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小売業界パートナー対談:プリズマティクス株式会社の「小売業におけるOMO構想で重要なポイント」

オミクロン株のピークアウトの話がニュース番組で慎重に議論されているこの頃ですが、小売業界ではコロナ禍を機にDX推進を加速している企業が増加しているのではないでしょうか。今回はパートナー企業のプリズマティクス株式会社、シニアコンサルタント金子傑氏と対談し、小売業におけるOMO構想で重要なポイントに関する考えをお聞きしました。(以下プリズマティクス)

AWS: 小売業におけるプリズマティクス様の事業とフォーカスされている分野について教えてください。

金子傑氏:プリズマティクスでは、顧客と企業・ブランドとの絆を深める良質な体験の場を「エンゲージメントコマース」として捉え、その構築に向けたプラットフォームとコンサルティングサービスを提供しています。戦略的なOMO (Online Merges with Offline) を実現するAPIプラットフォーム『prismatix』により、独自性のあるECサイトやCRMを構築することが可能です。またこういった事業構想を行う際に、弊社のリテール業界出身のコンサルティングメンバーが経営戦略や事業戦略からシステム構築にかかわるプロジェクト支援まで一気通貫で対応が可能です。

AWS: そのOMOについてですが、コロナ禍という環境変化で消費者の購買形態も変化し、顕在化された課題に対して小売業は課題に向き合い、「オンラインとオフラインの融合」を実現するOMO構想に取り組む企業も増加したと思います。プリズマティクスでは、コロナ禍によるチャネルシフトやOMOに対する企業の取り組みの変化についてどのように感じておりますでしょうか?

金子傑氏:よくコロナ禍によって消費者の購買行動が変わったといわれますが、実際はコロナ禍以前から徐々に変わってきています。日本の人口は2008年をピークに増加から減少に転じたことは皆さんもご存じの通りです。人口増の間は商品の供給拠点を増やす(例えば店舗を増やす、ECを始める)ことにより、各企業はシェアを競っていました。それが人口減に転じると、競合他社とのシェア争いよりもお客様との関係を築き上げ、一人一人の顧客からどのように収益をあげていくか、LTV (Life Time Value) を高めることが重要なテーマになってきます。

また以前は、オフラインは店舗、オンラインはPCといったようにリアルとデジタルは別々のチャネルとして存在していましたが、2010年以降のスマートフォンの急速な普及でその垣根はなくなり、企業側の思惑に関わらず消費者がオンラインとオフラインを勝手に行き来するように購買行動が変化していきます。事業者側からすれば、自社の店舗内にお客様がいても、常にスマートフォンを介して競合他社との商品と比較検討されてしまう厳しい時代となります。コロナ禍がこの購買行動の変化を一気に加速させ、OMOに取り組む企業も一気に増加しました。またOMOは企業と顧客のリアルとデジタルの両方の接触機会を増やすため、LTVの向上にもつながります。

AWS: OMOとは「オンラインとオフラインを融合する」という意味で、オンラインとオフラインの境界線をなくし顧客に最適な顧客体験を提供することを目指すというものですが、顧客との接点が多様化し複雑化する中で、顧客体験をどう設計することがビジネス変革のキーファクターとなると思います。ただその一方で、OMO先進国と言われる中国や米国のように、日本ではOMO構想を実現し成功している企業は多くはありません。その理由についはどう考えておりますか。

金子傑氏:これまで多くの日本の小売業が取り組んできたECやO2O (Online to Offline) は、リアル店舗の顧客体験は変えずに、あくまでもデジタルだけの施策として取り組むことが可能です。一方でOMOはデジタルだけでなくリアル店舗も含めた顧客体験の進化が求められます。既存店舗の顧客体験自体が変化していかないと、OMOのメリットを享受できません。

ただ多くの企業では、OMOをこれまでのデジタル施策の延長と捉え、デジタル推進部門やIT部門まかせの取り組みとなっています。結果として名ばかりのOMOとなったり、新規事業としての展開にとどまることが多く、成功企業が少ないと感じています。

一方で本質的なOMOを推進するには以下の3つが重要だと考えています。

  • トップの理解と人材
  • オンライン×オフラインの顧客体験の設計
  • 設計した顧客体験を実現するための情報システムの整備

この3つのポイントを意識して取り組めている企業は、まだ少ないと感じています。

AWS: トップの理解と人材は、AWSでも、そして、いわゆるDXを進めているいろんな企業の方からいつもお聞きすることですが、どこに難しいハードルがあると感じられているのでしょうか。

金子傑氏:OMOは新規のデジタルチャネルの構築ではなく、既存のリアルとデジタルのチャネルの改革になります。そのため、現場を巻き込んだ推進が必要ですが、各現場のITリテラシーは低く、取り組みの効果と業務負荷がイメージできない施策には拒否反応を示すことが多いです。そのため、まずはトップが背景や必要性を理解してプロジェクトをサポートしていくことが必要ですが、多くの企業でOMOの取り組みが現場任せになっているのが実態です。トップ自身が今置かれている環境と顧客体験を変えることの意義を理解し、社内に浸透させ、プロジェクトを支援していくことが必要となります。

次にOMOやDXを推進する人材についてですが、多くの国内の小売業においては、情報システム部門は一種の専門職となっており、ITとビジネスの両方がわかる人材が育っていません。

また、関連する部門が多岐にわたるため、部分最適ではなく全体最適で考え、さらには他部門を巻き込むリーダーシップを有する人材が求められます。しかし、従来の小売業では、縦割り組織で属人的なスキルが必要とされていました。これでは全体最適で、他部門と強調しながら業務を推進する人材は育ちにくいと思われます。

今後は社内の属人化をなくし、部門間で情報が共有されオープンなコミュニケーションが図れる組織にすることが、DXやOMOを推進する人材を育成する近道と思われます。

AWS: なるほど、そうですね。そして2つ目のポイントの「オンライン×オフラインの顧客体験の設計」を実現するために必要なことは何でしょうか?

金子傑氏:これまでのリアル店舗だけの購買体験と違い、スマートフォンを中心としたデジタルチャネルによって、購買の前後も顧客接点を設け、情報を取得することが可能になりました。そのため、「選択」→「購入」→「使用」といった、購買の前後も含めた顧客体験を設計することが必要となります。

次にオンライン (デジタルチャネル)とオフライン(リアル店舗)の2つのチャネルの特性を理解すること。特にオフラインに関しては、その提供価値を定義することが重要です。例えばカフェであれば「くつろげる空間」であったり、アパレルであれば「接客によるお客様に合ったコーディネートの提案」や「スーツ等の採寸技術」であったり、スーパーであったら「見てわかる新鮮さ」であったり。デジタルチャネルで提供できないリアル店舗の価値が定義できると、自然とデジタルチャネルで提供すべき価値が定義できます。例えば「決済」や「モバイルからの事前注文」等、デジタルチャネルに切り出すことが多いです。また、「選択」におけるレコメンド、「使用」におけるアンケートやSNSとの連携等、デジタルチャネルであるからこそ実現可能な施策も整理する必要があります。

最後に一連の施策やサービスが一体感のある顧客体験となっていることが重要です。下図のようなフレームワークで整理すると、オンラインとオフラインの一体感のある連携が確認できます。

AWS: 最後のポイント「システムの整備について」ですが、特にどの部分にフォーカスして整備を進めるべきでしょうか。

金子傑氏:OMOを実際に進めようとすると、オンラインとオフラインで顧客や商品(特に在庫)の統合が必要となります。顧客がオンラインとオフラインを行き来するために、同じ顧客IDで両チャネルの行動を捉え、両チャネルの商品在庫を購入したくなるからです。ただ、店舗システムやECシステム、お客様との接点となるスマホアプリは既に構築されていることが多く、システムベンダーも分かれている中で、各システムを連携させるのが非常に困難です。そのため、既存のシステムを生かしつつも、顧客や商品のハブとなる基盤を構築し連携させるのが良いと考えています。プリズマティクスでは、各フロントシステム(店舗システムやECサイト、スマホアプリ等)とAPIで連携可能なOMOのプラットフォーム『prismatix』をPaaSとして提供しています。『prismatix』のように関連システムとの連携が容易で、かつ顧客や商品情報を一元管理できる基盤の整備がOMO推進には必要です。

AWS: これからもテクノロジーは進化し続けて、データの活用ももっと活発に行われると思いますが、変化に対応するために企業が必要な事は何だと思いますか?またプリズマティクスとしてどのような革新を行っておりますか?

金子傑氏:今回話させていただいた3つのポイントのうち実は一番重要なのは「トップの理解と人材」だと思っています。企業側の思惑に関わらず、消費者は企業とのデジタル接点を使い分けていて、勝手にデジタル化しているのが現状です。その状況をトップは理解し、デジタルを使ったビジネスモデルや顧客体験を設計できる人材を育成していくことが、これからの変化に対応する出発点と考えます。

プリズマティクスではリテール業界の現場経験が豊富なコンサルタントが、ITを使ったビジネスのご支援をさせていただきます。綺麗なモデルを描くのではなく、各企業と共に悩みながら、共に新たなビジネスを創り上げることにより、ITに強い人材を増やし、ITに強い企業への変革を進めさせていただきます。各企業と一緒に日本国内の小売の変革を起こす、これがプリズマティクスが目指したい姿です。

AWS: 本日はお話を聞かせてくださいましてどうもありがとうございました。


金子 傑氏

プリズマティクス株式会社

シニアコンサルタント

2000年イオングループのミニストップに入社。システム部門にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。また同期間に社内留学制度にてMBA取得。2011年にマーケティング部門のマネージャー、2012年より九州営業部長として160店舗を統括。2015年より社長室長として中期経営計画を立案。翌年より、サービス・デジタル推進部長としてデジタル関連事業を管轄。2017年下期よりマーケティング部長、翌年より会長付として部門横断の課題解決やID-POS分析を担当。2018年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルを担当。

構築実績:(株)サンリオ様の顧客/ポイント共通基盤構築、アンファー(株)様のECサイトリプレイス、大手スーパーのネットスーパー構築、アパレルのECサイトリプレイスなどのコンサル、PMを担当。


本ブログの著者について

Keanu Nahm

キアヌはAWSのシニア事業開発マネジャーとして主に流通小売業界を担当しています。米国ミシガン大学 、ウォートンMBA卒。米国・イギリス・韓国の 消費者、IT企業でB2C、B2Bマーケテイングの戦略立案、事業開発、ブランド管理。 2016年から小売・消費者企業向けの米国のIT企業で新しい企業文化、組織変更、デジタル広告製品開発を含めたDXをリード。2020年末から現職。