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AWS Summit Japan 2024 | 自動車業界AWSブース編 Recap

はじめに

みなさんこんにちは。ソリューションアーキテクトの眞壽田(ますた)です。2024年6月20日、21日に幕張メッセにて AWS Summit Japan イベントが開催されました。今年の AWS Summit は、Online 含め述べ 52,323 人という多くの方に参加頂きました。自動車業界のお客様を支援する私達 AWS for Automotive チームは、 AWS Industry エリアに、4つのデモンストレーションブースを構えて皆様に AWS for Automotive のソリューションを紹介致しました。デモブースで皆様とお話させて頂き、詳細な資料が欲しいというご要望を頂きましたので、本ブログでは、その4つのデモンストレーションをダウンロード頂いた資料よりも詳しく紹介していきます。

1. AWSクラウドによる自動車ソフトウエア開発の高速化

自動車業界では、CASE への対応でソフトウエアの開発量が増大しています。一方で車載のソフトウエア開発は組み込み開発であるが故に、ソフトウエア開発には評価ボードやハードウエアが必要となります。今後の自動車業界は、増え続けるソフトウエア開発を如何に効率化していくかという点が課題の1つとなっています。AWS では、自動車業界のお客様に、ハードウエアに依存せずに可能な限りAWS クラウド上でソフトウエア開発を行うお手伝いをしています。

デモ1の構成
こちらのデモンストレーションでは、EV 向けバッテリー制御を行うECU ソフトウエアの動作シミュレーションをAWS クラウド上で行っています。

  1. Amazon EC2 インスタンス上で、The MathWorks, Inc.の MATLAB/Simulink で制御ソフトをモデリングし、シミュレーションを行います。
  2. 1で作成した Simulink モデルから AUTOSAR Classic スタック上で動作するコードを生成し、CI/CD パイプラインでビルドします。
  3. Amazon EC2 インスタンス上で、Synopsys Silver シミュレーターを動作させ、Elektrobit Automotive GmbH のミドルウエアで、AUTOSAR Classic 準拠の仮想ECU に、ビルドしたバイナリをデプロイします。
  4. Amazon EC2 インスタンス上で、Elektrobit Automotive GmbH のミドルウエア上で、AUTOSAR Adaptive の ECU ソフトウエアを動作させます。
  5. Amazon EC2インスタンス上で動作する Android OS ベースの UI アプリケーションと ECU ソフトウエアが SOME/IP で通信を行います。
  6. UI アプリケーション上でスポーツモードの切り替えを行うと、Synopsis Silver 上の電力出力量のグラフが変化します。

AWS では、可能な限り車載ハードウエアに近い環境を AWS クラウド上に構築し、仮想的に ECU ソフトウエアを動作させることで、ハードウエア群を準備しなくて済むソフトウエア開発環境を構築し、全体での試作回数を減らすと共に、時間がかかる開発PCの調達や保守、開発ツールのインストール作業から開発者を解放し、開発者が ECU ソフトウエアの開発に専念できるよう支援します。もちろん、CI/CD パイプラインを構築することで、ビルドや静的解析、ユニットテスト、デプロイなどの作業を自動化することも可能です。

デモ2の構成
こちらのデモンストレーションでは、コックピットの ECU ソフトウエアの UI 開発を AWS クラウド上で行っています。

  1. Rightwareの Kanzi One(UI開発用IDEツール)をAWS Gravition EC2インスタンス上で動作させ、Nice DCV プロトコルでデモブースの Laptop PC のブラウザに表示します。
  2. パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社の vSkipGen を使用し、AWS Gravition EC2上で、メータークラスターの仮想ECUを AGL( Automotive Grade Linux )上で動作させる。また、同時にインフォテインメントの仮想ECUを Android OS 上で動作させます。
  3. Kanzi One のターゲットECU として、それらの仮想ECUを指定し、Kanzi One での UI 変更をニアリアルタイムに仮想ECUに反映させることで、開発者は画面で確認しながら視認性ならびにデザイン性の高い動く UI を開発します。
  4. コックピットの仮想ECUが動作する VPC とは別のVPC上で AUTOSAR Adaptive の仮想ECUも動作しており、 SOME/IP 通信によりコックピットの仮想ECUと通信し、車両データ(例えば車速やエンジン回転数)をコックピット仮想ECUと連携します。異なるVPC上にある仮想ECU同士を SOME/IP で通信させるためには、それぞれの仮想ECUが同一サブネット上に存在する必要があるという条件に基づき、 AWS Transit Gateway を用いて、同一ネットワーク環境を構成しています。将来、仮想ECUを連携させる時の構成の一例として提案させていただいております。

2. クラウドからエッジへ 自動運転開発サイクルを高速化するオープンソース環境

AWS は、SOAFEE , eSync Alliance , Autoware Foundation といったオープンソースコミュニティとも連携し、業界全体の開発生産性向上を目指しています。本デモでは、自動運転ソフトウエアスタックの開発、シミュレーション、OTA アップデート実行時に、実機と同じネイティブコードで動くクラウド上のバーチャル車両に対してテスト・検証をしています。
今回のデモで想定しているシナリオは、自動運転 Level4 相当の自動運転車両が、路肩に停車している他の車両を認識して安全に回避するようなシナリオになります。まず、現行のバージョンのソフトウェアではうまく回避できずに、安全確保のために衝突する前に停止し続けてしまう状態から、パスプランニング修正済みのソフトウェアを AWS 上で検証し、そのソフトウエアで OTA で車両にデプロイする、という内容です。このように様々な状況を実車検証の前に AWS 上で検証できることで、多くのリアルなユースケースにおける挙動の確認ができるのではないか、と言う提案にもなっています。

デモの構成と流れ

  1. Level 4 相当の自動運転仮想車両にオープンソースソフトウェア(OSS)の自動運転ソフトウェアスタックである Autoware で実装されており、開発ツールに株式会社ティアフォーの Web.Auto を利用します。
  2. AWS 上で、Web.Auto を使って Autoware のシナリオを修正し、新たなソースコードをビルドし、シミュレーションにより、アップデートされているかを検証します。
  3. 検証して品質が保証されたソフトウエアを、eSync Alliance の OTA のコンソーシアムが提供しているツールを使い、OTA のキャンペーンを作成し、実車の ECU に検証済みのソフトウエアをデプロイします。

AWS では、本デモのように、ソフトウエアの開発における計画、実装、シミュレーションテスト、リリース、デプロイ(OTA)という実車検証のサイクルを、可能な限り AWS クラウド上でサイクリックに実現し、車載ソフトウエア開発の効率化を支援します。

3. 生成AIなどを活用したAWS上での自動運転機能開発の加速

このデモでは ADAS/自動運転の開発におけるワークフローを AWS クラウド上で大規模に実現しており、特にシミュレーションや機械学習といったタスクのためのデータを準備するために利用可能なコンポーネントについて、具体的に動作するところを皆様にご覧いただきました。

デモについて
生成 AI のモデルを利用して、ラベルがない画像データに対して、自然言語で検索をして、関連する画像を抽出することができます。

下の図では、検索ボックスに、「pedestrian crossing an intersection」と入力し、「Search」ボタンを押下します。

すると検索結果に下の図の様に、交差点を通行する歩行者の画像が表示されます。

従来は、事前にラベル付されていないような画像やシーン・シナリオについては手軽に検索できませんでしたが、生成 AI を用いた手法を活用することで、ラベル付されていないデータから自然言語による検索を行って、求めるシーン・シナリオに関するデータを抽出することができます。

4. コネクテッドビークル AI解析による運転体験の最適化

このデモでは、車が路面状況を理解して、車側でその状況に応じて最適なドライビングアシスタント機能を使えるようにする機能開発を目的として、 AWS IoT FleetWiseを利用し、車載カメラと CAN 情報をクラウドに収集、道路コンディションを推定するAIモデルを作成し、継続的に推論結果を活用して車載ソフトウェア改善を行うプロセスをお見せしました。

デモの流れ

  • 車両側
    1. AWS IoT FleetWise の新機能 Vision System Dataを利用し、車載カメラから画像を収集し、その画像を元に車載側のAI 推論で検出した道路状況と CAN データから収集した道路状況が一致しない場合、車載側のAI推論のモデルを再度トレーニングするための教師データとして、車載カメラの画像データを AWS クラウドで収集します。
    2. AWS 側では、受信データを教師データとして利用し、車載側のAI推論を再トレーニングします。

下の図は、収集したデータを Amazon QuickSight で可視化し、AI 推論の結果とカメラの画像を確認できます。これによりAI 推論を誤ってしまったカメラ画像を改めて学習することで、AI 推論の認識率を上げていくことにAWSが貢献しています。

このデモで中心となるAWSサービスがAWS IoT FleetWiseになります。

AWS IoT FleetWise は新しい機能として、Vision System Data(カメラ、レーダー、LiDAR など)を収集する仕組みを2023年の re:Invent で発表しました。これにより、CAN に流れているシグナルのデータだけではなく、カメラなどで取得した画像などのデータを収集し、活用することができるようになりました。

おわりに

今回の AWS Summit Japan では、私たち AWS for Automotive のチームが、今の自動車業界のトレンドを軸にデモンストレーションを選定しました。今まで自動車業界のお客様には、 コネクテッドビークルや自動運転のための物体検知の AI 推論などで AWS を活用頂いてきましたが、自動車業界が100年に一度の変革期を迎える中、昨年から車載のソフトウエア開発環境のクラウド化を支援させて頂くことが増えてきました。その背景から、今回の Automotiveブース では、車載ソフトウエア開発のデモンストレーションの割合を増やし、ハードウエアに依存しない車載ソフトウエア開発のソリューションを多くのお客様に紹介させて頂きました。このブログをご覧になってもう少し内容を詳しく聞きたいというお客様がいらっしゃいましたら、AWSアカウントチームまでご連絡頂ければと思います。

著者

眞壽田 英輝 (Masuta, Hideki)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社
Mobility領域のお客様を支援するソリューションアーキテクト。好きなAWSサービスはAmazon Managed Streaming for Apache Kafka (MSK)です。