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AWS IoT FleetWiseを使用して車両データをより効率的に収集する

この記事は、Collecting vehicle data more efficiently with AWS IoT FleetWise を翻訳したものです。

今日、私たちはコネクテッドカーをインターネット接続を備えた先進的な車両だと考えています。しかし、2030年までに世界中で販売される新車の 95% 以上がインターネットに接続されるようになり、この数は今日の車両の約 50%となるので、コネクテッドカーは、単に自動車と呼ばれるようになるでしょう¹。車両との接続性が向上すると、自動車メーカーは車両の品質、安全性、自律性を向上させる機会が得られますが、コネクテッドカーが生成する膨大な量のデータをいかに効率的に収集して活用するかということが課題となります。この投稿では、数百万台もの車両からデータを収集して変換し、ほぼリアルタイムでクラウドに転送する、簡単かつコスト効率の高い新しいサービスである AWS IoT FleetWise について説明します。データがクラウドに格納されると、車両全体の健全性の分析や、自動運転や先進運転支援システム (ADAS) を改善する機械学習 (ML) モデルのトレーニングなどのタスクに使用できます。

車両データ収集の課題

データの多様性

車両モデルのバリエーションごとに、固有の形式でデータが生成されるため、膨大な量の車両のデータを格納するためのスキーマの設計が必要になる可能性があります。たとえば、自動車メーカーでは10~15種類のモデルをラインナップし、各モデルにハイブリッド、全輪駆動(AWD)、高度なセーフティオプションがあります。

さらに、ほとんどの車両データは人間が読み取ることができず、コントローラーエリアネットワークバス (CAN Bus) を介して送信されるデータなど、自動車メーカーまたはサプライヤーによって独自の形式でエンコードされています。データを使用可能にするために、自動車メーカーはまずデータをデコードし、次にフリート全体で一致する必要があります。たとえば、燃圧センサーからのデータは、モデル A では Fuel_Press、モデル B では Injector_Press と表示されることがあります。このデータを複数のバリエーションの車両モデルにわたって収集して整形するのは大変な作業であり、自動車メーカーはカスタムデータの収集システムを構築し、スケーリング、保守する必要があります。

データボリューム

コネクテッドカーの数が増えているだけでなく、各車両に搭載されたデータを生成するセンサーの数も増えています。各センサーの中には、特にレーダーやカメラなどの高度なセンサーがあり、それらは、より多くのデータを生成します。たとえば、今日の自動車には複数のカメラが搭載されており、カメラは1メガピクセル、3メガピクセルから8メガピクセルへと進化しています。つまり、データ量は急激に増加しており、管理が難しくなっています。

自動車の自律性のレベルが高まるにつれて、自動車メーカーは、AI/ML モデルの継続的なトレーニングと改善に使用できるように、さらに多くのデータをクラウドに転送する必要があります。しかし、市場にある多数の車両からクラウドにデータを転送するには膨大なコストがかかります。1 台の自律走行車で、1 台の車両につき 1 時間あたり最大 2 TiB のデータを生成します。その結果、自動車メーカーは、AI/ML モデルのトレーニングに必要なデータを取得するための回避策として、特別に構築されたオンボードストレージを備えた自律型テスト車両を使用することがよくあります。

AWS IoT FleetWise の使用を開始する

前提条件

AWS IoT FleetWise には、クラウドと組み込みの両方のソフトウェアコンポーネントがあります。実際の車両にデプロイする前に、AWS IoT FleetWise をクラウドにデプロイして、車両データの収集をシミュレートできます。必要な物は、 AWS アカウントと Amazon Timestream テーブルだけです。AWS IoT FleetWise Edge では、物理ハードウェアと実際の車両にデプロイするために POSIX ベースのオペレーティングシステム (OS) が必要です。C/C++、POSIX API、CAN などの車載ネットワークプロトコルや MQTT などの外部接続プロトコルに関する知識は、AWS IoT FleetWise を使用する場合に役立ちます。

仮想的な車両をモデル化する

AWS IoT FleetWise は、仮想車両モデリングにより多様化するデータの課題の解決に役立ちます。クラウドで車両をモデリングする場合、車両の属性 (2 ドアクーペなど) とセンサー (燃圧、エンジン温度など) を複数の車両タイプにわたって標準化できるため、燃料圧力などのセンサー値は常に fuel_pressure として表示することができます。このモデリングプロセスにより、クラウドでのフリート全体のデータ分析が容易になります。

仮想車両を作成するには、AWS IoT FleetWise コンソールまたは API を使用して自動車の標準ファイル (CANDBC など) をアップロードします。AWS IoT FleetWise はこのファイルを解析して仮想車両モデルのドラフトにします。また、OBD-II 標準に基づいて車両モデルを自動的に作成する OBD-II 信号など、AWS IoT FleetWise で事前設定されたテンプレートの 1 つを選択することもできます。

OBD 標準モデルを作成するには、

  • AWS IoT FleetWise コンソールを開きます。
  • [車両モデル] メニューに移動します。
  • [提供されたテンプレートを追加] ボタンをクリックします。
  • OBD_II を選択し、CAN チャンネル (デフォルトは can0) を入力し、[追加] をクリックします

OBD モデルを作成すると、AWS IoT FleetWise は OBD の標準規格に基づいてデコーダーマニフェストを自動的に作成します。デコーダーマニフェストにより、AWS IoT FleetWise は車両上の独自の信号をデコードできます。デコーダマニフェストは、車両モデルの詳細ページに表示されます。

モデルとそれに紐づいたデコーダーマニフェストを作成したら、Create Vehicle API を使用してビークルを作成できます。

ルールベースのデータ収集をセットアップする

AWS IoT FleetWise は、ルールベースのデータ収集によってデータ量の問題を解決し、クラウドへ転送する必要のない、不要なデータを削減することができます。安全装置からのデータ、EV バッテリーの充電、または車両のセンサーによって生成されたその他のデータなど、収集するデータを選択します。次に、天気、場所、車両タイプなどのパラメーターに基づいて、そのデータを転送するタイミングに関するルールとイベントを定義します。これらのデータ収集ルールを設定すると、コストを抑え、より有用なデータにアクセスできるようになります。

定義したルールは、スキームと呼ばれる JSON ドキュメントに含まれています。スキームには、時間ベースの収集とイベントベースの収集の 2 つの主要なタイプがあります。時間ベースの収集では、次に示すように、指定した時間間隔で選択した信号が選択されます。

以下のスキームは、10000MS または 10 秒ごとにスロットルポジションセンサーの信号を収集します。

{
"compression": "SNAPPY",
"diagnosticsMode": "SEND_ACTIVE_DTCS",
"spoolingMode": "TO_DISK",
"collectionScheme": {
"timeBasedCollectionScheme": {
"periodMs": 10000
}
},
"postTriggerCollectionDuration": 0,
"signalsToCollect": [
{
"maxSampleCount": 1,
"signalName": "Throttle__Position"
}
]
}

イベントベースの収集スキームは時間ベースの収集と似ていますが、定期的にデータを収集するのではなく、AWS IoT FleetWise にデータを収集するようトリガーするルールを作成します。以下は、特定の条件が満たされた場合、具体的には、スロットルポジションが 0 より大きい場合に、2 つの信号 [Vehicle_Speed と Instant_Torque] を収集するイベントベースの収集スキームの例です。AWS IoT FleetWise は、このスキームの「postTriggerCollectionDuration」フィールドの指示に従って、イベントが検出されてから 1000 ミリ秒間、これらのシグナルを収集します。

{
"compression": "SNAPPY",
"diagnosticsMode": "SEND_ACTIVE_DTCS",
"spoolingMode": "TO_DISK",
"collectionScheme":{
"conditionBasedCollectionScheme": {
"conditionLanguageVersion": 1,
"expression": "$variable.`Throttle__Position` > 0",
"minimumTriggerIntervalMs": 1000,
"triggerMode": "RISING_EDGE"
}
},
"postTriggerCollectionDuration": 1000,
"signalsToCollect": [
{
"maxSampleCount": 10,
"signalName": "Vehicle_Speed"
},
{
"maxsamplecount": 10,
"signalName": "Instant_Torque"
}
]
}

スキームを作成したら、AWS IoT FleetWise コンソール内の  create and approve campaign オペレーションを使用して車両にデプロイします。スキームが車両にデプロイされると、データが AWS IoT FleetWise を介して Amazon Timestream データベースに流れ始めるのがわかります。

まとめ

この投稿では、AWS IoT FleetWise が車両モデリングを通じて車両データを標準化し、ルールベースのデータ収集によってデータをインテリジェントにフィルタリングする方法について説明しました。全体として、これらの機能により、カスタムデータ収集システムを構築する手間がかからず、不要な車両データをクラウドに転送するコストと複雑さを回避できます。

詳細については、AWS IoT FleetWise サイトにアクセスするか、コンソールにログインして開始してください。皆様からのご意見やご質問をお待ちしております。

¹McKinsey Center for Future Mobility, 2021

作者について

AWS IoT FleetWise のプロダクトマネージャー Aruna Ravi

本ブログは、エンタープライズソリューションアーキテクトの渡邊が翻訳しました。原文はこちらです。