているため、既存のソリューションを簡単に統合できます。そのコアに新しい機能やモジュールを随時追加することもできます。STF のコアとなるモジュールは、STF IoT モジュールとオープンソースの FIWARE のコンテキストブローカーの 2 つのモジュールから構成されています。

この実装の特徴の 1 つは、NGSI-LD 形式をベースとし、Scorpio コンテキストブローカーを採用していることです。
STF IoT モジュールはこちらから、コンテキストブローカーはこちらからすぐに利用できます。
STF を活用するための、具体的な方法も公開しています。

以下に、モジュールで利用されるAWSアーキテクチャの概要を示します。

STF IoTモジュール (LoRaWAN)

STF コンテキストブローカーモジュール

FIWARE Orion Context Broker and Cygnus on AWS

FIWARE Orion Context Broker on AWS は FIWARE を AWS Managed サービスを使って素早く構築できるもう一つのオープンソースです。AWS サービスのアーキテクチャを含む、具体的な活用方法はこちらで確認いただけます。

この実装の 1 つの特徴は、NGSI-v2 形式をベースに、Orion コンテキストブローカーを採用していることです。
素早くコンテキストブローカーの環境を構築することに特化しています。

AWS クラウドサービスを利用した FIWARE 環境のメリット

オープンソースである FIWARE に、AWS のマネージドサービスとサーバレスサービスを組み合わせて利用することによって、データ連携基盤を必要とするお客様が効率よく、素早く検証を開始できます。
また、NGSI LDとNGSI v2 のどちらの仕様を採用されるかに合わせてオープンソースを選択することもできます。
所有せずに従量課金型のサービスとして利用し、スモールスタートで利用の拡大に応じてスケールできるコストメリットがあります。

浜松市様は、FIWARE を使ったデータ連携の基盤をAWS上に素早く構築し、効率よく検証を開始しました。

まとめ

この記事では、スマートシティのデータ連携を行うための 都市OS と FIWARE についての説明を行い、データ連携の機能をもつ FIWARE を AWS のマネージドサービスとサーバーレスサービスを使って検証する環境を構築するためのツールをご紹介しました。

スマートシティにおけるデータ連携はまだ始まったばかりです。連携機能の実装を最小化してスモールスタートすることで、連携の価値を確認することに注力することができます。

都市 OS の全体を考えると、データ連携以外にも考慮すべき点が多くあります。例えば API の管理や利用者の認証・認可を含むセキュリティ、データの暗号化などが考えられます。AWS のマネージドサービスを組み合わせることで、都市OS の価値に注力できる点は、これらのコンポーネントでも同様です。

小さな連携の成功を積み重ねることで、データ連携基盤全体として、データ仲介(ブローカー)やそれ以外に必要となる様々なコンポーネントなどの機能が明らかになることと思います。

AWS では引き続き、クラウドテクノロジーを活用して、スマートシティの都市OS を実現するための支援を継続いたします。この記事やスマートシティについてのより詳細な内容については、こちらからお問い合わせください。

このブログは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 今井 が執筆いたしました。